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三界奇譚  作者: みや凜
第一章 竜ヶ島編
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砂漠編16-雅剣と玉

 いつまでも若いって羨ま――あ、いやいや……


 闇が晴れ、高く昇った陽の光に照らされた黒輝の竜(クロ)が姿を見せた。


「おぉ♪ クロ♪」弾むように駆け寄る。


「クロ様ぁ~♪」背に慎玄を乗せて飛んで来る。


黒輝の竜は、ゆっくり降下して人姿になると、

「遅くなって、すまなかった」

アオが立ち上がるのを支えながら、頭を下げた。


「クロも戦ぅてくれるのか?」


姫の問いに頷くクロ。


「ならば千人力じゃ♪

すぐに紫苑と珊瑚を迎えに行こぅぞ♪」


「そういえば……二人は……?」キョロキョロ


「さっきの狐じゃ……」


「まさか……」


皆、無言で視線を落とす。


「いや……言われてみれば、微かな魔人の気が有ったな……しかし……」


「何をブツブツ申しておるのじゃ。

魔物に姿を変えられただけであろぅ?」


「あ、いや……

妖狐は、魔族の中でも人と親密だったから、もしやと思って――」


「二人が人で有ろぅが無かろぅが、どぅでもよい。友じゃ!」


「……そうだな」


皆、頷く。


「いざ、参ろぅぞ!」


「姫様、お待ち下さい」

数歩 踏み出した姫を蛟が止める。

「アオ様の回復が先でございます」


言われて、アオを見ると、暫く動けそうにない様子。


「洞窟に連れて行くか――」

クロが言いかけた時、


「何か来よるぞ!」

姫が空の一点を指す。


皆、身構えたが、すぐに緊張は解けた。


「フジ様とサクラ様でございますね」


「フジは解るが……

サクラん坊は何しに来たんだ?」



 美しい竜達は、降下し、人姿になると、フジは優雅に、サクラは砂地を軽やかに弾みながら近付いて来た。


「薬か?」クロがフジに聞く。


「ええ、それと――」

「ハク兄から、いろいろ頼まれたのっ♪

ソレ持って来たんだっ♪」


「ハク兄が、お前を外に出すって珍しいな」


「ハク兄、天界(うえ)に行ったから~」


「それでは何の事だか解りませんよ」

フジが笑いながら繋ぐ。

「薬の事で確認したくて、サクラにハク兄様と話をしてもらったのですが――」


「フジ兄からの話をする前に、こんだけ持ってけってバババババッて言われちゃった~」

ガチャっと大きな革袋を背から降ろす。

「届けたら『長老の山に行け』だって~♪」


「フジも行くのか?」


「はい。

キン兄様に、ついて行くよう言われましたので」


「なら安心だ」


「なんで、みんな、そんなふうに言うのぉ?」

サクラがむくれ、クロとフジが笑う。


天界(うえ)に行くなら、爺様から仙竜丸(センリュウガン)を貰って来てくれないか」


「わかりました。アオ兄様にですね」


「ああ、頼む」


「のぅ、また誰ぞ来ておるぞ」

姫が額に手を当て、空を見ながら割って入った。


「珍しい事が続くな……」


「でも、目的地は、ここではないようですね……」


深紅の竜(アカ)が通り過ぎた。


(アカ兄、どこ行くの?)


深紅の竜が止まる。


(ここだよ~)サクラが大きく手を振る。


深紅の竜が戻って来て、降下した。


が、着地はせず、持っていた何かを落とした。


ずざっ!


大振りの剣が砂に突き刺さる。


「鍛え直しておいた……」去って行った。


「私達を追いかけていらしてくださったのでしょうか?」


「たぶんな。アカらしいわ」苦笑。


クロとフジが、剣に向かって歩く。

サクラは軽やかに弾み付いて行く。


「この剣は、以前、キン兄様が使っていらした――」


「ああ……

でも、力を感じないって、仕舞い込んでたヤツだな」


「何故、アカ兄様は、そのような剣を?」


「並みの剣よりは、ずっと強いさ」


「そういう事ですか……

アカ兄様が鍛え直したのでしたら、尚更、強くなっているのでしょうね」


「あの~」

話し込む兄弟の後ろから、蛟がおずおずと声をかけた。


「あ! すまなかった!

