静けさ2-虹紲大臣
ミドリとの三界旅行から帰城したギンは、
コハクから、アオの考えを聞いたようです。
♯♯ 天竜王城 ギンの執務室 ♯♯
扉を叩く軽やかな音がした。
「アオか? 入れ」
――が、扉は開かず――
四人、曲空して来た。
「失礼致します」揃って礼。
「何だ? 団体で……」
「父上だけなのですか?」
「呼べば集まるが……何やら楽しそうだな」
「いろいろあった結果ですよ。
お呼びの件は、大臣の方ですか?
それとも、新婚旅行の土産話ですか?」
「親の惚気話なんか聞きたいのか?
当然、大臣の方だ」
「話してくださらないのですか……残念です」
「お前とルリさんの話なら聞くぞ」ニヤリ。
「そうですか? それなら――」ルリが小突く。
「どうしたの? ルリ」「話が進まぬだろ」
「と、申しておりますので、それはまたの機会に。
大臣の件は、どのようにお考えなのですか?」
「ふむ。コハクから聞いた限りでは、全面的に賛成だ。
双方、助け合いが必要だと俺も思う」
「ありがとうございます」にこっ。
「サクラも即位した事だし、一日も早く就任して欲しい。
そこでだ、大臣の名称だが……考えているか?」
「一応は。
懸け橋とか絆とかを表す意味で、絆を結ぶ術と同じ『虹紲』を付けるのは如何でしょうか?」
「虹紲大臣か……ふむ、それでいいだろう。
現大臣達に打診した所では反対は無い。
と言うか、アオが加わる事を大歓迎している。
明日、この件に関する会議を開くが、まぁすんなり通るだろう。
虹藍様、そちらは如何ですか?」
「はい。こちらでは本日の会議にて、アオ様にお願い致したいと決まりましたので、早い程 嬉しく存じます」
「そうですか」にこにこ♪「これで決まりだな」
四人、安堵の息をつく。
「ただなぁ……」「何か?」
「ひとつ条件が有る」「何でしょう?」
「ルリさんを補佐に付ける事」「えっ!?」
ルリが声を上げ、わたわたしている。
(無理だ! アオ、何とかしてくれっ!)
(大丈夫だよ。別行動はしないからね)
「なんなら二人共、虹紲大臣という事でも――」
「父上が、この姿を御覧になりたいだけではないという事でしたら、どちらでも構いません。
ルリを就任させる理由を仰ってください」
「女性の意見も重要だと考えるからだ」
「それでしたら、喜んでお引き受け致します。
別行動は難しいので、共に行動致しますが、よろしいでしょうか?」
「それはそうなるだろ。
片方は複製なのだからな。
で、補佐にするのか?」
「女性の意見も、と仰るのでしたら、二人で虹紲大臣でしょう」
「アオ!」
「そうか。では、それで会議に掛ける。
おい、廊下の奴等、入っていいぞ」
扉が そっと開き、ハクが顔を覗かせた。
「心配なんぞしなくても反対しやしねぇよ」
「父上が何も言ってくれねぇから、心配にもなるって~」
言いながらハクが入り――
ぞろぞろと王子と婚約者達が続き、コハクとミドリ、最後にアサギが入った。
「こんなに居たのか……」
「皆様、御心配くださり、ありがとうございます」
礼。ルリも慌てて礼。
「ギンがゴネ始めたら、止めねばならんと思ってな」
コハクが笑う。
「一体、俺は皆に、どう思われているんだ?」
皆の視線が、ギンとハクを交互に移った。
「俺、父上と同じ扱いなのか!?」
「ハク、不服そうだな」「いやっ! その――」
「親子だから似て当然という事にしておかないか?」
アサギも笑う。
「親子……」「どうした? ミドリ」
「儀式でなく揃ったのって、初めてではなくて? ねぇ、あなた♪」
ギンに駆け寄る。
「言われてみれば……そうだな」
「皆、立派になって……お相手も揃っていて……
こんな幸せに満ちた光景、初めてだわ!」
「大袈裟だなぁ」
「でも、ずっと離れて暮らしていたのよ……
育てる事も出来なかったのよ……」
「泣くなよ……やっと夫婦を始めたんだ。
これから、親子も始めればいい」
「本当!? よろしいの?
子供達に会っても……触れてもよろしいの?」
「そう変えていくつもりなのだろ? アオ」
「御存知でしたか。
王族であっても、幼少期と成人以降は会えるよう、変えようと思っていました」
「アオ、その複製で子も成せるのか?」
「流石に、それは無理ですよ。
自分の為ではなく未来の為に、そうすべきだと考えたんです」
きゅる? 胸元から顔を出した。
「あ、キュルリ、起きたの?
