東の国1-染闇
サクラは単独行動です。
他の皆さんも動きます。
フジがアメシスを呼び、アメシスがカルサイとドルマイを呼び、三神に依って、アオとサクラは浄化された。
サクラは、心の中で眠るアオの手を握った。
(カルサイ様、兄は今、心に大きな傷を負った過去まで、引き戻されております。
どうすれば目覚めさせる事が出来ますか?)
【自然に目覚める時を待つのが最善ですが……
そうは参りませんよね?】
(はい。体の方も闇化が進んでしまいますので、早急に奪還致したく存じます)
【きっかけだけは与えておきます。
あとは、安堵させるか……奮い立たせるか……
その心の傷を、アオ自身が塞ぎたいと思うよう、動かさねばなりませんが……】
(ありがとうございます、カルサイ様)
【アオの記憶よ、目覚めなさい。
その蓋を押し上げ、アオの心に戻りなさい】
アオの心を光が包む。
光がアオに吸い込まれ、アオが目を開けた。
(アオ兄? だいじょぶ?)
(あ……ああ、サクラか……ここは?)
(俺の中だよ)
(サクラの……中?)
(うん。ゆっくり思い出して、ね?)
(俺は――)
♯♯ 馬車 ♯♯
「では、アオとサクラは暫く戻らぬのか?」
「ああ、ちょっと上で、やらなきゃなんねぇ事が出来ちまったんだ」
「ならば、東の国へは、二人抜きで参ろうぞ。
こちらも早急に収めねばならぬからのぅ。
仁佳の軍を待機させるのも、限りがあろうからのぅ」
「だな。紫苑、珊瑚、慎玄、それでいいか?
三の姫様は、東で待てばいいんだな?
……よし! 馬車ごと向こうに運ぶぞ!」
気を掴まずに曲空した先は――
東の国、都の南――地図で言うなら、かなり下の小さな町――近くの森の中だった。
「もぅ少し、都の近くには出られぬのか?」
「まぁまぁ、姫様。先に偵察に参りますので」
「馬車を進めてくださいませ」二人、にっこり。
紫苑と珊瑚は、空へと地を蹴った。
「私は、この近くに、存じております寺がございますので、話など伺って参ります」
慎玄は西へと歩いて行った。
「んじゃ、洞窟で飯作ってくるから、ゆるゆる進んでてくれ。
すぐ戻るからな」
「あい解った♪」
ニャンと、ひとりになったニャ♪
ニャらば~♪
幌の上に黒猫が現れ、ニヤリとすると、中にいる姫に向かって、するすると念の紐を下ろしていった。
紐の先が、姫の首筋に触れる。
姫がカクンと崩れ、紐が巻き付き、紐が引かれ、穿たれた闇の穴に呑まれた。
代わりにコレでも置いとくかニャ♪
影様の所に運ぶ間だけ時間稼げれば十分ニャ。
さらばニャ~♪
「お~い、姫、飯だぞ~」「ニャ~ン」
「ふざけてねぇで、サッサと出て来いよ」
クロが幌の中を覗き込むと、姫はペタンと座って――
猫がするように、手で『毛繕い』していた。
「何やってんだ?」てか、この気は……
サッと乗り込み、掌を翳す。
間違いねぇ。コイツは、ただの猫だ……
(姫! どこだ!? 返事してくれ!!)
「姫! 返事しろって!!」外に出て叫んだ。
光が、ひとつ、物凄い勢いで近付いて来た。
「クロ兄様、何かありましたか!?」
「フジ! いいトコにっ! 姫が消えた!!」
「えっ!?」辺りの気を探る。「確かに……」
フジは気を高め、探りの範囲を拡げていった。
「人界には、いないようです……
アメシス様、あれは姫様の御体でしょうか?」
【いいえ、ただの猫ですよ】
「何の為に……?」
【拐った事を主張しているのか、戯れか……】
「ただ、残してくださったので、この猫から辿る事が出来るかもしれませんね」
桜華が幌の中を覗き込んでいた。
「三の姫様、出来ますか?」
「試してみますので、フジ様、クロ様をお願いしますね」
「クロ兄様!? しっかりしてください!
呆けている暇はありませんよっ!」
「あ……だよなっ! 姫、探さねぇと!」
「アメシス様! これを如何に見ますか!?」
桜華の声に、皆、集まる。
【動いているようですね……曲空でしょうか?
あ、止まりましたね。
最後の曲空で、魔界から、
人界――魯茉丹の南方辺りに現れたのではないでしょうか……】
「魯茉丹……掴んだ! 間違いない、姫だ!」
「クロ兄様を掴んで!!」
姫の気に曲空すると――
アオが、ぐったりした姫を抱え、サクラと対峙していた。
【アオ、闇を受け入れ、私と同化せよ。
さすれば、この女を返そう】
「アオ兄に話しかけるな! 姫を返せっ!」
【黙れ、サクラ。アオと引き換えだ】
「どちらも渡さない!」ジリジリ詰める。
【ならば、この女を頂く】姫の額に掌を当てた。
姫が目を開け、嬉しそうに魔王の首に手を回し、しっかり抱きついた。
「姫! 何してるんだ!? オレはこっちだ!」
姫がクロを見て怯え、魔王にしがみついた。
【そうか……私がよいのか?】髪を撫でる。
【ならば、愛を確かめようぞ】目を合わせる。
うっとり微笑み、姫から顔を寄せた。
サクラが跳び、魔王の背に斬りつけようとしたが、見えない何かに弾かれた。
「フジ兄! 聖輝水を浴びせて!
