砂漠編18-心配と安堵
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と、常々思っております。m(__)m
♯♯ 天界 ♯♯
モモは、城に向かって飛んで行くミドリの後ろ姿を見送っていた。
「解ってくれたかのぅ」
夫の声に振り返る。
「ミドリ殿は、まだお若い。
少しずつ成長してくださればよいのです」
「そうじゃな……」
ミドリの後ろ姿が、山々の向こうに見えなくなっても、二人は、その方向を見詰めていた。
「それにしても……
あの子達を連れて来るなんて、反則ですよ」
「いや……
まさか、往年のモモ様が、お出ましになっとるとは思わなんだからのぅ」
「シ~ロ~さ~ん~」モモが睨む。
「いやいや、何でもないわいっ。
今も昔も、モモさんは女神様のようじゃと言うたのじゃ」
「また、そんな……」呆れて睨む。
「凛として、神々しくて、美しくて――
素敵な王妃様じゃった」
「もうっ」染まった頬を両掌で包む。
「今は、暖かくて、優しくて、可愛い奥さんじゃ」
「……」恥ずかしそうに、そっぽを向く。
「まだまだ先は長いからのぅ。
これからも一緒に……のぅ」
「もちろんですよ」
モモとシロが仲良く寄り添っているのを、離れた所から見詰めて、泣いている者がいた。
「モモさん……」
ポンッと肩を叩かれる。
「いい加減、諦めろ、ムラサキ」
「団子、食わんか? ほら、こっちに来い」
長老達にも、いろいろあるようです。
♯♯ 人界 ♯♯
「蛟、小屋、増やさなくていいぞ」
蛟が木片を投じようとした時、声が掛かった。
「クロ様……しかし――」
「アオの小屋に泊まる。いいよな? アオ」
「うん。いいよ」
「フジもサクラも、いいよな?」
「はい♪」「うんっ♪」
「狭くはございませんか?
せめて、もっと大きな――」
「いらな~い。くっつけなくなっちゃう~」
「だなっ」「はい♪」
「という事だから、蛟も、もう休んで。
明日が あるんだからね」
「そうでございますかぁ?」
「うん、いいからね」
結局、クロとサクラが、蛟の背を押して作業小屋まで行った。
そして、四人でアオの小屋へ。
扉を閉め――
「アオ~♪」「アオ兄~♪」「アオ兄様っ♪」
「え? わっ!」むぎゅっ
「ちょっ! やめ――」
「五年も心配させやがって~」
「そうですよ。探したんですからねっ」
「アオ兄、大好き~♪」
「何処に隠れてたんだよっ」
「ちゃんと話してくださいねっ」
「そうだ! 話せよ。何してたんだ?」
「うん……すまなかった……」
アオは、十左に拾われてから、紫苑と珊瑚に出会い国境を越える迄をかいつまんで話した。
「人界で友達つくるなんて、考えもしなかったなぁ」
「アオ兄、姫は?」
「姫は、国境の山を越えて、中の国に入ってすぐの森で降って来たんだよ」
「へ? 降ったのか?」
「さっすが♪ 姫だね~♪」
「魔物から逃げてて、木の上からね」くすっ♪
「で、そのまま仲間にしたのか?」
「いや、一度は城に帰したんだけどね、押し掛けて来てしまったんだ」
「目に浮かぶようですね」苦笑。
「まぁ、料理さえ阻止すれば、問題は無さそうだからいいんだけどね」
「誰かを婿にしようとしてるのにか?」
「それは……何処まで本気なんだろうね」
「世継ぎの姫なんだから、本気なんじゃねぇのか?」
「なら、クロ、頼んだよ」
「なんでオレなんだよっ!!」
「性格、合っていると思うよ」くすくす♪
