始祖様4-深魔界の西半分
姫がクロを特訓しているのを見詰めながら、
コバルトとキンが話していると、アオとサクラが現れた。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
「二人には休むように言った筈だが?」
「キン兄が流してくれたんでしょっ!」
「確かに、そうだが……」
「始祖様。
始祖様の心を縛っていた呪が、最高神様ですらも見えなかったように、クロにも何らかの呪が掛っていると、俺達は確信したんです」
「ここんとこずっと違和感はあったんです。
でも、神眼でも見えなくて……それに他の呪にもかかるから、確信に至れなかったんです」
「覚醒した為か、さっきクロを見て、やはり何か有ると確信して、サクラと話していたんです」
「そしたら話が流れてきて……だから来ちゃったんですよ」
【二人が確信したのなら、そうなのだろう。
クロ、静香、こちらへ】
クロが姫を乗せて飛んで来た。
【クロ、そこに立っていろ。
静香、クロの鳩尾に両掌を当てろ。
キンはクロの背中だ。
アオ、サクラ、姫を挟んで片掌を静香、もう一方をクロの肩に当て、四人共、神眼を極大発動するんだ】
コバルトは、その周りに魔法円を描き、術を唱えた。
【何か見えたか?】
(始祖様、確かにクロの心は呪に縛られています)
(カルサイ様を呼びますね)
大神達が次々と現れた。
【このまま続けましょう】
カルサイはクロの真後ろに立った。
【キュルリ、クロの頭上に】【はいっ♪】
【チルル、カルル。静香に手を添えて】
【はい!♪】姫の片手ずつに抱きついた。
大神達が魔法円を囲む。
【絆神方々、外を囲んでください】
【王子達も共にお願いします】
(兄貴達、夜中に ごめんね~)
(いいって)(そうですよ)(気にするな)
【では、クロの解呪を始めます】
カルサイとコバルトが唱える声が、穏やかな音色のように流れる。
アオとサクラの翼が光を帯び、光輪の輝きが増していく。
大神達が声を合わせる。
アオとサクラから輝きが迸り、拡がり、地下魔界を一瞬、純白の輝きに変えた。
二人の大翼が羽ばたく度に、クロから微かな闇の靄が立ち昇る。
キュルリを通して放たれた神の光が、その靄を捕らえ、小さな塊に変えた。
大神達が一斉に光を放ち、闇の塊は消滅した。
【解けたな……】ゴルチルが微笑んだ。
「始祖様、急に偉い神様になっちゃったね~♪」
【力は変わっていない筈だが……】
「そぉなの?」カルサイを見る。
カルサイが笑いだした。
【私が見込んだ男は、本来こういう奴だったのだ】
ゴルチルがニヤリとし、コバルトを小突いた。
「ふぅん……凄かったんだ~」
「クロ、大丈夫かい?」「しっかりせよ」
「あ……ああ、なんか……すっごく軽くなった!」
ぴょんぴょんし、腕をブンブン回した。
「もおっ、ビックリするでしょっ!」
「いや~、なんかスッキリしたっ♪
皆様、ありがとうございましたっ!!」
「急に元気じゃのぅ♪」
「姫♪ 心配かけたが、もう大丈夫だ♪」
「然様か♪」にこっ♪ 「おうっ♪」にこっ♪
【まだ二人の世界には行くな】「え?」
【王子達は常日頃、闇に触れまくっている。
おそらくクロ程ではないだろうが、何か残っている筈だ。
アオとサクラは自らの強い光で消してしまっただろうが、あとの四人、順に解呪するぞ】
ゴルチルの言葉で、夜明けまで解呪は続いた。
♯♯♯
「キン兄さん、進むのは明日にしますか?」
「いや、このまま行こう。
クロの力が戦ううちに開くかも知れない」
「そうですね。
紫苑殿、珊瑚殿、こちらをお願い致します」
「お任せください」にっこり。
「では、参りましょう。
神様方、アオとサクラにお入りください」
――と、
かなり身構えて踏み込んだが――
(留守ばっかりで拍子抜け~)むぅ。
(もう、こちらは放棄したのでしょうか?)
(完全に籠城かもなっ)
(あれっ? 誰かいる……)
(うん、気配が有るね)
気を消し、姿を消して慎重に近づき――
(神竜さんだ♪)(こっちにも)(いっぱい~♪)
「ね♪ こんな所で何してるの?」姿を現した。
「あぁ……神様、お救いくださるのですか?」
「ねぇ、神様ぁ、呼んでるよ~」「あの……」
【その神竜が言っている神は、お前だろ】
「俺、天竜だもん」【そうは見えぬからな】
「そぉしたのって」【私達だが、何か?】
「開きなおったぁ」【文句が有るのか?】
「えっと、放っておいて。
貴殿方は何故ここに?」
「私共は龍神帝王の影にされておりました」
「何方が元に……?」
「夜中から強い光を何度も浴び、解放されたのです」
「ですが、どうしたら出られるのか分からず、途方に暮れておりました」
「強い光?」「お前らのだろっ!」ペシッ!