闇を飲まされてる!!」
サクラが光を輝く槍に変え、放ち、魔王を包む結界に掠めるように当て、少し破った。
フジが、その穴を狙うが直ぐに塞がる。
「クロ兄! しっかりしてっ!!
供与お願いっ!!」
サクラは攻撃を続けながら叫んだ。
「姫がアオと……」
姫の体が透け始め、アオの体――魔王の中へと沈み込み始めた。
「違う! 魔王だよ! アオ兄じゃない!」
【そうだ、クロ。アオだ。アオを憎むのだ】
魔王が、半分重なった姫をクロの方に向かせ、抱きしめると、姫は嬉しそうに手を重ね、身を捩り、魔王に微笑み、また顔を寄せる。
クロから瘴気が立ち昇る。
「聞いちゃダメだ! クロ兄、しっかりして!」
【憎しみを燃やせ! 嫉妬を爆発させるのだ!】
姫の手が、アオの手と、ひとつになっていき、姫が背中からアオの体に沈み、見えなくなっていく。
「クロ兄、姫を出さなきゃ! 目を覚まして!」
【よく見よ。静香とアオが、ひとつとなるぞ!】
クロは立ち昇った瘴気を纏い、鱗から艶が失われていった。
「クロ兄ってば! あれは魔王なんだよ!」
【クロよ、闇に堕ちよ! 静香と共にな!】
パァァァーーン!!
書いていた御札を放った桜華が、クロの頬をひっぱたいた!
「自分の女なら護り抜きなさいっ!!」
御札が結界を塵と化し、魔王は大量の聖輝水を浴び、アオの体から、姫と共に弾き出された。
「三の姫様……ありがとうございます!!」
クロが領域供与を発動しながら突進した。
サクラも魔王に向かう。
魔王が姫を掴み、アオの体に戻ろうとした。
フジが水流で、アオの体を弾き飛ばす。
クロは曲空し、魔王の懐に入り、姫をもぎ取り、再び曲空、離れた所に現れた。
サクラが竜体になり、魔王の鳩尾に突っ込み、背中に抜けた。
刹那、闇の穴から巨大な手が伸び、アオの体を引き込んだ。
またっ!? コイツだけでも消してやる!
咥えた見えない何かを掴み直し、聖輝水の中に突っ込んだ。
そして、掴んだままの手に、光の球を生み、何か――つまりは、小さな闇黒竜を包んだ。
耳障りな叫び声が尾を引く。
「フジ兄! あっちに放水!!」
サクラが指した先には――
今にも口づけようとしているクロと姫が居た。
大放水直撃!! クロが吹っ飛ぶ!
「何すんだよっ!!」
「闇、飲みたかったの? クロ兄。
姫を浄化するから貸してね」
振り返り、「フジ兄、アメシス様は?」
「馬車のようですね」
曲空すると、馬車の横に、猫を抱いたアメシスが立っていた。
【黒い何かが飛びましたので、追いかけましたら、黒猫がこちらで、何やら小細工をしようとしておりました。
浄化すると、背中から煙を上げながら、逃げてしまいましたが……
それに致しましても、随分と派手に闇を付けましたね。
それでは、浄化を始めますね】
またまたまたまた呼ばれてしまったカルサイとドルマイは、神界に戻ったら、ヒスイとスミレの昇格を更に急ぐよう、お願いしようと心に決めた。
「サクラ、アオ兄様は?」
「眠らせてたんだ。
記憶 戻って混乱してたから」
「見ていなくて良かったですね……
それに、三の姫様がいらっしゃって助かりましたね」
「あの……そろそろ、その呼び名は……
仲間入りをお認め頂けましたのなら、名で呼んで頂きたいのですが……」
フジとサクラの背後に、桜華が立っていた。
「あ……」フジとサクラが顔を見合わせる。
「もしかして、私の事、年上だと思ってらっしゃるの?」
「え!?」
「サクラ様より少しだけ下ですのに」
「マジか!?」クロが来ていた。
「と申しましても、人換算しますと、フジ様より少し下くらいかしら?」
「じゃあ、紫苑、珊瑚と違わねぇのか?」
「あの子達、人として育ってきましたから……
そろそろ止めないと、追い越されるわね♪」
唖然とする竜達。
「あ♪ 嘉韶も止めてあげないと、ひとりだけ、お爺ちゃんになってしまうわね」ふふふ♪
「人も止められるのですか!?」
「嘉韶も、少しだけ狐の血が入っているの♪」
「そうですか……」
ころころと楽しげに笑っている桜華を見ながら、この一家に、やっと戻った幸せを 永きものにしなければ、と改めて思った天竜王子達だった。
桜「クロ兄、だいじょぶ?」
黒「ん? あ……まぁな」
桜「お腹イタイの?」掌を翳す。
黒「痛くは無ぇが……
なんか、変な感じなんだ」
桜「ふぅん……
姫、たぶん何も覚えてないから
心配いらないよ」光を当てる。
黒「そっか……」
桜「姫、傷つけないよぉに、普通にしなきゃ」
黒「ん……そうだな……」
桜「元気なくなったらクロ兄じゃないからぁ」
黒「オレって……元気だけなのか?」
桜「う~ん……だけ、かも……」
黒「んなっ!?
真剣な顔で、んなこと言うなよぉ」
桜「じゃあ~ねぇ~♪」
黒「なっ……やめっ!
サクラ! あははっ!」
桜「こちょこちょこちょ~♪」
黒「ばっ! やめろって!! わはっ♪」
桜「やめな~い♪」




