表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
第一章 竜ヶ島編
23/429

砂漠編9-大岩山へ

 実は、人は強いんです。


 翌朝――


「お客様方は、これから どちらへ?

 北に向かうのでしたら、通路にご案内致しますよ」


 蛟が支払いをしていると、宿屋の主人が にこにこと話してきた。


「いえ、西に――」


「でしたら、途中までなら港町への通路ができておりますよ。

 東にも南にも途中までなんですけどね」


「いえ、地上を行かねばなりませんので、昨日の階段から出ます」


「地上!?」


 昨日も地上から来たんだけど……。


「……魔物に襲われてしまいますよ……」


「魔物を退治する旅ですから」


「へ!? 皆様が!?」見回す。


「はい。そうですが……」何か?


「あ……失礼致しましたっ!

 いえね、容姿端麗なお連れ様とご一緒の、眉目秀麗な旦那様方でございましょ?

 それと、お坊様方ですので、まさか魔物退治などとは思いも寄りませんでございますよぉ」


 ああ、紫苑殿と珊瑚殿を夫婦と見たのか。

 お坊様方?

 そうか、蛟も『お坊様』なんだね。


笑いを堪えていると、背を突っつかれた。

「アオ♪ ワラワと夫婦(めおと)じゃと♪」

アオに腕を絡める。


「いや、それは無いだろっ!

 紫苑殿と珊瑚殿の事に決まってるだろ!」

振り(ほど)く。


「仲の およろしい事で」にこにこ♪


「違っ! あっ、やめろ! 姫っ! うわっ!」


姫は、アオの腕を掴んで弾みながら、引っ張って出て行った。


「お気をつけて、行ってらっしゃいませ~」


皆の明るい笑い声が、二人を追う。



♯♯♯



 地下の街から出、一際 高く(そび)える岩山に向かって歩く。


「いい加減、放してくれないかい?」ぐったり。


「何か問題でも有ると申すか?」睨む。


「いや……歩き難いから……」正直には言えない。


「そのくらい我慢せよ♪」


「あ、クロ――」


「何処じゃっ!?」手を離し、見回す。


 嘘だけどね。


「まことじゃ……岩山の上に()るのぅ」


 え!?


「何をしておるのじゃろ……」


 まさか……ここから見えているのか?


「巡視でございましょう」蛟が答えた。


「さよぅか。竜は忙しぃのじゃなぁ」


アオは、そぉ~っと紫苑と珊瑚の後ろに逃げた。


目の前を、砂兎がピョコピョコと横切っていく。


「普通の兎を見ると、ホッとするのぅ」


 姫が後ろを向かなくて、ホッとしたよ。


「助ける事が出来て良かったですよねぇ」


「そぅじゃな。

 しかし……ミズチは、本物の魔物と、操られておる動物を如何に見分けておるのじゃ?」


姫は座って砂兎を招く。


「それは……勘……ですかねぇ……」

返事に困りながらも、律儀に立ち止まる蛟。


「魔物の姫様から、一夜で あれほどの話を聞き出せたのも、もはや技じゃと思ぅとるのじゃが、くノ一らに指南してくれるかのぅ」


砂兎達が寄って来た。


「そ、それは……人には難しいかと……そう、人でございますから……はい……」


「さよぅか。残念じゃが、仕方ないのぅ」

兎を撫でながら、

「して、如何に聞き出したのじゃ?」


何故か更に困り顔の蛟。

「……口では説明が難しゅうございます故……」


「まだまだ 歩くだけじゃ。

 長くても構わぬぞ」


「いやぁ……それは……その~」


 歯切れ悪く、視線が定まらない蛟と、その様子を面白がっている姫の会話は続く――



♯♯♯



 列の後方では――


「紫苑殿と珊瑚殿は、アオ殿とは古くからのお知り合いなのですか?」


「いえ、慎玄様と然程(さほど)の違いもございませんよ」


然様(さよう)ですか。

 お二人で修行の旅をされていたのですね?」


「はい」


「お話を伺っても よろしいですか?」


二人、視線を交える。「ええ、構いませんよ」


「ご存知の通り、東の国は戦をしておりますので、私共は何度も家を焼かれ、居を移して参りました」


「ひと月程前にも庵を焼かれ……もう、祖父母に護られねば生きられぬ程に幼くもございませんので、祖父母を父の元に送り、旅に出たのでございます」


「私共も国境の山に住んでおりましたが、都に近い北部でしたので、まずは、山脈沿いに南下したのです」


「それで、俺が住んでいた村に?」


「そうですね。

 出会えて良かったです」にっこり。


「あ……そうだ。

 あの時、家くらいに大きな白い狐が横切ったんだけど、あれも式神なんですか?」


「ああ、ご覧になられましたか……」


「あの狐様は……式神ではございません。

 幼き頃より、時折、姿をお見せくださっていたのです」


「庵を焼かれた時も、助け出してくださいましたし、祖父母を送った時も……。

 私共は、父の事を知らないのに、狐殿は、よくご存知のようで、祖父母が案内する事も無く、乗せて行ってくださったのです」


「南に向かうよう示してくださったのも、その狐様なのです」


「途中、魔物に襲われた時は、複数で現れ、私共を各々乗せて、逃がしてくださったのです。

 それで、はぐれていたのですが……」


「まさか、魔物退治の旅にお誘い頂けるとも、その方と紫苑が共に旅をしているなどとも思いもよらず、紫苑の姿を見て、本当に驚きましたよ」

くすくす♪


「あの時は、必死で声を掛けたんですけど……」


「それが伝わって参りましたので、お受け致しましたのです。

 アオ様の後ろで、紫苑も『この方は大丈夫』と申しておりましたし」

にこっ。


「あの時は、私も驚きました。

 まさか、アオ殿が珊瑚に声を掛けるなどと……」


アオは赤面して視線を()らせ、二人は、ころころと愉しげに笑った。

慎玄は微笑ましく三人を眺めていた。


「狐殿は、私共をアオ殿に会わせようとしていたのかも知れません」


「私も……あの町に降ろされた理由が解らず、あの時は困っていたのですが、今は、アオ様と出会う為……そうとしか思えないのです」


「また、現れてくれるかな……」


「現れてくださると信じております」


「俺も話せるかな……お礼、言わないと」


「お知らせ致しますね」

「三人で、お礼を申したいですね」


三人は頷き、微笑み合った。


「善き友は、真の宝でございます」


「はいっ」三人、満面の笑み。





凜「妖狐王様、アオが会いたがってますよ」


孤「時、満ちておらぬ」


凜「消えちゃった~」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