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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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東の国5-潜入

 サブタイトルは『東の国』なのに……

――はい。進めます。


 桜華、紫苑、珊瑚は、東の国の都に着いた。


「これが、父様から頂いた宮殿の見取り図です。

中央に、政や儀式、謁見などを行う場所が集中しています。

東西に皇子や皇女、北に后や妃の方々の居室、

南は来客用の施設が殆どです」


「権力は、帝に一点集中しており、后をはじめ皇族方々は、発言すら許されず、軟禁されているような状態でした」


「大臣など要職の方々は、名ばかりとなっているか、父様のように戦場に送られておりました」


「帝は、自らの意思で戦をしているの?

それとも強要されている? 操られている?

もしくは、偽者が成り代わっているの?」


「魔物の気配は感じましたが、それが帝の内なのか、外なのか……

帝の周囲には、結界や術などの偽装が至る所に施されており、見極める事が出来ませんでした」


「順に剥ぐのみね。では、参りましょう」




 三人は、姿と気を消し、宮殿内を進みながら、常人には見えない御札を貼っていった。


「あれは――」

かつて、庵の庭で一家に竜血環を掛けた親族の男・帷長(イオサ)が、廊下を歩いていた。


紫苑と珊瑚には、御札を貼り続けるよう指示し、桜華は帷長を追尾した。


帷長は陰陽殿へ入って行き、陰陽師頭が座るべき場所に腰を据えた。


桜華が、怒りが燃え盛りそうになるのを抑え、監視を続けていると、

豪華な装束を着た男が帷長に近付き、話し始めた。


他の陰陽師達が人払いされる。


そこに、全ての柱に御札を貼り終えた紫苑と珊瑚が合流した。


「あの男は、先程、帝の傍に居りました」

「人ではありませんよね……」


「そうね」


もうひとり、親族の男が帷長に近付き、話に加わった。


「あの男は――」桜華が悔しさを滲ませる。


牢に繋がれていた桜華に、嘘の条件を伝え、人界から去らせた男・帷次(イツギ)であった。



水墨(ミスミ)様、こちらで御座いましたか。

先程、伝令が参りまして、仁佳の最前線は膠着しておるようです」


「それでよい。

こちらに上陸さえされねば十分なのだからな」


「帷次、嘉韶(ヨシアキラ)は、まだ生きておるのか?」


「はい。何やら、竜と狐に助けられたとか――」


「狐だと!?

もう 人の世には現れぬのではなかったのか!?」


「それより、竜が問題だ。

彼奴等こそ始末せねばならぬ。

帝王様が最も御嫌いなさっておるからな」


「ははっ!

取り乱しまして申し訳ございません。

直ぐに援軍を向かわせ、攻め込ませます!」


「兄者、いつものように、帝に『御告』をすればよいのですね?」ニヤリ


「そうだ、帷次。上手くやれよ」ニヤリ


「竜を(おび)き出したら(しら)せよ。

祈祷所の水晶で見られるのであろう?」


「それは……私共では……」

「嘉韶にしか出来ませんのです……」


「役立たずめが!」

両手を突き出し、二人の額に掌を当てた。


水墨が掌を外すと、二人の額には血赤の紋様が浮かんでいた。

それは、闇黒の煙となって、額に吸い込まれた。


「見えるようにした。さっさと行け!」


「ははっ!」二人はバタバタと駆けて行った。


豪華な装束の男・水墨は、フンッと鼻を鳴らし、踵を返した。




 追って行くと――


水墨は、玉座の帝の前に跪き、頭を下げた。

「陛下、陰陽師より報せが御座います。

祈祷所へお願い申し上げます」


「うむ……」


帝は言われるがまま、ふらりと立ち上がり、数歩進んだ所で、よろけ、水墨が手を取り、支えた。

その時、帝の手首がチラリと見えた。


 竜血環!


帝は水墨に支えられながら、ゆらりふらりと歩んで行った。


水墨は広間の近衛に、

「大臣達を祈祷所に」と言って出た。



「紫苑、珊瑚、私は北の奥を確かめてから、祈祷所に向かいます」


「では、私は、東西の様子を確かめます。

紫苑、追尾お願いね」


桜華と珊瑚は、音も無く走り去った。




 リジュン殿も助け出した時、

 竜血環を着けたままだったと伺いました。


 竜血環を外さなければ魔獣化は起こらないが、

 乗っ取りだけは起こるのでしょうか?

 それとも、操られるのでしょうか?


 いずれにせよ、あれは帝自身で、

 帝の意思では動いてはいない。

 それだけは確定のようですね……


そこまで考えて、紫苑は帝を追った。


――が、なかなか進まない。



 それにしても……あの手この手と

 バラバラなのは何故でしょう?


