闇の呪3-彷徨う
ピンチを作るのは苦手です。
(ルリ……どこだ? ルリ……)
(何も見えないんだ。返事をしてくれ、ルリ)
(俺も死んだんだろ? 迎えに来てくれよ)
(なぁ、ルリ……会いたいんだ……ルリ……)
(せめて声を聞かせてくれよ……ルリ……)
サクラの心の中で、アオはルリを求めて彷徨っていた。
その声で、サクラは目覚めた。(……アオ兄?)
サクラが、まだ、はっきりとは目覚めていない為、薄暗い心の中で、ふらふらと遠くを彷徨う人影が見えた。
(ルリ、ここには居ないのかい?)
(アオ兄、しっかりしてっ!
アオ兄は生きてるんだよ!)
サクラはアオを追いかけて走った。
(ここは? ……キミは?)
振り返ったが、見えているのか、いないのか、歩みは止めなかった。
(サクラだよ。ここは俺の心の中だよ)
そんなアオに追いつこうと駆け続ける。
(サクラ? 知らないな。キミの中? 何故?)
(思い出して! ねぇ、待ってよ!
アオ兄、末っ子のサクラだよ!)
(末っ子? それは、フジだよ)
(俺達は七人兄弟でしょ! 思い出して!)
(そうか……まだ、もうひとつ卵が有ったな……)
(そう! それが俺だよ。サクラだよ!)
(サクラ……ルリを見なかったか?
この腕の中にいた筈なんだが……)
(ごめん……アオ兄……俺、知らないんだ。
まだ孵化してなかったから……見てないんだ)
(そうか……ルリを探さないと……)
(行かないで! アオ兄は生きてるんだよ!)
(ルリが居る所に行きたいんだ。
ここに居ないのなら、生きていても何の意味も無いから……)
(ダメだよ!
アオ兄、ルリさんは死者の国へは行っていないよ!
俺のカンは当たるんだ!
戻って来てよ。一緒に探すから!)
(俺の勘も 、よく当たるよ。
でも、ルリの居場所だけは分からないんだ……)
サクラはアオの背中に抱きついた。
(やっと追いついた……
アオ兄、ルリさんを探そうよ。
生きて、ルリさんを探そうよ!)
(手伝ってくれるのかい? サクラ……)
(うん! 一緒に探そう!)
(そうだな……探そう……)
(そのために、まずは元気にならなくちゃ。
ね? アオ兄、長い旅になるんだから、今は眠ろうよ)
(そうだな……ルリを探す為に、な……)
サクラはアオに『治癒の眠り』の光を当てた。
サクラが目を開けると、キンだけが光を当ててくれていた。
「キン兄……ありがと。ハク兄は?」
「神界に行った。護竜槍を急ぐから、と」
「うん……」
「アオは眠ったままなのか?」
「さっき起きてた。でも……」
「どうした?」
「まだ、記憶が……
俺が孵化する前に戻ってた。
ルリさんを探してたよ」
「そうか……」
「アオ兄の……恋人さん、なんだよね?」
「そうだ。だが――」
「うん、それだけでいいよ。キン兄。
アオ兄には、俺にも絶対に見せない記憶があるのは知ってたんだ。
きっと、ルリさんの事だから……
だから、俺は知らなくていい」
「すまない、サクラ」
「ううん、謝らないでよね。
他の兄貴達も知らないんでしょ?」
「その頃のアオは、他の兄弟とは接触が無かったのでな。
アオは私の公務に、補佐として付いて来ていたから、私だけが知る事となったのだ」
「そっか……あ、ルリ」
芳小竜のルリが、ふよふよ飛んで来た。
サクラの胸元に降りる。
「そぉだよ。アオ兄は、そこに居るよ」
きゅるる~
「だから、姫が、このコの名前 呼んだ時、驚いてたんだね」
「アオは、もう大丈夫だ、とは言っていたのだが……」
アカが来た。
「解空鏡だ。行くつもりなんだろ?」
「うん。ありがと、アカ兄」
「そんな体で何処へ行くつもりなのだ?」
「魔界。今は俺しか行けないから。
時間も限られてるし、自分で回復かけながら探すから、もぉだいじょぶ♪」
「サクラ、せめて、これを持って行ってください」
「フジ兄……」
「颯竜丸です」
「ありがと♪ フジ兄♪」にこっ
「サクラ~♪」後ろから抱きつかれた。
「わわわっ!」
サクラをクルッと回して、供与発動!
「んんんーーっ!!」ジタバタ!
