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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
318/429

対呪戦3-母で姉

 可愛いけれど、困りました。


♯♯ 竜宝の国 ♯♯


 祠を出たアオとルリは、

(後ろ髪を引かれてしまうな……)振り返った。


(そうだね。可愛くて仕方ないね)微笑む。


(ん?)アオは祠ではなく、ルリを見ていた。


(何を見て笑っているのだ!)真っ赤。


(可愛いから~♪)クスクス♪ (やめろっ!)


ルリは、ぷいっと前を向き、

(ったく!)

石段を蹴って、飛び始めた。


(そんなに怒らないで。

ルリの、母の顔が可愛いかったんだよ)


ルリはチラッとアオを睨んで、前を向いたが、すぐにその視線を落とした。

(アオの芳小竜ならば、アオの事は父なのであろうが……

私は……母として認められているのだろうか……)


(キュルリは、ちゃんと解って呼んでいるよ。

少なくとも俺は認めているからね)


(……ありがとう)ぼそっ。


アオは、嬉しそうにルリの手を取り、並んで飛んだ。


(たまには、こうして のんびり飛ぶのもいいね)


(そうだな……)


アオが引き寄せ、ルリはアオの肩に寄り添った。


そのまま広場まで、ゆっくり飛んだ。


【アオ王様、神々方々が御目見えでしたが、御会いになられましたかな?】


「案内ありがとう、壺美善。会えたよ」


【それは良う御座いました】


「壺美善の壺は、アカの工房に有るのかい?」


【はい。よく御使い頂いております】


「なら、伝言を頼むよ」【何なりと】


「新たな呪を防ぐには、女性でいる事しか方法が無いから、暫くは女性でいるよう伝えてくれるかい?」


【畏まりまして御座います、我等が王】




 アオとルリは竜宝の国を出た。


(何故、自分で伝えないのだ?)


(竜宝達は、使って貰える事が幸せなんだ。

ちょっとした事を頼むだけでも喜ぶからね)


(そうか。アオは良い王だな)


(今頃、気付いたの?)


(あのなぁ。前言撤回するっ!)


(冗談だよ。ありがとう、ルリ)


(うむ……)


(お礼で照れないでよ)くすくす♪


アオは上機嫌で、ルリの手を引いて飛んでいる。


(それで、どこに行くのだ?)


(洞窟だよ)


(洞窟?)


(人界での住み処なんだ)


(何故、今?)


(休もうと思ってね。

ただし、検知しながらね)


(中間地点という事か?)


(そういう事。

まだ何か起こる筈だからね)


(嫌な事を言うのだな)


(そもそも何か目的が有って、偵察していたんだろうからね。

だとしたら、箱が投げ込まれたのは事故かもしれないよね。

あの箱を投げ込む為に、機を計っていたのなら、それはそれで次の手が有るだろうしね)


(ふむ……)


アオはルリと手を繋いだまま曲空した。



――竜ヶ峰、洞窟。


(広いのだな……)


(そうだね。あ、ここかな?)

扉に手を当てる。

(うん、誰も使っていないね)


(アオの部屋では無いのか?)


(俺の部屋だよ)


(どういう事だ?)


(俺は、ここには住んでいなかったんだよ)



 部屋に入ったアオは、初降下から、ルリと再会するまでをかいつまんで話した。



(何度 狙われようが、襲われようが、臆する事が無い。

やはり流石、アオだな)


(無謀な、この性格は変えようが無いらしいよ)

自嘲気味に笑う。


(無謀などとは思っていない。

その勇猛果敢さはアオの魅力だ。

変わらずいてくれてホッとした)


(俺は何も変わっていないよ。

あの時から、ルリと再会するまで、俺の心の時は止まったままだったからね)


(そこまで私の事なんぞ――)(大事だからね)


(止まったままどころじゃない。

俺の心は死んでいたんだ)(大袈裟な……)


(何と言われようが本当だから)


(ん? 待て……変わっていないと言ったな?

あの少年は、そんな目で私を見ていたのか?)


(そうだね)くすくす……あははっ♪


(マセたガキだ!)同時に言った。


 二人、ひとしきり笑い――


(アオ、休める時に休めよ)


(ルリは相変わらず、お姉さんだね)


(ひと晩 寝て、起きたらアオが大人になっていただけだからな。

それに中身は少年のままなのだろ?)


(そうか……なら、お姉さんでいいんだね)


(うむ……まぁ、な)(ねぇ、何で不満気なの?)

(何でも無いから早く寝ろ)(はい、ルリお姉様)

(喧嘩売っているのか?)(滅相も御座いません)

(寝る!)(うん♪ 一緒に――逃げないでよぉ)

(知らぬ)(ルリ~♪)(寝ろ!)(添い寝~♪)

(寄るなっ)(え~っ)――……




♯♯ 赤虎工房 ♯♯


 アオがルリに甘えていた頃――


「アカ、壺が揺れてるんだけど……」「ん?」


アカは護竜槍(ゴリュウソウ)を手に、壺美善(コビゼン)に近付いた。

(護竜槍殿、壺美善殿はどうしたのだ?)


