砂漠編8-廃墟
三界の竜の鱗の内側には、所々隙間が有るそうです。
そこに小さな竜宝の壺を仕込んでいるのだとか。
まるで四次元◯ケット……。
「もう、瓦礫の山は無いようだから、西に進もう」
翌日から、アオ達は、更に西へと進路を定め、岩山の兎達を解放しながら歩を進めた。
♯♯♯♯♯♯
そして、三日後――
砂漠を行来する商人の為の宿場街――の廃墟に到着した。
人影は無く、ただ砂塵が舞うばかり――かと思いきや、通り過ぎようとした屋根も扉も無い廃屋の床の一角が持ち上がり、
「旅のお方、今宵の宿はお決まりですか?」
男の声がした。
皆で顔を見合わせる。
「ご安心くださいませ。
私は宿を営む者でございます。
どうぞ、こちらにお越しくださいませ」
「アオ様、如何致しましょう……?」
「そうだね……」「ワラワは見たいぞ♪」
「話も聞けるだろうし、泊まろうか」
「はい♪」「いざ行かん♪」
宿屋の主人の案内で地下に下りると、地上の街さながらの繁華街が在った。
商魂逞しい彼らは、この街の北に在る都に向かって通路を掘り、商いを再開したそうで、中の国の西端の森の村人達が、心配していた程の深刻さは無かった。
宿屋の隣に飲み屋が有り、人が集まっていたので、アオは蛟と共に情報を集めに行った。
話を聞こうとする度に、何か買えと言われるのには辟易したが、品は良く、結局あれこれ買ってしまった。
舞台近くを通った時、踊り子から声が掛かり、アオは酔客達に押し上げられてしまった。
酔客と蛟に囃し立てられながら踊っていると、ひとりの踊り子がアオに近付き、
「後程、話を聞いて頂けますか?」
と、耳打ちしてきた。
アオが頷き返すと、その踊り子は離れ、微笑んだ。
一曲 踊りきり、御役御免となって、冷やかしの拍手喝采の中、舞台から下りた。
宿に戻り、各々が得た情報を交換した後、アオが再び飲み屋に向かうと、宿屋と飲み屋の間で、踊り子が待っていた。
「旅の御方、魔物退治をなさっているとか……」
頷く。
「お願いが有るのですが――」
彼女は、ここより遥か西の大陸から海を渡り、この街に来たのだが、同郷の商人から、母親の病を聞き、帰ろうとした矢先、魔物の襲撃で街から出られなくなったそうだ。
「もし、西へ向かうのでしたら、同行させて頂けないでしょうか?」
「はい、構いませんよ。ただ……」
「何でしょう? お礼でしたら――」
「そんなものは、必要ありませんよ。
ただ、これから俺達は、この西の高い岩山に向かうんです。
そこには、おそらく、強敵が巣食っている筈。
ですので、それを退治し、この辺りの安全が確保出来たら、お迎えに参ります」
にこっ。
♯♯♯
飲み屋に戻る踊り子の後ろ姿を見送り、宿屋に向かおうとしたアオの足が止まる。
サクラは、廃墟の西の岩山が、砂漠で最も高く、
おそらく、砂漠では最強の魔物が居る筈だと
言っていたな。
もしかしたら、その魔物を退治すれば、
この砂漠からは、全ての魔物が居なくなり、
兎達も元に戻るのではないか、とも――
これが、俺に話せる限界なんだろうな……。
俺に、いろいろ話したくても、話せなくて、
幼い心に抱え込んで
孤独に苦しんでいるサクラに、
俺は信頼を示す事でしか返せないけど……
何とかして、早く、心からの笑顔に戻したい。
アオは宿屋の前に佇み、ここからは見えない空を仰いだ。
サクラ……今日も、きっと来ているよね――
(なぁに~?♪)
(あ……廃墟の上に居るのかい?)
(うん♪)
(毎日、出掛けていて、本当に大丈夫なの?)
