仁佳西1-岩戸地帯
前回まで:仁佳と東の戦は終結しました。
馬車は東の国から、仁佳の西岸に、クロが曲空で移動させていた。
「のぅ、ワラワは、もっと強くなりたいのじゃが、紫苑と珊瑚は、気を読んだりする修行を如何にしておるのじゃ?」
夕食時、姫が紫苑と珊瑚に尋ねた。
「主に瞑想ですが……
母様、確か、この辺りに良い場所があるとか……
以前、社から船に戻る時、仰っていませんでしたか?」
「ええ、幾つか岩戸があるのよ。
岩戸に籠って、気を集中すれば、効率が良くて、格段に高まるわ。
姫様でしたら、風羅の岩戸が良いかしら」
「そこで瞑想すればよいのか?」キラキラ
「では、そちらに向かいましょう」にこっ
「私達にも、合う岩戸があるのですか?」
「今の紫苑と珊瑚には、神楽の風穴が合っているわ。
音は同じだけれど、全然 別物よ。
でも、また東の国に、戻る事になるけれど……」
「どこでも送って行くからな」
クロが旨そうな香りが漂う鍋を持って来た。
「慎玄様には、雷崋の岩戸が良いかしら?」
「私は雷なのですか?」
「ええ、開いてはおりますよ。あとは――」
桜華は慎玄の額に掌を翳すと、術を唱えた。
掌から額へ、光が流れる。
「慎玄様、開いておりますのは、竜の力。
雷は、それに付随している力ですので、竜の力の伸ばし方は、クロ様、お願い致します」
「オレ!? サクラを呼ぼうかな……」
「サクラは、上で忙しいのじゃろ?」
「あ、そっか……じゃ、フジにでも――」
「私が、どうかしましたか?」
「あ♪ また、いいトコに来たなっ♪
慎玄さんの竜の力、引き出してやってくれよ」
「基礎くらいなら……
でも、私も雷ではありませんからね」
「クロ様は、姫様からは、離れてくださいね。
姫様の風の力を伸ばすのですから、供与されると困りますので」
「え……」固まった。
「その気は無くても、兄様は供与してしまいますからね」クスクス
「フジ~、お前なぁ」「その通りでしょ?」
「桜華様までぇ」「過保護ですからね」
「フジ! いーかげんにしろっ!」
「とにかく、クロ様は、修行の間だけは離れてくださいね」
「近くにいらしても、岩戸に籠るのですから、顔も見れませんよ、クロ兄様。
でも……姫様は狙われていますから……
私が護衛致しましょう」
「風羅と雷崋は、近くにありますから、両方お願い致します、フジ様」
「解りました」にこっ
「オレ……何してたらいいんだ?」
「でしたら、アカ兄様の探し物の方をお願いします。
昇龍桜か祐貫松、いずれか一本あればよいそうです」
「何の材料なんだ?」
「護竜宝を本来の目的に使う為の物、としか聞いておりませんが――あっ!
