東の国4-奪還
前回まで:アオとサクラは、魔王と戦闘中です。
アオとサクラの光と、魔王の闇が激しく交錯している荒野に、兄弟達が次々と現れた。
「昨日は、よくもナメたマネしてくれたな!!」
クロが領域供与を極大発動した。
【アオ王様、水竜に光を加え、聖輝水を纏わせ、動きを封じましょう!】
(よし! 具現環、頼んだよ!)
蒼牙から放たれた光水竜は、フジが放つ聖輝水を纏い、闇の牆壁を突き抜け、魔王に絡み付いた。
サクラが浄化の光を環にして、魔王に掛け――
フジが聖輝水を豪速に乗せて放ち、闇の牆壁を消すと、光の牆壁が次々と現れ、魔王を取り囲んだ。
聖輝水の激流は、魔王を光の牆壁に磔にし、その動きを完全に封じた。
クロがアカを連れて、魔王の懐へ曲空、アカが闇黒竜を掴み出すと、クロが再び曲空して、アオの体から離れ――
入れ替りに、アオとサクラが懐に曲空し、自身の体を掴み、即、消え――
キンが昇華で高めた光で闇黒竜を浄化し、遅れて開いた闇の穴と共に、煌めく波動で消し去った。
全員、辺りの気を窺う。
「そこだっ!」
キンが光の刃を極迅雷に乗せ、放った。
同時に、アカが豪速で突進した。
その交点に向かって、フジが放った豪速聖輝水を、クロが暴風撃で更に加速させた。
闇黒色の何かが、雷撃と激流を受け、落ちた。
アカが浄禍器に、その何かを捕らえ、蓋をした。
「何捕まえたんだ?」「黒猫だ」
皆、辺りの気を探る。
「もう、この辺りには、邪気は無いな……
クロ、深蒼の祠に頼む」
全員、クロに掴まり、深蒼の祠へ――
浄化台には大きな水槽が有り、アオの体が水中に有った。
その水槽に、ハクが浄化の光を当てていた。
「供与、頼む」アカが結界を張る。
「フジ、聖水の最上位のヤツ、ここにくれ。
兄貴、浄化 手伝ってくれよ」
ハクが水槽に集縮の水筒を投げ込んだ。
聖輝水が水筒に吸い込まれる。
「聖輝煌水です。入れ換えますね」
フジが掌から聖輝煌水を注いだ。
サクラが奥の祈祷室から現れ、芳小竜のルリを水槽に入れると、ルリはアオの体に寄り添い、光を帯びた。
サクラも光を当て始めた。
【奪還成功ですね。
アオの『闇の傷』を塞ぎます】
「アメシス様、ありがとうございます。
アオの体は無事でしょうか?」
心配色一色のキンが尋ねた。
【外傷は有りません。
内部も、充満している闇が消えれば、アオの魂を戻す事が叶います】
「先ずは浄化するしかないのですね?」
【はい。私達も交替に参りますので、浄化の光を絶やさないようにして下さい】
「解りました。
見張りも兼ねて、常に誰かが居るようにします」
「サクラ、アオは?」ハクも心配色。
「眠ってるよ。
ちゃんと記憶も戻ったし、体から離す前のアオ兄に戻ってるよ。
だから奪還できたんだ」
「そっか……ひとまず良かったな」
「うん。兄貴達、ありがと♪
これで『闇の傷』もなくなったし、もぉ心配ないよ♪」
「なぁ、『闇の傷』って何だ?」
クロがアメシスとサクラを交互に見る。
「うん…………もう大丈夫だから話すね。
アオ兄が囮になって落ちた時――」
「人界の任の、最初の降下の時のか?」
「そう、あの時だよ。
地上に着いた時、アオ兄は魔物に襲われたんだ。
魔物は、おそらく魔王の影で、とても強い呪をかけた魔宝の小剣を投げてきたんだ。
投げた小剣は、三本。
一本はアオ兄自身が、もう一本はヒスイが弾いて、二本とも滅したんだけど、
あとの一本がアオ兄の鳩尾に刺さってしまったんだ。
もちろん、アオ兄も躱そうとしてたから、剣の傷としては、ごく浅かったんだけど……
すぐにヒスイが抜き取って滅したけど……
強い呪は発動してしまったんだ」
「直ぐに発動したのか?」
「うん、すぐにね。
アオ兄の竜の力に呼応するように呪をかけてたから、その場で発動したんだ。
アオ兄の力は凄く強いから、その呪も、凄く強くなってしまって、魔王を引き寄せてしまったんだ。
魔王が、その傷からアオ兄の体に入る寸前、引き寄せる力を断つ為に、ヒスイはアオ兄の力を封印したんだ。
アオ兄の、心の傷を揺さぶって闇に落とし、アオ兄と同化しようとしてたから、もう……そうするしかなくて……
竜の力と記憶、ぜんぶ封印して、闇の傷が塞がるのを待とうとしたんだけど、
呪が強過ぎて、なかなか塞がらなくて……
だからスミレが、アオ兄と俺達を護る為に、神になる事を決めたんだ。
でも……スミレは半神竜だし、竜として――天竜の王妃として生きたから、神になる道は、とても遠くて――」
【ですから、アオを長く苦しめ、サクラにも辛い思いをさせてしまいました。
申し訳なく思っています】
「スミレ♪ 神になったの!?」
スミレは頷いたが、そのまま視線を落とした。
【間に合わなくて……すみません】
「魔王との本当の戦は、これからだから、スミレは間に合ったんだよ!」
【ありがとう、サクラ】薄く微笑んだ。
アメシスがスミレの肩に触れ、スミレが頷いた。
二神は水槽に光を当て始めた。
【キン、浄化を代わります。
皆、一度、しっかり休んでくださいね】
アメシスとスミレが残り、浄化を続けた。
兄弟は、長老の山で休む事にした。
サクラだけは、ソラの様子が分かり、兄達とも連絡がとれるよう、火神子山麓の洞窟内の境界で眠った。
♯♯ 馬車 ♯♯
桜華と慎玄が、姫の浄化をしていた。
偵察の為、帝の宮殿に行っていた紫苑と珊瑚が戻った。
「母様、姫様は如何したのですか?」
「魔王に闇を飲まされたのです。
心配は要りません。浄化すれば元に戻ります」
「クロ殿は、どちらに?」
「天竜様方は、魔王に奪われたアオ様の御体を奪還する為に動いておりますよ」
「それで、アオ殿とサクラ殿は暫く戻らないと……そういう事だったのですか……」
桜華が頷く。
「慎玄様、姫様をお願いしてもよろしいでしょうか?