俺達の子供は、この子ですので」
掌に乗せる。
きゅ~るる♪ ルリの胸に、ぴとっ。「あ……」
ルリが落ちないよう手を添え、目を細めた。
それを見て、
「だから変えようと思ったんです」
アオも微笑んだ。
ルリの望みは、いくつか有ったけど……
――――――
(アオの……子供が欲しいの……)
予想はしていたけど……
さて、どうしようか……
【アオ~♪ あそぶ~♪】
あ……こんな時に起きてしまったのか。
いや……
キュルリを俺達の子供として認めさせれば――
「キュルリ、俺達の子供になるかい?」
【こども? ボク、アオの こども?】
「うん。俺とルリの子供だよ」
複製を作り、
「ルリ、俺達の子と遊ぼう」光の球を投げた。
キュルリが追う。
「キュルリ、母様に渡して」
【かぁさま、は~い♪】ぽ~ん♪
ルリが笑顔になり、「はい♪」ぽ~ん♪
――――――
そうして、キュルリが満足して眠るまで遊び――
眠ったキュルリを胸に抱いて、ルリも眠った。
優しく微笑むようなルリの寝顔を見ていると、
愛おしくて堪らなくなって、
俺は二人を包むように抱き、一緒に眠った。
目を覚ますと、ルリの呪は消えていた。
「父上、キュルリも一緒に行動しても構いませんよね?」
「まぁ、他人から見れば、ただの竜宝だからな。
問題無いだろ」
「これで、だいたい決まりましたよね。
日程はお任せ致します。
では、失礼させて頂きます」
「もう行くのか?」
「キュルリが遊びたがっていますので」にこっ。
♯♯♯
「アオ、どこに行くのだ?」
「もう一度、竜宝の国の祠だよ」曲空。
――祠の入口。
「ルリの望みの ひとつは、実現 出来なくてね」
「だが、呪は解けているぞ」話しながら入る。
【かぁさま♪ あそんで~♪】ふよふよ♪
「キュルリ……話せるのか?
えっ!? 母様だと!?」
【かぁさま すき~♪】すりすり~♪
「だから、俺達の子供だよ」ぽ~ん。【あ♪】
「私は……そんな望みを……」【かぁさま♪】
「持って来たのか?」【はい♪】ふよよ~♪
「キュルリ、行くぞ」ぽ~ん。【きゃあ♪】
【アオ~♪】「運ぶ遊びになったのかい?」
ふよふよ~♪ 【こっち~♪】
「よ~し」ぽ~ん。
【は~い♪】「アオは父様ではないのか?」
【とぉさま?】首を傾げる。「アオの事だ」
ぽ~ん。【アオ、とぉさま、アオ、とぉさま♪】
「混乱したかな……」【はい♪ とぉさま♪】
「理解しているようだぞ」【かぁさま♪】
「可愛いだろ?」「可愛いな」
【ボク かわいい~♪】ぴょこぴょこ♪
「キュルリ、おいで」
少し恐る恐る、ルリは両手を差し出した。
【あ♪ は~い♪】掌に乗った。
――のかと思ったら、掌から胸に跳んだ。
【かぁさま~♪】すりすり♪
ルリは驚きながらも受け止め、キュルリを撫でた。
キュルリが くすぐったそうに笑い、アオとルリも、暖かい何かに包まれたような気持ちで、一緒に笑った。
キュルリは、アオの因子を持つ『写し身』、
つまり、アオの性格を写したもの、なんです。
でも……かなりサクラっぽいような……
まぁ、アオもルリに甘えている時は、
似たようなものですよね。
青「また勝手な事を――」
瑠「正しいではないか」
青「ルリ~」
瑠「その通りだろ?」
凜「ですよね~♪
アオは、サクラみたいって言われるの
嫌なの? サクラは喜ぶのに」
青「嫌とか、そういう事じゃなくて――」
瑠「だが、嫌がっているだろ?」
凜「ですよね~♪」
桜「アオ兄……俺のコト、キライなの?」
青「サクラ、違うからね。大好きだから」
瑠「安心しろ、サクラ。
アオはサクラの真似が上手いくらいに
サクラの事が好きだ」
桜「ホント!?♪」
青「ルリ~」
瑠「本当だ。根底が同じだという事が
よく分かる程にな」
桜「うんっ♪ アオ兄もルリ姉も大好き~♪」
アオも、まんざらでは無さそうだ。
青「凜!!」真っ赤っか!




