三代王1-モーブとローズ①
そしてまたオマケです。
グレイスモーブとグリッターローズは、水晶を抱いて眠る芳小竜達を見つつ、過ぎた時に思いを馳せていた。
――――――
「グレイスモーブ様、グリッターローズ様。
本日より、こちらがお住まいとなります。
私の娘夫婦と息子夫婦が住み込み致しますので、何なりとお申し付けくださいませ」
「サンダービート、もうお城には住めないの?」
「いずれ王、女王と成られるので御座います。
自立し、学び、鍛える為、こちらでお過ごしくださいませ」
「あれ? 子供がいる……」
「ああ、私の孫達で御座います。
ブロンズアンバー、グレイスモーブ様をご案内しなさい。
ウインディリーフ、グリッターローズ様を頼みますよ」
「はい。お祖父さま」二人、揃って礼。
「この二人が年長者で御座います。
あとの子供達も躾けてはおりますが、何分、幼子ですので、至らぬ事も多いかと存じます。
何か御座いましたなら、この二人にお願い致します」
「殿下、こちらでございます」
モーブとローズは、広大な庭園を挟んで建つ各々の屋敷に連れて行かれた。
「シルバコバルト様、本当に、これでよろしいのですね?
私の孫なんぞよりも、もう少し学を積んだ者の方が相応しくは御座いませんか?」
「いいや、これでいい。
いずれ、お前のように良い補佐となるであろう。
城からは離すが、四人、共に居る事は禁じはせぬ。
他の孫達も同様だ。
子供の事は子供に任せ、お前は、王として必要となる学問を早く纏めよ」
「畏まりまして御座います」
―― 半年前 ――
グレイスモーブ王子、七十五歳、グリッターローズ王女、七十歳の誕生祝賀会が華やかに開かれていた。
主役の兄妹が嫌になる程の祝辞から、やっと解放されたと安堵した時、
政をピーチプリムラ女王に任せ、城を出ていたシルバコバルト前王が珍しく現れ、威風を放ち、濃紺の外套を翻して壇上に進み出た。
前王は、王国の繁栄と、孫達の成長に対する祝辞に続けて――
「孫達は、もう一人立ち出来る歳となった。
将来この国を担う為、城を離れ、勉学と鍛練に励め。
大臣、すぐに各々の屋敷を設けろ」
誰もが寝耳に水の爆弾発言を投じたのだった。
「御義父上様っ! まだ年端もゆかぬ子供達に、そのようなご無体なっ――」
「女王よ、我が愚息から国を託された其方ならば解るであろう?
いずれ国を担うならば、厳しく育てるより他に道は無いのだ。
俺も見守る。それでどうだ?」
母としては言いたい事は止めどなく有ったが、女王としては何も言えなかった。
「次代の王と女王を……よろしくお願い致します」
涙を堪え、それだけを言った。
♯♯♯
祝賀会の後――
「サンダービート、お前の孫に、俺の孫の面倒を見させろ。
いずれ大臣を継がせればいい。
そうだな。名も長くしろ。
その方が、より相応しくなるんだろ?
天竜にとっては」
「よろしいので御座いますか?」
「何て名だ? 年長二人は」
「アンバーとリーフで御座います」
「ふむ」大臣をじっと見る。
「ブロンズアンバーとウインディリーフ。
今日から、その名だ。
屋敷の事は、お前の息子と娘に任せておけ。
近くに建てても構わない。
お前は、さっさと『王学』を纏めてくれ。
長く続く王朝にせねばならぬからな」
「教師は、何方をご指名致しますか?」
「息子と娘にさせればいい。
鍛練は俺がやる。全て四人共にだ」
「では、シルバコバルト様のお屋敷も近くに設けるので御座いますか?」
「俺は、城の離れに住む。
が、政には口は挟まぬ。安心しろ」
――――――
「グレイスモーブ様、こちらが――」
「モーブでいい。長ったらしいからな。
お前もアンバーでいいか?」
「はい♪」
「何だ? 略されて喜んでいるのか?」
「殿下にお仕えする為に長くなっただけでございますので、もともとの名の方が嬉しいのでございます」
「その『ござござ』も好きじゃないんだ。
そうだ! 初めての同世代なんだよ。
周りは大人ばかりだったからな。
『友達』ってものになってくれないか?」
「しかし……殿下に対して……」
「『殿下』も やめろって! 俺はモーブだっ!」
「かしこまり――」「おいっ!」「うっ……」
「友達って普通そうなのか?」真剣!
「……いえ……」
「なら、普通にしてくれ」
「はい」とっても、とっても困り顔。
「そんな顔するなよぉ」
「で、では……モーブ様……」
「『様』も嫌いだっ!」←遺伝?
