砂漠編17-母上
前回まで:紫苑と珊瑚が拐われ、アオと慎玄は動けません。
♯♯ 天界 ♯♯
天界の門をくぐったフジとサクラは、門の近くに長老達が出て来ている事に気付き、余程な大事が起こったのだと思った。
「お爺様方、このような所にお出になるとは、如何なさいましたか?」
「おお、フジ、サクラ、よぉ来たのぉ」
フジ、やっと気付いてくれたかぁ
「あれぇ、意外と普通~」
「ハク坊からは、クロ坊の事しか聞いておらなんだが――」
「ハク兄から、長老の山に行くように言われたんだよ~」
「ということは……アレじゃな」
長老達が顔を寄せ、声を潜める。
「じゃが、会わせる事は出来ぬぞ」
「そうは言うが、この子らなら解決できるやもしれんぞ」
「しかし、のぉ……」
「お爺様、長老の山で何が……?」
「ま、すぐ判る事じゃな。
説明するより――行ってみようかの」
「はい」
「よっ……こぃせっ……と」
人と違い、竜は生きている限り大きくなる。
長老達は、巨大な身体をゆっくりと浮かせ、飛び始めた。
仙竜丸が、長老の山に有る事は確かですが――
「お爺様方、今、仙竜丸をお持ちでしょうか?」
「誰か、魔物に、やられたのか?」
「ええ……アオ兄様が……」
「ワシの薬袋に、二つ入っておるが、足りるかのぅ」
「はい、急ぎ分は。
ありがとうございます、お爺様」
深々と優雅に一礼すると、フジは人界に向かった。
♯♯ 人界 ♯♯
幼い頃から、モモの元で薬草について学んでいたので、穏やかで優雅なフジだが、飛ぶ事に関しては、兄弟の中で一番速い。
蛟の見込みより、かなり早く戻り、アオと慎玄に仙竜丸を飲ませる事ができた。
「どうだ?」クロが小屋に入って来る。
「僧侶様にも効いているようです」
「やはり、この僧侶は――」
「ええ。おそらく、竜の血筋ですね」
「だな。
あの輪『竜殺し』は、人には、ただの拘束具でしかない筈だ」
「二人は、すぐに回復すると思います。
蛟殿も、まだ十分ではありません。
クロ兄様、滋養のあるものを宜しくお願いします」
「オレの本分だ。任せとけって」
「では、サクラが心配ですので……」
「ああ、そっちは頼んだ」
フジは、再び昇って行った。
♯♯ 天界 ♯♯
のんびり飛んでていいのかなぁ……
サクラは、長老達の後を飛んでいた。
長老の山の手前に在る山々を越えた時、けたたましい金切声が響いた。
「ふえっ!?」「母上様の声ですね」
フジが追い付いた。
「フジ兄、やっぱ速いね~♪
で、俺が呼ばれたの、コレだと思う?」
「サクラ以外に解決できる者は、いないでしょう」にこり
「嬉しくな~いっ!」
母の声は、どんどん大きくなっていく。
お腹 痛くなってきた……
気分が急降下していくサクラであった。
「お爺様、母上様と話してもよろしいのですか?」
「まぁ……特別に、長老会の総意という事でな」
「解りました」
と、応えたものの、次第に会話も困難になっていく状況に、さすがのフジも、ため息を漏らしたのだった。
♯♯♯♯♯♯
モモは、ハクを見送り、ミドリが騒いでいる部屋に入った。
その部屋は、千里眼の間に続いており、千里眼の間への扉の前には、大婆様が座っていた。
「ミドリ殿、大婆様までも動かしてしまうとは……
王妃として、礼節を弁え、掟を重んじなさらぬか」
モモの声は静かだが、いつもの穏やかさは無い。
ミドリは一瞬 怯んだが、
「で……でもっ!
我が子が心配でない母が居りましょうか?」
「あの子達は、必死で務めを果たしておる。
母ならば、もっと信用してやらぬか?
王妃として威厳を以て、無事 戻るまで静かに待つ事は出来ぬのか?」
「でも……でも……せめて、ひと目……
安心させてくださいませ!」
「それは、掟に背く事だと何度も申しましたでしょう?
