砂漠編4-修繕
水鏡が作った池は、どうなるのか?
――オアシスになります。
特殊な水なので……たぶん。
三つ目の瓦礫の山で兎を集めながら、姫は蛟に、こそっと言った。
「ミズチ、この数珠じゃが……もう二、三、作れるかのぅ」
「乾きますか?」
「いや、思いの外、心地良いのでな。
持たしてやりたい者が居るのじゃ」
蛟は少し考えて、
「弥生殿にでしたら、昨夜、五つお渡し致しましたが――」
「知っておったのか!?」
「ええ、何度かお会い致しましたよ」にこっ。
姫の着替え等を運んでいる、月衆という くノ一集団が居る。
城から離れるにつれ大変になる彼女達に、蛟は幾つか小道具を渡していた。
そのお礼にと、彼女らは味噌や塩や野菜を、蛟に渡しているようだ。
「ミズチは、まことに気が利くのぅ♪」
姫は「家老で決まりじゃな♪ うんうん♪」
上機嫌で兎集めに戻って行った。
♯♯♯
次の瓦礫の山に着いた時――
「アオ様、私、昨夜の野営地を片付けまして、この先に新たな野営地を整え致します」
「そう。色々と、すまないね。
疲れてはいないかい?」
「アオ様ぁ~ 私に、そのような……」うるうる。
「火球が降った時も助けてもらったし、苦労ばかり掛けてしまいそうだけど、これからもお願いします」
「苦労なんて……私は、アオ様のお傍に居られるだけで幸せなのでございます。
これからも、なんて……そんな……嬉しい事を……」
「泣かないで、ね?
蛟が来てくれて、本当に良かったと思っているんだよ」
「あ……アオ様ぁ~」大泣き。
「最初は、また変な奴が増えた、と思ったんだけどね」
「へ? ……変な……」泣き止んだ。
「すまない。記憶が無いから、竜の国の装束が変だとしか思えなくてね。
それだけなんだけど……」
「まぁ……そうでございますよねぇ」
「ああ、それと――」蛟の耳に寄る。
「押し掛け参入は、姫が第一号だからね。
またか、と思ってしまったんだよ」
「あ……」
「そこな二人! 怠けるでない!」
「あ……」二人、顔を見合わす。
「で、ではっ、行って参りますっ!」
蛟は逃げるように、ひとり離れて行った。
♯♯♯
その次の瓦礫の山で――
(アオ兄♪ また来ちゃった~♪)
(もう、いいのかい?)
(うん♪ だいじょぶ~♪
ウサギさん集めるねっ♪)
(ありがとう、サクラ)
(えへっ♪)
♯♯♯♯♯♯
ひとり離れた蛟は、昨夜の野営地に着いた。
ここにも、こんなにも火球が落ちたのですね。
自らをも危険に晒してしまう
という事ですか……。
つまり、謎の旅の僧は、人に禁忌の技を教え、
魔物から身を護ろうと放てば、
辺り一面を壊滅させるよう仕向けたのですね。
恐ろしい事ですね……。
池が、そのままという事は、
水鏡は無事なようですね。
あぁ、火技ですから……そうですよね。
アオ様の御力に敵う筈はございませんよね。
蛟は水鏡を回収し、小屋を確かめ始めた。
竜宝をここまで破壊してしまうとは……
移動したくても、このままでは
小さくなりませんね。
これを修繕するには、材料が必要ですね。
天界に戻るしか――
「俺が運びますよ」
振り返り「あっ」跪く。
「そんな……いいですよ、俺なんかに。
材料は多めに持って来ますから、確認を続けてください」
「ありがとうございます!
お願い致します!」
蛟が小屋の中の荷物を壺に入れ、外に出ると、小屋の材料が積んであった。
キン様が仰っていた通り、
深いご事情がお有りのようですね……。
蛟は天を仰ぎ、掌を合わせた。
そして、修繕に取り掛かった。
♯♯♯♯♯♯
(サクラ、この、壁の玉が何なのか知っているのかい?)
(はっきりとは、わかんな~い。
でも、もしかしたら、って竜宝ならあるから、アカ兄に頼んで来たんだ♪)
(やっぱり、サクラは凄いね)
(そんなことないよぉ)
(さっきは何処かに行っていたのかい?)
(え? なんで?)
それ、この状態でも気付けるんだ……
やっぱりアオ兄って凄い。
(気配が消えた気がしたから。
洞窟に戻らないといけないのなら、無理しなくてもいいんだよ)
(あ、うん。
さっきね、その玉のコト思い出して、アカ兄トコ、ちょっと行ってたんだ♪
それだけだよ~)
(そう? なら、いいんだけどね)
(うん♪
ウサギさん、がんばって集めるねっ)
(暑いから、そんなに頑張らないで――)
(ウサギさん、かわいいから~♪)
(そっち!? 確かに可愛いけど……)
(そっち~♪)きゃはははっ♪
(響くんだけど……)
(そぉ?)きゃはははははっ♪
(まぁ、元気になったんならいいよ)
(うんっ♪)
♯♯♯♯♯♯
ここまで直れば、小さく戻るでしょうか?
あとは、新たな場所で修繕したいですね。
小屋の内に何も無い事を確かめ、蛟が軒下の一点に掌を翳すと、小屋は光を発し、木片に戻った。
他の小屋も同様に修繕しては木片に戻し、荷物を纏めて移動した。
♯♯♯
新たな野営地で、小屋の修繕を終えた頃、陽は砂の彼方に沈んでいった。
夕食の支度を始めた蛟の頭上に、闇黒色の靄が現れた。
【お前は……人では無いのだな。
我が下僕に加えようぞ】
不意に頭に響いた声の主を探す蛟を、頭上の靄が覆った。
靄は縮んで丸くなると、ひとつの岩山に向かって飛んで行った。
桜「り~ん♪ 見て見て~♪
ウサギさ~ん♪」
凜「連れて来ちゃったの!?」
桜「凜、苦手なの?」
凜「ある意味、苦手かも……」
桜「かわいいのにぃ」
凜「だからよぉ。
手放したくなくなるじゃない」
桜「そっち!?」
凜「そっち~」もふもふなでなで。「はぅ~」
桜「食べちゃダメだよっ!」
凜「へ?」
青「うん。食べそうだからね」サクラごと回収。




