立太子2-立太子と婚約の儀
またまた天界のお話です。
♯♯ 狐の社 ♯♯
「コギ……」
収容した魔人達に『癒し』を当てていたコギが、振り返り、控えた。
「御用でございますか? 一の姫様」
「少し……いいかしら?」庭に向かった。
庭に出た梅華が、振り返り、俯いた。
「ご迷惑ですよね?
父上様が、あのように浮かれるなど、思いもよらず……」
「いえ、お気遣いくださり、ありがとうございます。
姫様が、本当に、私なんぞでよろしいのでしたら、私は、この上無く幸せでございます」
「父上様に言われては、そう仰るより他には、ありませんよね……」
「いえ、そうではなく、先程の言葉は、私の本心でございます」
「では、本当によろしいのですか?」
「はい。生涯、一の姫様にお仕え致します」
「私……従者ではなく、夫として……
コギが良いのです!」染まった頬を袖で隠す。
「姫様……」
「ですからっ! もうっ!」隙間から睨む。
「では、もう遠慮は致しません」
ふわっと優しく包み込んだ。
「梅華……」
「はい♪」嬉しさを咲かせ、見上げる。
「生涯、大切にします」
「私も……ずっと一緒に……」
「はい」溢れる幸せを口づけに込めた。
♯♯ 天竜王城 ♯♯
(アオ、いつの間に、リジュンさん達を救出したんだ?)
目の前では、立太子の儀が粛々と進行している。
(昨日、父上が暇をもて余して、長老の山に来ていて、なんかそういう流れになったんだよ。
闇黒竜にされていた皆さんの記憶を利用出来るうちにって、サクラが闇を使ってね)
(で、二人とも、闇使って大丈夫なのかよ)
(だいじょぶ~♪
カルサイ様に、闇使えるよぉにしてもらった~♪)
(クロは大婆様に何て言ったんだ?
また俺が動かなきゃならない事が有るのか?)
(大婆様にはウソは通用しねぇから、素直に思ってるまま言ったんだけど……
まぁ……結局、まだ考え中だ)
(ま、いいけど、姫に逃げられないようにね)
(機嫌良く待っててくれるって言ってたけど……
信じていいのかな……)
(そこは二人の事だから、俺は知らないよ)
(冷てぇなぁ……)
(って言われてもねぇ、アオ兄)
(うん。外野には、どうしようもないからね)
(俺達と喋ってないで、姫と話したらぁ?)
(う~ん……そうすっか)
(姫、退屈してねぇか?)
(大丈夫じゃ。珍しゅうて、面白いぞ♪)
(こういう儀式が、いろいろあるんだが……
その……姫は、どうしたい?)
(そぅ言われてものぅ……まだピンと来ぬのじゃ)
(オレも、そうなんだよな~
姫の方――中の国では、どんな儀式があるんだ?)
(結納と婚儀だけじゃ。
結婚は内々の事じゃからのぅ)
(結納って……婚約か?)
(そぅじゃな)
(それは急ぐのか?)
(う~む……わからぬ♪)
(へ?)
(将来的には、国を治めねばならぬし、世継も必要じゃが……今はまだ考えられぬ。
機が熟す迄ゆるりと待ってはくれぬか?)
(姫……もしかして、オレの気持ちを読んで、代わりに言ってくれてるのか?)
(何故わざわざ、そのよぅな事をせねばならぬのじゃ?
だいたい、そのよぅな事、ワラワに出来よぅ筈がなかろぅ?
ただワラワが、そぅ思ぅておるだけじゃ)
(じゃ……すっげー、気が合うって事でいいんだな?
オレ、全く同じ気持ちなんだよ)
(ならば、それで良いではないか♪)
(だなっ♪
この後、その結納に当たる婚約の儀だ。
午後は戴冠式がある。
それが終わったら、街を案内するよ)
(うむ♪ 楽しみじゃっ♪)
王太子の初仕事――キンとハクからの挨拶が始まった。
(リリス、疲れてはいませんか?)
(平気よ。ありがとう、フジ)
(今後、儀式があっても、こんな感じで立っているだけですから、安心してください)
(はい♪)
(婚約すれば、立ち位置が後列ではなく、私の横になりますけど……それだけですので)
(はい♪
フジ、そんなに心配しないでね。
私、覚悟決めましたから、もう大丈夫よ♪)
(ハク兄、さすがに今日は、ちゃんとしてるね~)
(いつものは振りだから、こっちが本当だろ?
