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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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仁佳城4-姫の軟膏

 仁佳城奪還、本番です。


 仁佳城内へと進んだアオ達は、敵を欺く為、複雑な構造になっている通路には沿わず、隠し部屋を突っ切りながら、文字通り、真っ直ぐ奥の玉座の間へと向かっていた。


 途中の広間で、姿が見えない筈の紫苑と珊瑚の前を塞ぐように、偽皇太子が立ちはだかった。

姫とクロは、皇太子を押し留め、物陰に隠れ、様子を窺った。


「おのれ妖怪! この城を汚そうというのか!

成敗してくれようぞ!」


槍を構え、紫苑と珊瑚に向かって突進した。


――が、


はっきりとは見えていないらしく、空振り。


構え直した槍に雷が落ち、失神した。


珊瑚が念網で包む。


(クロ兄、持ってってよ。

姿消してる俺達が持つの変でしょ)


(しゃーねぇなぁ……)


「何奴!」

今度は後ろから、第三皇子・智徳(トモナル)――の偽者。


その視線は、前方にいる本物の皇太子を捉えた。


「先程の御声は、如何したのですか?」

アオとサクラの間を、皇太子へと駆け寄って行こうと――


(俺達、見えてないんだ~)(それなら)


二人、両側から、(帯を掴んで~)ぽいっ♪


「うわわわわっ!!」


すぽっ!


紫苑と珊瑚が広げた念網に入った。


「やれやれ……」クロは、これも背負った。




 途中で現れる兵達を、念網や相殺で包みながら、ずんずん進んで、中庭。

建物は周りを囲んでいて、広い中庭は八角形になっていた。

中庭の向こう、真正面が、奥の玉座の間だ。


紫苑と珊瑚が中庭を駆けているのが、揺れる木々の枝や草花で分かる。


中央の噴水が有る池を跳び越えた時、上から大きな網が降ってきて、紫苑と珊瑚は捕らえられてしまった。


「お兄様、曲者を捕らえましたわ!」


皇女・真蓮(マレン)――の、これまた偽者が、嬉しそうに駆け寄って来る。

「魔網ですので、逃げられませんわ♪」



「どうやら、本物じゃとは分かっておらぬよぅじゃな」


「そうらしいな」


「少し話してみては如何か?」


「賛成だ」「はい」


姫とクロは、皇太子の左右後方に下がった。



「お客様ですの?」にこにこ♪


「ああ、中の国の姫様だ」


「まぁ♪

中の国は、仁佳のお味方をしてくださるのねっ♪

ようこそ、お越しくださいました」

可愛くお辞儀した。


「真蓮、まだ、これから交渉するのだ。

自室で話したいから、後でな」


「はい、お兄様♪

姫様、どうぞ宜しくお願い致します」


頭を下げたまま見送る皇女の前を通り抜け――


クロが、高~く投げ上げていた二つの塊を受け止めた時、


皇女が姫に襲いかかった!


が、クロの動きの方が速かった。

姫と皇女の間に入り、皇女の正面から懐刀を風の刃で粉微塵にしたところに、姫が皇女の後ろに回り込み、手刀を打った。


(姫、か~っこい~♪)(更に速くなったね)


その向こうで、護札の文字が紅く浮かび、魔網が消え去り、紫苑と珊瑚が立ち上がった。


「何やら騒がしいようですが――」

第二皇子・優徳(ヒロナル)――の、シツコイけど偽者が、背後から現れた。


(これで、御子様役は揃ったね)(だね~♪)


偽者がアオとサクラの間に達した時、二人は、襟首を掴んで、紫苑と珊瑚の方に投げた。


「ああぁぁあっ!!」


すぽっ!




 玉座の間、入口扉前に達した。


(もう、姿消しとく意味ねぇだろ)


(いや、もう少し、このまま)


(じゃあ、この塊、何とかしてくれよ)


(自分で曲空して、外の誰かに頼んでくれ)


(あ、そっか。行ってくる!)

消えたと思ったら、身軽になって現れた。

(フジに預けたっ♪)


(行こう!)




「皇太子、如何した?」


「皇帝陛下に、お目通り願いたい!」


「病ゆえ、それは叶わぬ」


「直接 話さねばならぬ事なのだ!」


「お前……まさか……

出合え! 曲者じゃ!

皇太子の名を騙る曲者じゃっ!!」


しかし、皇后直属の護衛しか現れなかった。


皇后は舌打ちすると、闇の穴を穿った。


溢れ出た魔物は、アオとサクラが引き受け、空へと誘導し、

護衛兵達は、紫苑と珊瑚が念網で捕獲した。


「皇后の名を騙る曲者よ!!

