立太子3-姫冠の呪
前回まで:キンとハクは王太子になり、
正式に婚約しました。
アオとサクラが円舞に加わった。
兄弟も婚約者達もギョッとする。
(サクラ!? まさか、また蒼月か!?)
異口同音、大合唱。
(兄貴達、ちがうよ~ 心配しないでねっ。
自分でなったの。だから、だいじょぶ~♪)
(はぁ?)
(父上が入れってぇ。
だから、入ったんだよぉ)
(それはそれで怒られるんじゃねぇのか?)
(でもねぇ、誰かを指名したら後々面倒だし~)
(『サクラ』は、いつ入るんだ?)
(次の曲~♪)(え!?)
(俺に出来る事は、アオ兄も出来るから~♪)
(そうなのか? アオ)(……知らないよ……)
(頑張れよ♪ アオ♪)(まさか、嘘だろ……)
(できるからぁ♪)きゃはっ♪ (サクラ……)
曲の区切りで、三曲続けたキンとハクの二組が抜けた。
アオとサクラも抜け、大広間から出る。
(アオ兄、髪を『俺』にして♪)
手早く結い直している。
髪色を入れ替えて、再び大広間へ。
(着替える時間なんてないでしょ)(確かに……)
(アオ兄、ちゃんと『俺』してねっ♪)(う……)
似せようとしているアオとサクラの気を判別出来るのは、父だけ。
父に気を探られなければ、バレる事なんて有り得ない完璧さで、アオはサクラを演じ、曲が終わり、お辞儀すると、満面の笑みで愛想を振り撒いて退場した。
「アオ、サクラ――」背後からギンの声。
曲空しようとしていた二人が固まった。
「考えやがったな」
サクラと金髪令嬢が恐る恐る振り返る。
「ふ~ん……可愛いじゃねぇか。
娘がいたら、こんなだったんだな……」ニヤリ
「父上、すみませんっ!!」揃って、ほぼ前屈!
「いや、完敗だ。
面白いものを見させてもらったよ」笑う。
「付いて来い」と、歩きだす。
「それは……サクラが出来るって事は、アオも出来るのか?」
「出来ます」サクラの返事に、慌てるアオ。
「二人共、着替えてくれ」衣装部屋を指す。
二人は部屋に入り、サクラに引っ張られるまま向かい合った。
(サクラ、いくらなんでも――)
(できるから~♪ 額、合わせて♪)
額を合わせ、目を閉じる。
(アオ兄、誘導するから、俺と同じように気を高めて~
そぉそぉ♪ ……はいっ♪)
鏡の前に立つ。「ねっ♪」「う……」
卓の上に出されている衣装に着替える。
(サクラ、この技は?)
(光の技で、蒼月煌♪)
(なんで、こんな技を?)
(俺、どぉやって大学に通ってたと思う?)
(まさか、その為に……?)
(うん♪ 修練もねっ♪)
(でも、異間平原では、俺の顔を見て驚いていたよね?)
(うん。アオ兄も知ってたの!? ってビックリして~、あ、ここ異間だ! ってまたビックリしたの)
再び、鏡の前へ。
「コレって――」「スミレ王妃様の、だよね」
「何するんだろ?」「見当もつかないよ……」
部屋から出ると、ギンの笑顔が、極限まで緩んだ。
そして、連れて行かれたのは姫冠の部屋。
(この気……)(何か潜んでいるね)身構える。
「やはり、何か感じるか?」
「はい。良いとは言えない気を感じます」
「この部屋は男子禁制だ。頼んだぞ」
「この為に踊れと?」
「いや、それは戯れだ。
踊っている二人を見て『これだ!』と思っただけだ」
ギンを睨み、ため息をついたものの、
「冠は竜宝ですから、お任せください」
二人は光を纏い、姫冠の部屋に入った。
「ふむ。
今日は、あの格好のまま居させるか……
何か都合のよい理由は無いものか……」
ギンは独り言ちながら、二人を待った。
姫冠の部屋で護衛していた女性兵士達は、扉が開き、二人の女性の背後に王の姿を見、敬礼して待った。
入って来た二人の女性は、真っ直ぐ、ひとつの妃冠に向かって行き、硝子の箱の中で華麗に輝く妃冠を見詰めた。
(スミレ様の妃冠……)(だから、この衣装?)
