砂漠編11-魔族
前回まで:ハクはガラが悪いけど優しい。
夜明け前――
アオ達が、すぐ近くで威圧的に聳える岩山に向かって出発しようとした時、
その岩山の方から黒輝の竜が飛んできた。
「すまねぇ、呼ばれてるんだ」天を指す。
「すぐ戻るから 待っててくれ!」
言い終わらぬうちに、天に向かってしまった。
「クロ様は、あの岩山を偵察してくださっていたのでございます」
天を仰ぎ見ながら、蛟が言う。
「私が不甲斐ないばかりに――」
言いかけた、その時、明るくなる筈の空が、俄に暗く澱んだ。
「主様が御好きそうな匂いがするのぉ」
低い声がし、黒い大きな影が現れた。
黒い影は、次第に、その姿を露にしてゆく。
「擬物は弱い……本物の魔族は、ちと違うぞ」
低く笑いながら、ゆっくりと迫って来る。
アオ達は展開し、身構えた。
「じわりじわりと攻めるのも一興。
先ずは、お手並み拝見とするのも良かろう」
薄ら笑いを浮かべ 闇の穴を穿った。
魔物が溢れ出る。
「今、刃を向けている魔物達は、ただ、操られておるだけ。
元は、ただの魔人。
民草を斬り捨てる事に、罪悪感を持たぬとは、何ともお粗末な正義感よのぉ」
「口数の多い奴だな」
アオが跳び、魔物の背後から斬りつけた。
同時に「浄浄万象!」光が迸る。
溢れ出た魔物達は消え失せた。
しかし『本物の魔族』は、宙からアオを見下ろしていた。
「何を斬ったのかのぉ?」クフフフ……
「アオ様っ!」
魔物が何かを放った刹那、
蛟が聖獣に戻り、アオを背に掬い、飛び去った。
「ほぉ……何やら飛べる者が居るのだな。
竜では、なさそうだったが……まぁよかろう」
飛び去った者達が、竜ではないと確信しているらしい魔物は、地に残る者達を、品定めするかのように眺め回した。
「さて……竜よ、姿を見せよ」ニヤリ
魔物は余裕の表情で、ゆっくりと降下した。
皆、身構えたまま、ジリッと後退る。
♯♯♯
蛟は、少し離れた場所で、アオを降ろした。
「アオ様、あの魔物は、竜を狙っております。
ですので、私は、あの魔物に姿を見せる事は出来ません」
「どうして?」
「この場にいらっしゃる竜、つまり、アオ様のお立場が判ってしまうからでございます」
「俺の……?」
それも、俺には言えぬ事……か……
「私は出来得る限り、人姿で戦いますので、アオ様は、ご無理をなさらないでくださいませ。
差し出がましい事を申し上げまして――」
「うん、解ったよ。ありがとう、蛟。
心得ておくからね。皆の所に戻ろう!」
二人は駆けて行った。
♯♯♯
「ほぉ……逃げたのかと思ったら――」
魔物は、駆けて来る二人を見て、嬉しそうに目を細めた。
「珊瑚、正体と弱点は?」
「見えない……ここには、いないのかも……」
紫苑と珊瑚は、他の者には聞き取れない声で話していた。
「では、確かめましょう」「そうね」
二人は掌に光を生み、間合いを計り、跳んだ。
宙で互いの両の掌を合わせ、淡く光る網を一気に拡げ、魔物を覆った。
跳び退り、紫苑が念網に向かい雷を放つ!
雷が弾かれた方向に、珊瑚が劫火を放った!
劫火が何者かを包んだ。
二人合わせての雷が、そこに向かって飛ぶ!
――が、丁度 達した時、炎も、その何者かも消えた。
二人は辺りの気を探り……珊瑚が雷を放った!
雷が弾かれ、打ち消された。
「まさか、見破られるとは……
しかし、これは面白くなりましたな」
高笑いする魔物が、その姿を露にした。
そこに、アオと蛟が到着した。
♯♯ 天界 ♯♯
クロは全速で竜の国に向かった。
天界の門をくぐると、普段は動かない長老達が、門に向かって来ていた。
――ただし、こちらの緊張感を、へし折りそうな程、超ゆっくりと……
待ってはいられないので、クロが飛んで行き、
「爺様、火急の用とは?」
長老達は、ゆっくりと着地し、姿勢を整える。
「昨晩、ハク坊が受け取ったアレじゃがのぉ」
何の事だ?
「いや、久しぶりに千里眼で下を見たらなぁ、ハク坊が医者として立派に成長しておってのぉ――」
「あ~っ! 爺様、急いでいるのですがっ」
「そうじゃったな、うむ……
アレは、竜にとって危険な魔族の武器、古の魔宝の ひとつなんじゃ」
だいたい『アレ』が分かんねぇし、
『マホウ』って何だ?
「ハク坊は調べようとしておるが、間に合わぬかと思うての」
そういや、ハク兄は何処だ?
「千里眼がハク坊を捉えた辺りに、丁度おった、お前さんを呼んだわけじゃ」
長老達が、順に言葉を繋ぐ。
それが延々と続く。
長老達の長い話を纏めると――
魔族が危険な武器を持っていて、その ひとつをハクが持っており、調べようとしている事。
再び使われる可能性が高い為、対抗武器となる竜宝を持って来てくれた事が判った。
その竜宝の使い方を聞き、久しぶりに孫(何孫だか)に会って、まだまだ話し足りない長老達に、
「また来ます。
その時に、魔宝について、もっと教えてください!」
長老達が何かを言う前に、クロはサッと深く頭を下げ、飛び、大急ぎで門を抜けると、アオ達に向かって急降下した。
♯♯ 人界 ♯♯
あれは……サクラか!?
アカは、砂漠上空で漂っているサクラを発見した。
キン兄が心配していた通りだな。
急いで近寄る。
サクラの傍には、淡く優しい緑色の光が寄り添っていた。
「ヒスイ様ですね?
サクラをお護りくださり、ありがとうございました」礼。
淡い光が、静かに明滅する。
「ご安心ください。連れて帰りますので」
淡い光は、再び明滅すると、スッと消えた。
サクラの中に入ったのか?
サクラが淡い緑の光を帯びる。
力と成ってくださるのだな……
アカはサクラを抱え、下を見た。
アオ達は、魔物と戦っていたのか……
ん? クロが、こちらに向かって来ているな。
アオならば、クロが着く迄、耐えられる筈だ。
加勢は、サクラを安全な場所に移してからだ。
アカは竜ヶ峰に向かった。
凜「アカ、サクラの事、教えてよ」
赤「…………」睨む。
凜「キン様はご存知なんでしょ?」
赤「…………」背を向け、剣の手入れを始める。
凜「そんなに警戒しないでよ~」回り込む。
赤「警戒ではない。知らぬだけだ」
凜「アカが喋った~♪」
赤「む…………」赤面し睨む。