私共は宮殿に向かいたいのです。
おそらく、そこに、私共を離散させた者が居る筈なのです」
「決着なさりたいのですね?
解りました。こちらは、お任せください。
では、御存分に……」
慎玄は、三人に回復の術を施し、見送った。
妖狐の母子は、東の国の都に向かった。
♯♯ 神界 ♯♯
修行に励む神竜の魂達を見詰めつつ、母と娘が話していた。
【そう。王子達は、そんなにも強くなっているのね……
だったら、スミレをもっと鍛えなければ、絆竜の方が強くなってしまうわね。
浄化が終わったら、また預かるわね】
【宜しくお願い致します、お母様】
【それにしても、あなた方が供与だけで、手出ししなくても奪還してしまうなんて……
とんでもない天竜だわね】
【そうなの。
神としては、少し恐ろしいと感じるくらいに強いのよ】
【ガーネは、お父様が見込んだ神竜ですからね。
術は術者の力を反映するのだから、当然よね】
【そうね……
次の最高神とすべく育てていたのでしたね。
禁忌など使わずに、お祖父様に頼めば、再誕なんて悩む程の事ではないのに……】
【相談すら出来なかったのよ。
あの迷信さえ無ければ、今頃、ガーネは補佐神として、あなた方と共に――】
【お祖父様からも、それは何度も聞いたわ。
『こんな事になるなら話しておけばよかった』って、いつも仰るのよ。
そんな時のお祖父様は、とてもとても萎んでしまっていて……
見ているのも悲しくなるの】
【悔やんでも悔やみきれないとは、まさしくこの事なのよ。
だからこそ、今度はガーネの子供達を育てたいのよ】
【王子達の絆神に名乗りを上げたのも?】
【王子達もガーネの子供達とも言えますからね。
特にアオとサクラは、ね】
【でも、アオとサクラは、既に――】
【だから、最も近いキンの絆神候補に登録したのよ。
あ♪ あなた方、スミレとヒスイの絆神にお成りなさいな。
スミレとヒスイでは、荷が重いでしょう?
なのに、天竜は一神としか結べませんからね】
【私達がっ!?
いえ、私はともかく、最高神が絆なんて――】
【すぐにとは言わないわよ。
ヒスイが神に成ったなら、そうなさいな。
王子達は、間違いなく、闇の神と戦うわよ】
【そう、ね……きっと対峙するわね……
それなら、それしかなさそうね……】
【いっそのこと、あの二人を神にしてしまったら?
それだけのものを持っているわよ】
【お母様……】さすがに、それは……
♯♯ 深蒼の祠 ♯♯
アオの体を浄化しつつ、二神が話していた。
【えっ!? 本当に!?】
【はい♪】
【それじゃあ……】
【そうなのですが……
まだ秘密という事で、お願いします】
【ヒスイには?】
【気付いていると思います】
(あの……)
【兄様っ!?】
(内緒話でしたら、俺には聞こえないように、お願いします)
【ずっと聞いてたの?】
(いや、眠っていたから、聞いていないけど、声で目が覚めてしまったんだよ)
【神にしか聞こえない筈なんだけど……】
(そうなんですか? アメシス様)
【ええ、そのつもりでした】
【どうして、私の言葉を信じてくれないのぉ?】
(スミレは成ったばかりだからね)
【もおっ、兄様ってば、酷いんだからぁ】
(その呼び方は、やめようね)
【あ……つい……】
(すみません、アメシス様。
こんな伯母ですけど、ご指導お願い致します)
【私も成ったばかりですが】
(これまで、お世話になってきて、その御力は十分に知り得ておりますので)
【ねぇ、兄さ――いえ、アオ】
(何?)
【どこにいるの?】
(それも分からないのかい?)
【この中ですよね?】【ええっ!?】
(そうです、アメシス様。
スミレ、もう一度、修行してきたら?)
【酷いんだからぁ!】
最初は苦笑を浮かべていたアメシスだったが、どう聞いていても、甥と伯母ではなく、兄と妹な会話を、一晩中、楽しんでしまったのだった。
赤「クロ、何故、馬車に行かぬ?」
藤「そうですよ、クロ兄様」
黒「アカ、フジ、そうは言うけどなぁ――」
白「姫様にゃあ、その記憶は無えって
サクラが言ってたろ?
お前が行かなくて、どーすんだよっ」
金「アオの事ならば任せよ。行かぬなら――」
黒「キン兄、恐ぇし……ハク兄っ、痛っ!
アカ! ヤメろって!
フジ!? ソレ、軟膏じゃねぇかよ!」
こうして、クロは追い出されましたとさ。




