対呪戦3-母で姉
可愛いけれど、困りました。
♯♯ 竜宝の国 ♯♯
祠を出たアオとルリは、
(後ろ髪を引かれてしまうな……)振り返った。
(そうだね。可愛くて仕方ないね)微笑む。
(ん?)アオは祠ではなく、ルリを見ていた。
(何を見て笑っているのだ!)真っ赤。
(可愛いから~♪)クスクス♪ (やめろっ!)
ルリは、ぷいっと前を向き、
(ったく!)
石段を蹴って、飛び始めた。
(そんなに怒らないで。
ルリの、母の顔が可愛いかったんだよ)
ルリはチラッとアオを睨んで、前を向いたが、すぐにその視線を落とした。
(アオの芳小竜ならば、アオの事は父なのであろうが……
私は……母として認められているのだろうか……)
(キュルリは、ちゃんと解って呼んでいるよ。
少なくとも俺は認めているからね)
(……ありがとう)ぼそっ。
アオは、嬉しそうにルリの手を取り、並んで飛んだ。
(たまには、こうして のんびり飛ぶのもいいね)
(そうだな……)
アオが引き寄せ、ルリはアオの肩に寄り添った。
そのまま広場まで、ゆっくり飛んだ。
【アオ王様、神々方々が御目見えでしたが、御会いになられましたかな?】
「案内ありがとう、壺美善。会えたよ」
【それは良う御座いました】
「壺美善の壺は、アカの工房に有るのかい?」
【はい。よく御使い頂いております】
「なら、伝言を頼むよ」【何なりと】
「新たな呪を防ぐには、女性でいる事しか方法が無いから、暫くは女性でいるよう伝えてくれるかい?」
【畏まりまして御座います、我等が王】
アオとルリは竜宝の国を出た。
(何故、自分で伝えないのだ?)
(竜宝達は、使って貰える事が幸せなんだ。
ちょっとした事を頼むだけでも喜ぶからね)
(そうか。アオは良い王だな)
(今頃、気付いたの?)
(あのなぁ。前言撤回するっ!)
(冗談だよ。ありがとう、ルリ)
(うむ……)
(お礼で照れないでよ)くすくす♪
アオは上機嫌で、ルリの手を引いて飛んでいる。
(それで、どこに行くのだ?)
(洞窟だよ)
(洞窟?)
(人界での住み処なんだ)
(何故、今?)
(休もうと思ってね。
ただし、検知しながらね)
(中間地点という事か?)
(そういう事。
まだ何か起こる筈だからね)
(嫌な事を言うのだな)
(そもそも何か目的が有って、偵察していたんだろうからね。
だとしたら、箱が投げ込まれたのは事故かもしれないよね。
あの箱を投げ込む為に、機を計っていたのなら、それはそれで次の手が有るだろうしね)
(ふむ……)
アオはルリと手を繋いだまま曲空した。
――竜ヶ峰、洞窟。
(広いのだな……)
(そうだね。あ、ここかな?)
扉に手を当てる。
(うん、誰も使っていないね)
(アオの部屋では無いのか?)
(俺の部屋だよ)
(どういう事だ?)
(俺は、ここには住んでいなかったんだよ)
部屋に入ったアオは、初降下から、ルリと再会するまでをかいつまんで話した。
(何度 狙われようが、襲われようが、臆する事が無い。
やはり流石、アオだな)
(無謀な、この性格は変えようが無いらしいよ)
自嘲気味に笑う。
(無謀などとは思っていない。
その勇猛果敢さはアオの魅力だ。
変わらずいてくれてホッとした)
(俺は何も変わっていないよ。
あの時から、ルリと再会するまで、俺の心の時は止まったままだったからね)
(そこまで私の事なんぞ――)(大事だからね)
(止まったままどころじゃない。
俺の心は死んでいたんだ)(大袈裟な……)
(何と言われようが本当だから)
(ん? 待て……変わっていないと言ったな?
あの少年は、そんな目で私を見ていたのか?)
(そうだね)くすくす……あははっ♪
(マセたガキだ!)同時に言った。
二人、ひとしきり笑い――
(アオ、休める時に休めよ)
(ルリは相変わらず、お姉さんだね)
(ひと晩 寝て、起きたらアオが大人になっていただけだからな。
それに中身は少年のままなのだろ?)
(そうか……なら、お姉さんでいいんだね)
(うむ……まぁ、な)(ねぇ、何で不満気なの?)
(何でも無いから早く寝ろ)(はい、ルリお姉様)
(喧嘩売っているのか?)(滅相も御座いません)
(寝る!)(うん♪ 一緒に――逃げないでよぉ)
(知らぬ)(ルリ~♪)(寝ろ!)(添い寝~♪)
(寄るなっ)(え~っ)――……
♯♯ 赤虎工房 ♯♯
アオがルリに甘えていた頃――
「アカ、壺が揺れてるんだけど……」「ん?」
アカは護竜槍を手に、壺美善に近付いた。
(護竜槍殿、壺美善殿はどうしたのだ?)