二人の女性は頷き合った。
「この気を感じますか?」金の髪の女性。
「はっ。昨夜、交替した折、違和感が有り、前任者に確認いたしました所、
夜半に黒猫が横切った、との事で御座いました」
「黒猫? この部屋で?」桜色の髪の女性。
「確かに黒猫であったそうで御座います」
(魔物だね~)(馬の後任は、猫なんだね)
サクラが両掌を翳し、中を探る。
(俺達でも、何とか出来そうだよ)
サクラが目を開けると、アオは神以鏡と浄禍器を持っていた。
(さっすがアオ兄♪ ……アオ姉?)
(そこは変えなくていいからっ)真っ赤。
二人は台座の下に、蓋を開けた浄禍器を置くと、
妃冠の周囲に、神以鏡からの光で魔法円を描き、
合わせ鏡にして、術を唱え始めた。
妃冠から闇黒色の靄が立ち昇る。
それは、やがて肉球の形となり――
神以鏡からの光に捕らえられると、浄禍器に吸い込まれていった。
アオがサッと蓋を閉める。
ん? 今、何か横切ったか?
護衛兵は目を凝らしたが、何も見えなかった。
(呪は、この冠だけかなぁ……)
(今日、使う冠じゃないからね……)
(いちお、ぜ~んぶ見ておくよね?)
(そうだね)
二人は、全ての妃冠、王女冠、女王冠に神以鏡の光を当てて回った。
(ひとつだけだったね~)
(いずれ、あの妃冠を使う時まで、じっくり育むつもりだったのかな?)
(すぐに見つかっちゃったけどね~♪)
(念の為に、大婆様にお確かめ頂こうか?)
(そぉだね~)
「護衛さん、開けて確かめていい?」
先程の術……おそらく常人ではなかろう。
このお二人にお任せする他ないだろう……
「宜しくお願い致します」
二人は手袋を重ねて着け、硝子の箱をそっと外し、冠を手に取り――
一瞬、消えたような気がしたが……
気のせいであろうか?
護衛からは後ろ姿である為、冠は見えないが、
暫く額の前に掲げ、そして、元に戻す事を繰り返し、全ての姫冠を確かめた。
「終わりました」
「ご協力 ありがとうございました」
二人は丁寧に、しかし華やかさを醸して、お辞儀すると、扉に向かった。
扉を開くと、王が待っており――
「これに綾の妃冠を」
執事が二人各々に台座を渡した。
二人が部屋に戻り、護衛兵達が、綾の妃冠を台座に載せた。
王太子の婚約者が成婚までの間、公務で着用する妃冠が、この『綾』だ。
つまり、これから戴冠式で、ボタンとミカンの頭上で輝く妃冠である。
(俺達……まさか……)(このまま入場?)
ニヤニヤしている父に連れられて、玉座の間の控え室へ。
ギンは、待機していたコハクと二言三言交わし、アオとサクラを置いて入場した。
(実は怒ってるのかなぁ)
(いや……あの気は――)(やっぱり~)
(面白がってる!)揃った。
(やっぱウワテだよね~)(当然そうだよね)
控え室に、アオとサクラの ため息が響いた。
♯♯ 妖狐王城 ♯♯
「父上様、何か良い事がお有りでしたの?」
「桃華も結婚するか?」
「は? もしや、姉様が――」
「うむ。コギと、な」
「それは、よろしゅうございました。
しかし、父上様が、そのような事でお喜びなさるとは思いもよらず、驚きました」
「まぁな。それも確かに喜ばしい事だが……
前々から探しておった欠片が見つかったのだ。
しかも、状態が非常に良い。
あとは、解空鏡さえ再現出来れば、アオが翼を得る。
アカの腕も確かだからな。間も無くだ。
ようやく甦るのだ」ニヤリ
「やはり、アオ様の事でしたか。
ならば合点がいきました」
「で、だ。桃華は、どうなのだ?」
「私は……アオ様が御結婚なされましたならば考えましょう」
「ふむ。では、相手の承諾を得ておけ。
近々だからな」
「えっ!?」……まさか、そのような……
華「今度は髪の色を入れ替えたのね~♪」
珊「母様、そんなに身を乗り出しては――」
華「だって面白いじゃないの♪
アオ様がサクラ様の振りをしているのよ♪
そうそう見れないわよ♪」
紫「アオ殿……そうまでして……」
華「なぁに? 紫苑♪
サクラ様の真似をするのが
恥ずかしいとでも?」
紫「恥ずかしいですよ」
華「たまには紫苑も、はっちゃけてみたら?
サクラ様のような大きな力が
得られるかもしれないわよ♪」
珊「はっちゃけた紫苑……」じっと見る。
紫「珊瑚……何を想像しているのです?」睨む。
珊「何も……」笑い堪える。




