東の国7-終戦
仁佳も、東も、めでたしめでたし♪
「大臣方々、
仁佳の軍は、もう我々を攻めたり致しません。
東の軍が退けば、仁佳も退きます」
嘉韶が大臣達を出口へと導いた。
「仁佳では、皇族方々が魔物に捕らえられ、水墨のような闇黒竜が成り代わり、戦を続けておりました」
紫苑が帷長に手を差し伸べる。
「その闇黒竜を滅しましたので、仁佳は既に戦を続ける意志は御座いません。
ですので、徴兵も不要です」
珊瑚は帷次に手を差し伸べた。
「残るは陛下の解呪のみ。
さあ、参りましょう」
桜華が歩きだした。
皆、ぞろぞろと広間に移動した。
后妃、皇子、皇女方々も集まり――
帝を玉座に導き、解呪が始まった。
サクラが、竜血環と宿った種を、浄化と治癒の光で滅し、
桜華が呪を解き、
嘉韶一家全員で、集まった人々に付いていた闇と、掛けられていた呪を祓った。
帝は晴々とした表情で終戦を宣言した。
(サクラ、終わっちまったのか?)
(クロ兄だ~♪ 終わったよ♪)
(竜が出たらマズいか?)
(俺、とっくに竜になったよ♪)
(ふぅん……なら、いっか♪)
黒輝の竜が現れた。
その背には、姫が乗っていた。
姫が身軽に飛び降り、玉座に礼をした。
「これは、中の静香様。
ようこそ、お出でくださいました」帝が微笑む。
「お久しゅうございます、陛下。
終戦の調印式は、是非とも中の国で」にこっ♪
「朕には有難いが、仁佳からは、遠くは御座いませんかの?」
「竜ならば一瞬で御座います故」
「一瞬と……ならば、日取りの調整など、お願いしてもよろしいのでしょうかな?」
「畏まりました」ぺこり
踵を返して弾みながら「クロ、参ろぅぞ♪」
ぴょんと背に乗ると、竜が消えた。
帝が唖然としていると、再び竜が現れた。
その背には、仁佳の皇帝と皇太子が増えていた。
「陛下、今からでも構わぬとの事じゃが、如何であろぅか?」
「ならば、朕も乗せて頂けますかの?」
サクラが帝を運び、クロの背に乗せた。
「こちらも、皇太子もよろしいかの?」
「勿論じゃ♪ サクラ♪」
サクラが皇太子も乗せた。
「ここからならば、すぐじゃから、空の旅と致そぅぞ♪」
クロは外に曲空し、中の城の天守まで飛んだ。
殿が天守から顔を出す。
「父上、終戦調印式の場、借りるぞ♪
立ち会い願えるか?」
「勿論、悦ばしき事、大歓迎じゃ♪」
そんなこんなで和やかに事は運び――
その日のうちに、仁佳に出ていた東の軍は、竜の背に乗って帰国した。
♯♯♯♯♯♯
(サクラ、どこにいるんだい?)
(アオ兄、すぐ行くねっ)深蒼の祠へ――
(どぉしたの?)水槽からルリを取り出す。
(目の前に……サクラ? 見え辛いな……
俺は、今度は何に入ってるんだい?
水晶か何かかな?)
(芳小竜のルリの中だよ。
アオ兄の体、浄化し始めたトコだから、一緒にいた方がいいんだって~
って、カルサイ様が移してくださったんだ)
(そうか……だから動きにくいのか。
あれは、水の中だったんだね?)
(うん。アオ兄の体、聖輝煌水に浸けてるんだ。
ルリの中でも浄化の光は出せるハズだから、アオ兄も浄化してね)
(解った。ゆっくり休む他は無さそうだな。
サクラ、いろいろ、ありがとう)
(言いっこなし♪
じゃ、また後で浄化しに来るからねっ)
ルリをなでなでして、水槽に戻した。
「じゃ、キン兄、アオ兄、交替時間まで魔界に行くねっ」曲空。
サクラは布石像を辿り、ソラの部屋の屋根裏に曲空――
――したつもりだったが、
目の前にソラが居た。
「わわっ!」「きゃっ!」
そこはソラの部屋で、ソラの手には、屋根裏に置いた布石像が有った。
見つかっちゃたんだ……
「やっぱり、サクラくんのだったのね?」
おずおず頷く。
「私が狙われてるとかって話と絡んでる?」
「まぁ……すぐ来れるよぉに……ね」
「ふぅん……でも、何事も無いじゃない?」
いや、けっこう、あったんだけど――
って、またっ!
ソラの背後に、開きかけた闇の穴に光を放つ!
