神の光2-嫗亀の岩山
また、休みもせずに動いているような……
絆神達の試験は、サクラが城に居たハクを連れて来た事で無事に終了した。
【ゴルチル様、あと、よろしくお願い致します】
【ふむ。絆神達を頼む】【お任せくださいね】
ドルマイは絆神達を連れて深蒼の祠に入った。
「いつまで立ってりゃいいんだ?」
【解呪する。 もう少し、そのまま立っていろ】
「え? 俺、呪に掛かってるのか!?」
【神の試験の為に、無害だが呪を掛けたのだ。
そのままでも問題は無いが解いておく】
ゴルチルが杖を振り、魔法円を出す。
【アオ、芳小竜を借りるぞ】
「キュルリ、お手伝いだよ」【は~い♪】
「ゴルチル様、その呪に掛かっていれば、他の呪には掛からなくなりますか?」
【残念だが、無害な呪は、それなりだ。
個紋の呪と同じく、重ねて掛かる。
キュルリをハクに持たせろ。二人は魔法円を囲め】
アオとサクラは、ゴルチルと正三角形を成すように立ち、神以鏡を掲げ、気を高めた。
囲めの、ひと言だけで
他に何も言わずとも、これだからな。
この二人、天竜にしておくのは惜しいな……
そんな事を思いながら、ゴルチルは術を唱えた。
解呪が終わり、ハクはサボれた事を喜びながら城に戻った。
「ゴルチル様、俺達、それ程の者ではありませんので」
二人、苦笑しつつ礼。
また拾いおったのか……
「勝手に入って来るだけですよ」
「これ、兄貴達から始まったんですよ。
ずっと困ってるんですけど~」
【閉じる事が出来ぬのか……待っていろ】
ゴルチルが消え――カルサイを伴って戻った。
【最高神の力をこんな事に使うのも何だが、互いにとっても困るのでな。頼む】
【確かに困った状況ですね】魔法円を出す。
【調整出来るようにしますね。
アオ、中央に――】
アオに続いて、サクラも調整出来るようにしてもらった。
「静かだ~♪」「うん、スッキリしたね♪」
二人、大喜び。
絡み合うように、じゃれ合いながら昇り――
【アオが、あんなにも喜ぶとはな……】
【サクラも、いつもの『振り』ではなく喜んでいますよ】
――満面の笑顔で戻って来た。
「カルサイ様、ゴルチル様。
ありがとうございました!」揃って礼!
「アオ兄、これから何するの?♪」
「外周の祠を整えようかな」
【それはルバイルがやっていたぞ】
【はい。全祠、使わせて頂いていますよ】
「あらら~」「なら、お礼を言わないとね」
「竜宝の国の祠かなぁ?」「行ってみよう」
二人が籠の方を向くと――
「オパルス様?」「どうかしましたか?」
オパルスが芳小竜達を見詰めていた。
【この子達……】
眠っている芳小竜をそっと掌に掬った。
「チモニーとカロールが何か?」
【その名……なぜ御存知なのですか?】
「ルバイル様が、芳小竜達を元竜の名で呼んでいるのです。
元竜――神竜様をご存知なのですか?」
オパルスが頷いた時、
【その名は、オパルスの御両親なのです】
「両親共に、若い頃、呪を受けた事が有ると聞いております」
背後からの声にアオとサクラが振り返ると、オニキスとスピネルが祠の前に立っていた。
「では、あの子達は……」
【両親の気を感じます。
間違いなく両親の芳小竜です】涙が落ちた。
きゅ? 【あ……】チモニーとカロールが固まる。
そして逃げようとした。【待って!】
「チモニー、カロール。
そのままでいいんだよ」【とぉさま……】
「その方は元竜様の――」【オパルス?】
【えっ……】【いっしょに あそんだもの】
【スピネルも あそんだよ】【ね~♪】
「ちゃんと覚えているんだね……」
「この子達は幼子のようでいて、しっかり理解しているし、思いやれるし、記憶も消えないんです」
