仁佳城5-桜華も
前回まで:仁佳城を奪還しました。
仁佳城にて皇帝を救出したアオ達は、皇帝の呪を解く為、天界に行く事にした。
「闇黒竜達も連れて行きたいけど……」
「たぶん、境界 越えらんないねぇ。
でも、父上に預けたいよね……」
「だからと言って、もう、闇を使ってはならないよ、サクラ」
「ハザマの森経由では如何でしょう?」
背後から声がした。
「珊瑚殿、三の姫様の御力をお借り出来るのですか?」振り返る。
「私も、共に戦う事に致しましたので」にっこり
「三の姫様!?」
「あの……仲間に加えて頂けませんか?」
「えっ!?」驚きの後から喜びが湧き上がった。
「砂漠で紫苑と珊瑚に会った時とは、随分と流れが変わりましたので、共に戦いながら二人の力を導きたくなったのです」にっこり
「母様、魔人の治療は――」
「もちろん、これまで通り、そちらもしますよ。
では、闇黒竜を運びますので、天界のハザマの森の口で、お迎えくださいね」
にっこり微笑むと、妖狐に戻り、闇黒竜を背に乗せた大狐達を従えて跳び去った。
紫苑と珊瑚も付いて行った。
「皇帝陛下、一先ず戦線には、防戦のみと、お伝え願えませんでしょうか?」
「暖徳よ、先ずは重鎮達を集め、朕の言とし、その旨、伝えよ」
皇太子が近衛兵に召集を伝えると、重鎮達がビクビクしながら集まった。
皇帝と皇太子が姿を見せると、皆、一様に驚き、皇太子が、この半年、城に居たのは偽者だった事を告げると、安堵のため息が湧いた。
前皇帝も存命であると告げると、皆、複雑な表情をしていたが、戦を起こしたのは偽者であると重ねると、これまた安堵のため息の合唱を起こした。
前、現皇帝共に呪を受けてしまっている為、竜の国にて解呪しなければならず、数日、城を空ける事を伝えると――
皇太子としては、もっと驚くかと思っていたようだが、重鎮達は巷の噂を聞いており、真偽を確かめようとしていた矢先だったので、然程も驚きもせず、むしろ、自分達も後日、視察に伺いたいと言い出す状態であった。
もちろん、中庭に隠れて聞いていたアオ達は、嬉しさで飛び跳ねそうになっていた。
東の国との戦も終わらせたいが、相手が首を縦に振るまでは退却が出来ぬ為、戦線を維持し、防戦のみ行う事とした。
その伝令は、その場で出立した。
「では、我々は解呪を急ぐ為、これより、竜の国へ参る故、皆様方、国の事、宜しくお願い致す」
皇帝と皇太子は中庭に向かった。
中庭には、黒輝の竜が居た。
「竜の背にいらっしゃるのは、中の国の静香姫様。
私達を救出してくださったのです。
今後、良き国交が叶えばと思っております」
皇太子は重鎮達に、そう言って竜に乗った。
アオとサクラは、城門前に移動し、睦月に馬車を頼み、忍頭に礼を言い、と細々した事をしていると――
黒輝の竜が北に向かって飛んで行った。
「俺達も行こう」「うん♪」曲空。
アオとサクラは、天界のハザマの森の口で三の姫を待ち、皆を連れて長老の山へと曲空した。
魔王の影達の前でサクラは小首を傾げた。
「浄化したら死んじゃう?」
「分かりません……
やってみて欲しいのですが……」
「じゃあ、髪の先で試すね」当ててみた。
光を当てた毛先だけが、闇黒色から金色に変わった。
少しずつ範囲を拡げる。
鱗にも当ててみると、闇黒色の硝子膜が剥がれて弾けるように、粉微塵になって消え、その下から淡い黄色の鱗が現れた。
また範囲を拡げてみる。
アオとサクラは頷き合うと、紅守閃鉱の欠片を各々に持たせ、光で包んだ。
淡い色合いの神竜達が現れた。
桜華が念網を解く。
「急いで大婆様に呪が残ってないか見てもらお~♪
みんな掴まって~♪」
「三の姫様も」(せ~のっ♪)
――大婆様の部屋。
「大婆様、突然で申し訳ありません。
この方々を御覧になって頂きたいのです」
「おお♪ サクラ、アオ、よぅ来たの♪
どれどれ、もぅちぃと近ぅ……ふむ、大丈夫じゃ。
もぅ、魔王の欠片は残っておらぬわ」
「ありがとうございます、大婆様」
「まだ、おるのじゃろ? 迎えに行くのか?」
「はい。船が着き次第、また参ります」
アオとサクラは深く礼をし、退室した。
「神竜の方々、暫し、こちらで、ごゆるりとお待ち頂けましょうか?」
「私達は、もう、龍神帝王を恐れなくてもよいのでしょうか?」
「話しても大丈夫なのでしょうか?」
「もぅ大丈夫な筈じゃ」にこにこにこ
「助かったのですね……」一斉に安堵のため息。
「もし、よろしければ、何があったのか、お話し頂けましょうか?」
「はい。術の名などは分からないのですが、私達は闇の欠片と龍神帝王の因子を込められ、支配されておりました」
「龍神帝王の因子は、脱ぐ事の出来ない鎧。
まるで、この身に融合しているかのように、離れない鎧となって私達を闇黒色に染め、やがて内へ内へと浸透し、心までも闇黒色に染めました」