(だいじょぶ~♪
俺、兄貴達のお話しの中継係だから、どこにいても おんなじ~。
キン兄だけ言っとけば、だぁれも気にしてないよ~)
(そう……)皆……忙しいんだな……。
(あ♪ アカ兄が、姫の剣、直ったって~♪)
(そうか、早いね)
(うん♪
でも、この剣、強くないから、新しいの作るって~♪
アオ兄のも作るって~♪)
(そんなに? いいのかな……)
(いいの~♪ アカ兄、楽しそ~だから♪)
(そう?
なら、ありがとう、って伝えてくれるかい?)
(うんっ♪)
アオは、宿屋の玄関の石段に腰を下ろした。
(アカ兄、喜んでた~♪
ちゃんとしたの作るから、ちょっと待っててって言ってた~♪)
(そんなに可愛く言わないだろ)くすっ♪
(うん♪
『各々に合わせ、完璧を目指す。暫し待て』だって~♪)
声色と口調、完璧。
(うん。待っているからね)くすくす♪
(アオ兄、知らないヒトが見たら変なヒトだよ。
そんなトコで、くすくす笑ってたら~)
(大丈夫だよ。酔っ払いしか歩いていないからね。
せいぜい、コイツも酔っ払ってるな、って思われるだけだよ)
(部屋に戻らないと、蛟、心配しない?)
(たぶん、それも大丈夫だよ。
女性に呼び出されて、出て来たんだから)
(どゆこと?)
(解らなくていいんだよ)
(そぉなの?)
(気にしないでね)
(ん~~、ま、いっか~♪ あ♪
あのウサギさん、スナウサギって言うんだって~♪)
(へぇ、まんまな名だったんだね)
遅くまで、アオとサクラは、のんびり話した。
♯♯ 竜ヶ峰 洞窟 ♯♯
扉を叩く音にキンが返事をすると、銀の髪が覗いた。
「兄貴、何か用があったのか?」
「ああ、ハク、帰ったのか」
「とっくに帰ってたんだけどな。
サクラに『ウサギさん助けてぇ』って、泣きつかれてなぁ。
てんこ盛りの兎に治癒当てたら、どっぷり疲れて寝てたんだ」
「その兎は?」
「部屋中ぴょんぴょんピョコピョコ大変だったよ~。
どうやら、俺が寝てる間に、サクラが連れてったみてぇだがなっ」笑う。
「そうか。それならいい。
頼みが有るのだが……明日にでも、アオの蛟殿を診察して欲しいのだ」
「何かあったのか?」
キンは、ハクに砂漠での事を話した。
「なら、今から行って――」
「いや、今夜は、宿に泊まっている。
あの廃墟の地下に、街が出来ているらしい」
「人って、意外と強ぇんだよな。
そっか。なら、明日 行って診るわ」
「うむ、頼む。
それで、ハザマの森の方は、どうだったのだ?」
「それなんだがな。
クロとフジに加勢してもらって蹴散らした後、留まって警戒してたら、また魔物が出たんだ。
で、魔物を追ってハザマの森に入ったらな。
妖狐王様直々に御出座しくださって、あっという間に撃退だよ。
んで、話してたんだが、アオの事を随分とシツコク聞かれたよ。
だから、どうやって、その情報を得たのか問い詰めたら、御孫様が人界にいらしてるんだと。
それで聞き及んだと仰るんだよ」
「妖狐王様が、アオの事を……そうか……」
「兄貴、何か知ってるのか?」
「いや、理由は知らぬが、妖狐王様は、アオが幼い頃から、何かと気に掛けてくださっているのだ」
「ふ~ん……アオの事、お気に召したのかなぁ」
「そうなのかもな」フッ……。
凜「あ、妖狐王様、お久しぶりです」
孤「報告書を見せよ」
凜「はい♪」
孤「ふむ……今後も抜かり無く記せ」
凜「は~い♪」




