伽虞禰2-城下と地下
前回まで:風羅の岩戸で皐月が待っていました。
♯♯ 人界 ♯♯
雷崋の岩戸から慎玄が出てきた時、キンとハクが曲空して現れた。
「紫苑殿より、こちらに向かっておられるそうで御座います」
慎玄が腕輪を示す。
「待つ間に、気の具合を確かめましょう」
キンが慎玄の額に掌を翳した。
「ねぇ、何か聞こえない?」「確かに……」
「アレじゃねぇか?」
ハクが指した彼方から、何かが土埃と共に迫って来ていた。
「兎?」「服を着た兎だな……」
「何か叫んでいるような……」耳を澄ませる。
『――王子さまぁ~っ! 天竜王子さまぁ~っ!』
「俺達、呼ばれてるね~」
クロが姫と蛟を連れて現れた。
「カリヤじゃねぇか」
「ああそうか、思い出したよ」
――ててっ! ててっ! つたっ!
「天竜王子様方♪ お久しぶりで御座います♪
ワタクシ、カリヤがっ、ハザマの森にご案内致します♪」
「カリヤ、せっかく来てくれたけどなぁ、案内は――ほら」空を指す。
妖狐達が宙を蹴って、降りて来ていた。
「もしや……三の姫様……」
「そうなんだよなぁ」
「でも、たくさんの方が楽しいよ~♪」
「そぅじゃな♪ 皆で参ろぅぞ♪」
「ありがとうございます! では早速――」
「皆、集まってくれるかい?」
「およ? 皐月、如何したのじゃ?」
「伽虞禰の国に、不穏な動きがあるらしい。
皐月殿、詳しい話を頼むよ」
「はい、伽虞禰にて、民衆を煽動し、暴動を企てる気配がございます。
それ故、治安が悪くなっており、それに乗じて、仁佳と同様、不明者も出ております。
民衆の不満は、鉱山よりの資源の供給が不安定となっており、生活に支障を来しておる故でございます。
それ故か、将又この為に供給が滞っているのか――
強奪等が、魯茉丹や伊牟呂の鉱山地帯にも及んでおります」
「三国が諍いを起こさば、また人が拐われ、魔物にされてしまうではないか!」
「それだけではなく、魔物が人界に来る為の通路が作られるし、負の感情は魔王の闇に繋がるんだ」
「人が現状を知る事で人界を護るってぇのを進めてるのに、それどころじゃなくなるしな」
「つまりは、先にも進めたいが、これも捨て置くなど出来ぬ、という事だな」
「では、手分け致しましょう。
ハザマの森を通過し、魔界へと進行する組と、伽虞禰に残り、鎮圧する組で如何ですか?」
「曲空が出来る者は先へ進み、曲空点を増やして欲しいのだが」
「でしたら、竜の皆様方は魔界へお進みください」
「布石像を埋めておけば曲空できるから、竜みんな行かなくても だいじょぶ~」
「なら、地下への先行は、カリヤ殿の案内で、俺とサクラが布石像を埋めていきます。
キン兄さんとハク兄さんは、天界との行来が多いから、アカに頼んでいる物を運んで下さい。
都度、助けが必要そうな方に加わって頂けますか?
皆さんは、大至急、伽虞禰を鎮圧して下さい。
桜華様、修行の方も併せて宜しくお願い致します」
そして、キン、ハク、アオ、サクラ、カリヤを残して、馬車は伽虞禰の城下に向かって走って行った。
「アオ、サクラ。マオの話、どう思う?」
「魔王が動けない事は確かですから、俺の因子の話……有り得ると思います」
「俺を捕まえたり、直接 闇に落とそうとしなかった理由は、俺も同感だよ」
「サクラ、上層神界に行けるのは気付いてたのか?」
「うん、方法は知らないけど~
神竜の魂がいるのはソコだからね。
結界が改善されたら、どぉなるか わかんないけどね」
「サクラは、魔王がルリを狙って襲った事も気付いていたよね?」
「魔王が、心に傷を負わせて、闇に染めそうとしてたから、きっとそうだって思っただけ。
ルリ姉を標的にしたのが最初なんだって……」
「私に遠慮して言葉を濁さなくてもいい。
結局その目論見は失敗したのだからな」
「ありがと、ルリ姉。
当時は、魔王が狙ってたのはアオ兄だけだったから、ボタンさん達は標的にされなかった。
でも、今は、俺達みんな邪魔だし、アオ兄にとって大切な兄弟だから、俺達と、その大切なヒト、全てが標的になってしまったんだ」
「ふむ、納得だな」
「どういう方法をとってるのか わかんないけど、魔王は俺達の心を読んでる。
大切なヒトだって認識した瞬間に標的にしてるし、アオ兄と俺が同調する事も知ってるから。
今こうして話してるのも筒抜けなのかもしれない」
「だからこそ、今、動かないといけないんだ。
魔王が動けない今のうちにね」
アオとサクラは目を合わせ、頷いた。
「そうか。
ならば、突っ込んで行く二人の背中を預かろう」
「その為に俺達を残したんだろ? 任せとけ」
弟達は、揃って深く頭を下げた。
「カリヤさん、ハザマの森の入口を思い浮かべてね」
アオとサクラが、カリヤの肩に手を置き、キンとハクの手を取った。
「行くよっ♪ せ~のっ!」曲空!
