涅魁北2-嫗亀
前回まで:北の果ての山の麓に在る
『永久に凍ったままの湖』
を見つけました。
湖へと降下したアオとサクラは、水面に出ているものは無いかと探していた。
「なんにもないね~」
「沈んでしまったのかな……水中を探そう」
「アオ兄、なんか……出てきたっ!」
二人は気を探りながら、急いで近寄った。
(ホントに『浮かぶ洞窟』なんだね~)
小島が迫り上がり、止まった。
(なんか……いるよね?)
(悪意は感じないけど……)
(洞窟の中にいるのかなぁ)
(そうかもね)
(入口……水の中?)
(まだ上がって来ている!)
身構え、待機していると――
小島の側面に、人ひとりが屈めば入れる程の穴が見えた。
そして――
(甲羅?)
(――にしか見えないね)
(ってことは――)
(この大きさは天亀だろうね)
(こんなトコに――)
(閉じ込められていたんだね)
頭が出てきた。
「ほぉ……雪を退かしてくれたのは、お前さんらかのぅ」
二人は水面近くまで降下した。
「雪を消した仲間は、別の場所に移動しました。
私達は、地下界への道を求めて参りました」
「ふむ。
確かに、私の甲羅に、その入口が乗っておる。
お前さんら、天竜か?」
「はい。天竜です。
私はアオ。弟のサクラです」
「どぉして甲羅に、こんなのが のってるの?
重くないの?
それに、こんな寒いトコ、だいじょぶなの?」
「ほっほっほっ♪
サクラは質問だらけじゃな」
「失礼致しまして、申し訳ありません」
「いやいや、アオ、よいよい。
しかし、ここでは、お前さんらも寒かろぅな」
「温かい湖に移動しましょうか?」
「ほぉ、出来るのか?」
「人界でなければなりませんか?」
「この穴なら、何処でも大丈夫じゃ。
何処なりと、お前さんらの都合の良い場所に、連れて行ってくれるかの?」
(一旦、天亀の湖に行こう)(うんっ)
二人は甲羅を掴み、水面から浮かせた。
(もぉ凍り始めてるよ)
周囲に薄氷が迫り、その上に雪が積もりつつあった。
(凄いね……)(行こっ! せ~のっ!)
――天亀の湖。
「お前さんら……この湖を知っとったのか……」
「巍岩亀様を御存知ですか?」
「よ~ぉ知っておる。
爺は、まだ生きておるのか?」
「はい。お元気です。
今は別の池にお住まい頂いております」
「そぅかそぅか」うんうん。
「その山は、とっちゃダメなの?」
「呪じゃからのぅ……退けたら私の命が無い」
「龍神帝王の呪ですか?」
「その名も知っておるのか……
お前さんら、その気と言い、並みの竜では無いのじゃな」
「ただの竜ですよ」
「ほっほっほっ♪ ただの竜か♪」
「その穴を一度 通らせて頂けますか?」
「向こうには、龍神帝王が居るぞ」
「はい。だから行くんです」
「そぅか……お前さんらなら大丈夫じゃな」
天亀は、そう言って微笑み、首を下げた。
アオとサクラは人姿になり、穴に入った。
闇の気配……これは呪なのか?
それと、何か……
岩の内に、何かが有るのか?
それ以上は分からなかったが、害は無さそうなので探るのは止め、漂っている瘴気を浄化して進み、境界の手前の壁に布石像を埋めた。
「寛文鏡、天界からでも通れるかい?
しかも竜が人姿で」
【可能で御座います、我等が王】
通過した側にも布石像を埋めた。
(あとは、出られるか、だよね~)
(そうだね。神眼を広域にね)(うん)
二人は慎重に気を探り、闇障を発動し、出口から踏み出した。
(ここには、光に対する結界は無いね)
(アオ兄、地図♪)
元・側近達が描いてくれた地図を広げ、案内虫を乗せた。
止まった所に印を付ける。
(うん♪ 確かに深魔界だね~♪)
(魔王の城は遠いけど、魔神界に近い側だね)
(もっと進む?)