「神様に……」「何て事を……」「畏れ多い……」
ざわざわざわ……
「いえ、兄ですから」あはは……。「え……?」
「それより、続きをお願いします」「はい……」
「各砦には、結界を維持する為に影や幹部が配置されておりました。
解放された後、仲間を求め、脱出する術を求めているうちに集まっていき、ここに隠れていたのです」
「魔王には滅されなかったんですね。
ご無事で何よりです」
「度々光が届いていた為でしょうか……
魔王が現れる事も、消される事もなく、こうしてここに……」
「魔界で神様にお会い出来るなんて……
私達は、なんと運が良いのでしょう」涙する。
「いや、そんな……」困り顔でカルサイを見る。
【とにかく、ここを出ましょう。
アオ、皆さんを連れて天界に参りましょう。
王子と絆神方々は、拠点の浄化をお願いします】
「通路から深蒼に出ますね。
神竜様方、結界魔宝は解除していますね?」
「はい。私共も困りますので」
「ありがとうございます。
では、参りましょう」
神竜と魔人に念網を掛け、曲空。
「アオは、すっかり神様じゃな」
「ま、前から、そんな雰囲気が漂ってる奴だったからな。
やっと姿が追いついたってトコじゃねぇか?」
「クロは悔しくはないのか?」
「ん~、なんつーか、オレはオレだからな。
アオやサクラとは違うんだから、比べても仕方ねぇだろ」
「うむ♪ それでこそワラワが大好きなクロじゃ♪」
「姫……」
『お~い、お前ら置いてくぞ~』
「およっ」「ん?」キョロキョロ。
外からのハクの声で、慌てて出た。
「クロ、何か見えたのか?
目の輝きが変わったぞ♪」
「うん、見たんだ。
前にアオに神眼の大きさを見せてもらった、その要領で、兄弟皆と比べてみたんだ。
皆が言ってる事、よく解ったよ。
オレは絶対、あの器を開いて、全て満たしてやる!」
「然様か♪ ワラワも負けぬからなっ!」
目の前に仁王立ちした姫を、クロは抱きしめた。
「ありがとう、静香」
(クロ……これは供与か?)
(いや、愛を込めている)
(ならばワラワも……)
「もおっ! ハク兄、行くよっ!」
「いや、もう少し……」
「ハクは、まだ解呪せねばならぬようだな」
「兄貴ィ、そんなぁ」
【コバルトと同じ呪のようだな】
「ゴルチル様までぇ」
「解呪したら始祖様みたくなるの?」
【そうだろうな】
「ソレおもしろくな~い」
【ならば、このままにしておくか】
「うんっ♪」
「俺……呪われてるのか?」
【自覚も無いようだな】
「本当なのか!?」
【何故、嘘などつかねばならぬのだ?】
「解呪してくれ~っ!」
「次、行こ~♪」
「おいっ!」
「おーいっ!!」
ゴルチル、コバルト、サクラは、
最も真魔界側の拠点群を浄化していた。
桜「これ……竜骨だよね? いっぱいあるね」
始【また魔王モドキにしていたのだろうな】
桜「だ~か~ら~!
始祖様、誰だかわかんな~い!」
始【いや、だから……】
ゴ【骨は浄化したぞ。
サクラ、運べるようにしろ。
コバルト、室内の浄化だ】
桜「ゴルチル様は、どぉしてその服なの?」
ゴ【何が言いたいのだ?】
桜「女神様ってより~魔女♪」
ゴ【覚えておけよ。サクラ……】
桜「こわぁいぃ~♪」
始【嬉しそうに言ってる場合か?
ゴルチル様を怒らすなよ】
桜「始祖様でも恐いの?」
始【父のようには甘くないんだ。
『容赦』なんぞ、辞書には無い御方だ】
桜「ふぅん……でもねぇ、
始祖様が遊んでくれなくなって~
ゴルチル様しか遊んでくれないんだもん」
始【だからってお前……】
ゴ【浄化完了か? さっさと次に行くぞ】
始【早くしろ! サクラ!】
桜「ふぁ~い」
♯♯♯
その頃、魔王の城では――
帰りたい……神界に帰りたい……
そうだ……私が居るべき場所は……
ここではない!
【あ……】
【気付いたか。ん? その目……
神の力を与えた私に敵意を向けるとは……
まさか、意識を取り戻したか】
神竜の魂とも、神とも判別できない
その者は、眼前の闇に向かって身構えた。
【そうか……ならば再び眠れ!】
一瞬で闇が迫り、立ち向かおうとした者が
声を発する隙も与えず包んだ。
【眠れ……そして再び我が僕として目覚めよ】
 




