深魔砦3-盲目的渇望の呪
また登場しました。姫の軟膏。
蛟は塗っても大丈夫だったんですけどね。
竜達にとっては死ぬかもしれないくらい
怖~いモノです。
♯♯ 深魔界 拠点 ♯♯
アオとサクラが、火神子山で戦っていた頃――
「ハク、本当に王に成るつもりなのか?」
「覚悟したから王太子になったんだよ」
「あの程度で音を上げる程度の覚悟なのか?」
「いや……それは――」
「執務は全てアオに押し付けるつもりか?」
「う……」「そうなのだな?」「いや、あの……」
「その王太子らしからぬ立ち居振る舞いは、振りだと思っていたのだが、そうではないのか?
先日ルリ殿からも、民を失望させるな、と説教されたではないか」
「あれは、この姿で普段通り座っただけで――
なぁ兄貴、いつまでこのままなんだ?」
「話を逸らすな。
いつ魔王が戻るか分からないからな」ため息。
一度 視線を逸らしたハクが、真剣な眼差しをキンに向けた。
「勿論これは振りだ。
ガキの頃のような事は無いから、もう心配しないでくれよ。
ただ……
即位する迄は、このままでいさせて欲しいんだ。
サクラは、さっさと王に成っちまったが、あとの四人には、もう少し気楽でいいんだと思っていて欲しいんだよ」
「そうか……ハクの想いを知らず、強く言ってしまって、すまない。
私には出来ぬ事だ……それは任せた」
「ありがとう、兄貴」
「だがな。
魔王が逃げる程も暴れるのは、やり過ぎだ」
「まさか、あの程度で逃げるとは思わなかったんだよぉ」
「ふむ……確かにな。という事は、まだ何かしら有る、と考えるべきだな」
♯♯♯
「クロ、地下に何やら有るよぅじゃぞ」
「そうだな……この階には下への階段も、穴すらも無かったよな?」
「これも隠し部屋かのぅ」
「闇も生命力も見えねぇな」「そぅじゃな」
「行ってみるか」「クロは、ここで待っておれ」
「何でだよっ!」「男じゃからじゃ」
「何も無ぇだろ」「ワナであろぅよ」
「尚更だろっ!」「困ったヤツじゃ」
「行くぞっ!!」「ならば――」ちょん。
「のあーっ! バカ姫っ! だああーっ!」
「待っておれよ」曲空。
「死ぬぅーっ! 千里眼! フジにっ!
頼むっ! 助けてっ!! 早くっ!!」
『はいっ!』現れた。「クロ兄様、何がっ――
あ……犬も食わないとか言う、あれですか?」
「いいからっ! 早く洗ってくれっっ!!」
「姫様は?」「地下の隠し部屋! 早く!」
「無理矢理 行こうとして、塗られたのですね?」
「行ったら悪ぃのかよ! 洗ってくれーっ!」
「それが解らないのなら洗浄出来ません。
姫様でしたら、死ぬ程の量を塗ったりなさらないでしょうからね」
とはいえ……可哀想ではありますね……
「行かないと約束してくださるのでしたら、洗浄しますよ」
「する! 約束するっ! だから早く!」
「確かに聞きましたよ」洗浄。
「助かった~」ぐったり……
「神眼で見ていてあげたらいかがですか?」
「いや……」立ち上がる。
「間に合わなかったら――」
「先程、約束しましたよね?」睨む。
「その部屋には行かねぇ。
部屋の横にある空間に――」すぽっ。「え!?」
「キン兄様とハク兄様を呼んで参ります」
「おいっ! フジ! これは何だっ!!」
「相殺ですよ」曲空。
「相殺って光の技だろ! 何で使えんだよ!」
フジはキンだけを連れて戻った。
「ふむ。ならば、フジは私を送り込んだら、ここに戻るのだな?」
「はい。先程のようになってしまうと、甚だしくご迷惑をおかけしますので」
「クロ、そこから、しっかり見ているのだな。
フジ、頼む」「はい」曲空。
フジが戻った。
「何で相殺なんか使えんだよぉ」
「アオ兄様とサクラから、技の大器に光技をいくつか入れて頂いたのです。
クロ兄様も曲空など風技をくださったではありませんか」
「もしかして、女にもなれるんじゃ――」
「あ……ありますね……蒼月煌。
戻る方が緋月煌。それなら――」変わる。
「行って参ります」曲空。
「おいっ! コレ解いてってくれよぉ」
――地下室。
「フジか?」「はい♪」「出来たのか……」
「アオ兄様から頂いた中に有りました♪」
「そうか。今、闇が現れた所だ」「はいっ」
キンとフジは、姫を挟んで身構えた。
「魔王が戻って来よるぞ!」一点を指す。
キンが光を、フジと姫が神聖光輝を放った。
「今度は複数じゃ!」視線で示す。
次々消していく。「此奴らは、欠片じゃ!」
宙を睨む。「本体は、そこじゃっ!」激放水!
一瞬 遅れてキンが光を放ち、二人の交点にフジが放水した。
絶叫――が途切れた。
「また逃げたようだな」「そぅじゃな……」
「じゃが……まだ何やら――」見回す。
「あっ! クロ兄様が、この部屋の横に空間が有ると――」
「見つけた! そこじゃ!」
姫は放水で、その場所を示した。
「闇が入っておるぞ!
その奥に鏡が有るよぅじゃ!」
神聖光輝が当たった壁に、扉が現れる。
扉は水流を押し退けるかのように、部屋の中に向かって飛んで来た。
闇が雪崩れ込む!