 魔王は私怨に因り

 神達に報復しようとしており、

 そのために、強き依代を求めている。

 そう、翁亀様は仰いました。


 依代を得る為に、

 支配する方法や、乗っ取る方法、

 力を得る方法や、同化や融合する方法などを

 模索しているのでしょうか……



考えていると、珊瑚が戻って来た。

「皇子、皇女様方は、皆様、自室に閉じ込められています。

皇太子様は足枷までされておりました」


「昨日は、そこまでされてはおりませんでしたね……

あの男……水墨も居なかった……」


「水墨が居る時だけ厳重なのかしら?」


桜華が戻って来た。

「皆様、閉じ込められておりましたが……

昨日も同じでしたか?」


「いえ、昨日は、そこまでは……

お后様はお庭にいらっしゃいましたし、他の妃の皆様も、思い思いに御趣味などされておりました」


「御子様方も同様です」


「昨日は、水墨は居なかった……

なので、水墨が居る時だけ、厳しいのであろうかと話していたところです」


「あの水墨という男も、魔王の影なのかしら?」


「先日の、神竜を闇化した影とは、異なっているように感じるのですが……」


「そうなのよね……」



 帝が祈祷所に入ると、祭壇で燃える火だけが赤く照らす中、陰陽師達――帷長と帷次が唱える声だけが響き渡っていた。

薄暗い奥では、大臣達が揃って待っていた。


「水墨、朕から離れないでおくれ」


「畏まりました」


祈祷していた帷長と帷次が振り返る。


「陛下、仁佳に出ております兵が不足しておる、と出まして御座います」


「至急、増員し、進軍せねば、我が国に災いが起こりましょうぞ」


「水墨、兵を集めよ。

国に災いが降りかからぬよう、しかと集め、至急、仁佳に向かわせるのじゃ」


「仰せのままに……」


「しかし、水墨は離れてはならぬぞよ。

大臣達を使うのじゃ。よいな?」


「ははっ」大臣達の方を向き、

「お聞きの通りです、大臣様方。

宜しくお願い致します」


「畏まりました」

大臣達は諦めの表情で一礼すると、祈祷所を後にした。



紫苑は大臣達を追い、

珊瑚は父の元へと跳び、

桜華は帝と水墨を追った。




♯♯ 火神子山 洞窟 ♯♯


 サクラは境界で、ソラとアオの様子を見ていた。


(お~い、サクラ~)


(なぁに? ハク兄)


(深神界に入れねぇんだが、鍵が違うのか?)


(ソレねぇ、違うって聞いたから、探してるんだけど……)


(やっぱ違うのかぁ。

んじゃ、アオの浄化するわ)


(ありがと♪ ちゃんと探すからね)


(ああ、悪ぃな。頼りにしてっからなっ)


(ん。がんばる~)

(竜宝達、教えて?

琴戴鏡(キンタイキョウ)って、どこにいるの?)


【我等が王、人界で御座います】


(人界だったの!?)


【はい。東の国、都にて、形を変えられ、使われております】


(そのまま、鍵になるの?)


【装飾品を正しき物にすれば、御使用頂けると存じます】


(ん♪ じゃ、アカ兄に頼む~♪

ありがとね、五彩(ゴサイ)♪)


【私の名を……】


(そりゃわかるよ~♪

さっすが、万能の鍵だよね~♪)


【有り難き幸せにて……】


五彩が感極まり、他の竜宝達も嬉しそうに、ざわめいている。


(来てくれた、みんな、ちゃんと知ってるよ♪

アオ兄も知ってるよ♪

俺に入ってても、アオ兄に入ってても、おんなじだからねっ♪)


サクラの中で歓声が湧いた。


それを宥め、人界側に一歩踏み出した時、布石環が震えた。


 あ! ソラちゃんが!


大学上空に開きかけた闇の穴を消し去った。


 ちゃんと人界でも共鳴したね~

 これなら、行っても だいじょぶかなっ♪





孤「おい、これを持って魔竜王国に行け」


始【また来たのか!? 妖怪ジジイ!】


孤「サクラの代わりに行けるのは、

  闇障を持つ、お前だけだからな」


始【フンッ! 俺に指図するな!】


 姿を消そうとしたシルバコバルトが固まった。

何か言いたげだが、言葉も発せない。


 妖狐王が放った碧い光に包まれた、

シルバコバルトの表情が穏やかになる。


孤「行け」


始【はい。ありがとうございます】


孤「そんなに長くは()たぬ。急げ」


 呪縛を解かれたシルバコバルトが頷き、姿を消した。


孤「まったく、厄介な鎖だ」


 独り言ちた妖狐王も姿を消した。


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