対呪戦11-アオが箜蛇に話した事
クロは無事に元に戻りました。
♯♯ アオの屋敷 ♯♯
早朝、クロは厨房へ行く為、部屋を出ようと扉に手を掛けた。
カチャ。「あっ……」「お?」開いた?
「失礼致しましたっ!」平伏っ!
「あっ……いや、勝手に入ったのは、こっちだ。
悪かった! すまねぇっ!」
「いえ、執事長に言われておりますのに、つい不用意にも開けてしまいまして……」
「爽蛇は何て言ってるんだ?」
「あの……それは……」
「いやいや、怒ってるんじゃねぇって。
教えてくれよ」にこっ。
「あの……王子様方は、昼も夜も無い大変な任をなさっておいでですので、いつ何時でも、お休み頂けるよう、常に整え、お迎え出来るよう抜かり無く、と……」
「爽蛇って……スゲェな……
だから居心地いいんだ……」
「あ……有難い御言葉でございます!」また平伏。
「いや、だから~」手を引いて立たせる。
「あのっ」真っ赤。「そのっ……」後退る。
「ごゆっくりなさってくださいませっ!」
掃除道具を掴んで一目散に逃げた。
「あ……」「王子様も形無しじゃな」くくくっ♪
「姫……あ、起こしちまって、すまねぇな」
「いや、ワラワも起きる刻じゃ♪」伸び~
「そっか。んじゃ、メシ作るからなっ♪」
「うむ♪」
クロが厨房に入ると、
「おはようございます、クロ様♪」一斉に礼。
「皆、早いなっ。もう揃ってんのか!?」
「朝食は、こちらでよろしいでしょうか?」
味見。「旨っ♪ コレ教えてくれよ」
「ありがとうございます♪
クロ様に、そう仰って頂けるとは、料理人として、この上無き誉で御座います」
「んな、大袈裟な~」「いえいえ本当に♪」
笑顔満開だな……
「あれ? お前、オレん家の……」ぱちくり。
「お見知り置き頂きまして、嬉しい限りに御座います」恭しく礼。
「何でアオん家に?」
「箜蛇様より、こちらで修行するように、と執事や女中も数名お世話になっております」
「そっか……アイツが、そんな事を……」
朝食後、クロは再び厨房に行った。
「さっきの教えてくれよ。
それと保存食、また焼かせてくれ」
「その保存食、お教えくださいませ」
と、教え合い――
大量に焼いて、
「じゃ、ありがとなっ」袋を担ぐ。
「あの……今、王子様方は、どちらにいらっしゃるのでしょう?」
「地下魔界だ」
「地下……?」「魔界……?」
たっぷりの間……
「えーっっ!?」「そ、そんな遠くに!?」
「とんでもなくっ! 危険ですよねっ!?」
「そうでもねぇよ。
人も魔人も神様も皆、協力してくれるからな。
それに、いつでも休める場所があるからな♪」
「あ……」クロの満面の笑顔が伝わっていく。
「ありがとうございます!!」一斉に礼っ!
「それ、オレの台詞!
皆、いつもありがとう!!」前屈っ!
「てっ!」袋が頭に乗った。
厨房が明るい笑い声で満ちた。
「姫、行くぞ♪」「馬車にか?」
「いや、ウチだ」「珍しいのぅ」「だなっ♪」
――クロの屋敷。
「箜蛇、ただいま~♪」
「クロ様、如何なされましたか?」ぱちくり。
「何で自分家に帰って、んな顔されるんだ?」
「滅多に帰らぬからであろ」「そっか」あはっ。
「箜蛇、ありがとな」にこっ。
「熱がお有りですか?」「何でだよっ!」
「我等は、アオの屋敷に寄っておったのじゃ」
「然様で御座いますか。
それで、どうした風の吹き回しか、という事で御座いますね?」
「何か引っ掛かる言い方だな……けど、まぁそうだな」
「私、爽蛇殿と話しまして、考えを改めましたので御座います。
逃げるクロ様を追うばかりでは何も解決しない、と……
自然に、こちらに足を御運びになって頂けるよう努めるべきである、と……」
「それで修行させてるのか?」
「先ずは見習うべきと考えました」
「そっか……じゃ、どう変わるのか、ちょいちょい見に来るよ」
「はい。いつでもどうぞ」にこり。
「あ……そういや、ずっと気になってたんだが、アオは箜蛇に何を言ったんだ?」
「『何』とは?」
「ほら、オレ達の、婚約の儀の次の日、アオが来ただろ?」
「ああ、その事で御座いますか。
アオ様は、クロ様をこの国の大臣に、と仰られましたので御座います」
「へ??? 何て……?」
「私も耳を疑いました」
「失礼だなっ!」
「そうで御座いますか?
