対呪戦1-古狸族の特技
のんびりしていたら、また魔王が動き始めたようです。
♯♯ 地下魔界 深魔界付近 ♯♯
キン、紫苑、珊瑚が曲空した先では、二枚の鏡の間に魔物が立ち、別の魔物が、うち一枚の鏡をくぐり去ろうとしている所だった。
その二枚の鏡面に御札が貼り付き、各々から絶叫が響いた。
間に立っていた魔物が向かって来た!
キンが神以鏡から光を放つ!
光に包まれた魔物は静止し、闇黒色の被膜が剥がれるように、闇が後方に散り、消え去った。
紫苑と珊瑚が、呆然としている魔人に近寄り、浄化した。
キンは鏡を浄化し、掌を当て、どこに繋がっているのかを探り始めた。
『その御札は……そちらは王太子様ですか?』
「王太子ではありますが……貴方様は?」
「あっ」紫苑が鏡に寄り「狸玖様ですか?」
『はい。失礼を致しました。
こちらに魔人が倒れておりまし――』
「如何なさいましたか?」
『不穏な気配を感じまして――あれは!』
「参りましょう」紫苑は鏡面の御札を消した。
珊瑚が魔人を伴い鏡をくぐった。紫苑が続く。
【キン、向こうに行け】ゴルチルが現れた。
【鏡は任せろ】
「お願い致します」キンも鏡を抜けた。
♯♯ 人界 東の国 ♯♯
アオとサクラは、岩山から森を見下ろしていた。
(向こうの街に行くつもりっぽいね~)
(挟もうか)(俺あっち~)曲空。
アオは、サクラと魔物達の気の位置を確かめ、低空飛行で岩山を下った。
♯♯♯
サクラは先頭の魔物を見つけ、光を放った。
魔物達の後方からも、アオが放つ光が拡がる。
周りにもいるね……
周囲の魔物に向かって、次々と光を放つ。
アオからの光も魔物を包み、はたまた飛び去っていき、離れた所から魔物の絶叫が響く。
もぉいない?
サクラは辺りの気を探り、念のため神眼と掌握でも探った。
(サクラ、魔人を浄化しよう)
(うん……アオ兄、疲れてる?)
(そんな事ないよ。どうしたの?)
(放つ間隔が、いつもより空いてたから……)
(ああ、ルリを眠らせてるからね。
俺だけだと、あんなものだよ)
(普段はルリ姉も放ってるの?)
(交互に放っているよ)
(すご~い♪
強さも間隔もピッタリなんだねっ♪)
(そりゃあ、双青輝だからね)照れる。
アオが最初の一団を光で包んだ時、魔人を抱えたサクラが飛んで来た。
光の中に魔人達を降ろす。
(あっちの人達 連れて来る~)
飛び始めたサクラが止まった。
(追加だよ!)(行こう!)二人は曲空した。
♯♯ 地下魔界 古狸帝国 ♯♯
紫苑と珊瑚が放つ御札が、次々と稲光を引きながら飛び、触れた魔物達が光に包まれる。
キンが光を放つと、狸玖も光を放った。
狸玖の配下達も次々と光を放つ。
魔物は大した数ではなかったので、戦闘はすぐに終わった。
各々、魔物にされていた魔人達を浄化しながら――
「天竜王太子様、先程は大変な失礼を致しまして、申し訳ございません」
「御札しか見えなければ、妖狐王太子様と思うのが当然です。
そのように畏まらず、お気を楽になさってください」
「有り難き御言葉にて……」深く礼。
「魔人の皆様は、基本属性が闇だと思っておりましたが、古狸の皆様は、光を放つ事が出来るのですね」
「あれは真似ただけでございます。
私共は、自らの技は少ないのですが、真似る事は得意ですので」
「直前のものを真似るのですか?」
「はい。竜の皆様も出来るのですか?」
「双璧という天性を持つ弟が、同様の事をします」
「然様ですか。
私は若い頃、真似しか出来ない事を卑下しておりました」
「属性も何も無関係に、敵の技すらも放つ事が出来る強い力ですので、誇るべきだと思います。
私は、双璧を持つ弟を羨ましく思っています」
「ありがとうございます。
救われます御言葉にございます」
周囲を確かめに行っていた紫苑と珊瑚が、コギ達を連れて戻って来た。
「後の浄化は、コギ殿にお任せください」
「妖狐王太子様、ありがとうございます」
「キン様、人界の方に参りましょう」
「そうですね。
あの二人ならば、大丈夫だとは思いますが」
♯♯ 人界 東の国 ♯♯
キン達がアオ達の気を辿って合流した時、二人は魔人を運んでおり、カルサイが魔人達を浄化していた。
「終わったのだな?」「はい。ただ――」
「どうした?」「鏡が有るような気が……」
アオは目を閉じ、探っているようだったが、何かに阻まれているらしく、断念し、笛を取り出した。
「どうするのだ?」
「昨日の拠点の鏡に、この魔笛が反応していたので、吹いてみようかと思ったんです」
「魔笛、それだけなの?」
「サクラも吹くかい?」「うん♪」
「紫苑殿、珊瑚殿、妖笛お願い出来るかい?」
四人で吹き始めると、すぐに森の中に仄かに紅い光が明滅した。
キンが光に向かうと、地面が光っていた。
(アオ、サクラ。地中だ)(はい)(うん)
アオは鏡を掌握で取り出し、浄化の光で包んだ。
鏡面に掌を当て、確かめる。
「運び出し用だよね?」サクラも当てる。
「そうだね。向こうは深魔界の拠点だね。
キン兄さん、行きますか?」
「もうすぐ朝の交替時間だ。
ハクとフジも連れて行こう」
【鏡の道は、私が保ちましょう。
地下にも同じ鏡が有るのでは?】
「そうですね。古狸帝国に戻ろう」「はい」
――古狸帝国。
カルサイが言ったように、ここにも地中に同様の鏡が有った。
鏡は浄化の為に、全てカルサイとゴルチルに預け、各々持ち場に戻った。
♯♯♯
(アオ、そろそろ起き上がってもいいか?)
