試練山5-審判様
前回まで:姫は難無く着実に進み、
紫苑と珊瑚は新たな術を会得し、
アオとルリは楽しそうです。
♯♯ 試練の山 ♯♯
「して、次は?」
「これより、下りの試練で御座います。
次は、また洞穴。この穴から、お入り下さいませ」
「また、ミズチが居る穴に出ればよいのか?」
「はい。お待ち致しておりますぅ」
「ミズチは、ずっと、ただ待っておるのか?」
「はい……そうで御座いますが、何か?」
「いや、ずっと誰ぞ付いて来ておるよぅじゃからの」
「それは審判様で御座いますよ」
「さよぅか。そぅであろぅな」ふむふむ
「納得致した。では、いざ行かん!」
姫は意気揚々と洞穴に入って行った。
「上りの審判様、如何なさいましたか?」
「なかなかに面白いのでな。
下りも眺めようかと思いまして。
私が審判の任に就いて、初めての人ですからな」
「そうで御座いますね……
長く、人との交流は、途絶えておりましたからね」
「王子様方は、既に素晴らしき功績を成されましたな。
この方は、クロ様とご縁がお有りなのですか?」
「はい。
いずれ、クロ様とご結婚なさる方で御座います」
「そうですか。それは、めでたき事。
では、私は離されぬうちに参らせて頂きますよ」
上りの審判は姫を追い、爽蛇は終点に向かった。
♯♯ 天竜王城 ♯♯
「これより夕刻まで、ギン王様のご予定は無いのね?」
「はい。王妃様」
「では、今日こそは、お話し致しましょ♪」
ミドリが意気揚々と、ギンの執務室に向かっていた。
アオとアンズの見合い話を進める為に――
いそいそと向かっていると、廊下のずっと向こうに、ギンの背中が見えた。
お出掛けなのかしら?
小走りに追いかける。
ギンが飛んだ。
長老の山かしら?
ミドリも追いかけて飛ぶ。
ギンは長老の山の手前で降下した。
木々の繁りの中に、白い建物が見える。
ここは……深蒼の祠でしたっけ?
ミドリも降下し、祠に向かって低く飛んだ。
あら?
木々の上を越して、一瞬アオの姿が見えた。
人姿で、何かに攻撃をしている。
ギン様はアオに会いにいらしたのかしら?
丁度よいわね♪
えっ!?
今度は女性が跳び、光を放った。
あれは……ルリさん? それともアンズさん?
立ち止まって、もう一度と、木々の上を見る。
見えたのは、女性。
あの髪色はルリさんね!
二人で鍛練しているのかしら?
あ! もしかして……
ルリさんが、お慕いしている殿方は、
アオなのかしら?
それならそうと仰って下さればよかったのに
恥ずかしかったのね♪ 可愛い方だわ♪
木々を抜け、近付き、幹の陰から見てみる。
あら? アオひとり??
まあっ! ルリさんに!?
またアオに!?!?
ミドリは、目まぐるしく姿が変わるのを見て、口あんぐりで言葉を失ったまま立ち尽くした。
アオが気付いた。(ルリ、中断だ)
「母上」近寄る。「ご覧になられたのですね?」
ゆっくり頷く。「わ……悪気は無かったのよ……」
「解っております。
私の方こそ、隠していて申し訳ございません。
ルリは既に亡くなっており、今は私の中で生きているのです」嘘ではない。
「そうだったの……」あまりの事に鵜呑み。
(いいのか? アオ、言ってしまって――)
(いいんだ。
後で説明するけど、母上の勘違いを真実に変えてしまうね)
同時に存在していた矛盾さえ
気づかれなければ、なんとかなる筈。
「それで……あなたとルリさんは……?」
「はい。いずれ結婚を、と考えておりました。
しかし……こうなっては……もはや……
ですので、ルリも母上に尋ねられました時、私との事を言い出せなかったのです。
ですが、私とルリは、こうして生涯 共にいられますので、十分 幸せなのです。
現実的には、独身を徹す事にはなりますが、見守っては頂けませんでしょうか?」
「ダメよ!」
「母上!?」
「アオ、ルリさんにも花嫁衣装を着させておあげなさい。
ちゃんと婚儀をしなきゃダメよ!」
「母上……体が ひとつしか無いのですよ?」
「アオ役は影武者でいいでしょ♪
先日も、そうだったのでしょ?」
「その先の公務にも無理が――」
「なんとかなるわ♪
私なんて、何も公務してないでしょ?」
そこを堂々と仰られましても……
「任せて♪
キンとハクの婚儀が終わったら、すぐしましょ♪
そうと決まれば、急いで準備しなければね♪」
ミドリはルンルンで飛んで行った。
「アオ、大丈夫なのか?」
ギンが木の陰から現れた。
「どうなんでしょう……」あはは……
「俺が無理強いしたばかりに……
阻止した方がいいよな?」
「いえ……あのルリではありませんが、本当に、今、俺の中にルリがいるんです。
双青輝だったルリが」
「そうか。それで、二人は結婚したいのか?」
「はい。既に結婚したつもりでいます。
父上が、今日いらっしゃる事は予測していましたので、報告しようと思っていたのですが、まさか母上が、城からお出になるとは思ってもいなかったので――」
「俺も、まさか付けて来ているなどと思いもよらなかった。
アイツの気の力は、封じられていたアオより弱いからな。
気は強いんだがなぁ」苦笑。
(アオ、もうひとり『ルリ』がいるのか?)
