卵と種3-ロサイト
クロの中に宿っている『禍の卵』を除去できる
神様は、ロサイト様だけなようです。
♯♯ 長老の山 中庭の大池 ♯♯
「子供達が悪戯とかしたんですか?」
アオは翁亀の桜に掌を当てたまま金虎に尋ねた。
【いや、おとなしかったのじゃが、急に騒ぎだしての。
お前さんに会いたいと言うのじゃ】
【解呪しようとしているのを察知したのでしょう。
芳小竜は、とても敏感ですから】
ルバイルが戻って来ていた。
次々と大神が現れる。
先祖神だけでなく、歴代最高神までも。
【アオ、サクラ、そのまま解呪に入るぞ。
芳小竜にも手伝わせろ】
「カルサイ様と始祖様は?」
【クロの卵を凍結し、保っている。急ぐぞ!】
「キュルリ、皆、お手伝いしてくれるかい?」
【は~い♪】きゅるる~♪
芳小竜達は大喜びで桜の枝に座った。
【では、解呪を始めます】
【方々、御囲みください】
ゴルチルが魔法円を描き、ルバイルとドルマイの声で神々が動き、魔法円を囲んだ。
(俺達、本当に、このままでいいんですか?)
【闇障を発動しろ。闇が必要だ】
(その為なんだ~)(なら、他には居ないね)
ゴルチルが唱え始め、神々が声を合わせた。
アオとサクラから立ち昇る闇が、桜の木から噴き上がる闇を捕らえる。
芳小竜達が、その闇の塊を囲み、神々の光が芳小竜達を通じて放たれた。
闇が消える。
【この呪は強い。もう一度 行う】
そうして、三度 解呪を重ねた。
【アオ、サクラ、木の内を確かめろ】「はい」
(女神様だけじゃないよ)(そうだね。木かな?)
(なんか、いっぱい入ってるよ)(種まで有るね)
【何か見えたのか?】
(ゴルチル様、女神様と植物が沢山です)
【お目覚め頂けるよう術を唱える。
しかし、この術が有効か否かは分からない。
二人は掌握を差し伸べてくれ】
(もう、闇は不要ですよね?)【そうだが?】
(俺達でいいの?)【二人だから頼んでいる】
(大神様だらけなのに?)【おとなしくやれ】
(ん~)【不満なのか?】(じゃないけどぉ)
【ガーネを救いたいなら活躍しろ】「はいっ」
(そっか~。ゴルチル様、優しいね~)
(そうだね。
なんだかんだ言って、お世話してくださるよね)
(俺達これからも最高神様達の前で頑張らないといけないんだね~)
(そうだね……サクラ、始まるよ)(うん)
二人は、今度は光を纏い、気を高めた。
幹の内に向かって掌握を伸ばす。
(やはり異空間に繋がっているね)
(女神様まで遠いよ?)
(ルリ、どうだい?)(確かに遠い)
(アオ兄、どぉするの?)
(アオ、あの技を試さないか?)(今かい?)
(いい機会だろ)(でも――)(力が必要だ)
(そうか……そうだね。一旦、退くよ)(うむ)
(アオ兄、ルリ姉、何するの?)
(うん……女神様を見ていてね)
(ん~~、じゃあ俺、木を出すね)
(うん。お願いね)
アオとルリは掌握を退き、サクラは掌握から念網を放った。
あ……
翁亀様の桜、別の桜の木が重なってる。
もしかして、この木――
アオの気が爆発的に高まる。
光輪と翼の輝きが、辺りを白い煌めきに変える。
(ルリ、大丈夫かい?)(聞くまでも無い事だ)
(なら、もう一段、進めるよ?)(準備完了だ)
アオの輝きは、大神すらも驚く程になった。
(どう?)(まだ余裕だ。続けてくれ)(うん)
(心配し過ぎだ)(何か有ったら必ず知らせて)
(大丈夫だ。何も無い。進めろ)(……解った)
出来たな……
各々が存在する融合とは異なる、ルリを取り込み、完全に『ひとり』となったアオが、神眼を極限発動し、掌握を伸ばした。
漂っている植物を辿り、女神の気に向かう。
アオの掌握から溢れる光に包まれた植物が、掌握へと吸い寄せられているように集まる。
見えた! あの光まで……届け!!
もう少し…………よしっ!
女神の手首を掴み、もう一方の掌握の指に引っ掛けていたサクラの念網を広げた。
周りに漂う植物を全て包み、女神と念網を引き寄せる。
(サクラ、そろそろ見える?)
(見えた~♪ 網 引くねっ♪)
(うん、お願い)
サクラが自分で念網を引き始めた時、女神が目を覚ました。
【ぁ……私は……】
(ロサイト様ですか?)
【はい。貴殿方は……?】青身神様?