(ルリ、また治癒の眠りを解いたのかい?)
(もうとっくに何ともない。
いい加減、自由にさせてくれないか?)
(本当にルリは強いね)
恨めしそうに見上げるルリの髪を撫でた。
(相殺を解除してくれ。これでは戦えぬ)
(意地悪しているんじゃないんだよ。
休むべきだと思ったから、こうしているんだ)
(そうは言うが、ここまでしなくても――んっ……
だから、口を塞いでも話せると――やめっ――)
(ずっと一緒に生きていくんだから、無理はさせないよ。休んでいてね)
(念綱を解けっ!)(おとなしくする?)
(うっ……分かったから!)(約束だよ)
(ああ、約束する)(なら、解くからね)
(相殺は、このままなのか?)
(解いたら暴れるよね?)
(場合に依っては、そうなるかも――)
(もう少し信用して、頼って欲しいな)
(いや、そうでは――)(あ、そうだ♪)
(何だ? 何を浮かれているのだ?)
(勉強していてね♪ 大臣になるんだからね♪
相殺も解くし、融合もするから。ねっ♪)
(本当に、私なんぞが大臣になってもよいのか?)
(もう決まったんだし、やるしかないよ。
この戦が終わったら、もう戦う必要は無い。
新たな道で双青輝するんだからね)にこっ♪
(それって……私は、そんな事も言ったのか!?)
(その場しのぎでは全て叶えたよ。
でも……俺にとって、ルリの望みは全て大切だから。
一生懸けて叶え続けるからね)
(アオ……)だから、その笑顔は――
(俺がルリを選んだのは、戦う為だけじゃない。
修練の相棒に選んだ時から、そうなんだ)
アオは相殺も解除した。
そしてルリを抱きしめ――
(俺には、ルリの代わりなんて居ないんだよ)
――――――
(私……戦う事しか出来ない……
でも、アオと、ずっと一緒に居たいの。
ずっと双青輝であり続けたいの……)
(ありがとう、ルリ。
俺の方こそ、ずっと一緒に居たいんだ。
だから、ちゃんと考えているよ。
俺は政に携わる身として、これからも様々な事象と闘わなければならない。
だから、その相棒になって欲しいんだ)
(私に……出来る?)
(ルリだから出来るんだよ。
何に於いても、俺の相棒はルリだけなんだ。
俺の心の中に一緒に居るんだからね。
俺はルリに嘘なんてつけない。解るよね?)
(うん……でも、私……)
(おとなしく奥さんしていてって言っても、満足出来ない性格なのは、十分 知っているよ。
それに、家の事は蛟達が全部してしまうからね。
だから、ちゃんと考えているよ。安心してね)
ルリの顔から不安が消え、笑顔が咲いた。
――――――
これがルリの望みの ひとつだった。
父上は、俺の気持ちを察していたのか……
補佐にと言われて、俺は両手を挙げて
喜びたい気持ちだった。
(なぁ、アオ……伝わってしまっているのだが……)
ルリが恥ずかしそうにアオを見上げている。
(それとも、わざと伝えているのか?)睨む。
(あ……伝わってしまったかい?
次から、思い出す時は気をつけるよ)
(いや……いっそ全て教えてくれないか?)
(気にしないでよ。ちゃんと叶えるから)
(気になる! 小出しにするなっ!)
(さっきのは、うっかりしていたんだ。
もう伝わるなんて無いからね)
(それはそれで……やっぱり嫌だ!)
(そんなに知りたいの? 困ったな……
ルリ自身、心に秘めて望んでいる事は、ひとつひとつ分かっているよね?
全部 言ってしまったと思ってよ)
ルリは真っ赤になって黙り込んだ。
(で、俺は、そう望んでくれている事が、心底 嬉しくて、生涯 叶え続けていこうと思っているんだ)
もう一度ルリが見上げると、アオの眼差しは真剣で……
しかし、目が合うと幸せそうに微笑んだ。
凜「爽蛇♪ 捕まえた♪」
爽「凜様……」
凜「ずっと魔界に行ってたでしょ?
で、屋敷に戻って ちょっと経ったから
進展したかな~と♪」
爽「何が、で御座いますかぁ?」
凜「も・ち・ろ・ん♪」
爽「はい?」
凜「とぼけないでよね~
琉蛇さんとは、その後どうなったのよ?」
爽「は? 元々何も御座いませんからぁ」
凜「またまたぁ~♪
風ちゃんが『とーちゃ』『かーちゃ』
って呼ぶくらいの仲なんでしょ♪」
爽「そ、それはっ、
風蛇が勘違いしているだけでっ!
琉蛇さんは、お屋敷の保母さんなだけでっ!
あのっ、私よりも ずっとずーーっと!
お若いんですからっ!」
凜「蛟の皆さん、歳の差なんて
気にしてないでしょ♪」
爽「わ、私は気にしますからっ!」
凜「ふぅん。
でも、好きなんでしょ?」
爽「そ……れ、は……」
凜「なんでしょ?♪」
爽「いえっ! 何でも御座いませんのでっ!」
凜「頑固だなぁ。
認めちゃいなさいよ~」
爽「失礼致しますっ!」逃げっ!
凜「認めたに等しいよね~♪」