(いや、明日が動けないからね。
通路の口に結界を張ったら戻ろう)
(そぉだね。じゃ、竜宝達、お願いねっ)
【畏まりまして御座います、我等が王】
二人は術を唱え、光を込めた。
(光がダメなの、あの結界だけなんだね~)
遥か遠くの、奪還した魔界の方を見る。
(魔界側には、その強い結界が有るし、通路を破壊しきったと思って油断しているのか、ここまで手が回らないのか……
とにかく、抜けが有って良かったね)
そして、闇障で結界を隠した。
(アオ、闇の何かが、こちらに来ているぞ)
(サクラ、穴に隠れよう)(うん)
穴から様子を窺っていると、闇黒色の魔物が二匹、近付いて来――
――穴の上を素通りして行った。
(気づかなかったみたいだね~)
(緊迫感も無かったな)
(ただの巡視かもしれないね)
境界まで下がり、もう暫く様子を見たが、何事も無いので湖に戻った。
「ありがとうございました、天亀様。
地下側の口に結界を張りましたので、巍岩亀様の池にお連れ致します」
「それはそれは……嬉しいのぅ」にこにこ
「じゃ、行っきま~す♪ せ~のっ♪」
――長老の山、中庭の大池。
「おっ! ……お前……生きとったのか……」
「はいはい、やっと出してもらえましたよ」
「何処に居ったんじゃ?」
「人界の北の果て、寒い寒い湖で、氷に閉ざされて眠ってましたよ」
「その山は……」「お前さんこそ、その桜♪」
二人は楽しさと嬉しさを溢れさせて笑った。
「アオ、サクラ、よぅ見つけてくれたのぉ。
ありがとう……本当に、ありがとう」今度は泣く。
「お前さんったら、二人が困ってますよ」
「えっと~、翁亀様、こちらは奥様なの?」
「知らずに、ここに連れて来たのかの?」
「私が名乗らなかったからよ」
「おやおや……『嫗亀』とでもしとこぅかの」
「はいはい。そうしましょ」にこにこ♪
「で、お前、子供達は?」
「それが……途中で離されてしもぅて……」
「あ……」「何?」「ちょっと待ってて~」
サクラは何処かに曲空し、掌に亀を乗せて戻った。
「それは?」
「仁佳城の中庭の噴水の池に、亀さん いっぱいいるんだ♪」
「不思議な気だね」「でしょ♪」
「攻め込んだ時に、この微かな気に気づいたのかい?」
「かわいいから~♪」「そっち?」「うん♪」
「翁亀様、嫗亀様、いかがですか?」
サクラが亀を差し出すと、翁亀と嫗亀はじっと見、顔を見合わせた。
「儂らの子供じゃ。じゃが……この呪は……」
スミレが現れた。【兄様、何?♪】
「この呪、浄化して欲しいんだ」
【難しい呪ね……かなり古いわ】
「出来ないの?」【とは言ってないでしょっ】
「流石、神だね」【うふっ♪ 任せて♪】
スミレは、まさに神々しい光を纏い、術を唱え、亀を光で包んだ。
【サクラ、亀を降ろして】
サクラが亀をそっと地に降ろすと、亀はぐんぐん大きくなり、立派な天亀になった。
「女神様、ありがとうございました」ぺこり
この ひと言で、スミレは すっかり上機嫌。
「スミレ、まだいるんだけど~」
【いいわよ~♪】
ひと晩中、浄化する事となった。
夜が明け――
「まぁまぁ、亀さんが沢山だこと」にっこり
「あ♪ モモお婆様♪」
「おはようございます」
「すまんのぉ、モモさん」
「いえいえ。
アオ、サクラ、お池を拡げて貰えるかしら?」
「は~い♪」掘る~♪ 「アオ兄、水~♪」
二人は、広い中庭の殆どを池にした。
凜「そういえば、サクラは仁佳城の池で
亀と遊んでたよねぇ」
桜「うん♪ いっぱいいたから~♪」
凜「翁亀様もボッチじゃなくなって
良かったね」
桜「うん♪ 通路が見つかったのより
嬉し~い~♪」
凜「通路が見つかったって事は、
魔界を進むのね?」
桜「儀式の後ね~♪」
凜「そっか♪ 成人して、
桜左衛門になるんだっけ?♪」
桜「うんっ♪ カッコいいでしょ♪」
凜「そ、そうね……」




