砂漠編20-カリヤ
皆で話し合った事は、無駄にはなりません。
これからの力になるんです。
仲間って、協力って、大事ですから。
夜明け前、アオ達は――
「サクラ、気をつけて帰れよっ」ぽふっ
「洞窟で待っていてくださいね」にこっ
「うん……じゃあ……後でね」飛んで行った。
アオ達は、聳え立つ岩山に向かって進み始めた。
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サクラは、アオ達が目指す岩山の遥か上空に戻った。
目を閉じ、地上の様子を見る。
「サクラ、アオの事、真実を教えよ」
威厳ある低い声に驚いて目を開けると、碧の煌めきを纏った大きな白い妖狐が、真正面に居た。
飛んで……る?
「この程度、造作も無い事。
儂は、アオの事が知りたいのだ。
何故、あのような事になっておるのか教えよ」
「もしや……妖狐王様で御座いますか?」
「そうだ――と言えば、信じるのか?」
「……並みの神より、遥かに大きな強い気をお持ちの貴方様が、何方であるのかなど、問題ではありませんね」
緊張を解く。
「ふむ。流石、アオの弟だ。
いや、分身――とでも言った方が、よいのか?」
「そこまで御存知なのですね……
では、お話し致します」
サクラは、天界の門から人界へと、初めて飛び立った日の事を、全て話した。
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「ならば、サクラの封印も、アオの為なのだな?
そういう事情であれば、まだ、解く事は出来ぬのだな?」
「その通りで御座います」
「護りきれるのか?」
「分かりません……護りたいのですが……」
「アオ自身の力が使えぬのならば、サクラ同様、竜宝の力を借りよ」
「しかし、兄の場合は、内なる力、全てを封じておりますので――」
「身に着けるだけでも、アオならば力を得られよう。
三眼の玉を早く集めよ。
四眼を見つけよ」
「それも……御存知なのですか……」
「ガ剣――特に雅剣と牙剣は、竜宝剣の中でも最高位だ。
アオの力として申し分無い。
三剣 有れば、竜も喚べる。
それに、封印を解く際にも、力は必要だ」
「三剣……あと、ひと振り……」
「心配は要らぬ。
キンが蒼牙の欠片を持っておる。
それを元にし、アカに復元させる」
「蒼牙……アオ兄の剣……
その欠片が洞窟に……!!」
サクラは、洞窟の方を向いた。
「何処へ行く? そちらは任せよ。
サクラは、この砂漠に残る三眼の玉を集めよ。
これだけ有れば、三眼は目覚める」
サクラは下を見た。
「孫達の事は、心配無用だ。
三眼の方、頼んだぞ」
妖狐王は、サクラの額に掌を当てた。
光が迸り、サクラは意識を失った。
「サクラの内なる、華雅の三眼の魂よ。
己が宝玉を呼び集めよ」
サクラは、全身から光を放ち、人姿になった。
その背には、輝く翼が現れ、大きく羽ばたいた。
「強い封印であるな……少し力を貸そう」
もう一度、光を当てる。
碧光を帯びたサクラは、ゆっくりと降下した。
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珊瑚は手を振りながら、袴の裾が引っ張られているような違和感を覚えていた。
振り返り、足元を見ると、兎が袴の裾をツイツイと引いている。
「あら?」
珊瑚は、しゃがみこんで目線を兎に合わせた。
「失礼致しました。
今は力を使いきっておりまして、このような姿で、申し訳ございません」
兎は片手を胸に当て、丁寧なお辞儀をした。
「先程、母の足元にいらっしゃいましたね」
「何故、一緒に行かなかったのですか?」
紫苑は、兎を卓の上に載せた。
兎は咳払いすると、
「ワタクシ、天界の天兎王にお仕えしております、カリヤと申します。
こちらの砂兎達が、魔物に操られ、人界でご迷惑をお掛けしていると聞き、偵察に参ったのですが、
姫様と若様が、魔物に操られ、拐われたのを拝見致しまして、妖狐王様の三の姫様が拐われたと思ってしまいまして――」
カリヤは言葉を切り、二人を見た。
珊瑚が微笑んだのを見て、話を続けた。
「急ぎ、ハザマの森に向かい、狐の社守殿に伝えましたら、
三の姫様は、社にいらっしゃってまして……
見たままをお話し致しましたら、姫様は血相を変えられまして、こちらに――」
「カリヤ殿、ありがとうございます」
二人は深々と頭を下げた。
「いえっ! いえ、そんなっ!
若様、姫様、お顔を上げてくださいませっ!」
焦りまくりでピョコピョコ跳ねるカリヤに、
「『若様』をやめて下さるなら……」
「『姫様』をやめて頂けるなら……」
二人は、頭を下げたまま同時に言った。
「あっ、はい!
ご命令とあらば従いますっ! はいっ!!」
その時、頭上から何かがパラパラと降ってきた。
カリヤが上を見ると、天井に大きな亀裂が走って来ていた。
「姫様! 若様!
ワタクシの耳にお掴まりくださいっ!」
二人が掴むやいなや、カリヤは耳を大きく広げ、壁の穴から飛び降りた。
ふわりふわりと砂に降り立つ。
着地と同時に、紫苑はカリヤを抱え、二人は全力で走った。
背後で、岩山が地響きを立てて崩れていった。
「しおぉ~ん! さんごぉぉ~!」
姫が息を弾ませて駆けて来る。
「会いたかったぞっ♪」
勢いよく珊瑚に抱きついた。
「何ともないのか? ケガはしておらぬか?」
珊瑚が笑いながら頷く。
「魔物は退治したのか?」紫苑の方を向く。
紫苑も笑いながら頷く。
「兎がケガをしたのか?」
ぐったりしているカリヤを見て言った。
「ったく~
乗せて飛ぶから待て、つってんのに~」
「聞こえなかったぞ、クロ。
それより、フジ、兎の薬は作れるのか?」
フジは紫苑からカリヤを受け取り、
「砂兎ではなく、天兎ですね……
これは……眠っているようですが?」
「力を使いきってしまったのだと思います」
「私達の恩人ですので、
ゆっくりお休み頂きたいのですが……」
「蛟殿、小屋と水をお願いします」
フジは振り返ったが、蛟がいない。
小屋と池は、既に整っていた。
凜「紫苑、珊瑚、大丈夫?」
紫「ええ、身体の方は何ともありませんよ」
珊「色々ございましたので、落ち着きたくは
ございますけど、大丈夫ですよ」
凜「お母様とも会えて良かったですね」
二「はい♪」
紫「母が、あまりに珊瑚そっくりで驚きました」
珊「鏡かと思いましたよ」くすくす♪
凜「アオもキン様を見た時、そう思ってたよね」
二「あの時は私共も、そう思いましたよ」
凜「これから、どうやって修行を?」
紫「静かな所で瞑想し、互いの気を見て、
自在に操れる域まで達したいと
思っています」
凜「互いの……
竜王子達も仲がいいけど、二人もホント
仲がいいよね~」
珊「互いしか居りませんでしたので……
でも、二人だから生きてこれたのです」
凜「そっか。
これから、それぞれに恋人ができたら
どうするの?」
二「え………………」顔を見合わせる。
紫「考えたことも……」
珊「ございませんでしたので……」
凜「いや、考えようね」




