仏陀族1-内緒話
前々最高神ロサイトが護った植物は、
長老の山に根付きました。
♯♯ 竜宝の国 祠 ♯♯
(……ん……)
(ルリ、大丈夫かい?)
(……アオ……か……)
心の中で、アオはルリを抱きしめていた。
目覚めたルリは、アオの鼓動を確かめるように、胸に頬を寄せ、安堵の息をついた。
(女神様に届いたのだな……)
(ルリの力でね)
ルリはフッと小さく笑い(そんな筈は無い)
呟くと、アオに顔を寄せ、唇を重ねた。
(ルリ……?)
(アオの心……よく解った)
(そうか……)
(共心を進め、完了する迄の間に、沢山の事が流れて来た。想いも、記憶も……。
アオも同じなのだろう?)
(うん……流れて来たよ)
(呪に掛かった私が、何を求め、アオが、その時どう叶え、これから どうするつもりなのか……それもな)
(バレてしまったのか……一生の宝物にしようと思っていたのに)
(その憎まれ口の後ろにあるものも、全てな)
ルリが離れ、微笑んだ。
(その笑顔は極上の反則だよ)今度はアオから。
(あまりに幸せだから、分離したら、まず こうしようと思っていた)
(兄弟や仲間が居るかもしれないのに?)
(心の中で私が何をしていようが、知り得る者は居ないからな)
(神様が入って来るかもしれないよ?)
(それはマズいな)(だろ?)
二人は顔を離し、笑った。
(良かった……嫌われなくて……)
(嫌うものか)
ルリは、もう一度 アオの胸に頬を寄せた。
(アオの幼い頃の記憶も、私が死した後の事も……全て知った)
アオの胸に滴が落ちた。
(アオ……私は――)
(ありがとう。でも、もう大丈夫だからね。
今は幸せなんだから)髪を撫でる。
(……私も幸せだ。
自分が、どれほど幸せ者なのか、よく解った)
(これから、もっと幸せにしたいんだ。
そしたら俺も幸せだから)
(その想いも伝わったが、言葉にして貰うと嬉しさが違うな。
この上なく幸せだ)
(その、更に上を目指すからね)
(負けぬからな)
アオがクスッと笑う。(俺も負けないからね)
(私の記憶も流れたのだろう?)
(うん……)感慨深げに目を閉じる。
(そうだ、御披露目祝列! 見に来ていたんだね)
(両親に連れられてな。
初めて王都に行って、生まれたばかりのアオを見た)
(変な気分だ~)大笑い。
(百歳以上 離れていたのだから仕方ないだろ)
(俺とサクラより離れていたんだね)
(そんな年の差など ものともせず、告白しようとするマセたガキがいるなどとは、思ってもみなかった)
アオの額をつんっ。
(告白しようとしたら、焦って逃げたオネーサンには言われたくないな)
お返しに、つんっ。
(そういう免疫が無かっただけだ)ブツブツ――
(おかげで俺の初告白は出来ず仕舞い~)
(この前しただろ!)
(ああ、そうか。百四十年越しでしたんだっけ)
(あれだけ必死で迫っておいて……)呆れる。
(うん♪ 必死だったよ♪)にこにこ♪
(それだけ、どうしようもなく好きなんだ)
だから、その笑顔には勝てないと――そうか。
それも知られてしまったのだな……
認めざるを得ない――いや、
もう解りきっている。
その生意気な少年に恋をした私の方こそ、
どうしようもなく好きなのだ。
(ルリ、大丈夫? 疲れたの?)光を当てる。
(どこまでも優しいのだな)ふふっ♪
(良かった。笑ってくれた♪)ぎゅっ。
(分離……出来て良かった……
また、アオの笑顔が目の前に有る)にこっ♪
(うん。ルリの笑顔も目の前に有るね)にこっ♪
【アオ、ここなのか? ああ、居たな】
「ゴルチル様、どうかしましたか?」
【行方不明になるな】ため息。
【また倒れているのかと探したのだ】
「すみません、ご心配をお掛けしてしまって」
【いや、心配など――】「では、御用ですか?」
【しっかり休め】「そのために、ここに来――」
【うむ。ではな】「やはり、何かあるんで――」
【だから、拾うなと言――】「白状しましたね」
【ふん、仕方ない。話相手をしてやる】
「俺は別に……今、ルリと話していたので。
でも、お話しくださるのでしたら、二、三お教え願えますか?」
【質問に依るが……何だ?】
「ガーネ様が水晶に封じられている事は、ヒスイとスミレは知っているのですか?」
【いや、知らない筈だ】
生きている、とは伝えたが……
【真神界は大神しか入れないからな。
あとは大神が招いた者ならば入れる。
修行中の神竜の魂は大神が導くが、その間に知る事が叶う情報では無い。
ついでに言うと、ここも真神界だからな。
大神と、大神が招いた者しか入れない。
竜宝の王とは、ルバイルの招きを永続的に受けた者なのだ】
「前から不思議に思っていたのですが、真神界の結界は、何故ここには影響しないのですか?」
【ルバイルが闇障鐸を護る為に成した、強固な結界の内に在るからだ】
「それが出来るのなら、どうして俺が飛ばされた時は、その結界で覆ってくださらなかったのですか?」
【時間が掛かるからだ。
数年もは待てないだろ】
「そんなに掛かるのですか……」
【何重にも重ねているからな】
「では……そろそろ、お教え頂けますか?
