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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
364/429

無翼神竜-幽月とアカ

 区切りに余談を挟んでしまいます。m(_ _)m


♯♯ 赤虎工房 ♯♯


 長老の山から戻ったアカは、貰って来た苗木を壺以鞠(コイマリ)に入れた後、庭に植えた。


苗木は瞬く間に成長した。止まるのを待ち、

「枝を使わせて貰う。

切り口は処置するから許せ」幹を撫でた。




 そして、以前サクラから依頼されていた鏡の枠を作り始めた。


「おや、珍しいね。赤虎が木工なんて」


「幽月か……ふむ。

装飾部分を頼んでもいいか?」


「もちろん、喜んで。

図案は、この古文書だね?

それで、これは急ぎ?」


「いや。いつ必要などとは聞いていない」


「ここで彫ってもいいかな?」


「構わぬ。俺は鏡面を作る」


「硝子工房に頼まないのかい?」


「かなり特殊だ」


「そう」


「しかも、あとは磨くだけだ」


「本当に赤虎は器用だね」


「……誉めるな」



 二人は背中合わせで各々の作業を始めた。


「まだ笑っているのか」


「少しは誉められることにも慣れておくれよ」


「……無理だ」


「でも、その姿にも慣れたのだろう?」


「いや。しかし皆を護る為だ」


「ワカナさんを護るため、だろう?」


「それは当然だ。しかし、ここには――」


「私の家族も護ってくれているのだね……」


「それも当然だ」


「王子様は大変だね」


「……知っていたのか……」


「気づいていたよ」


「アオとサクラに会ったのか?」


「会ったよ。

でも、気づいたのは、ずっと前……出会ってすぐに」


「……そうか。ならば、これからも変わらぬな?」


「そうだね。私は変わらないよ。

ねぇ、赤虎――もう、アカでもいいかな?」


「どちらでも構わぬ」


「ワカナさんも『赤虎』なのだろう?」


「そうだ。二人での名だ」


「だったら、アカ――」


「む?」


「あの鏡は? これとは違うのかい?」


「試作だ。ただ……」持って来た。

「魂は入った筈だが、目覚めぬ」


「貸して」


 幽月は鏡面に掌を翳し、口の中で何かを唱えた。

鏡が光を帯びる。


「目覚めたよ。はい」


「何をした?」


「ここに書いてあるものを唱えただけだよ」


「俺も唱えた。が――」


「うん……アカは天竜だから」


「やはり神竜だったか」


「そう。やっぱり気づいてたのだね。

……その話をしたくてね」


「ふむ」


「天竜として生きようと思っていた。

でもね、銀虎様と話して、少し考えが変わったのかもしれないね……」


「幽月も両方持たずに生まれたのだな?」


「そう。両方無いとね、神界では生き辛くてね。

天界に逃げ出したのさ……」


「では、先代とは――」


「逃げては来たものの、天界の知識も何も無い子供だったからね、途方に暮れていたのだよ。

そんな私を先代は何も言わず連れ帰り、弟子にしてくれてね、いつの間にか養子になっていたのさ。

私の過去については、何も聞かず、ひとりでも生きていけるよう、技術だけでなく、全てを教えてくれたのだよ」


「それで『幺月(ヨウゲツ)』を継がなかったのか?」


「それも……確かにあるね。

妻は先代の姪だからね。

先代は、子ができる前に奥さんを亡くしていてね、血縁は妻だけなのだよ。

それに、妻の方が『幺月』らしい美しいものを生み出すからね、継ぐべきだと思ったのさ」


「まさか、その為に結婚を――」


「それはないよ。見ていて判るよね?」くすっ。


「ふむ。すまぬ」


「でもまぁ、結婚して、やっと先代とも親子になれたかな?

義理には違いないけれど、心がね、やっと底の底から安心できたのさ。

ここに居ていいんだ、とね」


「ここにも居ていい」


「ありがとう。

そんなだから、友をつくったことも無くてね、アカと出会えて初めて、友って、どうしたらなれるのだろう、と悩んだよ」


「……そうか」


「また、赤くなって。

本当に、いい奴だよね」ふふっ♪


「笑うな」


「無理だよ。そんな可愛い顔されたら」


「この姿は……仕方がないだろ」


「アカが本来の姿でも、その表情は可愛いよ。

性別ではなく、心が可愛いのさ」


「む……神眼を止めろ」


「仕方がないだろ? 神竜なのだから♪」


「ならば笑うのを止めろ」


「アカではないのだからね、無表情なんて貫けないよ」


「仕方のない奴だ。

……こんな話をするなど……また、旅に出るつもりなのか?」


「だから、気が変わって、隠すのが馬鹿らしくなっただけだよ。

ここには学べることが沢山だからね、今は旅に出る必要を感じないのさ。

ただ……神界にも行って、大爺様には謝ろうと思っているよ」


「何故――いや、話したくなければいい」


「神竜は、人神の血が入ると、翼や光輪が欠落しやすくなると、銀虎様から聞いてね。

私の大爺様――高祖父かな? もう一代上かな?