ということは、結心の弓矢の材料です」
「何するんだ? 本来の護竜宝って」
「神竜と絆を結ぶんですよ」
「ってことは、フジには、もう要らねぇのか?」
「はい。私には、結心の弓矢は不要です」
「姫、どっちかの木、知らねぇか?」
「桜の方は、幻と言われておるからのぅ……
既に、絶えてしもぅておるやもしれぬ。
松の方は、聞いたことも無いわ」
「誰か知らねぇか?」見回す。
「私も、幻の桜としか聞いてはおりません。
東の国の松浄大社の御神木が、松ではありますが……
その松かどうかまでは存じません」慎玄。
「狐の社の近くに、桜の大木がありますが、名前までは……
ただ、種類は沢山ありますよ」
「ハザマの森かぁ」
「もちろん、ご案内致しますよ」
「ありがとうございます、桜華様。
で、特徴とかは?」
「それは、サクラに聞いて欲しいと……」
「まずは、サクラを探さねぇと、かよ~」
「私も、サクラには用がありますので、これから、深蒼の祠に行こうと思っていたのです」
「フジは天界から来たんじゃねぇのか?」
「タツさんの家に置いてある、魔物検知用の竜宝を確認しに行っていたのです」
「そういえば、最近、誰も行ってなかったな。
そういう事だったのか」
「はい。アオ兄様とサクラが、竜宝を組み合わせて作ってくださいました」
「んじゃ、とりあえず深蒼の祠に行くか」
「はい♪」
♯♯♯
フジを連れてクロが曲空すると、サクラが水槽に光を当てていた。
「どしたの~?」
「昇龍桜と祐貫松の特徴、教えてくれ」
「結心樫の代替え材料だね~
クロ兄、こっち来て」
クロが寄って行くと、サクラは掌をクロの額に当てた。
「こんな木だよ~」掌が光る。
「でもね、どっちも絶滅してるかも。
魔王が、ずっと前に根絶やしにしたから……
だから、あるとしたら見つかりにくいトコ。
ひっそりと生えてたらいいな~って感じ」
「なぁ、この桜……翁亀様の桜に似てねぇか?」
「うん、仲間だよ。翁亀様の桜は降龍桜」
「てか、サクラが探した方が早いんじゃ――」
「魔界に行かなきゃなんないも~ん。
あるとしたら人界なんだ。クロ兄、お願いっ」
「そっか……解った。
フジは、この後どうするんだ?」
「モモお婆様に呼ばれておりますので、今夜は天界に居ようかと思っています」
「なら、馬車に戻るわ。
ありがとな、サクラ。アオを頼んだぞ」曲空。
「フジ兄、天性 開いたんだね?」
「やはり、これが二つ目なのですね?」
「うん」にこにこ♪
「これも、大器のような気がするのですが……」
「大器だよ。この前 開いたのが『知の大器』。
こっちは、一般的な大器なんだ。
でね、今回のが『技の大器』。特殊なんだ。
『神の大器』って呼ばれてるんだよ♪」
「どのような――あ……聞いても大丈夫ですか?」
「だいじょぶ~♪
その大器に入れた技は、属性とか関係なく使えるんだ」
「ということは……曲空も?」
「使えるよ。
ただし、大器自体を使いこなせるよぉにならないとダメだけどね。
だから最初は、火の技を入れて、どんどん使ってれば、いずれ何でも使えるよぉになるんだよ」
「この天性があるから、サクラはずっと、私に、待てと言っていたのですね……
それで、どうすれば入るのですか?」
「誰かから貰うか、書物から覚えるか~
大器だから、入れる方法は、おんなじだよ。
難度の高い火の技をどんどん吸収してねっ。
また、竜骨の祠に行けば貰えるんじゃない?」
「また……? あっ!?
既に何か入っています! これは――」
「グレイスモーブ様から、でしょ?」
「あ……では、あの時……」
「明日、お礼しに行こっ♪」
「そうですね♪」
「モモお婆様トコに行くの?」
「聖輝煌水の作り方を伝えるだけですので、すぐに、こちらに戻りますよ」にこっ
「うんっ♪ 待ってる~♪」
(サクラ、深神界の鍵、判ったか?)
