砂漠編22-マキノ
カリヤさんが右大臣、マキノさんが左大臣です。
フジと蛟が、サクラを小屋に横たえた頃――
クロは、ひとりで夕食の仕込みをしていた。
病気になってしまったら、ハクが治療する。
薬はフジが調合する。
病気にならないように、また、回復を促進するように、食の管理をするのが、クロの役目だ。
限られた食材で、ひとりひとりの体調に合わせた料理を――と考えていると、空から大きな輿が降りて来た。
輿から天兎の一団が出てきて、
「天竜王子様、この度は砂兎達が、大変お世話になりましたとか――
天兎王よりのお礼の品をお持ち致しました」
代表者らしい天兎は、そう言うと、片手を胸に当て、恭しくお辞儀した。
輿の前に並んでいた天兎達が、大きな箱を運んで来る。
箱の中には、薬の材料にもなる食材が、ぎっしりと入っていた。
「さぞかし、お疲れの事と存じまして、滋養強壮に優れた物を、詰め合わせております。
お役に立てば幸いでございます」
再び、胸に手を当てて、お辞儀。
「ありがとうございます。大変助かります」
クロが礼を述べた時、蛟が小屋から出て来た。
続いて、紫苑と珊瑚が出て来た。
紫苑に抱えられたカリヤが、
「おぉ、マキノ殿!」代表兎に声を掛けた。
「カリヤ殿、ハザマの森に向かったと、聞いたのですが――」
「ええ、行きましたよ。
話せば少々長くなりますが――」
「私共が、お助け頂いたのです」紫苑と珊瑚。
「そちらは?」
「妖狐王様の御孫様であらせられます」
「なんと!
……しかし、言われてみれば、三の姫様に よう似ておられる」
「そうでしょう、ですからワタクシ――」
と、岩山で、紫苑と珊瑚にした話が始まる。
その頃には、皆、揃っていた。
♯♯♯
「――と言ぅ事は、次は、そのハザマの森とやらに向かうのか?」
姫が言い、皆、アオを見た。
アオが頷いた時、蛟が、
「踊り子さんの故郷も同じ方向でございますから、丁度よろしゅうございますね」
あ……思い出した!
そんな約束も有ったね。
それなら、フジに飛んでもらって――おや?
フジは何処だろう?
「それでしたら――」マキノが口を開いた。
「カリヤ殿、皆様をハザマの森まで、ご案内して差上げたら如何ですかな?
仕事の心配は御無用。
ワタクシが引き受けましょう」
「願ってもない事ですが――」
「なんの。
ここ数日していた事を続けるだけです」ニコニコ
「マキノ殿ぉ……」うるうる
「ただ――」
「ただ?」
「その姿では足手纏いになるだけ。
ひとまず、養生なさるべきですな」
「王の御許しも得なければなりませんし、確かに一度は戻らねば……
しかし、離れますと――」
そのやりとりを聞いて、蛟が、
「方角程度なら分かりますので、回復を優先してくださいませ」
カラクリ竜を取り出した。
「こちらの竜宝が、私共の居場所を示しますので」
「それは、くノ一が連れておるのと似ておるな」
姫が覗き込む。
「ええ、同じ物でございますよ」
「それ故かぁ~
毎日、よぅも迷わず来るものよ、と思ぅとったのじゃ。
ならば、カリヤ殿、これは確かなるカラクリじゃ。
安心して養生なされよ」
カリヤの頭を撫で撫で。
「ひっ! 姫様っ!
くすぐっとうございますっ!」ジタバタ
マキノが声をあげて笑い、皆も笑った。
「およ?」
姫は額に手を当て、ぐるりと周りを見渡すと、
「岩山が無くなっておるな……
砂漠は元に戻ったのか?」ぱちくり
「そのようでございますねぇ」
サクラの異変を知るのは、蛟とフジだけ。
クロ様には、お伝えせねばなりませんが、
それは、後程と致しまして――
「一段落という事で――」
「今宵は宴じゃな♪」姫が蛟の台詞を奪う。
「そうと決まれば――」
「腕を振るうぞ♪」今度はクロの台詞を奪う。
「姫は休んでろっ!」間髪入れずクロ。
「姫様、お疲れでしょう」一瞬、遅れて蛟。
「姫様、お手伝いは私が」そして、珊瑚も。
「なんじゃ、なんじゃっ!
