伽虞禰13-地下視察
人が見ている場面では、天人や魔人の姿を
書いていますが――抜けがあったら、すみません。
「姫様、私共は、先にハザマの森に入りますね」
「『試練の森』じゃな」
「そうですね」ふふっ♪
「紫苑、珊瑚、その顔は、わくわくしておるのじゃな♪」
「はい♪」揃って、にっこり。
妖狐母子とカリヤは、ハザマの森へと跳んで行った。
「ミズチ、馬車を頼むぞ。
炎鉱石の件、落着したら追いかけるからの」
「はい、姫様♪」
馬車もハザマの森に向けて走り始めた。
「クロ、先ずは仁佳じゃ」
「帝都か?」
「大使館が出来たのじゃ♪」
「初めての場所か……あ! 待てよ。
こうやれば……見えたっ! 姫、行くぞ」
手を繋ぎ曲空。
――真新しい建物の前。
「これか?」「そぅじゃ♪」
「静香様!♪」駆け寄って来る。
「皇太子殿下、御自らお越し下されたのか!?
あ……まさか……お揃いで!?」
駆けて来る皇子達の後ろには、見るからに格式高い輿が、整然と並んでいた。
白銀の竜が降下し、大使達が降りた。
「流石、中の国は竜と共に、なのですね」
「いつも助けて頂いておりまする」
銀竜が人姿になろうと光ってしていたが、中断した。
はて……如何したのじゃ?
ん? 後ろが騒がしぃのぅ……
振り返ると、門の外に人が大勢いた。
「皇帝陛下がいらっしゃるから当然かの」
「いえ、竜が降りて来たからですよ」
「さよぅか……ならば」ハクに近寄る。
「今日は如何なご予定でございまするか?」
「昼までは大丈夫だ。また乗せて飛ぶよ」
「誠に忝ない」ぺこり。
「それと……
相談なのじゃが、竜の国からも、大使を派遣する事は出来るのじゃろぅか?」
「大使か……いい考えだな。相談しておく」
「よろしくお頼み申す」ぺこり。
「なぁ姫様、そんなに頑張らなくても、もう十分クロを追い越してるぞ。
でもま、アイツだって王子として育ったんだ。
ちったぁ頼ってやれよ」ニヤッ
「そ、そのよぅな……」
「姫~、始まるぞ」話題の主、手招きしている。
「二人で頑張りゃいいんじゃねぇか?
俺が王になる頃には、殿は隠居だろ?」
「あ……さよぅじゃな」笑みが拡がる。
満面の笑みでお辞儀して、姫はクロの方へ弾むように駆けて行った。
大使の就任式としては、かなり大きな儀式となったが、これも今後の両国の友好の為、と全て和やかに運んだ。
ハクがミカンを呼び、キンとボタンも来て、四竜は人々を乗せ、飛び始めた。
「クロ、次に参ろぅぞ♪」「おう♪」
「次、とは?」皇太子が声を潜める。
「伽虞禰に、伊牟呂と魯茉丹の使者が来るのじゃ。
揉め事にならぬよぅ、証言しに参るのじゃ」
「また龍神帝王ですか?」更に声を潜める。
「さよぅじゃ。
伽虞禰と魔界を繋ぎ、炎鉱石を運んでおったのじゃ。
魔王は竜が追い返したのじゃが、伽虞禰に盗人の嫌疑が、かかっておっての」
「私もお供してよろしいですか?
仁佳で起こった事を、三国に伝えたいのです」
♯♯♯
こうして仁佳の皇太子と共に、伽虞禰城に曲空すると、若殿、老中、使者達が出掛けようとしていた。
「何処に行きなさるのじゃ?」
「我が屋敷の蔵に参ります」
「籠よりクロじゃ♪」「おう♪」竜体になる。
使者達が口あんぐりで固まった。
「噂では聞いておろぅ? さ、乗られよ♪」
♯♯♯
「こちらで御座います」
黒槎柯の案内で、一同、蔵に入ると――
「また、竜!?」一斉。
綺桜の竜が、穿った穴から、壺を持って半身だけ出ていた。
「あ……」(クロ兄、この人達だぁれ?)
(伽虞禰を炎鉱石泥棒だと思ってる人達だ)
(なら、いっか♪)
「魔王が、この向こうに運んでた炎鉱石です。
全部お返ししますので、お待ちください」
「『向こう』とは?」
「地下魔界です。ご覧になりますか?」
「拝見致します」使者達、勇んで進み出る。
「一度には、お二方しか入れませんが――」
桜竜が、竜の鱗のような板を取り出し、使者に当てると、光が迸り、使者を覆った。
桜竜が鏡のような穴に、先に入り、手だけ出した。
「手を取って、くぐるだけじゃ」
使者二人が、くぐった先では、いくつもの大きな壺が炎鉱石を吸い込んでいた。
その周りでは、竜だけでなく様々な動物や異形の者達が、人の如く立ち、話し、走っていた。
「サクラ様、お客人ですか?」
「ワン将軍、この炎鉱石の所有者殿です」
「そうですか。
もう一ヶ所、御座いますが、ご覧になられますか?」
「えっ!?」後退る。
「もう、魔王は居ませんから、怖がる必要は御座いません。
ああ、怖がっているのは、この姿ですか?
