始祖様3-拍子抜け
コバルトは真面目で穏やかな神でした。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
【アオ、サクラ。具合は、どうだ?】
兄弟から離れ、光が漏れぬよう家賽の小屋でキュルリの浄化をしていると、ゴルチルが現れた。
「もうすっかり元気ですよ。
ありがとうございます、ゴルチル様」
「アオ兄に何があったんですか?」
【アオは、神の力を得た事で、拒絶反応のような状態になっていた。
私はアオを休ませる為に眠らせていた。
しかし、アオは意識が有るかのように、コバルトの背に光を当てていたのだ。
その光に依ってコバルトの呪縛は緩み、コバルトは呪縛に打ち勝つ事が出来たのだ。
アオの方は、私が眠らせている事に抗い、コバルトを救おうとする余り、得たばかりの大きな力の限界を超え、生身では起こる筈の無い『覚醒』を引き起こしてしまったのだ】
「覚醒?」
【神竜の魂は、覚醒に依って神に成るのだ】
「俺達は今、どういう状態なんですか?」
【外付けの力を取り込んでしまった状態だ】
「???」
【本来は、身体という器が無いからこそ、存分に発揮出来るのが神の力だ。
器に縛られているお前らが持つには、大き過ぎる力なのだ。
だから、神の力をその翼と光輪に込めて付けたのだ。
それなのに、自ら覚醒を引き起こし、神の力を己が力として、その生身の器に取り込んでしまったのだ。
覚醒など起こり得る筈は無いのに……】
「俺達……どうなるんですか?」
【さぁな】「そんなぁ」
【だが、お前らの事だ。
何とかなるだろう】「無責任だぁ~」
「それで、調整するために、わざわざ来てくださったんですね?」
【流石だな……拾う力も増したのか?】
「そうかもしれません。
確かに何をするのも楽になりましたから」
【神としては、そんな天竜は困るのだが……】
「って! ムリヤリくっつけたのはゴルチル様でしょ?」
【カルサイだ】「むぅ」
【兎に角だ。体を破壊しないように、余剰分は光輪と翼に移す。
移しはするが、既に取り込んだ力だ。
繋がりは切れない。
だから、使う分には何ら問題は無い筈だ】
「ハズって?」【お前らだけは予測不能だ】
「あんまりだぁ」【前代未聞が何を言うか】
「ひどぉいぃ」【調整しなくていいのか?】
「あの……始祖様の呪は、ゴルチル様に移ったのですか?」
【アオ、何が言いたいのだ?】怪訝。
「そういう やりとりを、前の始祖様とよくしていましたので」
【まぁ、色々と嬉しくて少々浮かれているのかも知れん】頬染まる。
【兎に角だ、始めるから外に出ろ】ぷいっ。
♯♯♯
【クロ、雑念を払い、気を澄ませて――】
「始祖様、なんか変なモノでも食べたんですか?」
【だから、呪が消えて、本来の自分が解放されたのだと話しただろう?】
「穏やか過ぎて、なんだかなぁ……」
「アオと話しておると思えばよいのじゃ」
「そっか、始祖様だと思うから調子が出ねぇのか」
【俺は、あの呪に縛られた自分が、嫌で嫌で仕方なかったのだが……
皆は、あの方が良かったのか?】
「ん~、なんつーか、いいとか悪いとかじゃなくて、それが始祖様だと思ってたからな~」
「慣れておったからのぅ。
じゃから、違和感は今だけじゃろ。
ワラワは話し易ぅて嬉しぃぞ♪」
【そう言って貰えると、俺も嬉しいぞ。
ハク、神の光ばかり出していたら、すぐに切れてしまうぞ。
治癒の光を混ぜて、雷を絡めるんだ】
「そっか……はいっ!」構え直して、放つ!
【フジは良い感じだな。
もう十分、実戦で使えるぞ】
「はい♪ 御指導ありがとうございます!」
【休憩するか。
絆神方々、補充お願いします】
【あ、はい】絆神達も調子が掴めない。
「始祖様、奥様は?」
【母に頼んで、星輝の祠に連れて行って貰った。
フローラは、戦には向かないからな。
フローラにも辛い思いをさせた……俺は多くの者を巻き込んでしまった。
王子達も、だな……本当に、すまない】
「オレ、バカだから上手く言えないけど、今 生きてる事、オレである事、兄弟がいて、姫がいて、皆がいて。全部ひっくるめて幸せなんです。
何ひとつ欠けてもダメだと思うんです。
その……元を辿れば始祖様だから……だから、感謝しかないです」
「そうだよな。
俺達は巻き込まれてなんかいませんし、もしそうだとしても、恨む要素なんて全然ありません」
「私は、始祖様の呪が消えたと聞いた時、すぐに個紋を確かめました。
個紋が消えていないのを見て、心底ホッとしたのです。
個紋は一族の絆の証ですから」
「ああ。ガキの頃、顔を合わす度に肩寄せて、光らせて喜んだよなっ」
「ですから、とても大切なものなんです」
「始祖様♪
負の感情とは縁を切ってくれなきゃ、俺がかかった呪に囚われちゃいますよ~」
「そうですよ。もう一度 言いますけど、俺達は始祖様から謝られるような事なんて、何ひとつ されていませんからね」
【アオ……サクラ……】いつからそこに?