ワラワは疲れてなどおらぬぞ」ムッ
「お元気なのでしたら、天兎様方のお相手をお願い致したいのでございますが――
休まなければならない者ばかりでございますので……」
「そぅじゃな。あい解った♪」
紫苑から、カリヤを受け取った。
「今宵の宴、是非とも御一緒に――」
蛟がマキノに近寄り、
「誠に申し訳ございませんが、美味しい料理を頂く為に、ご協力お願い致します」
耳打ちすると、
「もしや! 天竜王子様の御手料理ですか?
それは、お断りなど致しては、失礼極まりありませんな!」
マキノは、勘良く大袈裟に応えてくれた。
ただ――
皆、胸の内で、
クロと蛟は『マズッ』『あ……』とドキリとし、
他は『王子!?』と、叫んでいたのだが――
それよりも、『今は、宴の料理が大事!』と、触れずに流したのであった。
「お――」姫が口を開きかけた時、
「お招きのお礼と申しましては、いささか何ですが――
あの中、ご覧になられますか?」
マキノが輿の方を向く。
「おおっ♪」姫の目が輝いた。
皆、胸の内で歓喜したのは、言うまでもない。
「アオ、何処に消えてたんだ?
宴だぞ♪ 楽しみにしてろよっ♪」
「そうか、上手く姫を向こうに……
だから盛り上がっているんだね」
「だから、安心して食え♪」
「うん」
♯♯♯
「では、サクラを洞窟に帰して、お婆様の所に参りましょう」
小屋から外の様子を見ていたフジは呟き、サクラを背に乗せて飛んだ。
♯♯♯♯♯♯
陽が落ち、宴が始まった。
紫苑と珊瑚が舞っていると、星空から藤紫の竜が降りて来た。
「フジ、何処に行っとったのじゃ?
早よ食べぬと無くなるぞ」
「これを頂いて参りました」
フジが大きな包みを開けると、艶やかな沢山の団子が甘く香った。
♯♯♯♯♯♯
あれ? 真っ暗……ここ……どこ?
【サクラ】
(あ、ヒスイ……ここは?
俺、なんで寝てるの?)
【ここは、工房の暗室だよ】
(なんでっ!?)
【私が来た時には眠っていたから、理由は知らない】
(そぉ……)起き上がる。(あ♪ 団子の匂い♪)
【サクラ、大丈夫?】
(うん♪)扉を開ける。「アカ兄♪」
「ん」卓上を指す。
サクラは駆け寄り、蓋を開けた。
「やっぱり~♪」
「フジが持って来た」
「アカ兄も食べよ~♪」
「ふむ。キン兄を呼べ」
「うんっ♪」(キン兄、工房に団子♪)
すぐにキンが来た。
「サクラ、もう起きて大丈夫なのか?」
「うん♪ だいじょぶ~♪ 食べよ~♪」
凜「王子だってバレちゃったね~」
黒「でも、紫苑と珊瑚は妖狐王の孫だろ。
坊さんは達観してそうだし~
んで、姫だし。問題無ぇだろ」
凜「つまり、天界・人界・魔界の次代を担う
方々の集まりだったのよね~」
黒「そっか……確かに三界それぞれ居るな」
凜「流石、クロも王子なんだね~」
黒「なんだよ、急に」
凜「こんな凄いのに、平然としてるんだもん」
黒「凄いのか……へぇ」にへらっ
凜「喜んでるの?」
黒「喜んでねぇからなっ!
オレには当然で普通なんだよっ!」
凜「だよね~♪」ふふん♪