あなたの身勝手な行動で、あの子達の王位継承権が剥奪されても、よろしいのですか?」
「それは……モモ様さえ、黙認くだされば……」
「お黙りなされよ!」
「ひっ……」
フジとサクラが、母がいる部屋の入口扉の前に着いた時、モモの凛とした声が聞こえた。
二人は、顔を見合せ――
(このお声は――)(モモお婆様……だよね?)
(扉の向こうの気は――)(モモお婆様だよ♪)
(でも……お声が……)(話しかけてみない?)
(そうですね)(うんっ)
(サクラ……)(ここはフジ兄でしょ)
半信半疑のまま扉に向かい、啜り泣く母に聞こえないよう小声で、
「モモお婆様、フジです。サクラも居ります。
お爺様方の許可は、頂いております。
母と話すことは出来ますか?」
モモは目を閉じ、暫し考えていたが、
「大婆様、爺様達が、フジとサクラを連れて来たようです。
如何いたしましょう?」
大婆様は、ゆっくり頷いた。
「ミドリ殿、あなたの声は、人界にまで届いたようですよ。
情けない事です。
このような事、今回限りと誓えますか?」
「はい。もう二度と騒ぎません!」
扉に駆け寄ろうとしたミドリを、モモが制した。
「そこから動かぬこと。ひと言ずつですよ」
「はいっ!」
「サクラ、フジ、来てくれたのですね……
皆、元気でいるのですか?
母が恋しくなったりしていませんか?」
(ないない~)(サクラ……)(ホントだし~)
(とにかく話してください)(ん~~)ため息。
「サクラです。
お母様、みんな無事ですから、ご心配なさらないで」
いつものヤンチャさを微塵も感じさせない可愛い声を出す。
「そうなの?
私、アオが行方不明と聞いて、居ても立ってもいられず……あっ!
取り乱して申し訳ありませんでした!」
ミドリは、大婆様とモモに頭を下げた。
「フジです。
ここに来るまで、アオ兄様と一緒にいたのですよ」
「僕達、ちゃんと力を合わせてるし、みんな揃って帰るから待っててね」
「ええ……ええ! 待っていますよ!」
「では、人界に戻りますね。
お婆様方、ありがとうございました」
フジとサクラは、扉の向こうの大婆様とモモに頭を下げた。
母は、また泣いていたが、二人は、それ以上 声は掛けず、そっと離れた。
モモは、ミドリに近付き、そっと抱きしめ、優しく語りかけた。
「母としては辛いところですが、王家に嫁いだのです。
何があろうと、王妃としての振る舞いをしなければなりません」
「……はい」
「落ち着きましたか?」
「はい」
モモは、ゆっくり離れると、控えていた蛟達に、
「王妃様のお帰りです。宜しく頼みますよ」
いつものように優しく微笑んだ。
♯♯ 人界 ♯♯
フジとサクラは、仙竜丸と団子を貰い、再び砂漠に降り立った。
小屋に入ると、回復したアオと慎玄も一緒に、皆で策を講じていた。
「クロ兄様、仙竜丸です。
それと団子を頂いたのですが、お邪魔でしたら持ち帰りま――」
「モモ婆様のかっ!?」
ガバッと顔を上げるクロ。
「ええ 勿論」「食う! 休憩だっ!」
団子は絶品だった。
アオは懐かしさを感じていた。
「美味じゃのぅ♪」
と、騒いでいた姫が、急に静かになり、持っている皿に涙が落ちた。
「紫苑と珊瑚にも、食べさせてやりたいものよのぅ」
「だから、明日、迎えに行くんだよ」
「ああ。団子は、また貰って来てやる」
「食べたら、もう一度、策を練りましょう」
泣きながら、頷きながら、でも、団子を食べ続ける姫だった。
凜「サクラ、お疲れさま~」
桜「ハク兄に騙されたぁ」ぷんっ
凜「でも、団子は本当だったじゃない」
桜「そぉだけど~」
凜「更に猫かぶりっコなサクラが出たね~♪」
桜「やぁ~んっ!」
凜「もっかい、あのカワイイ声 出してよ」
桜「出しません!」キッ
凜「あ……」
桜「あ……素に戻っちゃった~」てへっ
凜「サクラって……」
桜「忘れて~っ!」




