闇の呪4-ソラ
前回まで:サクラは魔界に行きました。
サクラは振り返らず、飛んだ。
どうしよう……
ソラちゃんが標的にされてしまったら……
ずっと魔界にいるなんて出来ないし、
魔界から出たら、ソラちゃんの気が掴めない。
ソラは、サクラにとって唯一の級友と言える女友達で――
といっても、サクラは教室に行く事なく卒業したので、級友達に会ったのは、入学式に全員並んだ時と、卒業の日にソラが集めた数人がお祝いをしてくれた時、たったそれだけであった。
ソラだけは、その後も学外で集まる時などに、律儀にサクラを誘ってくれたので、親しくなっていた。
しかし、それも、ソラが卒業する迄で、以降は連絡も途絶えていた。
ソラちゃん……
長老の山に住んでくれるかなぁ……
!!
曲空し、ソラと出会った場所に戻る。
サクラが飛んで行った方向を見上げていたソラが 、視線を落とし、去ろうとしていた。
すぐ側に闇の穴が有り、魔物が出ようとしていた。
もう、目をつけられた!?
サクラは極大の治癒の球を、魔物と闇の穴に向かって放った。
魔物と闇の穴が、かき消える。
ソラは気付かず、行ってしまった。
たった、あれだけの接触でもダメなのか?
それとも、俺の感情が見張られてるのか?
わからないけど……
最悪って事だけは確かだ……
迂闊過ぎ、とかって後悔してる場合じゃない。
ずっと付いてる事も出来ないし……
でも、まだ標的決定ではないかもしれない。
偶然って可能性もある筈。
俺の気を感知して、偵察に来たとか……
とりあえず……
今は感情を動かさず、暫く様子を見よう。
サクラは、ソラの近くに潜む事にした。
ソラは、大学からの帰りにサクラを見付け、声をかけたらしく、親戚の家に帰って行った。
サクラは、いつでも曲空で行けるよう、ソラの部屋の屋根裏に布石像を置いた。
また!?
魔物の気を察知し、一瞬、躊躇したが、ソラの部屋に曲空した。
机に向かうソラの背後で、サクラは音も無く魔物を消し、外に出た。
……決定……だ……
項垂れてる場合じゃないって!!
護るしかないだろ!! 俺っ!!
屋根裏に戻り、これからの行動について考えていると、熱っぽくなってきた。
落ち着いて考えようと、体を横たえた。
アオ兄を保ったままだから、
拒絶反応が出始めたかな……
アオ兄の記憶が戻ったら融合できるから、
アオ兄の力も取り込んで……
そしたら、魔王と戦えるよね。
じゃ、竜宝の国にも行かなきゃなんないから
ソラちゃんの状況が掴めるように
しないとでしょ……困ったなぁ……
そぉだ♪ 布石像って共鳴するんだよね。
だったら――
サクラは人界側の洞窟入口に曲空し、
(アカ兄、布石像って、腕輪とかにできる?)
(ふむ……やってみよう)
(一対お願いねっ♪)
屋根裏に戻る。
曲空すら、けっこうキツいなぁ……
颯竜丸を口に入れ、自分で自分に治癒と回復の光を当てた。
魔物の気配に気をつけながら、うとうとしていると――
(ルリを返せっ!!
俺のルリを……ルリは何処だ!?)
(アオ兄、落ち着いて、ね?
元気になったら、一緒に探すんでしょ?)
サクラはアオを抱きしめた。
(だいじょぶ、見つかるから。
俺のカンは外れないからね、安心して?)
(ルリ……護れなかった……たったひとりすら俺は……護れなかったんだ……)
(そんなに自分を責めちゃダメだよ。
アオ兄は何も悪くないんだから……ね?)
(護れなかった上に…救えなかった……
医者なのに……俺は……無力だ……俺なんて……)
(アオ兄……)抱きしめたまま背を擦る。
(ルリ……会いたい……)
(うん。一緒に探そうね、アオ兄)
いちばん触れたくない傷を抉じ開けられて、
その激痛の中に、突き落とされてしまった
んだね……
どうしたら、そこから出せるんだろ……
俺こそ無力だよ……
(魔物!)
