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三界奇譚  作者: みや凜
第一章 竜ヶ島編
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砂漠編17-母上

 前回まで:紫苑と珊瑚が拐われ、アオと慎玄は動けません。


♯♯ 天界 ♯♯


 天界の門をくぐったフジとサクラは、門の近くに長老達が出て来ている事に気付き、余程な大事が起こったのだと思った。


「お爺様方、このような所にお出になるとは、如何なさいましたか?」


「おお、フジ、サクラ、よぉ来たのぉ」

 フジ、やっと気付いてくれたかぁ


「あれぇ、意外と普通~」


「ハク坊からは、クロ坊の事しか聞いておらなんだが――」


「ハク兄から、長老の山に行くように言われたんだよ~」


「ということは……アレじゃな」


長老達が顔を寄せ、声を潜める。

「じゃが、会わせる事は出来ぬぞ」

「そうは言うが、この子らなら解決できるやもしれんぞ」

「しかし、のぉ……」


「お爺様、長老の山で何が……?」


「ま、すぐ判る事じゃな。

説明するより――行ってみようかの」


「はい」


「よっ……こぃせっ……と」


 人と違い、竜は生きている限り大きくなる。

長老達は、巨大な身体をゆっくりと浮かせ、飛び始めた。


 仙竜丸が、長老の山に有る事は確かですが――


「お爺様方、今、仙竜丸をお持ちでしょうか?」


「誰か、魔物に、やられたのか?」


「ええ……アオ兄様が……」


「ワシの薬袋に、二つ入っておるが、足りるかのぅ」


「はい、急ぎ分は。

ありがとうございます、お爺様」


深々と優雅に一礼すると、フジは人界に向かった。




♯♯ 人界 ♯♯


 幼い頃から、モモの元で薬草について学んでいたので、穏やかで優雅なフジだが、飛ぶ事に関しては、兄弟の中で一番速い。

蛟の見込みより、かなり早く戻り、アオと慎玄に仙竜丸を飲ませる事ができた。


「どうだ?」クロが小屋に入って来る。


「僧侶様にも効いているようです」


「やはり、この僧侶は――」


「ええ。おそらく、竜の血筋ですね」


「だな。

あの輪『竜殺し』は、人には、ただの拘束具でしかない筈だ」


「二人は、すぐに回復すると思います。

蛟殿も、まだ十分ではありません。

クロ兄様、滋養のあるものを宜しくお願いします」


「オレの本分だ。任せとけって」


「では、サクラが心配ですので……」


「ああ、そっちは頼んだ」


フジは、再び昇って行った。




♯♯ 天界 ♯♯


 のんびり飛んでていいのかなぁ……


サクラは、長老達の後を飛んでいた。

長老の山の手前に在る山々を越えた時、けたたましい金切声が響いた。


「ふえっ!?」「母上様の声ですね」

フジが追い付いた。


「フジ兄、やっぱ速いね~♪

で、俺が呼ばれたの、コレだと思う?」


「サクラ以外に解決できる者は、いないでしょう」にこり


「嬉しくな~いっ!」


母の声は、どんどん大きくなっていく。


 お腹 痛くなってきた……


気分が急降下していくサクラであった。


「お爺様、母上様と話してもよろしいのですか?」


「まぁ……特別に、長老会の総意という事でな」


「解りました」


と、応えたものの、次第に会話も困難になっていく状況に、さすがのフジも、ため息を漏らしたのだった。



♯♯♯♯♯♯



 モモは、ハクを見送り、ミドリが騒いでいる部屋に入った。

その部屋は、千里眼の()に続いており、千里眼の間への扉の前には、大婆(おおばば)様が座っていた。


「ミドリ殿、大婆様までも動かしてしまうとは……

王妃として、礼節を(わきま)え、(おきて)を重んじなさらぬか」


モモの声は静かだが、いつもの穏やかさは無い。


ミドリは一瞬 怯んだが、

「で……でもっ!

我が子が心配でない母が居りましょうか?」


「あの子達は、必死で務めを果たしておる。

母ならば、もっと信用してやらぬか?

王妃として威厳を以て、無事 戻るまで静かに待つ事は出来ぬのか?」


「でも……でも……せめて、ひと目……

安心させてくださいませ!」


「それは、掟に(そむ)く事だと何度も申しましたでしょう?

