始祖様2-本当の姿
コバルトは、長く苦しめられていた呪から、
やっと解放されました。
♯♯ ハザマの森 ♯♯
【アオ……サクラ……】
親族の輪から出てきたコバルトが、笛を奏でる二人に歩み寄った。
【これまでの事……何と詫びたらいいのか、言葉も見つからない……】
深く頭を下げる。
【とにかく……申し訳――】(言いっこなし~)
(本意でない事くらいは分かっていましたから、そんな事なんて仰らないでください。
それに……そもそも俺達、謝罪なんかが必要な事なんて、何ひとつとして、されていませんから)
【いや、だが――】(もっと曲 教えてよ~)
【え……?】
(この曲 終わっちゃうよぉ、早くぅ)
【あ……ああ】顔を上げ、二人に掌を翳す。
(ありがと♪ 始祖様♪)(続けますね)
曲が変わる。
穏やかで優しい音色が、煌めく せせらぎのように流れていく。
宵闇が訪れた鬱蒼とした森の中なのに、暖かな陽射しを浴びているかのような心地よさに包まれる。
(この曲も始祖様が作ったの?)【ああ】
(アオ兄、こゆ曲 大好きだよね~)(うん)
(って事は~)(次は、あの曲だね)(うん♪)
ひと呼吸し、新たな曲が流れる。
【これは……】(竜骨の祠で習った~♪)
(御先祖様方に求められたんです。
皆様、この曲がお好きだそうです)
【そうか……】
笛の音が重なる。
(あ♪ フジ兄♪)微笑み合う。
更に重なる。(兄貴達、みんな来た~♪)
七色の笛から紡がれる音色が、夜の森を鮮やかに彩る。
絆神達も集まり、心地よさげに聞いていた。
【アオもサクラも神に成っちゃたわ】
【ううん、天竜だよ】
【でも、神の力を得たのよ?
あの大きな翼……光輪の輝き……大神様よ】
【そうだね。凄く大きな力だね】
【さっき地下で見た時より、遥かに大きくなったわ】
【うん。覚醒したみたいだね】
【私達が苦労して神に成った意味って……】
【有るよ。二人は大神の力を得たけど神じゃない。天竜なんだ。
生身で その力を持ったんだから、身体が力に耐えられるように、私達が護らないといけないんだ】
【そっか……】
【二人に、これ以上 引き離されないように、私達も頑張らないとね、スミレ】
【そうね。もっと高めなきゃ護れないわね。頑張りましょ、ヒスイ】
カルサイとドルマイは、決意を新たにした若い神達を優しく見詰め、次なる一歩を相談し始めた。
♯♯♯
(えっ!?
コレ、神様みんなに見えてるの!?)
【はい。普通に見えていますが……】
(カルサイ様っ! 大神様にしか見えないって仰いましたよねっ!?)
絆神達に囲まれているアオとサクラが、同時にサッとカルサイを見た。
【あ……もうバレましたか】ふふっ♪
(最高神様がウソついていいんですかぁ?)
(そもそも騙して連れて行きましたよね?)
【『嘘も方便』と、人界では言うそうですね♪】
(天界では言いませんからっ!)
(でもまぁ……サクラ、結果的に悪い事ではないんだし、始祖様の呪も消えたし、もう怒らないで)
苦笑しながら、よしよし。
(でも……個紋 消えてないよ)
(あ……そうだね)
【まだ何か残っているのは確かです。
しかし、害は全く感じられません。
今の貴殿方なら見えるでしょう?
呪の強い生命力だけは感じます。
ですので、王族の皆さんの長寿と、魂の永遠の為に、残しておいてもよいのではないでしょうか】
他の兄弟に囲まれ、穏やかに嬉しそうに話しているコバルトを見る。
(あの表情なら、もう大丈夫ですね。
それなら、このままで……)
自分の個紋を見て微笑む。
(でも……あの話し方、調子狂うよね~)
カルサイが吹き出し、ドルマイが つられ、皆の明るい笑い声が森に広がった。
すっかり暗くなっても笛を奏でたり、話したりは続いていた。
兄弟はコバルトが話しているのを妨げないよう、笛を吹いていなくても心で話し続けていた。
(アオ、サクラ……その羽、それと頭の輪……昼より力を増したよぅじゃが……
それに二人共、両方になったのじゃな)
(うん、神界に連れてってもらったから~)
(大勢の神様に――)
(手合わせして頂いたのか?)
(う、うん。そぉだよ~)
(それで、その力を……ならば、クロも頼めるのか?)
(ふえっ!?)
【光輪か翼が出る程に己で鍛えねば、入る事は出来ぬ】
始祖様が片目だけ瞬く。
(然様か……然らば、先ずは鍛練じゃな!)