あまり会った覚えも無いのだけれど、その大爺様が人神なのさ。

きっと、私が家出したのを悲しんでいるだろうからね」


「それならば、早く会いに行け」


「うん。そうするよ。

これを仕上げたら、すぐに行ってみる。

アカに話して、やっと決心できたよ」


アカが立ち上がり、奥に向かい、戻って来ると、箱を差し出し、開けた。


「これを持って行け」


「この鈴は?」


「古の人神器(ジンシンキ)光臨鐘(コウリンショウ)


「『竜の星』だね。

もしかして、これもアカが作ったの?」


「アオとサクラからの依頼品だ」


「流石だね。

それに、ちゃんと目覚めているのだね」


「孔雀様が目覚めさせてくださった」


「ああ、そういうこと……じゃあ、ひとつ頂くよ。きっと大爺様が喜ぶね」


「孔雀様も人神だと信じて疑わず育ったのだから、無翼だったのだろう」


「ああ、そうか……きっとそうだね」


「だから、己を卑下するな。

その腕だ。匠神に成ればいい」


「ありがとう、アカ」


「幽月……すまぬ」


「何? 唐突に」


「随分と神界には行けていないのだろ?」


「そうだけど、どうしてアカが謝るの?」


「俺達、天竜王族のせいで天竜全てが忌み嫌われている。

だからこそ幽月は辛い思いを――」


「それは違うよ。

神竜族の多くは、神には成れない。

けっこう愚かでね、人神や魔神の存在も知らず、神竜族だけが三界を統べる神だと信じている者が多いのさ。

それに、一度 真理、定説と信じれば、たとえ誤りがあろうが、その非を認めず、頑として譲らず正そうとしないのさ。

だから、私のような者を無意味に揶揄し、潰そうとまでするのだよ」


「畏れ……なのではないか?」


「ただの弱いもの虐めだよ」


「いや、翼や光輪が無い分、他の力が多い上に突出している。

本能的に察知した、その力に対する畏れが、恐れに変わり、排除行動として現れるのではないかと俺は思う」


「そんな御大層ではないよ」


「神竜の天性に関しては聞いている。

天竜の天性、全てを持って生まれても、使えるものは少ないと。

幽月は、いくつ使っている?

その上、神竜の天性も持っている筈だ。

しかも複数だ」


「見えた?」


「俺の神眼は、それほど強くは無い。

行動からの推測だ。

最初に曲空したのは、俺がした直後だったろ」


「そうだね。あの時は双璧で真似たよ。

それで覚えられた」にこり。


「そうか。風だったな。

蒼月煌(ソウゲツコウ)も、どうだ?」


「貰ったよ。一応ね。

でも使う気はないよ」


「魔物が現れたなら、掛けておけ」


「そうするよ。一応、神竜だからね」


「どこまで知っている?」


「天性で拾ってしまうからね。

神しか知り得ないことまで、いろいろと知っているよ」


「アオとサクラが同じ天性を持っているだろ?」


「同じだよ。私よりも遥かに大きいよ」


「あの二人は……天竜としては化物だ」


「そうだね。

だから生み出した方は、罪人として封じられた。

同じ術で神竜を生み出したら、どうなると思う?

だから、その術は禁忌なのだよ。

アカは……小さい頃、子供だった?」


「……いや。それも禁忌の成せる技か?」


「そう。性別を変えた副産物だよ。

女性である状態をどうにも嫌ってしまうのもね」


「他の兄弟も嫌がっている」


「それは、単に見られたくない、気恥ずかしいだけだよ。

アカ達のは違うよ」


「まさか……この姿の為に、アオは闇に呑まれたのか?」


「そう、思うよ。

でも、アオ様は奥様のために、サクラ様はアオ様と生きるために、その姿を受け入れたのだよ。

もっと強い想いが、術に因る縛りすらも乗り越えさせてしまったのさ」


「まったく……あの二人は……」


「ところでアカは、もうひとつの天性を開かないのかい?」


「もうひとつ、だと?」


「かなり深層。天竜には珍しい天性だよ。

だから神竜の天性だと思われているね。

しかもアカは神眼を使い熟しているからね、これまでは神眼で代用していたと思うよ」


「まさか、神耳か?」


(そう。気づいたなら、もう開いたよね?)