(うん……俺が女姿になっていた時に、つい、ルリと名乗ってしまったんだよ)
(そうか。そのルリと婚儀を、と王妃様は仰っているのだな?)
(そう。でも、姿は、どちらのルリも同じだから、たぶん問題無いよ)
「まぁ、俺としても、きちんと妻がいると公表した方が、面倒を起こさなくていいと思うぞ」
「面倒?」
「既に、見合い話が、わんさかだ」
「なぜ、王位も継がない俺なんかに?」
「もう残っているのは、お前とサクラだけだからな。
王族と繋がる道が狭すぎるから、集中するさ。
サクラも早目に公表せねばならんからな。
そうなると、アオに一点集中だ」
と~ってもウンザリ顔のアオ。
「だからだ。
この際ミドリの好きなようにさせてやれば、他の兄弟も気が楽になるだろうし、
見合い話の山に埋もれる事もなくなるだろうから、乗ってみてはどうだ?」
「そういう見合い話なら、一生 続きますよね……
それなら、婚儀も仕方ないかな」
(婚儀とは、具体的に何をするのだ?)
(堅苦しい儀式と、国民への御披露目だよ。
ルリが嫌なら、俺が全てやるから、心配しないで)
(アオが花嫁をやるのか?)
(仕方ないだろ……
ルリがやってくれるなら嬉しいんだけど……)
(アオが嬉しいなら、やってもよいが……)
(ただし、横に立つのは影武者だよ?)
(アオは目の前にいるのだから、それでよい。
現実は無理なのだから、我慢するさ)
(工夫は、当然するつもりだよ。
俺だって、ルリが影武者と腕を組むなんて嫌だ)
(そうだな)笑いだした。
(楽しいのかい?)
(真剣に考えるのが、なんだか可笑しくなってしまっただけだ)
(何にせよ、楽しんだ者勝ちかな?)
(そうとも言えるな)
(ルリが、そう言ってくれるなら、やってみるか)
(二人で乗り越える事なら、何でも楽しめるさ)
(よし! 決まりだ。婚儀をしよう!)
「父上、身一つでの婚儀、ルリと共に乗り越えてみせますよ」にこっ
「話し合いの結果は、そうきたか。
双青輝のルリ殿は、流石、器の大きい女性だな」
「あっ、ありがとうございますっ! 国王陛下!」
「おまけに可愛い女性だな♪」
「いや、あのっ、そんな勿体無い御言葉をっ!」
声だけルリだったのを、アオがルリを主にし、ちゃんと女姿になった。
とたんに王の相好が崩れる。
ルリが、慌てたまま真っ赤になって俯いた。
「ルリ殿、アオの事、お願いします」
「はいっ! 私に出来る事、全てを以て尽くす事をお誓い申し上げます!」
「そんなに畏まらなくて構わない。
俺が認めたから、これからは堂々と、その姿で城にも来ればいい」
「父上……それは父上が、この姿をご覧になりたいだけなのでは?」
「バレたか」わはははっ♪
「父上~、ルリは俺の妻なんですからね」
「しかし、アオは今、城に入るには許可だ何だと面倒だろ?
ルリ殿なら、そんなものは要らん。
だから利用すればいい。それだけだ」
「そういう事なら、最大限 利用しますが、『人界の任』それ自体が昔話になるよう、魔界に進みますので 、これからは、そうそう天界には来ませんよ」
「とうとう、魔王と対決するんだな?」
「はい。
兄弟と仲間とルリがいる今こそが、最強の時だと思いますので、
神様の御力を得たら、すぐに魔界へと向かうつもりでいます」
凜「サクラ、ずっとウロウロ何してるの?」
桜「次回は、ちゃんと出るから~」
凜「ふぅん。で、おさらいしたいんだけど」
桜「いいよ~」
凜「竜は普段、人姿なんだよね?」
桜「若い竜は、だいたい人姿。
お年寄りは、竜体だよ」
凜「『若い』って?」
桜「んとね~
3000歳くらいまでかな。
6000歳より上が、お年寄り。
人姿だとホントに動けないから、
おっきいけど竜体のままでいるの」
凜「その間は?」
桜「好みだと思う~
竜は、ずっと大きくなっていくから
おっきいのヤダってヒトもいるし~
人姿が衰えていくの見たくないって
ヒトもいるから~」
凜「サクラ……魔竜王になっても、
ずっとその話し方なの?」
桜「どぉしよ~ねぇ」えへっ♪