「アンズなら良かったんだけどなっ」あははっ♪
「姫に言いつけてやるぅ!」うるうる
「言えないくらい供与してやる~♪」
サクラが逃げる。
アカがサッと麻袋を出した。
サクラは、それを掴んで。
「行ってきま~す!」
元気な声を残して消えた。
♯♯ 長老の山 中庭の大池 ♯♯
「ウェイミンさん、こんにちは♪
リジュンさん、もぉ起きて だいじょぶなの?」
「はい、サクラ様。ありがとうございます。
家族、皆、助けて頂いて、お礼の表しようもございません」
「これから、いっぱい助けてもらうから気にしないで~」にこっ
「サクラ様、これが魔竜王国と中立地帯の地図です」
「ありがと♪ ウェイミンさん♪」
「サクラ、今度は魔界に行くのか?」
「翁亀様、竜宝を探しに行くだけですから、ご心配には及びません。
では、急ぎますので」ぺこり
♯♯ 人界 ♯♯
魯茉丹の国の北部、伊牟呂と伽虞禰との国境に近い、火神子山の麓の洞窟入口にサクラは曲空した。
この向こうに、魔竜王国がある筈なんだ。
サクラは洞窟の入口に、布石像をひとつ埋め、奥へと進んで行った。
まだ、人界に来て間もない頃、東の国で、密かにアオを護衛していて、偶然、魔竜の少女を助け、ここまで送ったのだった。
ランにも会えるかな……
ふと、そう思った時、境界に差し掛かったらしく、解空鏡が輝いた。
一瞬の浮遊感……そして、地に足が着く。
洞窟を抜けると森に出た。
ここにも布石像を埋める。
サクラは辺りを見渡し、民家の屋根が連なる方へと飛んで行った。
魔界といっても……
この辺りは、天界や人界と大差無いよね。
サクラは気を消し、警戒しつつ、魔竜王国を目指す事にした。
ウェイミンに描いてもらった地図を広げ、案内虫を乗せた。
「今、どこ?」
案内虫がテテテッと歩き、一点で止まった。
「とりあえず南ね。ありがと」
地図と案内虫をしまう。
再び地を蹴った時、背後から、
「サクラ様!?」
瞬時に判った声に、嬉しさ全開で振り返ってしまった。
あ……ヤバッ!
こんな反応したら、彼女が標的にされるかも。
「やっぱりサクラ様だ♪」
晴空色の鱗を煌めかせ、嬉しそうに飛んで来る。
「ソラちゃん、久しぶり」にこっ♪
「なんで、こんな所に?」ニコニコ♪
「ソラちゃんこそ~」
「私は、こっちの大学に進学したから♪」
「そっか~、そぉいえば、ご両親 魔竜だったね」
「よく覚えて――あ、記憶力 凄いんだったね。
そう。だから、今、親戚の家に居るの。
それで、サクラ様は?」
「『様』やめて~」
「じゃあ……サクラ……くん?」
「うん。それでお願い。
俺は探し物。魔竜王国に行くんだ。
ごめんね、急ぐから――」
「魔竜王国の地図、持ってる?」
「これなら……」
「もっと詳しいの、持って来てあげる!」
飛びながら言った。
ソラは、すぐに戻って来た。
「近くに住んでるんだ……」
「うん♪ すぐそこなの」地図を広げる。
「この中立地帯との国境越えると、すぐに王立大学があるの。
ここまでなら案内出来るわ」
「嬉しいけど……ダメなんだ。
俺には関わらない方がいい」
胸が締めつけられるように辛かった。
「え……?」
「俺は、魔王に命を狙われてるから……
関わったら、ソラちゃんも標的にされてしまう。
だから……もう……」心が軋む。
……ちゃんと言わなきゃならないのに……
「地図ありがと……じゃあ……ね……」
サクラは振り返らず飛んだ。
前々回の後書きは、誰と誰?
『融合』『鎖』って何? ですよね。
誰と誰? は、もうお分かりですよね?
『融合』は、もうすぐ本編で出ます。
『鎖』は、ずっと先……お忘れくださって
全然無問題です。
凜「シルバコバルト様、『妖怪ジジイ』は、
やっぱり、妖狐王様の事ですよね?」
始【他に居るかよっ!
あんな強引で無茶する化け物なんか!】
凜「アオに姿見せるの嫌がってますからねぇ」
始【だからってなぁ】ブツブツ……
凜「で、魔王に攻撃してたのは?」
始【それは俺だ。
妖怪ジジイは後押ししてくれたんだ】
凜「じゃあ、そんなに怒らなくても~」
始【まぁな。確かに、三界を救えたよな】
凜「じゃあ、一応、良かったって事で」
始【ま、そうだな】




