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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
342/429

神の光1-鬼に金鎚

 深魔界の東半分を占拠したのに、

魔王の動きは無く、穏やかな朝を迎えました。


♯♯ 地下魔界 ♯♯


 警護をしていたアオとサクラは、穏やかな朝の景色を見渡した。


(あ……アオ兄、あれ――)(閻魔様だね)


優鬼(ユウキ)飾鬼(ショッキ)が駆けて来ていた。


(何を担いでいるのかな?)(大きな鎚ぽい?)

(そんな感じだね)(それと壺?)(樽かな?)

(瓶?)(とにかく大きな容れ物だね)(うん)


「アオ様、サクラ様。ご無沙汰致しまして申し訳ございません」


「神様なんだからぁ。

ただの竜に『様』なんて付けないでよ~」


「いえ、そうは参りません!」


「友達なんだしぃ」


「いえいえっ! それでも!」


「それより、それは何でしょう?」


「古の竜神様から賜りました、宝で御座います」

「しかし、我等には使い方が分からず、お教え頂きたく持って参りました」


(って事は竜宝?)(だろうね)


「拝見しても?」「お願い致します」


アオは大きな鎚に話しかけた。

蒼牙も光を帯びる。


(起きてください……貴方と話したいのです)


繰り返していると、鎚が微かに光った。


【貴方様は……神竜様で御座いますか?】


(いえ、天竜です)


【ああ、竜宝の王と……然様で御座いますか】


(また蒼牙だね?)【当然で御座いますので】


【王よ、私に何用で御座いますか?】


(貴方は、かつて神竜様より閻魔様に遣わされたのですか?)


【はい。魔神界をお護りする為、遣わされまして御座います】


(護る為の竜宝なのですね?)


【はい。申し遅れました、私は紲輝鎚(セッキツイ)

地を打てば、地に眠る光の力を呼び覚まし、その浄化の光により、お護り致します物に御座います】


(地を打つ……それだけで?)


【はい。ただし、私は光を持たぬ方々をお護りする為に作られました物で御座いますので、王のように光をお持ちの方が打ちましても、何も起こりません】


(そうか、閻魔様方をお護りする為に……

なら、人も魔人も護れるよね?)


【光を持たぬ方々全てをお護り出来ます】


(仲間は居るの?)


【いえ、私のみで御座います】


(材料や作り方を教えて貰えるかな?)


【はい。御手より流します】


(ありがとう、紲輝鎚。

これからも閻魔様方をよろしくね)


【はい。有り難き御言葉にて。

全力にてお護り致します、我等が王よ】


アオは鎚を撫で、優鬼と飾鬼の方を向いた。


「この竜宝は紲輝鎚。

光を持たない方々を、光で護る為に作られた竜宝です。

使い方は地面を打つだけです。どうぞ」


アオから受け取った優鬼が地を打った。


地面から光が湧き上がり、清々しい風が吹き上がった。


「浄化の光です。

つまり、魔王の闇に対抗する防具であり、武器です」


「こっちの容れ物は鬼角樽(オニツノダル)

竜喜(リュウキ)ってお酒を運んだんだって~

ちょっと待っててね」曲空。


サクラは直ぐに戻って来た。

持って来た瓶と鏡を飾鬼に渡す。


「鬼角樽に鏡を入れて、そのお酒を注いでね。

いくらでも湧き出るけど溢れないから、だいじょぶだよ」


(サクラ、あの樽は?)

(うん♪ 集縮の仲間♪)


「紲輝鎚は天界で増やして貰います。

後日お届け致しますので」


「ありがとうございます!」


(アオ、サクラ、交替しに来たぞ。

――って……え? まさか、鬼!?)


(竜も鬼には驚くのじゃな♪)


(姫は平気なのか!?)


(いろいろ見てきたからのぅ。

もはや何が現れよぅが驚かぬわ)


「こちらは閻魔様。魔界の神様だよ」


「閻魔様とな……クロ、ワラワの事、如何に思ぅておるのじゃ?」


「何で今!?」真っ赤!


姫が見詰める・・・いや、睨んでいる?


「……好きに決まってんだろ!!」真っ赤っか!


「閻魔様、舌を抜く必要は御座いまするか?」


「いえいえ、そのような事」

「必要など御座いませんよ」鬼が笑う。


「舌!? 抜く!?」


「閻魔様に嘘をついたならば、舌を抜かれるのじゃ」


「よかったぁ~」へなへなへな……


「あの……私共、そのような事は致しませんが」

「知っていますよ」

「え!? アオ兄も そぉ言ったでしょっ!?」

「人界では、そう言われているんだよ」

「なんと……」「そのような……」

「竜は架空で、狐と狸は人を化かすらしいよ」

「私共が閉じ籠っている間に……」

「うん。魔王がね、そうしたんだ」


「で、閻魔様は何の御用で、こちらに?」

クロが姫の後ろから恐る恐る聞いた。


「この竜宝の使い方を――あ、クロ、この鎚で地面を打ってみて」


「あ……ああ」振りかぶってドーン!