「オニキス、オパルスを頼んだよ。
アオ様、サクラ様、こちらにお願いします」
二人はスピネルに付いて祠に入った。
「祖父母から聞いた事を話します。
私達の両親は、神竜であった頃から魔王との戦に参じていたそうです。
私達が、まだ孵化していなかった頃に、その戦の中で呪を受け、芳小竜を使って解呪したそうです。
解呪後すぐに両親は神に成る事を決め、家を出、神には成ったそうですが……
家に帰る事も無く、行方知れずとなってしまったのです。
祖父母は芳小竜達を、家を出た我が子の代わりと手元に置き、可愛がっていたそうです。
しかし、両親が行方知れずとなった事で、親族が、禍の元というのは本当だったと持ち去り……それっきりに……」
「では、お二人は、御両親とは――」
「はい。会った事がありません。
この、角の欠片だけが、私達の両親なのです」
二つの飾りが揺れる腕輪を示した。
【欠片が有るのでしたら……確かめますか?】
カルサイとドルマイが微笑んでいた。
【どこまで判るなどとは申せませんが、存在の有無ならば判る筈ですよ】
「お願いしても……よろしいのでしょうか……」
【救えるのならば、お救いしたい。
アオとサクラの顔に、そう書いています】
「ほえ?」「あ……」顔を見合わす。
【お呼びでございますか? カルサイ様】
オニキスとオパルスが来た。
【スピネル、オパルス、芳小竜と腕輪をお借りしますね】
魔法円の中央にチモニーとカロールを座らせ、腕輪を持たせた。
【術のお手伝い、お願いしますね】
【は~い♪】揃って片手を挙げる。
カルサイが術を唱える。
アオとサクラは気を高め、持てる力を全開にした。
芳小竜達の上に、二神の姿が見えた。
滅されては……いない。しかし……
闇に閉ざされ、動けないでいる……?
何処に込められているのか……
異空間である事だけは確からしい。
異空間に繋がる物は?
何かに阻まれている……強い呪……
魔王の闇……複数の? 混ざっているのか?
その中に、異空間に繋がる何かが在る。
闇と呪の更に外にも、硬い何か……殻?
……違う。岩だ!
その岩は何処に在る?
知っている……この感じ……そうか!
アオとサクラは目を合わせ、頷き合った。
【見えたのですね?】「はい!」
「生きているのですか?」
「封じ込められています。
強い呪の中に……でも、滅されてはいません」
【場所は?】「長老の山の中庭です」
【では、参りましょう】
――長老の山、中庭の大池。
「嫗亀様、呪を解かせて頂きます」にこっ。
「おやおやまあまあ……
これは一体、何事でございましょう?」
「アオ、サクラ、大神様方をこのよぅな所にお連れするとは……」
【その岩山には、神が封じ込められているのです。
ご協力、よろしくお願い致します】
「じゃが……この通路は……」
【それも移させて頂きますので、ご心配には及びません】
「そうですか……それでは、お任せ致します」
嫗亀は岸に上がり、身を低くした。
カルサイが嫗亀の周りに魔法円を描き、大神達がそれを囲んだ。
【アオ、サクラ、何をしている。囲め】
「ゴルチル様……俺達は、ただの竜ですよ?」
【いい加減、認めろ。神をも凌ぐ竜よ】
立たなければ始まりそうもないので、二人は空けられている場所に立ち、神以鏡を掲げた。
【では、解呪を始め――】【お待ちください】
ルバイルが沢山の芳小竜を連れて現れた。
芳小竜達は岩山に向かって飛び、その頂付近に抱きついた。
【チモニーとカロールに同調し、騒ぎ始めた子達を連れて参りました。
この状況……納得です。
あの子達の元竜は、あの内に居ます。
解呪の助けとなるでしょう】
【オパルス、だいじょ~ぶよ♪】
【スピネル、いってきま~す♪】