ここにいる者達は、人とは姿が異なりますが、それだけです」
三つ首の黒大犬と綺桜の竜は、使者を連れて外に出た。
晴れていて陽も高いのだが、赤みがかった空と、荒れた大地が広がっていた。
その赤茶けた荒野には、今、出て来たのと同じような砦だけが、ぽつりぽつりと建っている。
「ここは『地下界』です。
ですから空は有りません。
ずっと上には、皆さんが住んでいる『地上界』の底が有ります。
あれは、神が創った空に似せた天井です」
「あの陽も?」
「はい。地上から見る陽とは違います」
「確かに……色が違いまするな……」
「炎鉱石が有る場所に移動しましょう」
手を取って曲空した。
――建物の中。
広い部屋の中は、炎鉱石の熱気で近寄る気も失せる程だった。
瑠璃の竜が現れた。
「すぐ運べるようにしますので」
次々と大壺を出し、部屋の奥へと飛んで行き、また戻りながら大壺を出している。
大壺は見る間に炎鉱石を呑み込んでいく。
「あの壺には、どれだけ入るのだ?」
「後程、開けて、お見せしましょうか?」
「あの蔵に収まるのなら……」
「回収を急ぐので、満杯にはしませんから、老中殿の蔵でしたら、高さ半分程になると思いますよ」
青竜が寄って来た。
「あの壺は……?」
「『集縮の壺』という竜の国の日用品です」
「何でも入るのですか?」
「生き物でなければ何でも。
炎鉱石を入れた壺は、さしあげますので、収納用にお使いください」
傍の宙に穴が開いた。「失礼致します!」
魔犬の将校が顔をひとつだけ出し、敬礼した。
「ワン将軍、あっ、天竜王子様方もご一緒でしたか。
こちらも確認お願いします!」
黒大犬が顔を入れ、
「アオ様、お願い出来ますか?」穴に入った。
「サクラ、ここは頼んだよ」青竜も入った。
桜竜は説明を続けた。
「先程の建物も、この建物も、魔王――魔物の王の拠点でした。
それを陥落し、炎鉱石を発見したのです。
地下界では炎鉱石は採れません。
ですから、地上の何処かから集めている筈と辿ると、伽虞禰に出たのです。
伽虞禰の方々に罪は有りません。
魔王の配下が、人に化け、また、人を操り、ここに集めていたのです」
「まだまだ夢幻のようですが……
この見知らぬ場所に、何者かが炎鉱石を集めていた事は解りました」
「では、戦にはなりませんね?」
「勿論です」
「戻りますか?」穴を穿つ。
「はい」今度は自ら、その穴をくぐった。
♯♯♯
老中の蔵では、魔人達が壺を運び込み、整理していた。
その邪魔にならない場所で、仁佳の皇太子が、自国での出来事を話していた。
使者達が、戦になどせぬと納得した時、穴が開き、地下魔界に行った二人が戻った。
「如何であったか?」
「地下の世界とやらに、大量の炎鉱石が集められて御座った」
「あの大きな壺ひとつに、この蔵半分程も入っておるのだ」
桜竜が大壺を持って来た。
「開けて見せた方がいい?」首を傾げる。
「いやいや! それには及びませぬ!」
「次の方、行きますか?」鱗みたいな板、回収。
「では、少しばかり……」で、次々案内。
♯♯♯
「して、各々、如何程 盗まれたのじゃ?」
「産出量と消費、及び備蓄量より計算致しますと、このくらいになり申す」
各々、紙を出す。
「だいたい同じじゃの。
ならば折半で如何じゃ?
伽虞禰は、そこより買い取ればよかろぅ?」
三国、異存無し。
「これにて一件落着じゃ♪」わははは――
千里眼が鳴る。
「何じゃ? ……仁佳の大使か。早速、何じゃ?
……は? 竜の派遣!?
竜が帰ったから次じゃと!?
そのよぅな事はしておらぬぞ!
……人がどんどん押し掛けて来ておるじゃと!?」
クロがサッと動き、穴をくぐろうとしていた桜竜を捕まえた。
「一緒に行こうなっ♪」曲空♪
サクラはクロに連れられて、人々を乗せ、
仁佳の上空を飛んでいた。
桜(クロ兄、ひどぉいぃ~)
黒(ニコニコ飛びながら器用だなっ♪)
桜(とーぜんでしょっ!)
黒(ま、ちょうどいい休憩だろ♪)
桜(後で手伝ってよねっ!)
黒(その後で教えてくれよなっ♪)
桜(ええぇぇぇ~っ!)
黒(頼むっ)
桜(あ……凜……)
黒(どこにっ!?)
桜(クロ兄の背中……)
黒(ゲッ……マジかよぉ~)
凜「あ~、心配しないで♪ 後書きだから♪」
黒&桜 (…………)
凜「あら? そのまま話してていいのよ?」
桜(だって~、ぜーんぶ書かれるもん……)
凜「嫌なの?」
桜(どぉでも~な時もあるしぃ……)
黒(ヤな時もあるよな……)
凜「ふぅん。今は?」
桜(帰って寝たいかも~)
凜「それはクロが悪いんじゃないのよ~
私は関係ないでしょ」
桜(でもねぇ……
なんか悪いこと重なった気分……)
凜「酷いなぁ。
真面目に中継してるだけなのにぃ」
桜(あ♪)
凜「何よっ!?」
桜(凜におねがいっ♪)
凜「え?」
桜(クロ兄に数学 教えたげて~♪)
凜「いいけど――あっ、クロ! 落ちないで!」