クロが輝きに包まれた。

輝きは竜巻のようになり、天に昇った。


「流石で御座います!」


(アカ兄に作ってもらお~♪)


(クロ、そういう物だから。

じゃあ、行くね)

「では、交替ですので、また」閻魔に礼。


(馬車で朝メシ食ってけよ!)


「紲輝鎚 出来たら持ってくね~♪」

(まかせて~♪)サクラがアオを掴んで曲空。




♯♯ 天界 ♯♯


 赤虎工房横には、大きな工房が出来ていた。


「いつの間に……」


その工房から神竜達が出て来た。


「アオ様♪ サクラ様♪」集まる。


「今度は何の工房なの?」


「鍛冶です。赤虎様に弟子入りしようと申し込みましたが、弟子は採らぬと……

それで、金虎様が御指導くださる事となり、たった今、ルバイル様がいらして建ててくださったのです」


(じゃ、神竜さん達にお願いする?)

(そうしよう。数が必要だからね)


「早速、お願いしたいのですが――」


「はい♪ 喜んで!」


【賑やかじゃと思うたら、アオとサクラか】


「金虎様、作って頂きたい物があるのですが、作り方を――」


【手を貸せ】掴む。



【ふむ。任せよ。

弟子達よ、支度を急げ】「はいっ!」



「アカ兄も少しは楽になりそぉだね~」


「早く好きな事に専念させてあげたいね」


「うん♪ きっと、もぉすぐだよっ」


「そうだね」


【アオ、サクラ、天界にいるんでしょ?

ドルマイ様が御呼びよ】


「あ……」「スミレだ~」

「修行、終わったんだね」「行こっ」曲空。




 深蒼の祠には、ドルマイと絆神達が居た。


【アオ、サクラ。お呼び立てして、ごめんなさいね。

そこに立っていてくださるかしら】


「はい」


【その籠は預かるわね】離れて立つ。


【最終試験です。

ひとつ目は、二人の心を読んでください】


ドルマイは絆神にだけ話したつもりだったが――


そのまま暫く待っていたが、誰一人として報告は無かった。

【読めませんか?】


【申し訳ございません、ドルマイ様……】

【この二人からは読めません……】


絆神達もドルマイにだけ言ったつもりだったが――


ドルマイが慌てて二人の心を探る。


(…………)(…………)


【本当に……】


【アオ、サクラ……

努めて無心にしているのですか?】


「すみません……あの……恥ずかしくて、何も考えられません」

「俺もムリ~」


【えっ? まさか……】


「心を読まれるって言われてて、考えるなんてムリだよぉ」

アオも頷く。


【ドルマイ、戻ったのか】「ゴルチル様……」


【ゴルチル様、この二人は……】


【ああ、心を読む対象にしたのか。

それは無理だろうな】笑う。

【此奴等、神の聴力が開いてしまったのだ】





凜「ルバイル様、工房も竜宝なんですか?」


ル【いえ、あの工房は普通の建物ですよ。

  少しだけ浄化などの効力を持つ鉱石を

  混ぜましたけどね】


凜「一瞬で建てますよね?」


ル【ええ。『築造(チクゾウ)』という術技です。

  少々特殊なものですが、会得すれば

  瞬時に建築や補修が出来るのですよ】


凜「凄いですね~

  あ、『神の聴力』って

  キュルリの言葉を聞くアレですか?」


ル【そうですね。

  伝える力の弱い竜宝などの声を聞いたり、

  神と神との会話も聞けますね。

  この力は、竜の神にとっては

  修行により得られる普通の力ですが、

  天竜や体を持つ神竜にとっては

 『神耳(シンジ)』という天性なのです。

  しかし、天竜には殆ど現れず、

  神竜天性なのか、天竜天性なのか、

  神の間でも意見が割れているのです】


凜「もしかして『神眼』も同様ですか?」


ル【その通りです。

 『神眼』は『神耳』に比べると

  天竜に多く現れますので天竜天性です。

  いずれも、体を持つ者にとっては天性。

  神にとっては修行により得る力です】


凜「アオとサクラは、その『神耳』も

  持っていたんですね?」


ル【そうですね……そうなりますね】


凜「あ……何か隠してますね?」


ル【それは、またいずれ】にっこり。


凜「神様って、隠し事がお好きですよね~」


ル【そうですね】ふふっ♪


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