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三界奇譚  作者: みや凜
第一章 竜ヶ島編
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砂漠編21-サクラ

 前回まで:紫苑と珊瑚は無事でした。


 蛟はサクラを追っていた。


サクラは、焦点の合わぬ瞳を瓦礫の頂に向け、音も無く引き寄せられるように、宙を滑っていた。


瓦礫の頂には、脈動するように輝く玉があった。


サクラは、瓦礫の頂まで滑らかに一息に登り、輝く玉を取り出し、両手で頭上に挙げると、何かを唱え始めた。


周囲から、色とりどりの玉が飛来した。


サクラは掲げていた玉を下ろし、胸の前で浮かせ、飛来する玉を迎えるように両手を広げた。


飛来した玉は、サクラを囲んで煌めきながら漂った。


唐突に、操り人形の糸が切れたかのように、サクラは膝から崩れ、漂っていた玉も落下した。


瓦礫から落ちそうになったサクラを、飛んで来た蛟が、掬い取るように背に乗せた。



 蛟がサクラを乗せた時、藤紫の竜(フジ)が並んだ。

「蛟殿、いったい何が……?

サクラが何故ここに?」


「わかりません。

休憩所を整えておりましたら、サクラ様がスーッと、飛ぶように瓦礫の頂に――」


蛟は、サクラが瓦礫の頂で、玉を集めた様子を話した。


「人姿で、あの動きは、有り得ないと思うのでございますが……」


「頂が煌めいていたので、飛んで参りましたが……

まさか、そのような事が……」


そう言いつつ、兄達には無い能力を持つサクラなら、有り得るかもしれないとも、フジは思った。



 小屋に入り、サクラを横たえると、蛟は玉を集めに行った。


フジは、サクラが生まれた時、何かがあったような気がして、思い出そうとしていた。

しかし、幼い頃の朧気(おぼろげ)な記憶は、手繰るには頼り無さすぎた。


「キン兄様に確かめましょう……」

諦めて、そう呟いた。



 暫くして蛟が戻り、宝剣に玉を収め始めた。

サクラが掲げた玉は、一際(ひときわ)大きく、(つか)に空いた三つの穴の中央に収まり、宝剣の輝きが増した。


「この宝剣……

もしかして、サクラ様が持つべきなのでございましょうか……?」


「そうなのかも……しれませんね……」


二人は、眠るサクラを見詰めた。



 そうして、暫く二人は、サクラの様子を見ていたが――


「外が騒がしいような……確かめて参ります」

蛟は一礼して出て行った。




 サクラを見詰めたまま、時が過ぎる――


 あ……サクラが孵化した時……

 兄様方が集まっていらして、

 アオ兄様とも、久しぶりにお会いしたのでした。


 そう……あの時のアオ兄様が……

 あまりに変わられていて、その衝撃が大きくて、

 サクラの事は、思い出せなくなってしまった

 のかもしれませんね……


 御卵(みたま)の聖堂の窓から、中を見ていた筈なのに……



「フジ、皆 外に――おや? サクラ?」


「アオ兄様……」


「どうして、サクラがここに?」


「私にも分からないのですが……

サクラが、岩山の玉を全て集めた後、倒れたそうなのです」


「ああ……

あれは、やっぱりサクラだったんだね……」


「見ていらしたのですか?」


「うん。光っていたからね。

でも、遠くて……よく分からなかったんだ」


「そうですか……

サクラは不思議な子なので、こういう事も有るのかもしれないと思っていたところなのです」


「そう……」


「でも……サクラは……

こんな幼い子では、なかったのです。

人界に来てから……こんなふうに……」


「他の兄弟は、その事については?」


「サクラが孵化して以降、兄様方は、修行や仕事で忙しく、接していたのは、私と……

アオ兄様だけなのです」


「だから、皆は知らないんだね?」


「はい。

私も時々しか会ってはおりませんでしたが、それでも……このような……」


「どんな子だった――

あ、俺に話してもいいのかな……」


「アオ兄様ご自身の事は、話してはならないと、止められておりますが、サクラの事ですので――


サクラは……

明るいのは同じなのですが、もっと、しっかりしていて……

どちらかと言うと、大人びていたのです。


これは……話してもよいのでしょうか……」


フジは思案していたが、意を決し、顔を上げた。


「詳しくは申せませんが……

アオ兄様が、ご指導されておりましたので、アオ兄様そっくりでした」


「俺が……そう……」


「ですので、サクラも……

アオ兄様と同じように、封印されているのではないか、と……

そう思えてならないのです」


「フジ……

ひとりで、それを抱えていたんだね……

大丈夫だよ。

俺の封印が解ければ、きっと、サクラの封印も解ける。

ただの勘だけど、俺の勘は外れないからね」


「アオ兄様……」


「大丈夫だよ」にこっ


「……はい!」


アオは、フジを抱きしめた。

「ありがとう、フジ」


フジの背を軽く叩いて離れ、

「もう、ひとりで抱えなくていいからね。

一緒に、解決に向かってくれるかい?」


「はい♪」


「それじゃあ、皆の所へ行こう」


「いえ、私はサクラを見ておりますので」


「そう……なら、お願いするね」立ち上がる。


扉を開け、「外も見るかい?」


「ええ、開けておいてください」にっこり




 外から、宴だと聞こえる。


「では、サクラを洞窟に帰して、お婆様の所に参りましょう」


呟き、フジはサクラを背に乗せて飛んだ。




 飛び始めてすぐ、フジの目の前に、(あお)の煌めきを(まと)った白い大きな妖狐が現れた。


フジはサクラを(かば)い、身構える。


「何もせぬ。儂の気を見よ」


 確かに……殺気も、邪気も感じませんね……


「この剣の欠片を、アカに渡せ」袋を投げた。


フジが受け取ると、妖狐はニヤリと笑い、姿を消した。




 フジは、サクラを背負ったまま、工房に入った。


アカが作業の手を止め、サクラを抱える。


そのまま、暗室に入って行った。


アカだけが戻る。


「アカ兄様、白い大きな妖狐が、こちらを――」


アカは、袋の中の物を卓に出し、掌をかざす。


朱牙(シュガ)と……鳳雅(ホウガ)の欠片か……ふむ」


「それは?」


「竜宝剣の欠片だ」


「あの妖狐は?」


「アオの恩人だ」


「そうですか……私……お礼も申さず……」


「気にする必要は無い。

名乗らなかったのだから、そんなものは

求めてはいない筈だ」


アカは、フジの肩に手を置き、

「キン兄が待っている」

それだけ言うと、作業に戻った。





凜「フジ、アオに話してもよかったの?

  キン様に止められてなかった?」


藤「他の兄様方には、話してはならないと

  止められておりましたが、

  アオ兄様には話したかったのです。

  本当なら、私よりもずっと

  サクラの事を知っている筈ですから」


凜「そっか」


藤「それに……話せば、アオ兄様が元気に

  なるのではないかと思ったのです」


凜「それは、どうして?」


藤「サクラが生まれた時、お会いしたアオ兄様は

  儚く消えてしまいそうな感じだったのです。

  鋭い刃のように輝いていたアオ兄様が……

  そんなアオ兄様が、サクラを指導するうち

  再び生命力を得られたと、そう、

  私は感じたのです」


凜「だから、サクラの事を話せば、

  記憶も戻るのではないか、と?」


藤「はい……」


凜「希望は有ると思うよ」にこっ


藤「そう……信じます」


凜「そうそう♪ 元気出そうねっ♪

  話したの、正解だよ」うんっ


藤「本当は良い方だったのですね」


凜「どう思ってたの?」


藤「あ……いえ、それは……」


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