(あ! 姫、これ神以鏡・陽。
神様の光が出るんだ。使ってねっ♪)チリン♪
(しかし、クロに渡した時には――)
(うん。まだ準備が出来ていなくてね)
(そ。だから、これ。
竜宝を組み合わせてもらったんだ♪)
(この腕輪に似ておるのじゃな)
(うん。ここのトコが具現環だよ♪
これを水鉄砲の口に着けて~、こっちのを鏡の裏に、こぉ着けると――鏡から水も出るからねっ)
(間が繋がっておらずともよいのじゃな♪)
(うん♪ 風や炎も絡められるからねっ♪)
(ほぅ……面白そぅじゃな♪)
(うん♪
時々オパルス様に、光を補充して頂いてねっ♪)
(うむ♪ あい解った♪)
(アオ兄、神以鏡・月はどぉするの?)
(慎玄殿に渡そうと思っているよ)
(補充は?)
(常に周りに神様がいらっしゃるからね。
大丈夫だろうと思っているよ)
(絆 結べたらいいのにね)
(そうだね……
護竜宝達、竜綬で絆は結べるかい?)
【我等が王、結ぶ事は可能で御座います】
【ただし、魂紐の組み方が異なります】
【複雑ですので、アカ様に直接お伝えする事は難しいのですが……】
(アカ、こっち来て)
(うむ)
(護竜槍、貸して)
アカが護竜槍を差し出した手ごと、アオは両手で包んだ。
(流すからね。護竜槍、お願いね)
【畏まりまして御座います、我等が王】
魂紐の色の合わせ方、組み方が、護竜槍からアオを通じてアカに流れる。
(ふむ、帰ったら直ぐに掛かる)
(ありがとう。お願いね)
(また芳小竜を迎えに来るのだろう?)
(また増えた?)(どんどん増える)(そう♪)
(嬉しそうだな)(アカも良い色だよ)(ん?)
(組紐だから、ワカナさんと協力してね)
(ん!?)
慌てて顔を背けた。が、耳まで赤い。
(アカ兄♪ か~わ~い~い~♪)(む……)
アカは二人に背を向けた。
(色々気を遣わせたな。
二人には感謝している……ありがとう)
ドルマイが女神を連れて来た。
【あなた……】
コバルトが振り返り、目を見張る。
【フローラ……】
【私……また、お傍に……】
【戻ってくれるのか?】
【よろしいのですか?】
【あんな酷い事を言って突き放したのに……】
【あれは……あなたではないわ。呪よ。
あなたは呪に縛られながらも、私が その呪に滅されないよう、神界に帰したのでしょう?】
コバルトはフローラを抱きしめた。
【すまない……フローラ……】
【いいえ、ありがとうございます。あなた……】
【こんなにも長い間、待っていてくれたのか……】
【『いつか闇障を継いだ子孫が、必ずや平和を齎す』
産卵直後に、あなたが仰った、この言葉を信じていたから、待つ事なんて苦ではなかったわ】
【あの時は……束の間、正気だった。
おそらく新しい生命の力が――バナジンの無垢なる神の力が、呪を退けてくれたのだろう】
【バナジンは本当の あなたに触れたから、早く神に成る事を決めていたの。
闇障を継げなかったから、子孫を見守らなければならない、と……
あの言葉は、卵の中の あの子にも響いていたのよ】
【そうだったのか……
俺は、息子の想いを何も知らなかった……】
【バナジンは、ちゃんと解っているわ。
だから大丈夫よ。
やっと闇障を継いだ子孫が現れたのでしょう?
だから全ては、これからですよね?】
【ああ、そうだな。これからだな】にこっ。
【やっと笑って頂けたわ】
【フローラもな】見詰め合い、微笑み合う。
【ああ、そうだ。アオとサクラを紹介――ん?
誰も居ないな……】
【あら、本当に】
二神は声を上げて笑った。
やっと登場、初代王妃様のフローラ様。
コバルト様と、これからお幸せに――
なって欲しいのはヤマヤマなんだけど……
コバルト様が、つまんない!
――と、思ってしまうのは私だけでしょうか?
凜「あ、みんな お疲れ~
また女の子になったの?」
青「地下では、ならないとね」
桜「馬車は妖狐王様がお護りくださってるから
だいじょぶなの~♪」
黒「『儂の庭だ。遠慮無用だ』って睨まれたよぉ」
凜「そっか~。あれ? アカは?」
青「工房に帰ったよ。
いろいろ頼んでいるからね」
凜「これから、みんな警護?」
金「いや。ハクとクロは鍛練だ。
始祖様の代わりは私がする」
白「え!? 兄貴がっ!?」
黒「でもキン兄も休まねぇと――」
金「始めるぞ」
白&黒「ゲッ……」
桜「アオ兄、だいじょぶ?」
青「大丈夫だよ。サクラは?」
桜「俺、ぜ~んぜん だいじょぶ~♪」
青「なら、いろいろ試そう」
桜「うんっ♪」手繋ぎ曲空♪
凜「フジは? 天界に帰るの?」
藤「いえ! 私も鍛練します!
アメシス様、お願い致します!」
凜「あ~あ、みんな行っちゃった~」