「何かに乗っ取られたのではない、という事ですか?」
「はい。私自身が龍神帝王の一部として……
その事に誇りを持って行動していたのです」
「『影』である事が、この上無き名誉だと信じて疑わず……すっかり陶酔していました」
「私は、まだ色が戻っていなかった時に、心だけは自分を取り戻しましたが……
皆様も、そうですか?」
「そうですね……あの光る網に包まれた時、あの時だと思います。
何かが……心を覆っていた『闇の殻』とでも表現すればよいでしょうか……そんなものが弾けて消えたような感じでした」
「私達、よく、ここまで滅されず来れたなと思いましたが……もしや、あの網は、私達を護ってくださったのではありませんか?」
「そうですね。
すぐに龍神帝王に消されなかったのは、皆、あの網で包まれていたから。
そう考えると納得出来ますね」
「これまでの『影』達は、失態あらば、即、滅されていたのです。
あの網は一体……?」
「それは桜華姫様、説明は――なさるか否かも含めて、お任せ致します」
桜華が進み出た。
「お初にお目にかかりまして光栄至極にございます、天竜尊貴嫗様」恭しく礼。
「あらあら、久方振りに、その名を……
気恥ずかしゅうございます」丁寧に礼。
「神竜の方々とは存ぜず、手荒な仕打ち、どうか御許しくださいませ」
桜華は神竜達に深く礼をした。
「いえ、あれは『影』ですので、当然であると存じます。
あの網が護ってくださったとしか考えられませんので、感謝しかございません」
「あの念網は、狐の妖力を具現化したもの。
魔力を打ち消し、拒絶しますので、魔王の力も及ばなかったのではないでしょうか」
神竜達が確定と、口々に礼を言っている時、アオとサクラが仁佳の皇族方を連れて来た。
「割り込みまして申し訳ございません。
こちらの方々の呪をお確かめ頂けますか?」
♯♯ 狐の社 ♯♯
「コギ、また増えたのだな」
「はい。申し訳ございません」
「いや、構わぬ。社を拡げるだけだ。
ここはハザマの森なのだからな。
空間を自在に変えられる点は気に入っている。
それに、これしき、大した事では無い。
昔、竜の子らを預かった時よりはマシだ」
「そのような事があったのですか。
魔竜でございますか?」
「いや、天竜だ」
「天界――親元に帰せなかったのでございますか?」
「呪を受けていたからな。
しかも解きようの無い呪をな。
家族には会わせられず、育て、鍛え、天竜王軍の学校に行かせた。
天竜王には事情を話してな」
妖狐王は遠い目をし、フッと笑った。
「竜の子は、すぐに大きくなる。力も強い。
嵩高いし、賑やかだし、あれは流石に儂もマイッタわ」わははは
今日は上機嫌でございますね。
余程、良い事がお有りだったのですね。
「ああ、そうだ。
コギ、梅華の事、如何に思うておる?」
「は!?」
にこにこと妖狐王の話を聞いていたコギが頬を染め、固まった。
「桜華も夫を連れて来ると言うておる。
もう、付いておらずとも、落ち着くであろうよ。
コギもそろそろ落ち着け」
「いえ、しかし、一の姫様のお気持ちが――」
「梅華が許しを得たいと言ってきたのだ。
幼き頃より慕っておったそうでな」
「しかし……私なんぞ――」
「決めた女が居るのか?」
「いえ……居りません。考えた事も無く……」
「代々、王の補佐をしてきた血を絶やすな」
「……はい」
「長く桜華のお守りをさせて、すまなかったな」
「は? いえ、そのような。
私の務めでございますので」
「臣下の心も知らぬとでも思っていたのか?
それとも、娘を押し付ける愚かな親か?」
「まさか、そのようなっ」いつから!?
「だから、娘達を任せたのだ」わははは♪
「まぁ、戯言は、このくらいにしておこう」
妖狐王は上機嫌な笑い声を残し、姿を消した。
凜「桜華様、大婆様の事を漢字いっぱいで
呼んでましたけど、あれは?」
華「父が付けたらしいの。
だから、妖狐は、そうお呼びしているわ」
凜「意味は?」
華「聞いていないけど、
字からも尊敬しているのは確かよね。
ずっと前に、お助け頂いたらしいわ」
凜「妖狐王様が助けられるなんてねぇ……」
華「気のせいかもだけど、アオ様にも、
お助け頂いたんじゃないかしら?」
言えないから、ちょっと有耶無耶に~
凜「アオが助けられたって話しか
聞こえてこないんだけど……」
華「そうらしいんだけどね~
でも、助けている理由は、
それしか考えられないのよ」
凜「言われてみれば……確かに……
それも調べなきゃ。
あ、仲間入りしたのは、
妖狐王様の御指示ですか?」
華「違うわよ」
凜「まさか、復讐……」
華「やぁねぇ♪ しないわよ~♪
子供達を近くで見ていたくなっただけよ♪」




