砂漠編5-消えた蛟
単独行動は危険です。
(サクラ、今日は、もうそろそろ終わりにするよ)
(アオ兄、もぉちょい待ってぇ)
(待つと皆に見つかってしまうよ)
(あ……そっか~)
(なら、もうひと山だけ行こうかな)
(暗くなっちゃうねぇ……。
ちょっとだけ待ってて!
ウサギさん、めーいっぱい集めるからっ)
(うん、待ってるね)
「皆、今日は ここで終わりにして、少し休憩したら、今日の野営地に向かおう」
「ふむ。陽が暮れてしまうからのぅ。
残った兎は大丈夫かのぅ」
誰が こんな事をしたんだ?
「お!?」
一瞬、桜色の煌めきが過り、気絶した兎達が現れた。
「今のは何じゃっ!?」
「そんな事より、慎玄殿、兎達をお願い致します」
「そうですね」回復の術を唱え始めた。
(残ったウサギさんは、あとで洞窟に連れてって治すからねっ!
玉はアオ兄の小屋に持ってくからねっ!)
(ありがとう、サクラ)
(うんっ♪ アオ兄、またあとでねっ♪)
(うん、後でね)
サクラ……なんだか急いでいたような……。
そして、その兎達も元気に跳ねて行った。
アオ達は、少し遠くに見えている、蛟が夕食の支度をしているであろう煙と炎の明るさを目指した。
♯♯♯
アオ達は、池と小屋を見つけたが――
蛟の姿が 無かった。
「何処に行ったんだろうね……」
「買い出しかのぅ」
「この辺りの何処に、店や市場が有るんだい?」
「ならば、狩りか? 釣りか?」
「狩りは有り得るけど、釣りは無理だろっ」
「ミズチならば、何とかするやも知れぬではないか!」
睨み合う。
「アオ殿、姫様、暫し待ちましょう」
「そぅじゃな。そぅ言えば……手伝っておった竜達は、何処に行ったのじゃ?」
「帰ったんじゃないかなぁ」空を見上げる。
「さよぅか……」同じく見上げる。
「先程の、兎を連れて来おったキラッとしたのも竜なのか?」
「知らないけど、たぶん そうだよ」
「誰なのじゃろぅのぅ……」
――サクラだけどね。
宵闇が迫り暗くなっても、蛟は戻っては来なかった。
「お食事、出来上がりましたよ」
蛟が支度途中であった夕食を、陰陽姫が継いで作っていたらしい。
「無闇に心配していても仕方がないから、とりあえず食べよう。
捜すのは、その後にしよう」
「そう致しましょう。
占術にて、行き先を確かめてみますので、先ずは お召し上がりください」
「そぅじゃな。
ミズチならば、何か考えが有って動いておるのじゃろぅからな」
「そうだね。蛟の事だからね。
それに、いつ、戦になるか分からないから、食事と睡眠は大事だよね」
皆、各々無理矢理に己を納得させ、夕食を済ませた。
アオは、サクラが急いでいた事も気になっていた為、小屋に入った。
(サクラ……)
返事が無い。
空にも居ないようだし……
蛟と同じように、何か理由あって
動いているのかもしれないよな――
アオは横になってみたが、不安が募るばかりで、落ち着く事も、眠る事もできず外に出た。
すると、池の側に焚き火が幾つか有り、陰陽師達が見えた。
二人は、焚き火に囲まれた地面に、何やら紋様を描き、御札を配して術を唱えていた。
火に照らされ舞うような所作が、あまりに美しく、幻想的で、見惚れ、立ち尽くしていると――
終わったらしく、二人はアオの方に向かって来た。
「南南東です。
夜が明けたら向かいましょう」扇子で示す。
「何かに阻まれ、今は方角しか判りませんが、式神が偵察しておりますので、今は明日の為にお休みください」礼。
♯♯♯
二つの影が別々の小屋の陰に潜み、その様子を気を消して見詰めていた。
そして、各々、手にしていた包みを蛟の作業小屋の前に置いて、そっと立ち去った。
♯♯♯
深夜、アオの小屋――
(アオ兄、遅くなって ごめんね。これ――)
サクラが現れ、玉を入れた袋を置いた。
(蛟の事、何か知っているのかい?)
(ん……クロ兄が知ってるみたい)
(クロが……付いているの?)
(たぶん……)
(なら、心配しなくてもいいんだね?)
(俺……何も教えてもらってないけど……クロ兄が いっしょなら、だいじょぶだと思うよ)
(サクラ、無理はしなくていいんだよ。
俺には言えない事が、たくさん有るのも解っているからね。
兄弟の事は、思い出せないけど……信頼しているからね)
(うん……ごめんね……)
(不安な時に来てくれた。
それだけで とても嬉しいんだ。
ありがとう、サクラ)
(アオ兄……)じわっ――
(すまない……サクラを泣かせてばかりだね)
(ううん……ぜんぶ俺のせいだから……)
(そんな事は無いよ。それだけは判るからね)
(でも――)
(誰のせいでも無いよ。
きっと、俺が無茶した結果なんだ。
性格は変わっていないようだから、そこは間違いないよ)
アオはサクラを抱きしめ、その涙を胸に受けた。
(サクラのせいなんかじゃ無いんだよ)
♯♯♯♯♯♯
翌朝、式神の先導で南南東に向かうと、少し大きな岩山が聳えていた。
岩山の中を進んで行くと――
最奥の広間に、女と聖獣の姿の蛟が居た。
蛟は楽しげに、じゃれているように見えた。
「知り合いなのか?」
姫が小声で聞いてくるが、記憶が無いので答えようも無い。
念の為、戦闘態勢を執る。
僧侶が岩影に身を隠した、その時――
【誰か居るのかえ?】
女がアオ達の方を向いた。
【ほう……もう来やったか】目を細める。
女は妖しげに微笑み、蛟の頭を一撫ですると、
【行きや!】蛟の背を叩いた。
蛟の目が赤く光り、咆哮を轟かせながら飛んで来た!
凜「ね、クロ、こんな所で何してるの?」
黒「見てるんだよ。邪魔すんなっ」
凜「見てる? 何を?」
黒「サクラに中継してもらって
あの岩山の中を見てんだよ!」
凜「サクラって、そんな事もできるのね~」
黒「話しかけるなって! どっか行けよぉ」
凜「クロって……」
黒「……なんだよ」
凜「凛々しいね」
黒「…………」
凜「褒めてるのにぃ」
黒「んな事……初めて言われたよ」真っ赤。
凜「可愛いっ」
黒「やっぱ、からかってただけか~。
んな事だろうと思ったよ」
凜「いや、どっちもホントだよ」
黒「う……」黒竜が全身ほの赤くなった。