「それは、さすがに困ります」
「なら、俺に慣れるまでは我慢する」
「では、モーブ様こそ、王子様なのですから、そういう扱いに慣れてください」
「お♪ 言ったな~♪」ぐりぐり♪
「ちょっ! おやめくだっ、うわっ!」
「こういうの初めてだ! 楽しいなっ!」
「えっ!? 楽しい、って……」
「ああ。楽しいぞ♪」
この半年の厳しい勉強や躾は
いったい何だったんだろう……
芝生まみれ泥だらけで、そんな事を思ってしまうアンバーだった。
♯♯♯
「姫様のお部屋は、こちらでございます」
「あら? 人形だらけ……」
「お気に召しませんか?」
「別に構わないけど……どちらかと言うと、剣の方が かわいいのよね」
「剣……で、ございますか……?」
「剣達、連れて来ようかしら」
「お城のお部屋の物は、只今、運んでおります」
「そう♪ 良かったわ♪
あなたにも、ひとり授けるわね♪」
「『ひとり』……でございますか?
『ひと振り』ではなく……」
「剣は話すのよ。知らないの?
あなたも……えっと……」
「ウインディリーフでございます」
「長いのね……リーフでいいかしら?
私はローズでいいから」
「はい。仰せのままに」
「ねぇ、リーフは私より歳上よね?
どうして、そんな話し方なの?」
「身分が違いますので」
「身分……ねぇ……
私、お城を追い出されたんだから、もう姫でも何でもないわ♪
だから……そうだわ!
『普通』って、どういうものなのか教えてよ♪」
「グリッターローズ様は――」「ローズ!」
「……では、ローズ様は――」「だからローズ!」
「いえ! ローズ様は!
追い出されなど致しておりません!」
「やっと目を見てくれた♪
ずっと床ばかり見ているんですもの。
それでは つまらないわ」
「ローズ様……」
「もうっ! 仕方ないわね。
『様』だけは許してあげるわ。
でも、普通に話してよ」
リーフが ため息をついた。
「あきれちゃった?」
「いえ、なんだかホッとしました」
「そう♪ では、仲良くしてねっ♪
あ♪ 荷物が届いたわ♪ 手伝ってね♪」
「もちろんです♪」
二人は梱包を解き始めた。
「リーフには、どの剣がいいかしら♪
属性は? ……風かしら?」
「まだ知らないのです」
「でも、これから鍛練も一緒でしょ?」
「そう、聞いておりますが……」
「あ、剣を切る物だと思ってるんでしょ?」
「そうではないのですか?」
「気の力を込めて放つ物なのよ。
だから遠くからでも攻撃できるの。
それに盾にもできるのよ」
「盾……剣が盾に?」
「そう」一本抜く。「気を溜めて……拡げる!」
剣から拡がった光が、ローズの前で楕円形に纏まった。
「こっちに来て♪
ほらね、向こうが見えるでしょ♪
すぐに解除もできるから、出したり消したりしながら戦うのよ。
リーフは接近戦なんてムリでしょ?
遠くから技を放って、何か飛んで来たら防ぐ。
それでいいと思うの♪」
「技……」
「ちゃんと教えるわ♪
ねぇ、剣達、リーフを助けてよ。
いちばん合いそうなの、誰?」
ひと振り光った。
「ありがとう、透牙♪ やっぱり風なのね♪」
戸惑いつつ、剣を受け取ったリーフだった。
――――――
【兄上、何を思うておるのです?】
【初めて屋敷に連れて行かれた日の事を思い出していた】
【同じくです。
もっともっと幼き頃のリーフとアンバーは、こうであったのでしょうね……】
【芳小竜とは、どこまで成長するのであろうな……】
【愛情で育つ、か……】
何度か登場していました三代目。
偉大なる古の薬師グレイスモーブ王と、
偉大なる古の医師グリッターローズ女王の
即位以前のお話です。
なんだか、ちゃんと前王だったらしい
シルバコバルト様も出てきます。
まだ蛟達は屋敷には居ませんので、
執事長はサンダービート大臣の息子と娘婿です。
つまり、アンバーとリーフの父親です。
モーブ、ローズ、アンバー、リーフ。
この四人のお話を、今回から三話
挟ませて頂きます。m(_ _)m
桜「グレイスモーブ様って、父上に
似てるよねっ♪」
青「いや、父上が似たんだよ」
桜「そっか~♪
でも、威厳とか、ぜんぜん違うよね~」
青「そうだね」くすくす♪
桜「最近、会うたびに、なんだか
へらへら~なんだもん」
青「本当に娘が欲しかったんだろうね」
桜「そっか~。
あ、グリッターローズ様はルリ姉に
似てるよねっ♪」
青「だから、逆だよ。ルリが怒るよ」
桜「怒る? なんで?
どっちも美人さんだよ?」
青「そこじゃなくて、ルリの方が子孫
なんだからね。ルリが似たんだよ」
桜「よくわかんないけど~、怒るんだ~」
青「俺も、よく地雷を踏んでいるよ」
桜「???」