【アオ王様より御伝言が御座います、と申しております】


(ふむ。頼む)



 護竜槍が伝えると、アカは道具を箱に詰め、暗室に向かった。


「アカ、どうしたの? 何か急ぎ?」


「暫く籠る。誰も入らぬよう頼む」


「食事は? 私は、どうすれば――」


「その続きを頼む」鍛冶場を指す。


「解ったわ」


「食事は要らぬ。

クロから保存食を貰っている」


「じゃあ、夜食をここに置くから食べて。

私、夜中には来ないようにするから」


「すまぬ。感謝する」部屋に入った。


 行っちゃった……

 今度は、何日 籠るのかしら……



出て来た。「あら? 忘れ物?」寄って来る。


「今度は長いかもしれぬ」抱きしめられた。


 え……




 唇が離れる。ぬくもりも――「アカ……」


暗室に入ろうとしていた背中が止まった。


「あっ、いいもの作ってね」


「うむ……」パタン。




 アカは大きな鏡を壁に向け、作業を始めた。




♯♯ 地下魔界 ♯♯


(そゆことで、ちょっとだけ お願いします)


(慌てなくても構わない。

静香殿に無理をさせぬよう)


(うん。様子見て動くからね)


(念のため言いはしたが、サクラがする事に心配などしてはいない。

ただ……いつも、何もかも任せてしまって、すまない)


(気にしないで~)照れ逃げっ。



(ルリ姉、アオ兄 寝た?)


(ふむ……やっと眠ったようだ。どうした?)


(うん。それならいいんだ。

ほっとくと、寝ないし食べないから)


(確かにな。

私が言っても聞かぬ。困ったものだ)


(でしょ)くすくす。


(アオそっくりな笑い方だな)


(そぉ?

でね、俺、暫く姫に付いていようと思ってるから、アオ兄の事、お願いします)


(そうだな。

クロ様が復活する迄どうするのか、私も心配していたが、サクラなら安心だ。

こちらの事は心配するな)


(うん♪ ありがと、ルリ姉)



 姫は……馬車にいるね……(姫~♪)曲空。



――ハザマの森、馬車。


(サクラ、交替したのではなかったのか?)


(クロ兄が戻るまで、俺と組も~♪)


(よいのか? アオは?)


(アオ兄にはルリ姉が いるもん。

キン兄にも ちゃんと話したよ)


(然様か。忝ないのぅ。

して……クロは戻れるのかのぅ……)


 あ……神眼で何か見えちゃったかな……


(だいじょぶだよぉ。

最上位の神様が解呪してくれるからね。

時間は、ちょっとかかるみたいだけど)


(然様か……ならば良いのじゃが……)


(そんなに心配しないで、ねっ。

地下魔界に行こっ)


(ふむ……そぅじゃな。

サクラは、ほんに優しぃのぅ)


(やめてぇ~)もじっ。


(王様の時とは、随分と違うのじゃな)くくっ♪


 よかった~。笑ってくれた♪

(あれは……仕方ないでしょっ)真っ赤!


 !!


(地下魔界だよ!)(いざ参ろぅぞ!)曲空!



――地下魔界。


(ハク兄! フジ兄! 来てっ!)


兄達が現れた。(なんでアオ兄も来てるのっ!)


(とか言ってる場合じゃなさそうだぞ……)

(とてつもなく凶悪な気ですよね……)


禍々しく濃い闇が立ち込めていた。


その闇が集まり、巨大な塊と化した。


(中に大きなものが()るぞ!)

(魔王……だよね)


闇の塊の内に、新たな闇が噴き出した。

塊が噴出に合わせて膨張する。


【子孫共! その闇は呪だ! 下がれ!!】


コバルトがアオから出、光を放った。

ビスマスも続いて放つ。


二度三度と輝きが波紋のように拡がり、塊の闇も、辺りに漂う残滓のような闇も薄れていく。


が、空かさず新たな闇が、塊の内に湧く。


キン、アオ、サクラが神以鏡から光を放つ。

フジと姫が神聖光輝を放水した。


新たな光が加わった。


【バナジン、気をつけろよ!

この闇、男にだけ呪を掛けるからな!】


【はい、父上様】


【ハク、これを使え!】鏡を投げる。

【浄化の光で放つのだ!】


(はい! ゴルチル様っ!)


(中の力が増大しているぞ!)

(魔王が膨れておるのじゃ!)


槍のように細く鋭い闇の波動が、勢いよく放射状に放たれた。


【当たるなよ! 子孫共!】


光と闇が激しく交錯する!





珊「お祖父様、何か手立てはございませんか?」


孤「有るのならば、彼奴も、かつての奴等も

  戻しておる……」


紫「えっ?

  これ迄に、あの呪は現れていたのですか?」


孤「同じか否かは知らぬ。

  しかし、同様の事ならば知っておる」


珊「では、手立ては無いのですか……」


孤「竜に対してならば、有ると言えば有るが、

  仕損じる可能性の方が遥かに高く、

  仕損じれば――」


紫「……どうなるのですか?」


孤「いや、心配しても仕方あるまいて。

  儂等が何を案じようが、アオは動く。

  見守る他は無かろうて」


 そう言うと妖狐王は、心を笑みで隠し、

姿を消した。


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