仏陀族4-山の上は――
アオ達は魔神界の奥、閻魔族が踏み込めない地を
地下魔界の天井に届きそうな程に高い山を囲む、
禍々しい気を放つ見えない壁に向かって、慎重に
進んでいます。
(アオ、サクラ、あの禍々しい壁は天井を突き抜けているようだぞ)
ルリは神眼で山を見ていた。
(この上は何処だろうね)(天井まで昇ろ~)
二人は上へ上へと羽ばたいた。
(壁に近づいたせいかな……?
ずっと羽ばたかないと飛べそうにないね)
(うん……なんか山に引っ張られない?
あれれ? でも押し戻されてる?)
(そうだね。両方共に強い力だね。
引き込もうとする力が呪なのかな?)
(もう少し離れたらどうだ?)
(そうしよう、サクラ)(うん)昇りつつ後退。
(天井って不っ思議~♪)ぺたぺた♪
(空のようなのに手がつくね)トントン。
二人、掌を当てて掌握を伸ばし、探る。
(この上、海だよ~♪)(海とは?)
(ルリ姉、海 初めてなの?)
(何処までも水なのか?
……いや、これは何だ? ……土の塊が有るな)
横に探っているらしい。
(ルリ、何処を見ているの?)追い掛ける。
(ねぇ、届かないんだけど……)(そうか?)
ルリが少し退いた。
(あ、ルリの掌握、やっと見えたよ)
(私の掌握を掴め)
掌握を繋ぎ、連れて行って貰うと――
(微かに見えるけど……)(これ以上は危険だ)
(アオ兄、何なの?)
(たぶん島だよ。あの壁に囲まれている。
ルリ、布石像を残そう)(うむ、置いたぞ)
(ここの下にも埋めるねっ)(うん、お願い)
【もしや、アオ様とサクラ様?】「はい?」
二人は背後からの声に振り返った。
【ああ……まさか蒼月の光を……】
「いえ。あの時は、ありがとうございました。
おかげさまで無事に出る事が出来ました」
「これは蒼月煌って技です」にこっ♪
【良かった……】
「聖霊さん、どぉしてここに?」
【あの後、ずっと国に居たのですが、久しぶりに音を求めて出たのです。
どこかで戦っている音を感じたなら引き返そうと。
それで、お二人の気を感じて参りましたのです】
山の方を向いた。
【この気……あの『闇』に、そっくり……】
「島で聖霊さんを囚えてた、あの『闇』?」
【はい……今、やっと気づいたのですが――】
言い掛けて、聖霊がハッとした。
【声……間違いありません! 声が――】
「サクラ、布石像を埋めて!」
アオは聖霊を壁から庇い、曲空して離れた。
【……ありがとうございます】
「大丈夫ですか? 声とは?」
【声が聞こえたのです……『闇』の声が……】
(アオ兄、布石像 埋めたよ。
ルリ姉が置いた布石像のトコ、確かめるね)
(待って、サクラ。何処か判ったから)
(うん、判ったよ。あの島、また囲まれてる)
(もう行ったの? ひとりは危ないから戻って)
(うん)アオの前に現れた。
(何も無くて良かった)にこっ。
(ごめんね、勝手に……。
あの島、また霧の島に戻ってたよ。
この壁に囲まれてて、内側は霧で真っ白)
「ここは危険です。
引き寄せられたら大変ですので、離れますね」
【嫌……来ないで! もう、私は――】
「聖霊さん、しっかりして!」
二人は聖霊を連れて曲空した。
――優鬼と別れた辺りまで後退した。
「聖霊さん、だいじょぶ?」
【あ……はい】二人で覗き込む。「ホントに?」
【ええ、もう声は聞こえませんので……】
「間違いなく『闇』の声だったのですね?」
【はい。間違えようもありません。
私を呼び、もう一度、共に……と……】
(闇に意思って、あるのかなぁ?)
(いや、もしかしたら――でも、それより先に)
「安全な所まで送ります。
地上のあの島にも、地下のさっきの山にも、近づいてはなりませんよ」
【はい。ありがとうございます。
皆様も近づきませんよう……】
「俺達なら大丈夫ですよ」サクラも頷く。
【そうですね。お二人でしたら『闇』にも勝てますね。
あの……私の記憶――『闇』との記憶は、お役に立てますでしょうか?】
「お教え頂けるのですか?」
【はい。流してもよろしいでしょうか?】
「お願いします」
聖霊はアオとサクラの掌に光を当てた。
「ありがとうございます」にこっ。
「あ♪ そぉだ♪」笛を取り出し、アオを見る。
アオも笛を構え、二人は奏で始めた。
煌めく光の道が降りて来た。
聖霊達が、その道を降りて来る。
次々現れ、アオとサクラは聖霊達に囲まれた。
二人は数曲 奏で、一旦、笛を下げた。
「えっと、みなさんは?」
【セーニョを待っていると、美しい音色が聞こえて参りましたので……】
数人、頷いた。
【私達は、この道から聞こえました音色に惹かれましたので】
今度は大勢が頷く。
(もっと吹く?)(せっかく来てくれたしね)
また奏でていると、新たな一団が降りて来た。
(王様? 女王様?)(どっちだろうね)
聖霊達が宙で控える。
アオとサクラは更に数曲 奏で、笛を下ろした。
【美しい音色をありがとうございます。
私は音の国のクレフ。
貴殿方が『異空間』と呼ぶ世界の、音の域を統べております】
「お目にかかれまして光栄至極に御座います。クレフ王様」
クレフ王はアオとサクラに頷くと、島の聖霊・セーニョに近付いた。
【音を届けてくださって、ありがとう】
セーニョの肩に手を当てる。
【そう。また、お助け頂いたのですね】微笑む。
【一度ならず、二度までもお助け頂き、ありがとうございます】丁寧に礼。
「いえ、こちらこそお助け頂きましたので」
二人、揃って礼を返す。
【時の国の王をお呼びしましたので、少しお待ち頂けますか?】
「はい」
(なんだろね?)(異空間にも何か有るのかな?)