フジ、大至急 頼む!」


「はい。行って参ります」「じゃ~ね~♪」

二人は飛んで行った。




 二人を見送った後、蛟は剣を見詰め、剣の至る所に有る半球状の窪みを指でなぞっていた。


「もしかして……」

そう呟くと、袋から岩山の壁に嵌め込まれていた玉を取り出し、窪みの上をなぞり始めた。


「玉の方が随分と大きいよぅじゃが……」


「まぁ、見てようぜ」


 窪みが残り少なくなり、蛟が諦めかけた時、窪みの ひとつに、玉が吸い込まれるように収まった。

そして、剣が淡く光る。


蛟は、次々と色とりどりの玉を剣に収めたが、まだ半分も埋まらなかった。


「まだまだ先は長い、といぅ事じゃな」


「そうですね……岩山だけでは足りませんね」

残り少なくなった岩山を目で追って――


「あ……」蛟は、慌てて小屋と池を出した。



♯♯♯♯♯♯



 昼食の支度を始めた蛟に、姫が近付いた。

「のぅ、ミズチ――」


「はい?」トントントン……


「退屈じゃ」


「は?」止まる。


「フジは、どのくらい待てば、戻って来るのじゃ?」


「昼過ぎには、なりましょうか――」

 ああ、退屈ではなく、落ち着かないので

 ございますね……


「むぅ~ 何か話せ」


「何か…とは、何でございましょう?」


「そうじゃな~

アオの兄弟は、皆そっくりじゃが、竜は、人の姿になると、皆あの顔になるのか?」


「ご兄弟だから、でございますよ」


「それにしても、似過ぎておるぞ」

 顔だけじゃと区別がつかぬぞ。


「それは――

姫様は双子を御覧になったことは、お有りでございますか?」

 人の一卵性の、でございますよ。


「あるぞ」


「同じようなものでございます。

ただ――竜は卵から生まれるのでございます。

母竜が卵を産んでから、孵化する迄の期間が、まちまちでございますので、年齢の差が生じるのでございます」


大きな(ざる)を抱え、水際に移動。


「竜の御子の場合、成長の度合いを人に換算致しますと……

およそ十年で、人の一歳分程の成長を致します。


人姿につきましては、百歳(十人歳)を越えますと、成長が緩やかになるのでごさいます。

百五十歳程から二千歳程までは、ほぼ加齢が起こりません。


竜体は、命あられます限り、少しずつ大きくなられるのでございます」


「あのまま二千年も……」


「はい。

キン様を基準と致しますと、

ハク様は、人で申すなら一歳下。

アオ様、クロ様、アカ様は四歳下。

フジ様は六歳下で、

サクラ様は、十三歳下の弟君という事になるのでございますが、

それ故、キン様もサクラ様も、人姿では然程(さほど)の違いもないのでございます」


「そんなに間が空くのか!?

そこに十年を乗じるのであろ!?」


「はい。

幼い頃のご兄弟様方が、追うように御成長されるのが、本当に愛らしく――」


「およ?」


「如何なさいましたか?」


「なにやら、ミズチは見ていたかのよぅに話しておるが――」


「見ておりましたので。

蛟族は卵から、全てのお世話を仰せ付かっておるのでございます」


「ミズチは、その頃には大人じゃったと?」


「はい。そうでございますが……」


小屋にアオと慎玄を寝かせ、クロが出て来た。


「クロにも蛟が付いておるのか?」


「ああ。天界(うえ)で留守番してるけどな」


「さよぅか。どちらの蛟が年上なのじゃ?」


「オレんトコの方がオッサンだよなっ」


「いえ、私の方が少しばかり年上で――」


「マジかよ」「はい」

「そんなに年寄りには見えぬがのぅ」

まじまじ蛟を見る。


「人とは時間の尺が違いますので」


「どのくらい生きるのじゃ?」


「蛟は二、三千年程、

竜は数千年から万年くらいかと――」


「ならば、ワラワの治世くらい、ここに居っても何とも無いな♪」

ニコニコニコ♪


シマッタ~な顔の蛟と、爆笑のクロ。


「クロは婿に来てくれるのじゃろ?」


固まるクロ。


「いや、待て!

コイツは、アオの蛟だから――」


「では、アオを貰ぅてもよいのじゃな♪」


 アオ様ぁ、早く起きないと、

 大変な事になってしまいますよぉ~





凜「アカ、アオの様子、見たかったのね?」


赤「…………」黙々と作業中。


凜「アカってばぁ」


赤「……感謝する」


凜「へ?」


赤「サクラの事……」


凜「もしかして、倉庫に来てた?」


赤「…………」ごく小さく頷く。


凜「それで、サクラに渡せず……

  ごめんなさい!」


赤「謝らなくていい。

  ……フジにも預けられたのだから」


凜「それじゃ、やっぱり……」


赤「…………」徐々に頬染まる。


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