王太子1-執務って
深魔界は奪還完了しました。
真魔界の結界前にアカが新たな結界を成し、その結界に神とアオとサクラが光を込めた。
【これで、あとは鏡を奪えば、魔王は真魔界から出られない】
「あとはクロ兄だね~」
「先行してもらわないと光が使えないからね」
「いつ行くんだ?」
「だからぁ、クロ兄待ちだよぉ」
「魔王が何か画策する暇を与えちまうんじゃねぇのか?」
「でも、今 行っても、光なしでは太刀打ち出来ないんですからね」
「ハク兄は、そんな事より勉強してよぉ」
「頭に入らねぇのも呪のせいなのか?」
「始祖様、如何ですか?」
【そんな事は無い。
何でもかんでも呪のせいにするな。
俺は言動は縛られては いたが、覚える事などには何の支障も無かったぞ】
「そこは元々なんだね~」
「残念そうに見るなよっ!」
「残念そうではなく、残念なんですよ。
ハク兄さん、執務室に行きましょう。
勉強は何も教科書からだけではないんですから」
「フジ! 助けてくれっ!」
「フジに甘えないでください。行きますよ」
アオはハクを掴み、曲空した。
「あの目は容赦なく叩き込むつもりだな」
「そのくらいしなきゃダメでしょ。
俺も帰って執務しよ~♪」曲空。
「帰る。竜綬が途中だ」曲空。
「クロの事は神様方と静香殿に任せ、フジは休むように」
「はい……あの、私も城に行ってもよろしいでしょうか?」
「どうした? フジ」
「執務というのを見てみたいのです」
「ふむ。ならば行こう」「はいっ♪」
♯♯ 天竜王城 ギンの執務室 ♯♯
「こちらは父上だけですか。
アオとハクは、どちらに?」
「珍しいな、フジも来たのか(♪)。
今日はコハクが出ているから、二人にはそっちに行って貰った」騒がしくてな。
「そうですか。
でしたら、こちらは静かですね。
フジ、そこに座って、これを読み、思うところをここに書いて欲しい」
「はい。この書き込みはアオ兄様ですね?」
「そうだ。書き込みも全て読んで欲しい」
フジは頷き、静かに読み始めた。
♯♯ コハクの執務室 ♯♯
「アオ~、もっと解り易い案件は無ぇのかよ」
「それが練習には程よい案件です。
ゆっくり読んでください」
淡々と目を通し、書き込んでいく。
「なぁ、アオ」「はい」
「ここを教えて欲しいんだが――」
「どこですか?」
「これ、よ――」「予算ですか?」
「いや、そ――」「総工期でしたら、こちらに」
ササッと紙を捲っていく。
「先に読んでたのか?」
「そうでなければ、程度を判別なんて出来ませんから。あ、ここですよ」
「いや、そうじゃなくて、この言葉が読めなくてな」
「辞書なら引き出しに入っています」ため息。
「何でも、よく知ってんな~♪」睨まれた。
アオは、また机に戻り、静かに作業を続けた。
「で、これの、どこがマズいんだ?」
「何も無ければ練習用になんてしませんよ。
もう一度よく読んでください」
そして――
「わっかんねーっ!」
「矛盾する箇所が有るんですよ。
そのまま通したら大変な事になりますよ。
けっこう大きな事業なんですから」
「矛盾?」
「まずは項目毎に試算してください」
「どこ行くんだ?」
「この分は、父上とアサギ様に確かめなければなりませんので」出て行った。
♯♯ ギンの執務室 ♯♯
「フジ、どうだ?
その草稿は、アオがこれから提案しようと、私に意見を求めてきたものだ。
先程の議案と合わせて、どう思う?」
キンは、嬉しそうに瞳を輝かせ顔を上げたフジに微笑み、問うた。
「はい。とても嬉しいです!