(え!? アオ兄!?)
アオが、サクラの体を動かして、ソラの部屋に現れた闇の穴を消し去った。
サクラが慌てて体を屋根裏に戻す。
(アオ兄?)
(魔物は……赦さない!)
(落ち着いて! もぉいないからっ!)
ガクリとアオから力が抜け、崩れた。
(アオ兄!?)
いや……このまま寝かせるべきか……
【アオは、まだ闇の中か……】笑い声が響く。
まだ、アオ兄が目覚めてないのにっ!
サクラは不利な魔界から、人界へと逃げた。
【無駄な足掻きだ。
アオ、此方に来い……お前は闇だ】
心の中のアオが、ふらりと立ち上がる。
(アオ兄、ダメ! 魔王の声を聞いちゃダメ!)
(兄貴達、助けて!!)
アオの心に、再び闇が生まれる。
サクラにも、その闇が伝わる。
二人の心に、じわりじわりと闇の染みが拡がる。
(アオ兄! 負けないで!)
光明、めーいっぱい昇華!!
キンとクロが現れた。
クロの供与で光明が輝きを増す。
キンが浄化をサクラに当てた。
(アオ兄! ルリさんを殺したのはアイツだ!
だからアイツはルリさんの事を知ってるんだ!!)
(赦さない……俺はお前を赦さない!!)
魔王が笛を構えた。
アオも笛を構えた。
魔笛の音色が空間を歪ませ、アオの闇化が加速される。
アオも、サクラも、闇化に耐えながら奏でた。
アオの心が奏でる音と、アオの体が奏でる音、二つの音色が鬩ぎ合う。
ハク、アカ、フジが現れた。
フジは、すぐさまサクラに音を重ねた。
ハクは、アオの体が拐われた後、祠の裏庭に落ちていた笛を構え、音を重ねた。
兄弟の笛の音が、魔笛を圧倒する。
アカが魔王の背後に回り、魔王の背中から鳩尾に向かって、天性・掌握の腕を突き出した。
「拳に浄化だ!!!」
見えない何かを掴んでいる拳に、それぞれ極大の浄化の光をぶつけた。
キンとサクラには、アカが掴む闇黒色の小さな竜が見えていた。
その闇黒竜は、浄化され、消えつつあった。
しかし、尽きる寸前、闇黒竜が渾身の力でアカを突き飛ばすと――
闇の穴が開き、巨大な手が現れ、アオの体を掴み闇の奥へと消えた。
アオの力が抜ける。
崩れ落ちそうになった所を、サクラが入れ替って、己が身を支えた。
♯♯ 神界 ♯♯
【お母様、スミレは?】
【あと一歩なのだけれど……
スミレの絆竜からかしら?
闇の神の気配が伝わるの。
それが、光の力を弱めてしまうのよ】
【やっぱり……影響を受けてしまうのね……】
【何が起こっているの?】
【絆竜の体が、闇の神――いえ、龍神帝王に奪われてしまったの】
【闇の神自身ではないのね?】
【ええ】
【だったら、早く取り返しなさいな。
最高神様も。二人で、お行きなさい。
グズグズしていたら、闇の神自身が力を得てしまうわよ】
【確かに、お義母様の仰る通りですね……
では、スミレを宜しくお願い致します】礼。
【解っているわよ。
ヒスイは、お父様にお任せしなさいな。
私から伝えますからね。
あ、あなた方の息子と孫は?】
【あの子は……】
【そうね。お父様に預けましょう。
孫の方が、よっぽど頼りになるわね。
連れてお行きなさいな】
【はい、お母様】
最高神と女神は頷き合い、姿を消した。
凜「アカ、それは?」
赤「解空鏡だ」
凜「みんなで行くの?」
赤「いや、闇を持たぬ者は行けぬ」
凜「誰の分?」
赤「知らぬ」
凜「へ?」
赤「妖狐王様からの御依頼だ」
凜「ご自身で行くのかしら?」う~ん……
赤「妖狐王様は魔界の王だ。
鍵など無くても行ける」
凜「じゃあ、誰の?」
赤「知らぬ」