「え!?」振り返った時には、何も無い。
「何なの!?」視線をサクラに戻した時、ソラは一瞬、サクラの厳しい眼差しを見た。
サクラは瞬時に、いつもの表情に戻していたが――
「本当……なのね……?」
少し間が有り、サクラが頷いた。
「だから……出来れば、安全な所で暮らして欲しいんだ。
天界に、来てほしいんだよ」
「それは……出来ないの。ごめんなさい」
「そう……なら、傍にいていい?
護りたいから……俺の責任だから……」
「えっ!? ……それは さすがに……」赤面して俯く。
「あっ!! そじゃなくてっ!
ずっと見てるんじゃなくてっ!
危険を察知できるトコにいるだけだからっ!」
「あ……そ、そう……そうよねっ」あははは……
「そりゃそーだよぉ」まっかっか!
そんなこんなで、やっとアオにベッタリな生活から解放されたと思ったが、
ソラにベッタリな生活は、まだまだ続くサクラであった。
どっちも大好きだから、いいんだよぉっ!
♯♯♯♯♯♯
馬車の中では――
「のぅ、ワラワの記憶が、おかしいのじゃが……
東の国に来てからの記憶が無いのじゃ。
ワラワは何をしておったのじゃ?」
「寝てただけだよ。魔物に眠らされてな」
「さよぅか? しかし、何やら――」
「ムリに思い出さなくていいって」
「如何したのじゃ? クロ……何やら――」
「いいからっ! 何も無かったんだ!」
「怒らずとも――あっ」クロが抱きしめた。
「……嫌か?」姫が首を横に振る。
「なら、それでいい」姫の頭に、額をつけた。
馬車の外では――
「サクラ様より頂きました」
珊瑚が家賽を二つ投じた。
「慎玄殿、何が有ったのですか?」紫苑。
「私は近くの寺を訪ねておりましたので……
戻りましたら、姫様は闇を飲まされ、眠っておりました」
「心配したのですね」三人、馬車を見る。
桜華が嘉韶を乗せて、跳んで来た。
「あら、良い小屋ね」人姿になる。
「弐彌に陰陽師頭を継がせたら、狐の社に住まわせて貰える事になったよ。
二人が来るのを待っているからね」
「はい」紫苑と珊瑚、揃って、にっこり。
「馬車の中は……ちゃんと収まったのね」呟く。
「母様、何かご存知なの?」
「二人の事だから知らなくていいのよ♪」
皆、頷き、微笑んだ。
♯♯♯♯♯♯
「アカ兄、なぁに?」
アカは返事の代わりに、環を差し出した。
【これは……まさしく私の体……】
「具現環?」
【はい。もしや、そちらの箱にも――】
「認めてくれたか。サクラ、皆に配れ」
「ん♪ 具現環も魂主だったんだ~♪」
【はい。
アカ様、活躍の場をありがとうございます!】
アカがニヤリと微笑む。
(アカ兄は、すっごく喜んでるんだよ♪)
【然様で御座いますか♪】
「じゃ、配る~♪」曲空♪
(人にも配っておけ)
(は~い♪ 魔人さんも?)
【もちろん、大丈夫で御座います♪】
「慎玄さ~ん♪ コレ、錫杖に♪」
カチャカチャと二つ嵌めた。
「この環は如何な物でしょう?」
「術 出しやすくする環だよ~♪
桜華さま♪ 紫苑さん♪ 珊瑚さん♪」配った。
「じゃあ、またね~♪」曲空♪
戻って来た。
「クロ兄と姫に渡しといて~」頬が桜色。
凜「魔王は、どうして戦させてたの?」
桜「人を拐って魔物にするためと~」
青「人界を混乱させる為だろうね」
凜「魔王が行きたいのは神界でしょ?」
青「だから足掛かりにしたいんだよ」
桜「それに、俺達も足止めできるでしょ?」
凜「そっか……でも、どうして東の国を?
仁佳なら大国だから解るけど、
中と同じで小国でしょ?」
桜「それは、妖狐との繋がりを
断ちたかったんだよ~」
青「凜、書いたよね?」
凜「あれは、桜華様を追い出したかった
んでしょ?」
青「戦は、それより前からなんだよ」
桜「東の臣下で、いっちば~ん偉いの
陰陽師頭さんなんだよ」
青「嘉韶さん、妖狐の血族だったよね?」
凜「そっか……」
青「他にも理由が有りそうだけどね」
凜「何?♪」
桜「まぁだだよ~」
凜「ケチ~」
青「あとは、竜が絡んでいそうだよね」
桜「東では、陰陽師さんと僧侶さんは、
おんなじくらい偉いの~」
凜「それがヒントなの?」
桜「うん♪」