【アオ王様より御伝言が御座います、と申しております】
(ふむ。頼む)
護竜槍が伝えると、アカは道具を箱に詰め、暗室に向かった。
「アカ、どうしたの? 何か急ぎ?」
「暫く籠る。誰も入らぬよう頼む」
「食事は? 私は、どうすれば――」
「その続きを頼む」鍛冶場を指す。
「解ったわ」
「食事は要らぬ。
クロから保存食を貰っている」
「じゃあ、夜食をここに置くから食べて。
私、夜中には来ないようにするから」
「すまぬ。感謝する」部屋に入った。
行っちゃった……
今度は、何日 籠るのかしら……
出て来た。「あら? 忘れ物?」寄って来る。
「今度は長いかもしれぬ」抱きしめられた。
え……
唇が離れる。ぬくもりも――「アカ……」
暗室に入ろうとしていた背中が止まった。
「あっ、いいもの作ってね」
「うむ……」パタン。
アカは大きな鏡を壁に向け、作業を始めた。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
(そゆことで、ちょっとだけ お願いします)
(慌てなくても構わない。
静香殿に無理をさせぬよう)
(うん。様子見て動くからね)
(念のため言いはしたが、サクラがする事に心配などしてはいない。
ただ……いつも、何もかも任せてしまって、すまない)
(気にしないで~)照れ逃げっ。
(ルリ姉、アオ兄 寝た?)
(ふむ……やっと眠ったようだ。どうした?)
(うん。それならいいんだ。
ほっとくと、寝ないし食べないから)
(確かにな。
私が言っても聞かぬ。困ったものだ)
(でしょ)くすくす。
(アオそっくりな笑い方だな)
(そぉ?
でね、俺、暫く姫に付いていようと思ってるから、アオ兄の事、お願いします)
(そうだな。
クロ様が復活する迄どうするのか、私も心配していたが、サクラなら安心だ。
こちらの事は心配するな)
(うん♪ ありがと、ルリ姉)
姫は……馬車にいるね……(姫~♪)曲空。
――ハザマの森、馬車。
(サクラ、交替したのではなかったのか?)
(クロ兄が戻るまで、俺と組も~♪)
(よいのか? アオは?)
(アオ兄にはルリ姉が いるもん。
キン兄にも ちゃんと話したよ)
(然様か。忝ないのぅ。
して……クロは戻れるのかのぅ……)
あ……神眼で何か見えちゃったかな……
(だいじょぶだよぉ。
最上位の神様が解呪してくれるからね。
時間は、ちょっとかかるみたいだけど)
(然様か……ならば良いのじゃが……)
(そんなに心配しないで、ねっ。
地下魔界に行こっ)
(ふむ……そぅじゃな。
サクラは、ほんに優しぃのぅ)
(やめてぇ~)もじっ。
(王様の時とは、随分と違うのじゃな)くくっ♪
よかった~。笑ってくれた♪
(あれは……仕方ないでしょっ)真っ赤!
!!
(地下魔界だよ!)(いざ参ろぅぞ!)曲空!
――地下魔界。
(ハク兄! フジ兄! 来てっ!)
兄達が現れた。(なんでアオ兄も来てるのっ!)
(とか言ってる場合じゃなさそうだぞ……)
(とてつもなく凶悪な気ですよね……)
禍々しく濃い闇が立ち込めていた。
その闇が集まり、巨大な塊と化した。
(中に大きなものが居るぞ!)
(魔王……だよね)
闇の塊の内に、新たな闇が噴き出した。
塊が噴出に合わせて膨張する。
【子孫共! その闇は呪だ! 下がれ!!】
コバルトがアオから出、光を放った。
ビスマスも続いて放つ。
二度三度と輝きが波紋のように拡がり、塊の闇も、辺りに漂う残滓のような闇も薄れていく。
が、空かさず新たな闇が、塊の内に湧く。
キン、アオ、サクラが神以鏡から光を放つ。
フジと姫が神聖光輝を放水した。
新たな光が加わった。
【バナジン、気をつけろよ!
この闇、男にだけ呪を掛けるからな!】
【はい、父上様】
【ハク、これを使え!】鏡を投げる。
【浄化の光で放つのだ!】
(はい! ゴルチル様っ!)
(中の力が増大しているぞ!)
(魔王が膨れておるのじゃ!)
槍のように細く鋭い闇の波動が、勢いよく放射状に放たれた。
【当たるなよ! 子孫共!】
光と闇が激しく交錯する!
珊「お祖父様、何か手立てはございませんか?」
孤「有るのならば、彼奴も、かつての奴等も
戻しておる……」
紫「えっ?
これ迄に、あの呪は現れていたのですか?」
孤「同じか否かは知らぬ。
しかし、同様の事ならば知っておる」
珊「では、手立ては無いのですか……」
孤「竜に対してならば、有ると言えば有るが、
仕損じる可能性の方が遥かに高く、
仕損じれば――」
紫「……どうなるのですか?」
孤「いや、心配しても仕方あるまいて。
儂等が何を案じようが、アオは動く。
見守る他は無かろうて」
そう言うと妖狐王は、心を笑みで隠し、
姿を消した。