私は、クロ様はせいぜい食司長かと、常々存じ上げておりました」
「う……納得……」
「ですが、大臣にと。
ご自身は天魔両国の懸け橋と御成りあそばされるおつもりですので、と……
そこで、人界での御在位中は勿論の事、御城主を御子様に継がれましても、人界との懸け橋の任は続きますので、その任にも爽蛇殿の手をお借りし、こちらの大臣の補佐を私に、と仰られましたので御座います。
クロ様の不在が多く、これまでの補佐よりも大変ですので、私の他に出来る者は無い、とまで仰って頂きました」
瞳が少し潤む。
「アオは……そんな事、言ったのか……」
「魔竜王国と通じた時、そう御決めになられましたそうで御座います」
「そんな前から……
でも、大臣ならフジの方が――」
「人界にて経験を積まれたクロ様こそが適任である、と仰られましたので御座います。
しかし、私も同感にて、フジ様では? と申し上げましたら、
フジ様には、天性・治癒を持たなくても医師に成れるよう整えた上で、医師、薬師を統括する医司長に、と御考えなのだそうで御座います」
「アオって……」
「じゃから皆、感涙を流しておったのじゃ」
「じゃあ、アカは?」
「この先、魔王が居らぬようになり、平和な世になったとしても、いつまた魔王のようなモノが
現れるやも知れぬからの。
軍や武器を全て無くす事は出来ぬ。
じゃから、それらを平和な世で活かし、かつ、備える。
その難しい軍司長を任せられるのは、武器の心が解るアカ殿の他には居らぬと言ぅておったぞ」
「敵わねぇよ……ったく……」
「じゃな。
しかし、そのアオが言ぅのじゃから、大臣はクロが適任なのじゃろぅよ。
ワラワも信じ難いがのぅ」
「姫まで~」
「御納得 頂けましたか?」
「まぁな……」
「静香様、この後の御予定は如何で御座いますか?」
「夕刻まで何も無いぞ♪」
「では、こちらへ」「何だ?」「勉強です」
「ゲッ……」「丁度良いな♪」「姫ぇ~」
「クロ様は、器は十分なので御座いますよ。
あとは御気持ちのみ。さ、始めましょう」
「しかと大臣を務めねばならぬからの。
ささ、座るのじゃ♪」
夕方まで姫と ゆっくり――は、姫と箜蛇に みっちり――に化けてしまったクロであった。
「そこは先程 教えたであろっ!」「う……」
クロが唸りながら考えている後ろで――
「戻る前に、みっちり仕込めば良かったかのぅ」
「戻る、とは、如何な事で御座いますか?」
「魔王の呪にて、赤子になっておったのじゃ」
「ほう、その様な事が……」
「解呪が成功し、元に戻ったのじゃ」
「戻ってしまわれたのですね……」
「可愛いかったのじゃがのぅ」
「残念で御座いますね」
「うむ」
「しかし、無事に戻れたのじゃ。
神様とアオとサクラのおかげなのじゃ。
アカ殿とルリ殿とキュルリもな。
皆、仕損じれば己が身に呪が降り掛かる事を厭わず、クロを助けてくれたのじゃ。
……クロは覚えておらぬがのぅ」
「その様な事が……」
箜蛇は潤む瞳を天に向けた。
青「クロは『男と男の約束だ』とかって
御大層に言っていたけど、
たいした話ではないんだよ」
黒「アオ! オレにとっては、生涯を左右する
大事な約束なのにっ!」
青「そんな風に思って貰えているんなら
嬉しいよ」
黒「ったく~!
オレみたいなのが、今こうして
ちゃんと生きてられるのは、
アオのお陰なんだからなっ!」
青「どうして怒られているんだろう……」
黒「解ってくれよぉ~」
桜「解ってないのはクロ兄でしょ」
黒「うっせーぞ! サクラ!」
桜「クロ兄なんて、ほっといて~
新しい技 見つけたんだ♪ 共有しよっ♪」
黒「アオを持ってくなっ!」
桜「クロ兄には あげな~い♪」
青「二人共、俺は物じゃないんだよ?」
藤「アオ兄様は、私と薬学を極めるのです!」
白「いやっ!
アオは俺に王学を教えてくれるんだろ?
経済学も頼むっ! なっ!」
赤「アオ、次の竜宝再現なのだが――」
金「アオ、この案件についての意見を聞きたい。
こちらの考察も合わせて頼む」
桜「や~ん、アオ兄は俺のぉ~」
黒「アオ! 次はオレとの話だから、なっ!」
青「くじ引きするかい?
あ、姫に『じゃんけん』というのを
習ったんだ。皆で やってみようか?」
白「拳? 剣? とにかく戦うんだなっ♪」
黒「勝ったら独占していいんだよな?」
金「ふむ。負ける気はせぬな」
赤「……勝つ……」
藤「私も負けません!」
桜「ねぇ、アオ兄……
な~んか兄貴達、カンチガイしてるよ?」
青「みたいだね……」苦笑。
次話との間に、オマケを三話挟みます。




