島の夜14-クロとアオ③
子供の頃の思い出は、前話より少し遡ります。
クロは姫に急かされて数学の問題に戻ったが、また、思い出の続きに入り込んでいた。
そーいや、姫が牡丹餅 食ってた時、
サクラが来てたよな。
あの時は、まだ曲空なんて知らなかったから
とにかくビックリしたよな……
――――――
「クロ、おかわりは何処じゃ?」
「まさか全部 食ったのか!?」
漬物を選んでいたクロが慌てて立ち上がる。
「いや。じゃが、まだ入るぞ♪」むぐむぐ♪
「朝メシ食えなくなるだろっ」
牡丹餅の重箱を取り上げようと近寄った。
「朝餉は、これが良い♪」
「あのなぁ、ちゃんと栄養を――」「およ!?」
漬物樽の側にサクラが立っていた。
ゆら~りゆらりと揺れている。
「ぼ~た~も~ちっ♪」ぴょん♪
姫は重箱を一重だけ持って食べていたのだが、残りの重ねてある方をヒョイと持つと、サクラは消えてしまった。
「な……」「消えた……のぅ……」
空の重箱だけが残った。
そんなこんなでクロは、仕方なく饅頭を作り始めた。
それを蒸し始めた頃――つまり、くノ一達が来る直前に、姫は逃げるように、自分の小屋に戻った。
朝食の支度をくノ一達に代わってもらい、クロは蒸器を見ながら、また思いに耽った。
アオは途中までは言ってくれたんだよな。
とてもじゃねぇが信じられなかったけどな。
続き、聞きてぇなぁ……
――――――
クロは大学受験を目前にして、苦手な部分が残ったせいもあってか、勉強に行き詰まってしまった。
「クロ、苦手だとか、嫌いだとか思うな。
答えが見えなくなってしまうだろ」
「でもなぁ、嫌いは、やっぱ嫌いなんだよぉ」
クロに嫌気が見え始めたので、アオは、ここまで教えてきた理由を話す事にした。
「俺がクロの勉強を見ようと思ったのには、当然、理由が有る。
クロには俺より遥かに大きな力が有るんだ。
その力は今後、魔界へと進み、三界を平和にする為にも、その後、兄さん達の補佐をする為にも必要不可欠なんだ。
だから、諦めないで欲しいんだよ」
「んなワケねぇだろ~
アオより凄ぇ力なんて、オレなんかに――」
「俺が嘘をついているとでも?」ピキン。
「いやっ! んなコトなんてっ!
めめめメッソーもねぇよっ!!」怖ぇって!
「落ち着け、クロ。
今はまだ自覚なんて無いだろうが、クロには『見透す力』と『与える力』が有るんだ。
しかも、どちらも物凄く大きいんだよ」
「はあぁっ?!?」
「だから、無自覚な力だと言ってるだろ。
料理は『与える力』を具現化したものだと思うんだ。
調理師を極め、栄養学で博士と成って、兄さん達の補佐をするんだ」
「おう。その道でならな。
でも、料理するだけでいいのか?」
「まさか」
「他になんて考えられねぇぞ」
「まず、料理は人の心を掴める。
国の内外どちらに於いても重要だ。
ここまでは解るよな?」
「まぁな」
「そこに『見透す力』が加われば無敵だ」
「はあっ!?」
「元々美味いものが作れる上に、相手の望むものが的確に判れば、無敵だと言っているんだ」
「あ……ああ……」
「交渉で優位に立つ。とても重要な事だ。
クロにしか出来ない事なんだ」
「オレ……にしか……」
「だから、絶対に栄養学博士になれ。
天界一の調理師になれ。
クロだけが出来る事だからな」
オレ『だけ』なんだな?
よくわかんねぇけど、ま、アオが
その時その時きっと教えてくれるだろ。
「おうっ! どっちにもなってやるっ!」
「この話には続きが有る。
両方になったら、また話すと約束する」
「わかった! 約束する!
両方だ! オレが道を拓いてやる!」
「そうだ。前例になれ。
俺も前に進む。
クロと合流出来るように進むからな」
「よぉし! 男と男の約束だっ!」
「そうだな。約束だ!」
二人は手をガシッと組み、笑い合った。
「で、だ。
再開するぞ。気を引き締めろ!」
「あ……」
「もう時間は無いんだぞ。
俺は明日も公務が有るんだ。
サッサと覚えろ!」
「はひぃぃいっ!!」
――――――
「姫、勉強しているならクロを借りるよ」
アオが来ていた。爽蛇も。
アオの声を聞いて現実に戻ったクロが、驚き固まった。
「で……出た……」
「うむ。アオならば、いくらでもじゃ♪」
「姫ぇ? いいのか?」「よいぞ♪」
「爽蛇、姫の話し相手を頼むね」「はい♪」
「姫、これを食べ終わる迄には戻るから」
「うむ♪ 『ふわふわ』といぅ甘味じゃな♪」
「クロ、行くぞ」掴んで曲空。
――アオの屋敷。
「で、何だ? アオ」
「うん。約束したから、続きを話そうかと思ったんだ」
「とうとう話してくれるのか?♪
あ、その前に、だ。
公務に行くっつったまま、入試直前のオレを放ったらかしやがってぇ。
どこまで公務に行ってたんだよぉ。
サクラが生まれるまで、完全に消えてたよな?