【今は、お急ぎなのですね。
また改めましてお招きしてもよろしいでしょうか?】
「あの……私共が伺ってもよろしいのですか?」
【竜の神様でしたら入る事が出来ますよ】
どうしても神扱いされるんだな……
「お招き、ありがとうございます」深く礼。
【解っておりますよ、天竜の王子様方。
御身体をお持ちであろうが、その御力は神のもの。貴殿方は神様です】
微笑むクレフの背後に、もう一筋、光の道が降りて来た。
少し違う聖霊達が降りて来る。
【時の国の王、ルタン様です】
【はじめまして、竜の神様。
お渡ししたい物が御座います】
ルタンの従者達は、手に手に剣や鏡などを持っていた。
【私共の世界で拾いました、こちらの世界の物を、私が保管しておりましたので。
各国の王には、お返し出来る方を見つけましたら、お呼びくださるよう、お願いしていたのです。
竜宝の王であらせられます神様方、どうかこの物達を適切に、宜しくお願い致します】
「ご丁寧に、ありがとうございます。
必ず適切に対処致します事をお約束致します。
この壺に、全てお願い致します」集縮を出す。
全て壺に収まり、三度目の笛の音が流れた。
(どんどん増えるね~♪)
(異空間にも、住める所が沢山在るんだね)
(早く行ってみた~い)
(あの山が解決したら行ってみようね)
(うんっ♪)
【アオ、サクラ、こんな所で笛か?】
コバルトが現れ、見回し、
【異空間の住人か……また友を増やしたのか?】
二人に呆れ顔を向けた。
ちょうど曲の終わりだったので止めた。
「始祖様、笛の音が呼びましたか?」
【まぁな。聞こえてはきたが……】一体 何事だ?
「何があったのかは後で話します。
クレフ様、ルタン様、失礼致しました。
私共王族の始祖・コバルトです」
【古の笛の名手は、神様でいらしたのですね。
貴方様の笛の音も聴きとうございました】
【昔々の事です。この二人の方が、私などより遥かに名手ですよ】
【貴方様にも、ぜひ音の国にいらして頂きとうございます】
【ありがとうございます。
この二人もお招き頂けたのですね。
その時に、共に伺わせて頂きます】
【竜の神様方に御覧頂きたいものがございますので、出来得るならば、早い機にお願い致します】
「はい。では早急に機を得ます。
しかし、如何にすればよろしいのでしょう?」
【異空間に繋がる如何なる物でも構いません。
そこから私の名をお呼びください。
美しい音色をありがとうございました。
それではまたお会いしましょう】
聖霊達が光の道を通り、去って行く。
セーニョが最後まで残り、
【どうか……どうかお気をつけください】
心配そうに見上げる。
「ありがとう。また会いましょう」にこっ。
セーニョがアオとサクラを交互に見、アオで視線が止まった。
アオはセーニョを掌に掬い、微笑むと、光の道へと掲げた。
「俺達なら大丈夫ですよ。
皆さんお待ちです。さあ」
セーニョは名残惜しそうにアオ達の方を向いたまま帰って行った。
【ルリ、安心しろ。聖霊には性別は無い】
「いや、別に……私は何も……」
【それに、アオの辞書には『浮気』は無い】
「俺の辞書は欠陥品では――」
「そゆ意味じゃないよ~」きゃははっ♪
(あれ? ルリ、どうしたの? ねぇルリ?)
(知らぬ!)自分の領域に隠れてしまった。
(俺、何かしてしまったのか? おーいルリ?)
「甘桃三昧のお茶なの。
私のお気に入り♪ どうぞ」
「ありがとう、愛ちゃん」
風蛇を愛蛇の子供達と一緒に寝かせ、
琉蛇は愛蛇に、ぽつりぽつりと話していった。
「私は、その風ちゃんの事は知らないわ。
でもね、実家の近所に同じ名前のお兄さんが
住んでたの。
その家は兄弟二人だけで暮らしてて、
風蛇兄さんのお兄さんは、お城や王族の
執事を目指してて、風蛇兄さんは畑仕事を
していたの。ウチも農家だから、私も
その畑を耕したわよ。
苦労してたから学校には行けずに……
でも、お兄さんが勉強を教えててね、
ウチのバカ兄貴よりずっと賢かったわ」
「そのご兄弟のご両親は? まさか――」
「そう。琉ちゃんと同じよ。
魔物に……そう聞いたわ。
お兄さんが王族のお屋敷の執事長になって、
風蛇兄さんも、同じお屋敷で働くように
なったって聞いたの。
もちろん、ちゃんと試験を受けて、よ。
やっぱり賢かったのね~」
「それで、今は?」
「お屋敷が遠いから、ぜんぜん会ってないわ。
でも、ご兄弟とも元気なはずよ。
小さな村だから、ご不幸あれば、すぐに
分かるもの」
「そう……」
「元気出して、ね?
琉ちゃんがショゲてたら、風ちゃんだって
シュンとなっちゃうわよ」
「うん……」
「私が知ってる風蛇兄さんなら、
もし、女の子を護れなかったとしたら、
死ぬよりずっと心が苦しいんじゃないか
って思う。
護れたなら、自分に何が起ころうが、
それで満足しそうな人だったから。
あっ、でもこれ、もしもの話よ?」




