立太子5-ルリとアンズ
前回まで:立太子と婚約の儀は、滞りなく
進んでいますが、アオとサクラは
疲れきっています。
王族の女性達の華やいだ笑い声を聞きながら、アオはミドリの為にお茶を淹れ、菓子を選び、小皿に取っていた。
「あら? このお茶……
アオが淹れるのに似てるわ。
香りの立たせ方が私好みよ♪」上機嫌。
「お褒めに与り光栄にございます」
小皿を差し出す。
「私の好みをよく御存知ね♪
あなた……アオの事、どう思って?
個紋も有るし、申し分無いわ♪
弟達の方が、さっさと嫁を決めてしまって……
私、心配ですのよ。ねぇ、どうかしら?」
俺が、俺の嫁?
ま、一番 気楽でいいかもな……
でも、実現は無理だから――
「アオ様は、しっかりとしたお考えをお持ちの御方ですので、婚姻に関しましても、きちんとお考えの事と存じます。
私のような至らない者など、滅相も御座いません」
「そうよ♪ アオは一番しっかりしているわ♪
あなた、おとなしそうなのに、ちゃんと見てるのね♪
一度 会って、お話しなさいな」
(サクラ、助けてっ!)
(ムリムリ~、アオ姉、がんばっ)
「ねっ♪ そうしましょう♪
明日なら、まだこちらに居る筈よね?
お義母様♪」
急に話を振られたモモが慌てる。
「儀式が終われば、すぐに人界に戻るのではないかしら?
三日も離れておりますから……」
「少しの間だけでも、時間 作らせなくちゃ♪
あ……そういえば……」
「いかがなさいましたか? 王妃様」恐る恐る。
「どちらかと踊ってはいませんでしたか?」
アオとサクラを交互に見る。
あ……しまった……
「あの時は……妹と、外で休んでおりましたら、アオ様とサクラ様が通りかかられまして、お相手がいらっしゃらないと仰られまして……
それだけなのです」
「それで、あれだけ息を合わせられるのでしたら、これ以上は、きっと、ございませんわ♪
お義母様も、そう思われませんか?」
「まぁ……こればかりは、アオ自身が決める事。
話を持ちかけるまでになさってはいかがかしら?」
「そうね……あんまり押すと反発するわね……
あの子、頑固だから」意外と解っている。
「そうですよ。アオの良いように、させておあげなさいな」うふふ♪
進行用の時告器が、終了間近な事を示す。
アオとサクラは笛を取り出し、終了が近い事を知らせる曲を奏でた。
曲が終わり、モモが儀式の終了を宣言した。
退場、控え室へ。
「あなたとアオの二重奏も聴きたいわ♪
アオは、笛も得意なのよ♪」
ボタンとミカンが控え室に戻り、笑いを堪えている。
ミドリは扉を開けて出ようとして、振り返った。
「あなた、お名前は?」
「あ……えっと……ルリです」
「何家?」
「エレドラグーナ家です」
「あら? お義母様の?」
「ええ、親戚筋なの」モモが助け舟。
「そう」にっこり笑って、出て行った。
「モモお婆様、すみません!」
「私は何も……でも、明日、どうなさるの?」
「終わったら、即、逃げるか……
サクラに『ルリ=エレドラグーナ』をやってもらうか……」
「母上が狙ってるの、アオ兄だけだから、ソレできるよね~」
「俺が二人いるなら、俺の嫁は、俺でいいんだけどな……」ため息。
「アオ兄……」本心なんだ……それ……
扉が叩かれ、開いた。
「ボタン様、ミカン様、ルリ様、アンズ様、会議室へ御移動お願い致します」
(アンズって……)(サクラだろうね)
会議室では、王と王太子が署名をしていた。
キンとハクに呼ばれ、ボタンとミカンも署名を始める。
ボタンとミカンの両親が案内されて来た。
「ルリ殿、アンズ殿、御両親様に説明を頼む」
ギンが手を止め、そう言った。
(護衛、兼、説明役だね)
(なんか使われっぱなし~)
(この説明って、この姿じゃなくてもよさそうだよね)
(ただ、父上が楽しんでるだけみたいだよね~)
(ボタンさんとミカンさんに、ずっと付いてるって状況を定着させる為なんだろうか……)
(考えてあげ過ぎだよぉ。
あの目は、すっごく楽しんでるよぉ)
(娘が欲しかったのかなぁ……)
(男ばっかり七人だもんね~)
(でも、こっちを主にされないように釘を刺さないといけないね)
(ルリ姉、お願いねっ♪)
(他人事じゃないだろ? アンズ)
そんなこんな、ずっと話しながらも、滞りなく署名は終了した。
(そろそろ決界の効果が薄れそうだね)
(アカ兄、クロ兄、結界 補強する?)