チモニーとカロールも岩山に くっついた。
それを見たドルマイが消え、絆神達を集めて戻った。
【ヒヨッコ共、何をボーッとしている。
更に外を囲んで護れ。
呪が飛んだら、どうする気だ】
「始祖様、俺達が内って――」
【オッサンも言ったろ。四の五の言うな】
カルサイが術を唱え始め、岩山の頂に光を当てた。
大神達が順に声を重ね、光を重ねていく。
アオもサクラも伝わった詞を声にして重ね、神以鏡の光を重ねた。
岩山が光を帯び、その内に、光の球が浮かび上がった。
亀裂が走る。
闇黒の靄が溢れ出、神の光に吸い込まれていった。
内に蓄えた光が迸り――
岩山の上半分が弾け、煌めきとなって消えた。
宙に浮いた光の球が、周りを囲む者達に向かって飛んだ。
アオとサクラは慌てて神以鏡を仕舞って飛び、光の球を受け止め、集めた。
「水晶?」
【各々、複数の神が封じ込められている。
お前ら、落として割るなよ】
【岩山は、深蒼の祠の庭に移しましょう】
大神達は嫗亀の甲羅から、半分になった岩山を離し、宙に浮かせると、岩山ごと消えた。
絆神達が慌てて追って消える。
「水晶……俺達が、ぜ~んぶ運ぶのぉ?」
「そうみたいだね」あはは……
姫の絆神オパルスと、その兄スピネル。
この二人の両親も行方不明でした。
つまりオパルスは、両親も兄も行方不明だった
為に、若くして神に成ろうと決心したのでした。
さて、静かにしている深魔界西部では――
魔【近いうちに彼奴等は西半分に入る筈だ】
影「何か策がお有りなのですね」
魔【当然だ。時を稼がねばならぬ事に
変わりは無い。故に――】掌を翳す。
影「ははっ。では、そのように――」
魔【静かに進めるのだ。ひたすらに静かにだ。
事が成れば攻め込む。兵だけは集めよ】
影「ははっ!」
魔:もうすぐだ。やっと機が熟す。
あとは、あの老い耄れさえ現れなければ――
前【おい】
魔:ゲッ……無視しよう。
前【聞こえないのか?】
魔:目を開けてはならない……無視だ。
私は眠っているのだ。
前【暢気に寝ているのか。愚か者が】
魔:行ったか? 消えたのか?
気は感じない……か――【ごわっ!?!】
前【やっと起きたか。馬鹿者めが】
魔【光!? ヤメッ!! 滅する気か!?!】
前【ふはははは♪ ほれほれ♪】
魔王は必死で逃げ、牆壁を立てた。
魔【な、何をなさるのかっ!? その光は!?】
前【お前が採取した因子の光だ】
魔【何故そんなモノがっ!?】
前【ひとつだけ残っていたのでな。
光を封じる器に入れておいたのだ】
魔【でっ! 何故そんなに強い光がっ!?】
前【アオが強くなったのでは?】
魔【そんな暢気に……それよりっ!
早く蓋を!】
前【閉めよ】
魔【はあっ!?!?
開けたのは貴方様でしょーがっ!!】
前【開けたはよいが、近寄れぬ。閉めよ】
魔【出来るかっ!!!! 死ぬわっ!!!!】
前【では、な】消えた。
魔【逃げやがった!?! あのジジイッ!!
どーすりゃいいんだよぉ……】
影『龍神帝王様っ!? 何が――』
魔【開けるなっ!! 入るなっ!!
お前らは瞬殺されるっ!!!!】
影『では、お逃げください!!』
魔【そうするより他に無しだな……】室外へ。
影「何があったのですか? 襲撃ですか?」
魔【アオの光が……】
影「襲われたのですねっ!?
では、この部屋を封印しましょう!」
魔【そうだな……】私の部屋が……はぁ……
自室を封じた魔王は、意気消沈が甚だしく、
新たな部屋に閉じ籠った。
影「ご指示通り進めておりますので、
ご案じ無く、お休みくださいね」
魔【お前……いいヤツだな……】
影「配下として当然の事をしている迄です」
魔【そうか……】フフッ……