(ハク兄♪ 東の国にあったよ~♪)
(んじゃ、そっち行くわ)
「お帰り~♪
はい♪ コレ、深神界の鍵♪
琴戴鏡だよ。
でも……まだ、条件があるのかも~」
「深神界の入り口までは、自力で見つけられたんだがなぁ。
結局サクラ頼りなんて、情けねぇよな」
「そんなふうに思わないでよ~」
「竜宝の王様だもんな」ニヤッ
「それもなんだか……」
「じゃ、博士」ははっ♪
「確かにそぉだけどぉ」むぅ~
「教授♪」ニカッ
「なんで知ってるの!?」
「さっき、護竜剣が教えてくれたんだ♪」
「魔竜王国で竜宝 探すために、仕方なくなったんだよぉ」
「なれるんだから、やっぱ凄ぇよな」
ため息……
「次、交替したら、竜宝の国に行くからね。
護竜槍いる場所 見つけてね」
「ああ、真神界でない事を祈って探すよ」
ハクは笑って曲空した。
「サクラ、ハク兄様がいらしていたのですか?」
「うん♪ フジ兄、おかえり~♪
なんでわかったの?」
「声が反響しているような気がしたのです」
「あ~、そっか。
笑いながら曲空したからだ~」きゃははっ♪
「そうですか」ふふっ♪
「あ♪ フジ兄、こっち来て~」
「はい?」水槽を挟んで向かい合った。
サクラがフジに掌を向け、目を閉じた。
「ん~~~とね……みっけ♪」掌から光が迸る。
「あ……」「スッキリ~♪」「はい……」
「でね~、コレ♪」再び光が迸る。
「これは? 光の技ですか?」ぱちくり
「うん♪ そのうち使えるから~♪」
「ありがとうございます、サクラ。
でも、いいんですか?
こんなに簡単に渡したりして……」
「俺が使えなくなるんだったら困るけど~
いっしょに使えるんだから、困らないもん♪」
「でも、会得には、それなりの修行をしたのでしょう?」
「それはそれ~♪
俺、修行も楽しいも~ん♪
いっぱい火技使わないと~なんだから、フジ兄は、これからガンバらないと~なんだよ。
だから、いっしょ~♪」
「はい♪ それは頑張りますよ♪
あ……慎玄様を伸ばすには、雷技も必要ですよね?」
「そぉだね~。キン兄に頼んどくねっ♪」
「いえ、そのくらいは――」
「説明ついでだから~♪」
「そうですか……」
キンがアカを連れて現れた。
二人は、雷と火の技を伝授すると、
「頑張れ」と、微笑み、去った。
「キン兄様も……アカ兄様も……簡単に……」
「兄貴達も、み~んな おんなじ♪
フジ兄と いっしょが嬉しいの♪ あ……」
(キン兄♪、アカ兄♪)
(どうしたのだ?)(ん?)
(フジ兄が、感謝色の涙いっぱいポロポロして喜んでるよ♪ ありがと♪)
(そうか。共に頑張ろう、と伝えて欲しい)
(アオもクロも同じだ。貰えばいい)
(うんっ♪)
フジは、アオの水技も貰った。
アオはまだサクラの中に居る事になっている為、
サクラが小器から伝えたのだが――
桜「フジ兄、いっぱい入ったけど
だいじょぶ?」
宙を見詰め、瞳を潤ませているフジに、
サクラは優しい光を当てた。
藤「……あ、もちろんですよ。
ありがとうございます、サクラ」
(ありがとうございます、アオ兄様)
青(頑張ってね、フジ)
藤(はい! アオ兄様♪)
「あ……」抱きつこうとして固まった。
そう。目の前に居るのはサクラだ。
桜「ん?」小首を傾げる。
藤「いえ……何も……」真っ赤。
桜「あ♪ 外に牆壁で囲い作る~♪」
フジを引っ張って庭に出た。
桜「ここで、技の練習~♪」
藤「あ……」感激の極み中~
桜「入って入って~♪」押し込む。
藤(……サクラ、ありがとうございます)
桜(がんばるのは、フジ兄だよ~)
藤(はい。頑張りますねっ)
ひと晩中、嬉々として技を繰り出すフジだった。
桜(やっぱり、フジ兄は、アオ兄が
だ~い好きなんだね~♪)
青(そう?♪)とっても嬉しそうだ。
桜(俺も~、アオ兄だ~い好き~♪)
青(うん。二人とも大好きだよ。
って、サクラ!? 何を!? おいっ!)
ひと晩中、芳小竜を抱きしめ、すりすりするサクラだった。