皇帝をどこに隠した!!」


偽皇后はフンッと鼻で笑い、闇の穴へ入ろうとした。


もちろん、素早いクロと姫に両腕を掴まれ――


ならば反撃、と術を唱え始めた所を、姫の召喚竜に襲われ、炎を浴び、闇黒竜の姿を露にした。


護衛兵達を忍頭に預け、ちょうど戻った紫苑と珊瑚が、闇黒竜に念網を掛けた。


「皇帝はどこだ?」


「聞いても無駄なのじゃろ? ならばじゃ」

姫がニヤリと笑って、懐から何かを取り出した。


「何だよ、それ」


「人には、ただの軟膏なのじゃが――」

指先に、ほんの少し付けて、クロを触る。


「痒っ!! 何だ!? うわっ! 痒いっ!!」


「見て解ったじゃろ?

竜には とんでもなく痒いよぅなのじゃ」

闇黒竜に向かって言い、その足の裏を撫でる。


とたんに闇黒竜が悶絶し始めた。


「話せば洗ぅてしんぜよぅぞ♪」


「姫っ! これを洗ってくれっ!!」


「あ……そぅじゃったな」ふふんふんふん♪


「あ~~、死ぬかと思った……」ぐったり


「十数えるうちに話さねば、他の箇所を撫でるぞ。

ひと~つ、ふた~つ――――と~お」


姫は軟膏を掬い、網の目から適当に指を入れ――


 あ! そこは――


闇黒竜は激しく悶絶し、泡を吹いて気絶した。


「あれ、鱗じゃ防げないんだよ~」

「知っているのかい?」

「切傷にね。で、大騒ぎ!」

「それじゃ……御愁傷様だな……」

「皇后やってたのも、男だったんだね~」

「女性も大変だと思うけど……」

「そぉなの?」

「知らないけどね」

「でも、あれは……敵だろうが同情するよ」

「だね~ あはは……」


天竜王子達が合掌していた。


「なぜ合掌しているのですか?」フジが来た。


「フジ兄、姫の軟膏、何が入ってるの?」


フジが軟膏に手を翳した。

「ああ、これは、竜にとっては――」笑いだした。



「その拷問で気絶してしまったのですね?」


「洗浄してあげて~」続きは耳打ち。


フジは苦笑しながら洗浄した。

「姫様、竜にとりましては、命にも関わります。

鱗など、ものともせず通しますので、悪戯は、決して、なさらないでくださいね」


「そんな凄い毒になるのか?」


竜達、真剣に頷く。


「クロ、すまなかったのぅ」


「大丈夫だよ。あのくらい」


「しかし、知らぬとは申せ――」


「いいからっ、もう何ともねぇから」

クロは、姫の手を取って、皆から離れた。



アオは、闇黒竜に軽く光を当て、気付かせると――

「悪かったね。

場所に関しては、悪気など無かったんだ」


「もう、洗浄しましたので、大丈夫ですよね?」


闇黒竜が、おずおずと頷いた。


「こちらの皇帝陛下は、どちらに?」


闇黒竜は、暫く押し黙っていたが、ひとつ頷くと、網の中でもそもそ動いた。


小さな闇の穴が開きかけて止まった。

皆が身構え、待っていたが、何も現れる様子は無かった。


サクラが覗き込んだ。

「人が いるよ~」穴を拡げた。


「父上っ!」皇太子が穴に駆け込んだ。


アオも入り、父子を連れ出した。





 サクラが仁佳城の中庭で池を覗き込んでいた。


桜「姫~♪ 見て見て~♪」


姫「サクラ、池で何をしておるのじゃ?」


桜「ほら~♪ 亀さん♪」


姫「それが如何したのじゃ?

  ただの亀じゃろ?」


桜「小さくて、かわいいよ~♪」


姫「普通じゃが……」


桜「そぉなの?

  天亀は、この池より大きいよ♪」


姫「ならば此は小さいのぅ」


桜「でしょ♪

  それに、こ~んなに いっぱ~い♪」


姫「確かにのぅ。沢山おるのぅ」


桜「天亀、ひとりしか知らないんだ。

  翁亀様って、とっても物知りなんだよ♪」


姫「然様か。それは寂しいのぅ。

  ん? 話せるのか!?」


桜「うん♪ 今度、会わせてあげるねっ♪」


姫「うむ♪ 楽しみにしておるぞ♪」


桜「うんっ♪」


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