サクラの方が、よっぽど落差が激しいよ)
(そぉ?)
(ワカナ、急に、こんな事になったが大丈夫か?)
(立ってるだけなら……)
(それだけでいい。気分が悪くなったら言え)
(うん)アカ……優しい……
(心配は要らん。俺が全てやる)
(うん)どうしよう……私、幸せ過ぎるぅ。
王達の宣言で、立太子の儀が終わった。
流れる曲が変わり、王太子達が入口近くまで下がり、婚約の儀が始まった。
ここからは、しっかり見なきゃ!
と、前を向くリリスとワカナ。
ボタンとミカンが、呼ばれて入場し、キンとハクの横に立つ。
四人揃って礼をし、玉座の数歩前まで進んだ。
再度、四人揃って礼をし、キンとボタンが玉座に向かって進み、宣誓して署名。
続いてハクとミカン。
お辞儀する所、返事する所――
必死でボタンとミカンを目で追うリリスとワカナだった。
(なぁ、アオ。オレの場合、どうなるんだ?)
(確かにな……形式としては有るんだけど、どう簡略化するか、だな……
うん。考えておくよ)
(そっか……ちゃんと形はあるんだ)
(もちろんだよ。
昔は魔竜との婚儀も多かったからね)
(ふ~ん……)
(クロ……本当に、もう少し勉強したらどうだ?)
(お前らが、賢過ぎんだよ!)
(クロ兄が、なまけ過ぎ~)
(姫に見限られない程度には勉強したら?
知識も武器だぞ)
(解ったよぉ)
婚約の儀も終わった。
大広間に移って、昼食会となった。
どぅやら、好きな料理を己で取ればよい
よぅじゃが…
王子達は、たくさんの人々に囲まれていて話すどころではない。
爽蛇が飛んで来た。
「ミズチ♪ 会いたかったぞ♪」
「姫様、リリス様、ワカナ様。
私についていらして下さい」恭しく礼。
料理を選び、向かった卓では、桜華、紫苑、珊瑚、慎玄が座っていた。
少し離れた卓に、仁佳の皇族方も居る。
爽蛇が、空龍と雪希を連れて来た。
やっと各々が場の雰囲気に慣れ、話が弾んできた時、静かに流れていた音楽が円舞曲に変わった。
立って話していた人々が中央を空ける。
キンとボタン、ハクとミカンが進み出、円舞が始まった。
「本物は、こぅなのか……」見惚れていると、
「姫様、御召替えを」爽蛇が耳打ちした。
着替えて戻ると――
「姫、一曲お願い致します」クロが跪いた。
クロと姫、アカとワカナ、フジとリリスが加わり、五輪の華が美しく咲き誇った。
アオとサクラは、既に裏方として働いていたが、ギンに呼ばれた。
「お前らも入れ」
「相手が――」ギンに睨まれた。
(どぉする?)(ご令嬢とか面倒だしなぁ)
(あ♪ い~コト思いついたっ♪)
「支度致しますので、次の曲より参加致します」二人、揃って礼。
控え室に入る。
(サクラ、どうするんだい?)
(こ~するの♪)スッと、女の子になった。
「え!?」口を押さえる。
(自由に変えられるのかい?)
頷いて「着替えるからぁ」
アオは慌てて背を向けた。
そして――
アオはサクラの手を取り、大広間に戻った。
珊「あれは……」
華「どうしたの? 珊瑚」
紫「アオ殿のお相手の女性は、
サクラ殿なのです」
華「紫苑、どういう事なの?」
紫「異間平原で蒼月の影響を受けて、
女性になった事は有るのですが……」
華「もしかして紫苑も?」
紫「はい……」
華「どんなだったの?♪」
珊「私と瓜二つで瞳だけが紫で――」
華「見たいわ~♪
異間に行きましょ♪ 紫苑♪」
紫「い、いや、母様、それだけは――」
華「そうね……危険ですものねぇ。
それなら、サクラ様に、あの術を
かけて頂きましょ♪」
紫「嫌です!」
珊「紫苑……あの時は平然としていたわよね?」
紫「珊瑚っ、それとこれとは――」
華「慌ててる紫苑って可愛い~♪」
紫「母様!」