前最高神様としては語ってはならない事を、どうして俺なんかに話す為に、わざわざいらしたのですか?」
【アオを見込んでいるからだ】
「何度も申しておりますが、俺は天竜です。
神竜ではありませんので、過大評価されても困ります」
【そんな事は些細な事だ。どうとでも成る。
ここならば、如何なる大神であろうとも、会話を拾う事は出来無い】
「だから、おとなしく聞け、と?」
【そうだ】
「ルリも聞けてしまいますが?」
【構わん。ルリと共心したお前は、歴代最高神の総意に依り、大神と認められたからな】
「身体が有る天竜なのに?」
【稀に神竜であっても大神と認められる】
「神竜ではなく天竜です」
【薄いとは言え、神の血を受け継いでいる。
だから、条件は満たしている】ニヤリ。
「まったく……勝手に、そんな……分かりましたよ。とりあえず伺います」
【そうか】にこにこ。
♯♯ 長老の山 大婆様の部屋 ♯♯
慎玄への虹紲の術が行われた。
「慎玄さん。これ、神以鏡・月です。
孔雀様に光を込めて頂いて、使ってくださいね」
「ありがとうございます、サクラ様。
これから宜しくお願い致します、孔雀様」
【慎玄様、私は、元は人神で御座いました。
ですので、人神の力も持っております。
私の力、御存分にお使いください】
竜人と、竜人神が穏やかに合掌し合う。
「サクラ、アオは大丈夫なのか?」
「だいじょぶ~♪ 俺が平気だからね♪
竜宝の国の祠で休んでるよ」
「金虎様は、元は人だったんだろ?」
「うん、神竜に生まれ直したって仰ってたね~」
「孔雀様は人神……人神って何だ?」
「今、神様は、天人神・神竜族と、人神・仏陀族、魔人神・閻魔族の三神族がいるんだよ。
でね、竜の神様は、神竜が覚醒して成るんだ」
「他の神様も覚醒するのか?」
「知らな~い。聞いてないもん。
カルサイ様、どぉなの?」
【覚醒させられる方さえいらっしゃれば――と、蓮仏様は仰っておられました】
「それって……地下魔界で襲撃された時に、大神様がいなくなっちゃったって事?」
【おそらく……。
竜の神が出会ったのは、なんとか地上に逃げ延びた方々だけでしたので……。
地下に行けない竜の神としては、それ以上は確かめられず……】
(あまり、話せない事なのですか?)
カルサイの目が頷いた。
(魔神界にお逃げになられてる可能性は有るのですか?)
悩ましげに目を伏せた。
(確かめようが無かったのですね?
でしたら、アオ兄が元気になったら行ってきます)
目だけで微かに礼を表した。
王太子の婚儀前日。そんな日でも、動き始めて
しまう、アオとルリとサクラ。
そんなお話が数話続きます。
話数的に丁度良いので、後書きでは、
またアオの屋敷に目を向けます。
♯♯♯
この日、休みだった琉蛇は、風蛇を抱いて
散歩をしようと庭に向かっていた。
その途中、廊下で爽蛇の後ろ姿を見掛け、
当然、嬉しくもあったが、逡巡しつつ追い掛けた。
声を掛ける? どうしよう……
でも……また魔界に行ってしまったら……
次は、いつ会えるのか分からないわ!
つい立ち止まり、視線だけで追っていたが、
意を決し、再び その背を追った。
爽蛇は執務室に入った。
琉蛇は、まだ躊躇いが有り、手も足も少し
震えていたが、歩を進め、扉を叩いた。
『どうぞ』
「執事長、失礼致します」
「ああ、琉蛇さん。ここのところずっと
風蛇を預けっぱなしで、すみません。
この書類を片付けましたら迎えに参ります。
それまで――あ……何かありましたか?」
「執事長。今日こそ、伺いたいのですが……」
「琉蛇さん、どうしましたか?
なんだか改まって――」
「風ちゃんは本当に『子供』なのですか?」
「風蛇は……見ての通りですよ」
「私の記憶は、呪に因って消えてしまった
のですよね?」
「……そう、伺っております」
「何方からですか?」
「私達をお助けくださいました方からです」
「風ちゃんも……あの村に、私達と一緒に
居たのではありませんか?」
「それは……」
「ちゃんとした記憶ではありませんが……
誰かが覆い被さって護ってくださったような、
そんな気がするのです」
「えっ……」
「そうなのではありませんか?」
「私も……気を失ったので……分かりません」
「覚えていらっしゃる事だけで構いません。
どうかお教えください!」
「覚えて……いないのです……」