キンが光の牆壁で塞いだ。
「この闇……これまでの闇とは違う!
一先ず退――」牆壁が弾け散る!「クロ!?」
「すまねぇっ! ヤられた!」ハクが現れた。
クロが迫る!
「拐われたと思ったら、こっちにっ」身構える。
閃光が迸った!「兄貴達! 逃げて!!」
最初に現れた闇が掻き消えていく。
フジは皆を掴んで曲空した。
「光輝神雷もどきっ!!」再び閃光が迸る!
二度三度と続けて放った光で、雪崩れ込んだ闇も消滅した。
サクラは纏っている輝きを増した。
その輝きで室内が露になる 。
クロから湧き立つ闇が漂う。
この闇に触れると、呪が掛かる……
間合いを保ち、閃光を放ち続け、闇を浄化する。
浄化で少しは薄れるけど、
これの解呪は知らないから……
アオ兄は、望みを叶えたら解ける筈だって
言ったよね……それなら――
「クロ兄、何がしたいの?」
「姫は……どこだ!?」
「会いたいの?」「隠したのはサクラか!?」
「違うよ。落ち着いて――」「どこだっ!!」
クロは辺り構わず破壊し始めた。「姫っ!!」
「クロ兄! やめてっ!」「姫を出せっ!!」
纏わり付いていた闇は消えたね。
サクラはクロの懐に曲空し、浄化の光で包んだ。
「相殺の極みっ!」更に包む。
(姫、闇は消したから、来て)(あい解った!)
(兄貴達は、まだだよっ!)(大丈夫なのか?)
(たぶんね)(その口調では――)(大丈夫!)
(姫、クロ兄は、呪で我を失ってるんだ。
望みが叶えば、呪は解ける。
姫にしか出来ないから……
危なくなったら、絶対 助けるから、クロ兄の懐に曲空して!)
(任せよ!)曲空! 「姫……姫!♪」ぎゅっ。
ぱぁーーーんっ!! ぐわっしゃっ!!
「まったく!
何度、操られれば気が済むのじゃっ!!」
「姫ぇ~、ってぇ……」瓦礫の中から這い出た。
「大事無いか?」手を差し伸べる。
「クロ……心配させおって……ばかクロ~」
姫は泣きながらクロの胸に飛び込んだ。
サクラは兄達が待つ通路へと曲空した。
「サクラ、二人は?」「だいじょぶ~♪」
「そうか」フッ…… 「うんっ♪」
「あの闇は何だったのですか?」
「ん~とぉ……望みを叶えるためなら手段を選ばない、この世が滅んでもいいってくらいの強烈な衝動に駆られる呪を掛ける闇だよ」
「サクラ……何故それを?」
「って、アオ兄が言ってた~」
「そういや、アオはどうしたんだ?」
「ちょっと、ルリ姉と、おでかけ~♪」
「え……?」「そっか~♪」「……ふむ……」
(サクラ、本当は何が有ったのだ?)
(火神子山にも魔王の欠片達が出たんだ。
ルリ姉とアカ兄が、掌握で掴んだんだけど、それで呪が掛かってしまって……)
(アカが来たのか?)(うん、偶然ね)
(それで、二人は……?)
(アカ兄は金虎様にお願いして、ルリ姉の事はアオ兄に任せるしかないから、俺はこっちに戻ったんだ。
アオ兄が、こっちも同じ闇に襲われるだろうから行けって……)
(サクラ、また自分のせいで、などと思っているのではないか?)
(だって、そうでしょ?
俺が行ったから、アオ兄は――)
(アオは、そんな事は言わなかったのだろう?)
(……うん。
各々、自分の考えで、納得しての行動だから、気にするなって……でも……)
(アオは思ったままを伝えたのだ。
勝手に自分を責めるものではない)
(ありがと……キン兄)
(こう言っては何だが……
呪に掛かったのがアオでない事は、不幸中の幸いなのかも知れないな……)
(うん……だからきっと……ううん。間違いなく、ルリ姉は盾になったんだと思う。
掌握を発動してたのはルリ姉だけど、アオ兄の体で、アオ兄の天性なんだから、呪はアオ兄に掛かった筈なんだ。
何が入って来たのか解った上で、ルリ姉は、アオ兄と、この世界を護ったんだと思うよ)
(そうか……本当に強いのだな。あの二人は……)
姫「クロ、鍛え方が足りぬのではないか?」
黒「姫ぇ~、どうやって呪に対して
鍛えるんだよぉ」
姫「しかしサクラは、その呪の闇を消して
ワラワを呼んだのじゃぞ」
黒「サクラは光だからだよぉ」
姫「では、サクラから力を貰わねばならぬな」
黒「えっ!?
まさか……サクラに供与してもらう
つもりなのか?」
姫「その通りじゃ。アオでもよいがのぅ」
黒「ちょっ! おいっ!」
姫「光の力が必要じゃからの♪」
黒「いや、待てよっ!!」
姫「先程から何を慌てておるのじゃ?」
黒「だって……供与してもらうって……」
姫「まさか己と同じじゃと思ぅておるのか?
あのよぅな供与はクロだけじゃと
聞いておるわ。
アオとサクラは掌を翳すだけじゃ」
黒「あ……そっか……」
姫「勉強せねばならぬのは、算術だけでは
ないよぅじゃの」
黒「ゲッ……」
それでも姫はクロが大好きです。




