砂漠編15-妖狐と竜
前回まで:禍々しい輪は聖水に弱かった。
距離が有り過ぎます……仕方ありませんね……
そう思った蛟が、聖獣に戻って飛ぼうとした時、魔獣がアオに向かって跳躍した。
蛟は聖獣に戻ると、先に走った姫を背に掬って乗せ、アオの元に飛び、
「姫様、アオ様をお願い致しますっ!」
自分の聖水と風神の大団扇を渡して、砂塵の柱が立った方に向かった。
「あい解った!」
姫は聖水を扇ぎ飛ばし、アオに纏わり付く輪を落とし、剣を抜き構えた。
♯♯♯
蛟が飛んだ方向には、魔物が立っており、淡く光る盾に護られた慎玄が倒れていた。
魔物は慎玄の方には向いておらず、魔物の向こうの何かを見ていた。
蛟は、魔物の視界に入らぬよう、慎玄に近づくと、輪に聖水をかけて外した。
「紫苑殿と珊瑚殿が囚えられてしまいました」
慎玄の小声が聞こえたのか、魔物が二人の方を向いた。
「これはこれは……
蛟が居るということは、ここにいる竜は……
ならば、何としても生け捕りにせねばなりませんな」
嬉しそうに ほくそ笑みながら、魔物は背後に向かい、
「では、早速、活躍してもらおうかの」
魔物が動き、その背後の宙に、二匹の妖狐が吊るされているのが見えた。
「まさか……あれが……」
「ええ、そうです」
魔物は、瓢箪を妖狐の口に当て、何かを飲ませた。
もしや、あれはっ!?
蛟がハッとした時、妖狐達の目が赤く光った。
「竜を捕らえるのです」
魔物の声に従い、二匹は宙を蹴って、アオに向かって跳んだ。
蛟は慌てて妖狐を追いかけようとしたが、
「易々通れると思うでないぞ」
魔物が立ち塞がった。
♯♯♯
アオは輪の襲来がなくなったので、姫と連携して存分に戦い、魔獣を倒した。
魔獣の姿が消えていく、その向こうから、妖狐が宙を跳んで来るのが見えた。
妖狐の正体を知らないアオと姫は、剣を構え、二匹に向かって走った。
二匹と二人の距離が縮み、妖狐達から炎と雷が放たれた。
この術……似ている……
アオが雷を躱しつつ、そう感じた時、
「アレは、紫苑と珊瑚ではないのか?」
姫が炎を避けながら言った。
「兎や蛟のよぅに操られておるのやもしれんぞ!」
アオは頷いた。
アオは攻撃を避けながら、良い策がないか考えていた。
――背後に落ちている輪のことなど、すっかり忘れて……
輪にかかった聖水が乾いたのか、効果が薄れたのか――
輪は一つ二つと宙に浮き、暫く漂った後、アオに向かって音もなく飛んで行った。
そして、妖狐の雷を避けて跳んだアオを背後から捕らえた!
アオを捕らえた輪は、漆黒から鮮やかな血赤へと変わっていく――
妖狐達は妖しく光る網を張り、アオを包もうとしていた。
アオの身体から瑠璃色の閃光が迸り、一瞬、竜の姿が見えたかに思えた、その時、
天から艶やかな黒い疾風が駆け抜けた!
アオを捕らえていた輪は弾け散り、妖狐達は気を失い落下した。
それを見た魔物は、
「もう一匹おったか……」顔をしかめた。
「二匹とも欲しいのぅ……
だが、せっかく捕らえた御狐殿を奪い返されるのも惜しい……
ここは退くとしようかの」
新たな赤黒い輪を投げ、妖狐達を捕らえ、引き寄せた。
そして、妖狐達を連れた魔物は、闇の穴に入った。
闇の穴が溶けるように消える。
♯♯♯♯♯♯
竜ヶ峰の工房で、アカが、サクラから頼まれた剣を鍛えていると――
暗室の扉が開き、サクラが、ふらりと出て来た。
(無理はするな)
(ヒスイが、力、分けてくれたから、もぉ、だいじょぶだよ……)
(どう見ても大丈夫では無い。寝ていろ)
(その剣……どぉ?)
(竜宝には違いないが……
以前、キン兄が言っていた通り、力を感じない)
(その、いっぱいある穴に入りそぉな玉、見つけたんだ。
だから、使えると思うんだ)
(ふむ。玉……雅剣という事か……
確かに、不自然な窪みだらけだな。
柄に三玉か……
ならば『華雅の三眼』。おそらく、そんな名だ)
(うん。そぉだと思うよ)
俺の中で、そうだと言ってるから……
(何処に行く?)睨む。
(アオ兄トコ……行かなきゃ)
(行って何が出来る? 今のサクラでは――)
(俺自身、だいじょぶ……
アオ兄と同調してるだけだから……)
アカは立ち上がり、奥の部屋から薬袋を持って戻った。
(飲んでおけ)サクラに押し付ける。
(ん……仙竜丸?)
(そうだ)
(ひとつだけ?)
(貴重だからな)
(じゃあ、アオ兄に――)
(着く前にサクラが倒れる。飲め)
アカに睨まれ、サクラは渋々薬を口に入れた。
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キンの部屋では――
「では、その薬を、すぐに作ります」
「うむ。頼む。
出来たならば、アオに届けて欲しい。
それで、ハクは?」
「天亀の湖――
翁亀様の所に向かっております」
「最果ての湖か……ふむ。
翁亀様ならば、あの輪の事も御存知であろう。
では、そちらは、ハクに任せるより他に無いな」
(キン兄♪
ハク兄から『長老の山に行け』って言われたから、行ってくるね~♪)
(サクラ、もう大丈夫なのか?)
(だいじょぶ~♪ 俺、元気~♪
あ! ハク兄から、もひとつ頼まれてた~♪
倉庫に入らせてねっ♪)
この話し方ならば、サクラの声だけは、
フジにも聞かせているのであろうな。
「フジ、サクラと共に、長老の山に行ってくれるか?」
「はい。ハク兄様からの御指示の件ですね?」
「うむ。頼む」
「では、薬を急ぎますので」礼。
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再び、工房では――
「アカ兄、ありがとね~♪」ぴょんぴょん♪
「本当に大丈夫なのか?」
「俺、竜宝薬、効果テキメンだから~♪
んじゃ、いってきま~す♪」ぴょんぴょん♪
ぴょん♪ ぴょん♪ ぴょ~ん♪
凜「サクラ!♪ やっと元気になったのね~♪」
桜「なんでこんなトコにいるのっ!?」
凜「そこは気にしな~い。
伝言あって来たのよ」
桜「誰から?」
凜「知らないわよ。とにかく聞いて。
『全て己のせいだなどと、甚だしく
烏滸がましい思い上がりだ。
先ずは、そう思う事が相応しい程に
己が力を高めよ』だそうよ」
桜「……そう……ありがと」
凜「はいっ♪ 切り替えるよっ♪」
桜「ん。凜、ありがと♪」にこっ
凜「よしっ♪」
桜「アオ兄にチカラ貸してくれるヒト~♪
光って~♪」
凜「キレイ……」
桜「ほら♪ 凜も集めて~♪」
凜「私も!?」
桜「トーゼンでしょ♪」
凜「仕方ないなぁ」くすっ♪