――伽虞禰の国 北部、ハザマの森 入口。
サクラが小さな石像を取り出した。
「随分、小っこくなったなっ♪」
「うん♪ アカ兄が改良してくれた~♪」
布石像を地に置き、掌を当て、押し込んだ。
「キン兄、ハク兄、この深さ だいじょぶ? 掴める?」
「大丈夫だ」「んなモン、楽勝だ♪」
狐の社、魔界の入口でも同様に埋めた。
「カリヤさん、ここに残る?」
「いえ、ワタクシも、お供させてくださいませ。
ワン将軍をお訪ねになるのでしょう?」
「じゃあ、序関の砦、お願いねっ」曲空♪
――地下魔界、序関の砦。
ワン将軍には直ぐに会えた。
「先達ては、大変お世話になりました」
「いえ、こちらこそ、多大なるご協力をありがとうございました」
「とうとう地下に……お待ち致しておりました」
「早速ですが――」
「心得ております」
ワン将軍は地図を広げ、序関の砦と、付近に在る魔王の拠点の位置を示した。
「牛魔国との間に敵拠点が出来てしまい、連携が取れなくなっております」
「ならば、そこから潰しに掛かりましょう」
「カリヤさん、ここにいてね~」
アオ達はワン将軍と魔犬部隊を連れて、目指す拠点に向かった。
サクラは目を閉じ、神眼で内部を確認すると、穴を穿ち――
「呼ぶまで待機しててくださいねっ」
魔犬部隊を留め、進入した。
アオとサクラが前方に、キンとハクが後方に光を放ちながら、一気に進み、敵の態勢が整う前に、奥に居た影を捕らえ、即、浄化した。
サクラが先導して到着した魔犬部隊に占拠してもらい、アオ達は次の拠点に向かった。
ワン将軍と精鋭数人には、牛魔国に向かってもらった。
次の拠点に入る。
(ココ……一度 来てる。
……リジュンさんのご家族が閉じ込められてたトコだよ)
(なら、影に向かって最短で)
あっという間に占拠。
「魔物にされていた方々は、私共がお預かり致します」
コギが妖狐部隊を引き連れて現れ、恭しく礼をした。
「ありがとうございます。
では、心置きなく進ませて頂きます」
魔人達への指示をキンとハクに任せ、アオとサクラは二人の神竜を連れて、深蒼の祠に曲空した。
「ムーントさん、こちらのお二人も影にされていた方です」
「説明と長老の山に連絡、お願いね~」
神竜を残し、二人は嵐の如く去って行った。
そうして次々と中小の拠点を占拠し、影にされていた神竜達と、幹部にされていた魔人達を深蒼の祠に預け、進んだ。
「とうとう大拠点だね……」見上げる。
魔王が移動しながら使う拠点のうちのひとつが目の前に在った。
目を閉じ、術を唱えていたサクラが、
「見えたよっ!」穴を穿った。
凜「アオ、サクラ、そんなサクサク進んで
大丈夫なの?」
桜「わっかんな~い♪」
青「いろいろな可能性を考えた上で
動いているから大丈夫だと思っているよ」
凜「アオがそう言うなら……」
桜「俺は?」
凜「さっき、わかんないって……」
桜「口調で判断して~♪」
凜「……自信満々なのね」
桜「うんっ♪」
凜「ワン将軍達、大丈夫なの?
魔物に襲われたりしない?」
青「これまでずっと戦線維持していたんだから
大丈夫だよ」
桜「地下のコト、よく知ってるんだからね~」
青「攻略した拠点を占拠してもらわないと
いけないから、各国に走ってもらえるよう
頼んでいるんだ」
凜「そっか。じゃあ、どんどん進むのね?」
青「深魔界の結界まで進むつもりだよ」
凜「ホント、自信満々ね~」
青「そうでないと進まないからね。
これからもね」
凜「慎重なんだか大胆なんだか……」
桜「両方兼ね備えないと勝てないんだよ~」
凜「こっちは大胆不敵だ……」
桜「大胆巧妙って知ってる?」
凜「え?」
青「うん。そうありたいね」
凜「文字そのまんま?」
青「良い意味でね」
凜「なら、アオの事だね」
桜「俺は? 俺もでしょ?」
青「サクラの事だよ」
桜「うんっ♪ アオ兄だ~い好き~♪」
凜「はいはい」