あなたの身勝手な行動で、あの子達の王位継承権が剥奪されても、よろしいのですか?」


「それは……モモ様さえ、黙認くだされば……」


「お黙りなされよ!」


「ひっ……」



 フジとサクラが、母がいる部屋の入口扉の前に着いた時、モモの凛とした声が聞こえた。


二人は、顔を見合せ――


(このお声は――)(モモお婆様……だよね?)

(扉の向こうの気は――)(モモお婆様だよ♪)

(でも……お声が……)(話しかけてみない?)


(そうですね)(うんっ)

(サクラ……)(ここはフジ兄でしょ)


半信半疑のまま扉に向かい、啜り泣く母に聞こえないよう小声で、

「モモお婆様、フジです。サクラも居ります。

お爺様方の許可は、頂いております。

母と話すことは出来ますか?」


モモは目を閉じ、暫し考えていたが、

「大婆様、爺様達が、フジとサクラを連れて来たようです。

如何いたしましょう?」


大婆様は、ゆっくり頷いた。


「ミドリ殿、あなたの声は、人界にまで届いたようですよ。

情けない事です。

このような事、今回限りと誓えますか?」


「はい。もう二度と騒ぎません!」


扉に駆け寄ろうとしたミドリを、モモが制した。


「そこから動かぬこと。ひと言ずつですよ」


「はいっ!」


「サクラ、フジ、来てくれたのですね……

皆、元気でいるのですか?

母が恋しくなったりしていませんか?」


(ないない~)(サクラ……)(ホントだし~)

(とにかく話してください)(ん~~)ため息。


「サクラです。

お母様、みんな無事ですから、ご心配なさらないで」

いつものヤンチャさを微塵も感じさせない可愛い声を出す。


「そうなの?

私、アオが行方不明と聞いて、居ても立ってもいられず……あっ!

取り乱して申し訳ありませんでした!」

ミドリは、大婆様とモモに頭を下げた。


「フジです。

ここに来るまで、アオ兄様と一緒にいたのですよ」


「僕達、ちゃんと力を合わせてるし、みんな揃って帰るから待っててね」


「ええ……ええ! 待っていますよ!」


「では、人界に戻りますね。

お婆様方、ありがとうございました」


フジとサクラは、扉の向こうの大婆様とモモに頭を下げた。


母は、また泣いていたが、二人は、それ以上 声は掛けず、そっと離れた。




 モモは、ミドリに近付き、そっと抱きしめ、優しく語りかけた。

「母としては辛いところですが、王家に嫁いだのです。

何があろうと、王妃としての振る舞いをしなければなりません」


「……はい」


「落ち着きましたか?」


「はい」


モモは、ゆっくり離れると、控えていた蛟達に、

「王妃様のお帰りです。宜しく頼みますよ」

いつものように優しく微笑んだ。




♯♯ 人界 ♯♯


 フジとサクラは、仙竜丸と団子を貰い、再び砂漠に降り立った。

小屋に入ると、回復したアオと慎玄も一緒に、皆で策を講じていた。


「クロ兄様、仙竜丸です。

それと団子を頂いたのですが、お邪魔でしたら持ち帰りま――」


「モモ婆様のかっ!?」

ガバッと顔を上げるクロ。


「ええ 勿論」「食う! 休憩だっ!」



 団子は絶品だった。

アオは懐かしさを感じていた。


「美味じゃのぅ♪」

と、騒いでいた姫が、急に静かになり、持っている皿に涙が落ちた。


「紫苑と珊瑚にも、食べさせてやりたいものよのぅ」


「だから、明日、迎えに行くんだよ」


「ああ。団子は、また貰って来てやる」


「食べたら、もう一度、策を練りましょう」


泣きながら、頷きながら、でも、団子を食べ続ける姫だった。





凜「サクラ、お疲れさま~」


桜「ハク兄に騙されたぁ」ぷんっ


凜「でも、団子は本当だったじゃない」


桜「そぉだけど~」


凜「更に猫かぶりっコなサクラが出たね~♪」


桜「やぁ~んっ!」


凜「もっかい、あのカワイイ声 出してよ」


桜「出しません!」キッ


凜「あ……」


桜「あ……()に戻っちゃった~」てへっ


凜「サクラって……」


桜「忘れて~っ!」


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