どっかの国にでも住み込んでたのか?」
「……研究していたんだ。
クロと合流するには時間が足りないと思ったんだよ。
クロなら、絶対に合格すると信じていたからな」
「あの後も手紙だけだったろ?
オレ達の成人の儀でも、他の儀式でも、直前で現れて、終わって捕まえようと思った時には消えてやがってぇ。
儀式中に話しかけても無視したろ!
マジで心配したんだからなっ!」
「心配かけて、すまなかった」
「ま、もういいけどな。
で、話の続きってぇのは?
オレは、とっくにどっちもなってたんだぞ」
「うん、そうだな。話すよ。
でも、箜蛇さんから聞いていないのか?」
「アレ、マジなのかっ!?」
「真剣に、子供の頃から考えていたよ。
国の事、頼んだよ」
「国を潰す気か?」
「まさか。クロだから大丈夫だ。
適任だと思うから、俺は虹紲大臣になったんだ。
殿、二国とも、その肩に懸かっているからな」
「ゲ……」アオの目がマジだ……
♯♯♯
アオとクロは、クロの屋敷に戻った。
「あ、そーだ!
アオ、島で兄弟揃って寝た次の日!
夕方、重箱 持って来ただろ?」
「うん。持って行ったね」
「あれ、サクラが持って消えたヤツなんだ」
「思い出したぞ! 牡丹餅じゃ!」
「ああ、だからサクラは、口の周りと指に餡を付けていたんだね」
「いつ!?」
「明け方、空が明るくなってきた頃に、サクラが居なくなっていてね。
少しして現れたんだ。その時だよ」
「お前……曲空 見ても驚かなかったのかよ」
「何しろ記憶が殆ど無かったからね。
何が普通で、何が驚くべき事なのかも、よく分からなかったんだ」
「で、重箱は、どこに有ったんだよ?」
「森の中で偶然 見つけたんだ。
餡が付いていたから、サクラかな? と思って集めたんだ」
「全て食べておったのか!?
十段程も有ったじゃろ!?」
「うん。空だったよ。全部ね。
でも、姫は何故それを知っているんだい?」
「いや……それは、じゃな……」
「姫様も召し上がっておられましたよねぇ♪」
「ミズチ!!」「なんで知ってんだっ!?」
「いつものように、お手伝いに参りましたら、窓からお姿が見えましたので、一旦、小屋に戻りましただけで御座いますよぉ」
「ね、アオ兄、何かあったの?」
アオと共に地下警護中のサクラが現れた。
「何も。あ……遅くなって、すまない」
「なぁ、サクラ」
「なぁに? クロ兄♪」
「島で、牡丹餅 持って消えた後、全部ひとりで食ったのか?」
「牡丹餅どこっ!?」ふわふわの匂いもする♪
「今じゃねぇよ。島だよっ!」
「島で牡丹餅? いつ出たっけ?」
「出そうと思ってたのをサクラが持って消えたんだっ!」
「知らな~い。俺、そんな事しないもん!」
「したんだっ!」
「アオ兄……俺、そんな事しないよねぇ?」
「眠ったまま食べたんだろうね。
餡を付けて戻ったよ」くすくす♪
「ふええっ!?」
「寝言だけじゃないみたいだね」ぽふぽふ。
「寝言って……俺……恥ずかし~~い!」
アオの胸に飛び込んで、二人共、消えた。
桜「クロ兄って、これだけ何回も
アオ兄が言っても、わかんないんだねぇ」
青「そうだね。今もまだ解っていないよね」
桜「うん。
イチバンって何回も言ってるのに
信じてくれな~い」
青「だから伸びないんだね」
桜「あ、そっか~
イヤイヤで神眼 閉じちゃうんだもんねぇ」
青「本当に、あれには困ったよ。
元々の隙間すら閉じそうになったからね」
桜「困ったクロ兄だねぇ」
凜「ね♪ アオ♪ サクラ♪」
桜「邪魔しに来たぁ」
青「凜、何をしに来たんだい?」
凜「何でそうなの? 酷いなぁ」
青「で、何?」
凜「クロがなる『大臣』って何大臣なの?」
桜「大臣は大臣だよぉ」
凜「『◯◯大臣』じゃなくて?」
青「うん。何も付いていないよ。
現王朝の初期は、『大臣』というのは
ただひとりだったんだ。
始祖様の頃は、サンダービート様
おひとりでね」
桜「で、だんだん仕事を細分化したからぁ、
『◯◯大臣』ができたんだよ~」
青「うん。今の組織としては、
『大臣』の下に『◯◯大臣』がいて、
その下に『◯司長』がいるんだよ」
凜「ふぅん……」
青「凜が知っている言葉なら、
竜王国の『大臣』は『宰相』かな?」
凜「あ~、納得~♪ 魔竜王様♪
虹紲大臣様♪『宰相』に変えない?」
青「何で凜の為に?」
凜「だって紛らわしいでしょ?」
桜「略する時は『◯◯』の方になるから、
変えなくても だいじょぶ~」
凜「『アオ虹紲』なの?」
桜「そ♪
王族だから『虹紲殿下』とかもありそ~」
青「嫌だな……それ」