「む……」


「聞こえた?」


「ああ。

そうか……竜宝の声も聞けるようになるのだな?」


「頑張って探って、伸ばしてみて。

私は神界に行ってくるよ」立ち上がる。


「もう出来たのか?」振り返る。


「木工は得意だからね」にこっ。


「そうだったな……」


「忘れていた?」くすっ♪


「そうかもな」フフッ。


「帰ったら、目覚めさせてあげるね」

そう言って、幽月は曲空した。



♯♯♯♯♯♯



 そして――


「この男が、ここの主で、奥さんと一緒に『赤虎』をしている鍛冶師のアカ。

私の唯一無二の親友だよ」


ひと目で幽月の親族だと判る神やら神竜やら、その魂やらの一団が、赤虎工房に入って来た。


「来るなら来ると言え!」逃げた。


「男?」ざわざわざわ……


「今は、あの姿で修行しているのさ。

鍛冶は力仕事だからね」


親族、納得。


「父ちゃん♪ おかえりなさ~い♪」ぱふっ♪

「とぉちゃ~♪ ぉぁ……さ~い♪」ぱふっ♪


「ただいま」なでなで。

「お爺様とお婆様に、ご挨拶なさい」にこっ。


「こんにちわっ♪」「んちわわっ♪」ぺこっ♪


「子供まで……」うるうる……

【お名前は?】にこにこ。


「ツキクサですっ。

 おとーとのツキシロです」「れすっ♪」

「タマゴもいっこ、いるの」「れすっ♪」


【しっかりしてるわね♪】いいこいいこ♪


「養父の幻月(ゲンゲツ)と、妻の繼月(ケイゲツ)

二人とも『幺月(ヨウゲツ)』だから、呼び名を違えているんだ」


「あ……はじめまして」

「ようこそお出でくださいましたな」


【おや、賑やかじゃと思ぅたら】

【大勢来ておったのだな】


「アカの大師匠の金虎様と、初代幺月様。

他にも匠神様が出入りしているし、隣の工房には神竜が大勢なのだよ」


「天界も変わったのですね……」


【この周りの祠にも神が住んでおるわぃ】


【もう、珍しさの欠片もありませんよね】

他の匠神達も来ていた。


入口扉が開いた。「ただいま~……えっ……」


「アカの奥さんで、ワカナさん。

私の親族がお邪魔しています」


「あ、いらっしゃいませっ!

幽月さんには、いつも助けて頂いてますっ!

あっ、何かお出ししないとっ」


「いいですよ、お気遣いなく」


「えっ、でも、そんなっ」


【ならば甘い物でも出してくれるかの】


「はい! 大師匠様っ」奥へ走った。


【酒好きは居るか?

良い所を知っておる。付いて来い】ニヤリ。


匠神達が消え、親族の半分程も、追ったらしく消えた。



「大爺様――」

幽月は、後ろで静かにしていた老人に向かって歩み寄った。


「私は人神の血を継いで、本当に今、とてもとても幸せなのですよ。

私が神竜だと知った(アカ)は、匠神に成ればいい、と言ってくれました。

だから、そう成りたいと、私も思っています。

普通の神竜として生まれていたなら、この幸せも、目標も無かったのです。

血を分けてくださって、ありがとうございました」


「そうか……」涙が頬を伝った。


「きっと近いうちに、もっと良いことが起こりますよ。

天竜は実は凄いのです」にこっ。





幽「アカ、そろそろ出て来ておくれよ」


赤『まだ大勢いらっしゃる』


桜「アカ兄、何してるの?」


赤『何の用だ?』


桜「まだ石が残ってたの~♪」


赤『置いて行け』


桜「工房に結界しよ♪」


赤『ん?』


桜「そしたら元に戻れるでしょ?♪

  光してあげるからぁ、ね? 出よ♪」


赤『上空に来い』


桜「うんっ♪」曲空♪



 そしてアカが暗室から出て来た。

サクラも戻っている。


幽「やっと紹介できるよ。

  サクラ様、ありがとうございます」


桜「なんで?」


幽「え?」


桜「アカ兄には『様』つけてなかったのにぃ。

  俺には、つけたぁ」ぶぅ~


草「あ♪ サクラ兄ちゃん♪」「ちゃん♪」


桜「外で遊ぼ♪」「うんっ♪」「ぅんっ♪」


幽「うん。『様』ではなく、『兄ちゃん』を

  付けようかな♪」ふふふっ♪


桜「ほえっ!?」


幽「サクラ兄ちゃん♪ 子供達をよろしくね」


桜「な~んか変~」にゃはは~


赤「文句の多い奴だな」


桜「ま、いっか♪ 外に行こっ♪」


 ツキクサとツキシロと芳小竜達を連れて

サクラは弾んで行った。


赤「む?」


幽「あ、見えてしまった? 隠していた

  のだけれど、やはりアカには無理だね」


赤「片方ずつなのだな」


幽「だからアオ様とサクラ様を仲間だと

  思っているのだろうね。

  いつかは両方になるのだとも思って

  しまっただろうね」


赤「なるさ」


幽「半神竜なのに片方でも有る方が不思議だよ」


赤「それでも、幽月の子だ。なる」


幽「アカが言うのなら信じるよ」


 二人、外を見詰める目を優しく細める。


幽「本当に……幸せだよ。

  アカ、ありがとう」ふわりと笑う。


赤「む……それならいい」外方向く。


幽「また照れて、可愛いよ」くすっ♪


赤「……言うな」


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