私も計画段階から参じたいです!」
「父上、如何ですか?」
「フジも加わるなら、より良いものになるだろうな。
お、アオ、丁度いい所に来たな。
この前の件、就任後すぐに議会に掛ける。
フジも参じたいそうだ」にこにこ♪
「フジ、来ていたんだね。
ありがとう。よろしく頼むね」「はい♪」
「アオ、ハクは どうだ?」
「手強いですね」あはは……
「アオ、いっそのこと王太子に――」
「なりませんからっ!」
「なんだか……執務って楽しそうですね♪」
「いや、これは雑談――」
「楽しいか。なら、フジも来い」にっこにこ♪
「はいっ♪」
「父上……俺達、いつまでも この姿ではありませんからね」睨む。
「いいじゃないか。ずっとそのままで――」
「良くありません!!」三人。
♯♯ コハクの執務室 ♯♯
「計算、終わりましたか?」戻った。
「ん、これでいいのか?」「間違ってます」
「どこっ!?」「三箇所」「そんなに!?」
やりとり数回――
「その結果と書面を比べてください」
「ん~、ここ――」「やっと分かりましたか」
「なんで、こんなの必要なんだ?」「はぁ?」
「それは、また別の問題ですが……場合によっては良い質問ですね。
それで、どうして不要だと思ったんですか?」
「ただ聞いてみただけだ」キッパリ。
「なら、それは後回しで。
計算し直して何か気づきませんでしたか?」
紙と にらめっこ。
「桁をよく見てください」
「あ……」静かに待つ。「高っけ~なコレ」
「桁を間違えている箇所が有るんです!
ここ! それと、ここは工期の日数と合わない!
このまま通せば資金不足で頓挫しますよ。
ですから、この部分を削減するか――」
「そういうのをすぐに見つけるコツって有るのか?」
「まず、鵜呑みにしない事。
計算間違いや見落とし、誤解や知識不足。
提案自体は良い事でも、そういうのが含まれると成功しません」
「だが、専門的に やってる奴が提案するんだろ?
その知識不足を見つけるって……」
「こちらも勉強すれば見つかります。
提案された一件一件を成功に導く為には、判断を下す側も真剣に学ばなければなりません。
否決するなら、相手を納得させなければ遺恨となり、将来への不安を生みます。
ですから、より良い提案で納得させるにしろ、否決理由で納得させるにしろ、それ相応の深い知識が必要となるんです」
ハクが椅子から ずり落ちた。
「ハク兄さん!?」
「脳ミソ沸騰した~~もうダメだぁ~~」
「まだ続きはあります。
ちゃんと座ってください」キッ!
♯♯ 地下魔界 ♯♯
「おおっ♪ 凄いのが出たのぅ♪
クロ、もう一度じゃ!」
「よーし! 見てろよっ♪」
竜巻によって速さと威力を増した光が、神以鏡から煌めきを纏い迸った!
「格好良いぞ♪ クロ♪」
「そっか♪
で、この風技、なんて名だろうな」
「それ、風神竜牙だよ。
クロ兄、自分で見つけたの?」
「お♪ サクラ♪
そうだよ。見つけたんだ♪
なぁ、もっと風技 知らねぇか?」
「知ってるよ。トーゼンでしょ」
「って、サクラは光だろっ」
「でも、光を風に変えたら使えるでしょ。
じゃ、見て覚えてね~♪」
サクラは少し離れて、次々と風技を出した。
「どれがいい?」
「全部 覚えたい!」
「うんっ♪ じゃ、いくよっ! 暴風激放!」
強い風の波動が、物凄い速さで波紋のように拡がった。
「俺の気 見えた?」「見えた!」「うむ!」
「んじゃ、やってみよ~♪」「おうっ!」
青「兄さん、真面目にやる気が無いのなら――」
白「いやっ! やる! やるからっ!」
青「まだ何も言っていませんが?」
白「ロクでもねぇ事になるってだけは
確定なんだろっ!?」
青「そうでもないと思いますけど。
そう思うのなら、そうします」
白「え??? いい事なのか?」
青「ロクでもない方向に転換しましたので、
無駄口叩いてないで早く片付けてください」
白「ゲ……で、何してるんだ?」
青「その案件が終わったら試験します。
合格するまで何度でもね」
白「鬼だ……」
青「何か? ご質問ですか?」
白「いえ……何も……」
頑張れアオ、頑張れハク!(笑)