(天竜のアオとサクラです)
【天竜……】まさか……
(そうでしょうね。でも、天竜なんです)
【お救い頂き、ありがとうございます】
(俺達ではありません。
お救いくださったのは歴代最高神様方です)
女神からの光が掌握と念網を包む。
その輝きが更なる力となる。
【貴殿方の御力は、十分 伝わっております。
ゴルチル様の御子孫なのですね】
(そこまで御判りになるのですね……)
【あら、この声はゴルチル様ですね】
(はい。ゴルチル様の術で俺達の掌握が届いたんですよ)
【それは貴殿方自身の御力でしょう?】
(いえ、そんな事――)
【あら? もしかして――】
(どうされましたか?)
【この気は……ルバイル?】【はい】
【貴方が、こんな立派な神様に……私は、そんなにも長く……】
【ご無事で……本当に……良かったです……】
(ロサイト様、出口です)
【はい。お願い致します】
桜の大木からロサイトが現れ、辺りの色彩が戻る。
安堵して気を失ったアオをルバイルが支え、抱えた。
サクラが植物満載の念網を引き出した。
既に引き出していた塊もぶら下げ、宙に浮く。
【ああ、それも……護れたのね……ありがとう、サクラ様】
「えっ!? いえっ『様』なんてっ! あのっ!」
うふふっ♪【可愛い神様ね♪】「や~んっ」
ロサイトがアオに光を当てる。「ん……」
【ありがとうございます、アオ様】
ガバッと起きる!
「『様』なんて! とんでもありません!」
【王子のクセに『様』如きで騒ぐな】
ゴルチルが飛んで来た。
(神様は神様にしか『様』を付けないから……)
(そぉだよねぇ……)
大神達から安堵や喜びの混じった笑いが起こる。
【ゴルチル様、ありがとうございます。
またお会い出来て、本当に良かった】にこっ。
【ロサイト様……】涙ぐむ。
(鬼の目にも――)(やめろ! サクラ!)
二人をゴルチルが睨む。
ロサイトとルバイルが笑う。
大神達がロサイトを囲み、一斉に光を当てる。
【ありがとうございます。もう大丈夫です。
私には成すべき事があるのでしょう?】
【はい。早速ですが、お願い致します。
サクラ、一先ずそれはここに置け。急ぐぞ】
「翁亀様、また後でね」
「よいよい。早ぅ行け」「うんっ」
「キュルリ、皆、行くよ」【は~い♪】
【行くぞ!】二人はゴルチルに掴まれた。
下層神界に戻ると、カルサイとコバルトが、眠らせたクロの鳩尾と背中に光を当てていた。
ロサイトがクロに両掌を当て、目を閉じる。
【クロが感情を動かせば、彼奴の餌になる。
だから、こうして保っているのだ】
(クロの中の卵は、何なのですか?)
【古の呪に依る喰魂獣の卵だ。
クロを支配し、下僕としようと企てたのだ】
ロサイトが魔法円を出し、大神が囲んだ。
【続きは後だ。大神方は整ったぞ。
静香、クロの鳩尾に両掌を当てろ。
アオとサクラは 解呪と同じに。
他の兄弟はクロを囲み、両掌を当てろ。
各々神眼を発動し、気を澄ませ、高めろ。
フジは聖輝煌水と神聖光輝で浄化だ】「はい!」
ロサイトが術を唱え始めた。
【アオ、サクラ。
静香の神眼の光景が見えるか?】(はい)
【卵が判るか?】(見えました)
【掌握に光と闇、両方 纏わせられるか?】
(出来ます)【ふむ、流石だな】
【術に依り、卵が浮き上がったら、掌握で掴み出せ】
(はいっ!)二人、頷き合う。
クロの心に巣くった卵は、半分程 埋もれて根を張っていた。
(卵ってより、種みたくなってるね)
(発芽寸前のね。そうか!
あの呪は、この卵を隠す為のものだったんだ!
卵を隠し、心を揺さぶり、負に傾け餌にする。
孵化したら、喰らい易いように縛っておく、その為の呪だったんだ)
(それが解かれたから孵化が早まったの?)
(おそらくね)(間に合って良かったぁ)
(動いたよ)(うん、揺れたね)(また――)
二人は身構え、集中した。
王子達は術の真っ最中。
これは流石に捕まえられないので、
アオの屋敷に目を向けます。
琉蛇は、お昼寝している子供達を見つつ、
もの思いに耽っていた。
爽蛇さん……
何か隠していますよね?
どうして?
この前、爽蛇さんは何を言ってたのかしら?
思い出す? 何を?
風ちゃんは……子供じゃなくて、
子供になってしまったの?
あ……あの時……
誰かが庇ってくれた気がする!
もしかして、その方が……
風蛇の柔らかい髪を撫でると、風蛇は
心地よさげに身動ぎした。
私の記憶が消えてしまったように、
子供にされてしまったとか……
確かめたい……でも……
私には話せない理由があるの?
私も当事者なのに……
父さんと母さんは私の目の前で
死んでしまったのかしら……
それを思い出してしまうから?
それは耐えられると言えばいいの?
分からない……
知りたい……
どうすれば――