「伝えたい事があって来たら、休憩だって集まったから、区切りいいトコで話そうって待ってたんですよぉ」
「何だよ、話って」
「明日、深魔界の西半分に行こうかと――」
「よしっ! ならば特訓じゃ!
クロ、しかと使い熟すまでやるのじゃっ!」
姫はクロを引っ張って行った。
「アオ、サクラ。今から、ではないのだな?」
「あ……キン兄さん。
こんな夜中に行きませんよ」
「では、交替する。
ハク、フジ、休むように。
朝の交替時を集合の時とする」「はい♪」
「アオとサクラも休むようにな」「はい」
四人が曲空して行き、クロと姫を眺めながら――
「始祖様、アオとサクラは……」
【覚醒したんだ。
神竜が神に成るように……
そして俺を救ってくれたんだ。
長い間……王家よりも少し長い間、俺を縛り続けていた呪を……
最高神でも見つけられず、解けなかった忌々しいあの呪を、二人は解いてくれたんだ】
「二人は……神に成ったのですか?」
【いや、天竜は神には成れない。
ただ……王子達は時折、覚醒の如き爆発的な力を発揮したり、成長をする】
「これまでに何か有りましたか?
アオとサクラならば、しばしば急成長して驚かされましたが、今『王子達』と仰いましたよね?」
【最も大きかったのは、静香が境界で燃え尽きそうになった時、救おうとしたクロだな。
クロはあの時、神眼と供与の限界を超え、強い掌握を持つかのように、境界で静香の欠片を集めたんだ。
あれも一時的な覚醒だと思う。
あの時、俺はクロの隠れた器の大きさを知ったんだ。
アオとサクラの器を合わせても敵わない、とてつもなく大きな器をな】
「クロの力は大きいとは感じていましたが、そんなにも……」
【ただ、開けなければ、いくら大きくても意味が無い。
だから、その器が見えている者 全てが、なんとか開こうとしているんだ】
改めてクロと姫に目を向ける。
【クロが呪に掛り易いのも、器の大きさ故だろう。
器は自身を満たそうとする。
だから呪すらも引き寄せ易い。
勿論、魔王もクロを狙う。
アオが依代として使えないと知った瞬間から、標的はクロに変わったんだ。
配下として取り込もうとし、それが出来ないならば潰そうとする】
「クロは、その事に気付いていない……」
【あの神眼が有りながら、目を向けようとしないのは、一種 呪なのかとも思える程だ】苦笑。
「それだよ!! 始祖様っ!!」
【サクラ……アオも……】また、いつからそこに?
繰り返しますが、ハザマの森以外では、
王子達も男神様も皆さん女性です。
ハクも双璧できれば女性です。
クロだけは……困ったものです。
前回あとコメの続きです。
つまり、今回のお話の前にあった事です。
桜「フジ兄♪ 休憩しよ~♪」
藤「始めたばかりですが……」
桜「ちょっとだけ♪ こっち~」手繋ぎ曲空♪
藤「え? 馬車……あ……リリス……」
桜「ハザマの森は だいじょぶだから~
馬車に近寄る前に戻ってねっ♪
じゃねっ♪」曲空♪
藤「あ……サクラ……私のために……
あっ、緋月煌っ」
リ「あ♪ フジ♪」
駆け寄ったリリスはフジの胸に飛び込んだ。
♯♯♯
始【キン、鍛練は俺が見るから休んでおけよ】
金「始祖様……いえ、二人は私が見ます。
王妃様とごゆっくりなさってください」
始【俺達には、これから幾らでも時間が有る。
心配するな】
金「そうですか……では、お願い致します。
ですが、お話も伺いたいのですが」
始【では、休憩後に、な】
金「はい」礼、曲空。
キンとコバルトは、そんな約束をしていたのでした。
いつまで穏やか始祖様で我慢できるかな~私。