「ぜってー! 要らねーっ!!」
「なんで真っ赤なの?」「ですよね……」
「声を荒らげたから、って事にしてあげようよ」
「してあげるの? じゃあ、違うんだね~♪」
「うっせー! サクラは、とっとと寝ろ!」
「や~ん、まだ遊ぶのっ!」むぅ
「なら、ひとりで遊んでろ」べぇ~
「なんで、そんなこと言うのぉ?」
「コドモは寝る時間だぞ。
サクラん坊♪」でこつんっ
「ひっど~いぃ」ぶぅ
「まぁまぁ、クロはお婿さんに行ってしまうんだから、話せるのは今のうちなんだよ。
サクラは、ずっと一緒なんだから、後で ゆっくり話そうね」よしよし
「うんっ♪」「アオ……何だよ! それっ!」
「今のうちだから優しくしてあげようかと――」
「アオが婿に行きゃいいだろっ! もがっ――」
フジとサクラが、クロの口を押さえた。
「うん……そうかもね……
でも、結婚自体、考えられないんだよ」
「アオ……言い過ぎた。すまねえっ!」
「いや、気にしていないからね」にこっ
「アオ兄、俺、ずっと一緒だからねっ」ぎゅっ
「うん。封印は解くよ、絶対にね」
「やはり、アオ兄様ですね♪」
「ああ、やっぱ、どこまでも強ぇよな」
「そりゃそぉでしょ♪ アオ兄だも~ん♪」
「紫苑殿と珊瑚殿を迎えに行くんだから、そろそろ寝よう」
「だなっ。
明日はコイツでビシッと、あっという間だっ!」
竜宝を掲げる。
「俺……」
「サクラは戦わなくていいのですよ。
後で呼びますから、洞窟で待っていてくださいね」
「うん……」
「元気出せよっ」バシッ 「う……痛ぁいぃ」
「これから鍛えてやっからなっ」「うん……」
「そうすれば、一緒に行動出来ますよ。ねっ」
「アオ兄に鍛えてもらう~」
「お前なぁ~」迫る。「ふえっ?」後退る。
「覚悟しろ!」ガバッ「イヤッ!」バシッ!
「あ……屋根が……」「無くなりましたね……」
「ん? クロは?」「いなくなりましたね……」
「やっちゃった~」えへっ♪
「あ……屋根が……落ちて来てるのかな?」
「いえ、クロ兄様が支えていますよ」
黒輝の竜が降下し、小屋に屋根を載せた。
「サ~ク~ラ~」睨む。
サクラがアオの背に隠れる。
「逃がすかっ!」「や~んっ!」ぐるぐる
「さっきのは何だっ!」「わかんないっ!」
「もっぺんやってみろ!」「ムリだも~ん」
「待てっ! このっ!」「待たないも~ん」
ドタバタぐるぐる――
アオが、サッとサクラを抱えた。
「もう、いいだろ。火事場の馬鹿力だよ。
大切な友を迎えに行きたいんだ。寝よう」
凜「長老様、ムラサキ様って?」
老「前王じゃよ」
老「シロと二人でな」
老「シロの従弟じゃ」
凜「モモ様のこと……」
老「元々、モモさんはムラサキの許嫁でな」
老「経緯は知らぬが、ムラサキの母親が
破棄してのぅ」
老「シロに嫁いだんじゃよ」
老「シロが王位を継ぐ事になったから
では、ないのかの?」
老「確かに、その時期じゃったな」
老「王妃に相応しい者が、おらなんだからの」
凜「シロ様とムラサキ様は、ご一緒に
御即位なされたのではないんですか?」
老「各々、前王の死で継いだからの」
老「シロは兄王アサギの、
ムラサキは、シロの姉ベニ女王の
後継の王なんじゃよ」
凜「じゃあ、お二方とも、アオみたいな
お立場だったんですね?」
老「そうじゃな。じゃから、ムラサキは
自分が即位するなんぞと思わずに
モモさんを譲ったのかもしれんのぅ」
老「独身を徹しておるからのぅ」