(そうだな)(アカに集合なっ)
――ワカナの控え室。
「お前ら、まだ、その格好なのか?」
「次々言われて、戻れないんだよ」
「あんまり時間ないからぁ早くぅ」
「そんな目で見るなっ!」
「どんな目?」「さぁ……」
「行くぞ! 時間ねぇんだろっ!」頬が赤い。
♯♯♯
結界を補強して、ボタンの控え室に戻ると、ギンに呼ばれた。
「アオ、ミドリが見合いさせると張り切っているのだが、どうしたい?」
「『どうしたい?』も何も、俺と俺が、どう見合うんですか?」
「ミドリと話すか?」
「それしか無さそうですね……」ため息。
「どっちで話すのだ?」
「当然、男ですよ!」
「そう怒るな。怒った顔も可愛いが……
そう、睨むな。まいったなぁ」あははは……
「母上の部屋に参りますので」踵を返す。
数歩進んで曲空した。
「アンズは護衛に戻ってくれ。
だから、睨むなってぇ」
嬉しくて仕方なさそうだ。
♯♯♯
――ミドリの部屋。
「母上、父上から伺いましたが――」
茶を淹れ、差し出す。
「そう♪ これよ、この香り♪
ルリさんも同じように香りを立たせるの♪」
瞳を輝かせる。
「先日も申しました通り、今、私は、この戦を終わらせる事しか考えておりません。
戦を終わらせ、天界に戻りましたら、見合いでも何でも致しますので――」
「でも、こんな良いお嬢さん、なかなか出会えないわよ?
お話しすれば、きっとアオも気に入るわ♪」
そりゃ、俺ですから、会えるものなら、
一番、気が合うでしょうね。
「ね♪ 明日、少しだけでも。
よろしいでしょ? 少しでしたら」
「明日は、終わり次第、人界に戻りますので――」
「でしたら、今、ここにお呼びしましょ♪」
執事を呼ぼうとしたミドリの両肩を掴む。
「母上は、そんなにも私を他の女性の元に追いやりたいのですか?」
真剣に見詰める。確かに必死だ。
「アオ……」
「もう暫く子供で居させて下さいませんか?
それとも、サクラさえ居ればよいのですか?」
「そんなにも私を……?」
「はい」
「そう……そうなの……
正直、寂しくもあったのよ……
みんな、母に何の相談も無く、勝手に決めてしまって……」涙ぐむ。
抱きしめて背中をとんとん。
「アオだけ……素振りも無くて、心配したのも本当なのよ。
だから……私が、お世話したくて……
あ、でもね♪ 本当に素敵なお嬢さんなの♪
それも本当なのよ♪」
お嬢さんではなく、息子ですが……
「ありがとうございます、母上。
こんな世でなければ、素直にお受けするのですが、私は不器用ですので、両方考える事など出来ないのです。
戦を終わらせる事に、今は専念したいのです」
「全ては戦が終わってから、なのね……」
「はい」
「あ♪ そうだわ!」嫌な予感しかない……
「そうよ!
私、ルリさんと一緒にアオを待つわ!♪
一緒に暮らせば、ずっとアオは私の子でも居られるわ♪」
どうしてそうなるっ!?
それって最悪だろっ!?
考えろ! 俺っ!!
「そんな素敵な方なら、既にお相手がいらっしゃるのでは?
確かめましたか?」
「そうね……確かめましょ♪」
執事がルリを連れて来た。
「ルリさん、あなた、決まった方がいらっしゃるの?」
「はい……
誠に申し訳ございません……
心に決めた方が居ります」
「そうなの……残念ですわ……
アオ、諦めてね?」
何で俺が頼んだみたいになってるんだ!?
「今度、良いお嬢さんを見つけたら、戦中であろうが、手遅れにならないように、さっさとお見合いしましょうね♪」
する気なんて毛頭ありませんからっ!!
とにもかくにも――
サクラの一言で、一応この騒ぎは収まった。
しかし――
アオの疲労は極限に達していた。
「アオ兄、だいじょぶ? 休も?」
「大丈夫だよ」薄く微笑む。
「ウソでしょ」
サクラはアオの手を引いて、自室に曲空した。
「せめて、座ってよ」
それ以上は何も言わず、颯竜丸を差し出し、治癒と回復の光を当てた。
アオ兄、どぉしたんだろ。
なにか、おかしい……
気がするんだけど……見えない……
「ありがとう、サクラ……」項垂れる。
ルリが生きていれば……
アオの心にチクリと痛みが過った。
桜「アオ兄、だいじょぶ?」
青「あ……アンズ……」
桜「サクラだよっ!」
(兄貴達っ! 助けてっ!
アオ兄が壊れちゃうよぉっ!)
青「アンズ……疲れたろう。
俺も疲れたんだ。
なんだかとても眠いんだ……
パトラ○シュ……」
桜「何の話っ!?」




