仁佳城1-皇族救出
前回まで:アカは天界に引っ越し、
東の軍の最前線は留まり、
アオ達は馬車で進んでいます。
翌日、馬車は仁佳の帝都の外れに着いた。
「あの岩山、何やら妙な気配じゃぞ」
「だな。不自然極まりねぇな」
「調べてみよぅぞ」
ぐるりと回ってみたが、出入口や継目など全く無い。
「怪しいのじゃがのぅ……」
アオは爽蛇の道具袋から、砂漠で活躍した板のような鍵・五彩を取り出し、
岩肌に当てがい、高さを変えながら、ぐるぐると回った。
「アオ、ここに当ててみてはくれぬか?」
姫が指す地面に当てると、カチリと音がし、丸く持ち上がった。
「姫、よく分かったなっ♪」
「なんとのぅじゃ♪」
地下独特の湿り気に出迎えられながら、掌の球の光を頼りに下りて行くと、
案の定、魔物が現れた。
サクラが掌の光を大きくして魔物を覆い、アオが続けて光の球をその内に込めた。
「何したんだ?」
「相殺で動き止めて~」「浄化したんだ」
アオとサクラは、再び掌に光の球を作った。
その後も魔物は現れたが、難無く進み――
「ここは、重要拠点じゃなさそうだな」
「そうだね。それを探さないといけないね」
――最奥。
「何にもねぇぞ」
「また隠し扉かのぅ」
再び五彩で撫で回る。
カチリ。
床の中央が、丸く浮き上がった。
更に下り、奥へと進むと――
当然、魔物も抵抗したが、クロにあっさり倒され、
その間に、アオが牢の錠を開けた。
「私は仁佳の第二皇子・優徳です。
どうか、お助けください!」奥から声がした。
手枷足枷に五彩を当て外し、アオとサクラが両脇を支え、牢の外に出ると――
「ひっ!」優徳は恐怖で顔をひきつらせた。
「如何なさいましたか?」
「龍神帝王……」優徳の視線は、慎玄に向いていた。
「それは貴方様を捕らえた者ですか?
彼は私共の仲間で、慎玄と申す僧侶でございます」
「言われてみれば、少し違うような……
人違いを……申し訳ございません」
「いえ、お分かり頂ければ十分でございます」
「とりあえず、ここから出ようぜ」
クロが馬車へと曲空しようとした時、魔物が一匹だけ現れた。
「生捕り、お願いっ」
サクラは優徳、慎玄と共に、皆に背を向け、こそこそ話していた。
「サクラ、捕まえたぞ」
「は~い♪」
小さな光の球を魔物の眉間に押し込め、慎玄を魔物の前に立たせた。
「龍神帝王様!」平伏!
「ここは襲撃を受けた故、皇子は他の場所に移す。
他の皇族は如何しておる?」慎玄なりきる。
「私は第三皇子の居場所しか存じませんが……」
「案内せよ」
「はっ!」
魔物の先導で移動している間に、クロは優徳と魔物にされていた者達を馬車に運び、洞窟からキンを連れて来て、回復を頼んだ。
次は、岩山ではなく、大木の下に地下道が有った。
アオとサクラが、穴に向かって光を放つ。
慎玄を先頭にし、平伏する魔物達に見送られて進み、第三皇子・智徳を救出し、魔物達を眠らせた。
次は、廃寺の地下から、皇太子と皇女、
その次は、橋桁が入口で、皇后を救出した。
しかし、皇帝の居場所を知る者は無く、魔物達を元の姿に戻し、一旦、全員 馬車に戻った。
「それぞれの入口が帝都の東西南北の外れだから~、皇帝さんだけは別の場所かもね~」
「そうだね」(サクラ、見えない?)
(う~ん……地下界か異空間かなぁ……
だから、入口は、お城の中じゃないかなぁ)
皇族達は、それぞれ深夜に自室で捕らえられた為、互いの安否など知る由もなく、ただ牢に繋がれていた、との事だった。
「しかし、仁佳の皇族の方々が不明になったなどとは、聞いた事も無いのじゃが……
と、いう事は、じゃ……」う~む……
「あ……貴女様は――」「中の国の――」
「如何にもじゃ。
されど、それはさておきじゃ、城に行ってみなければのぅ」
「だな。ここに いらっしゃる皆様の偽者が闊歩してるだろうからな」
「先ずは偵察かのぅ」立ち上がった時、
「ならば私共が参ります」顔を覗かせた。
「紫苑、珊瑚、お父上の方はよいのか?」
「暫く、あの場にて留まり、回復を優先するとの事ですので」にっこり
「姿を消す事が出来ますので、私共にお任せください」にっこり
「そのよぅな事が出来るよぅになっておったのか……」
二人は頷き、光の矢となって城に向かった。
「狐……」
「如何にもじゃ♪」
「あの……私共をお救いくださったという事は、中の国は、東ではなく仁佳をご支援くださるのですか?」
「どちらにも支援などせぬわ」
「えっ……では、何故……」
「一国のみの味方などと小さき事で、我等は動いてはおらぬのじゃ。
強いて申せば人、皆の味方じゃ」
のぅ、とクロを見る。
「そうだな。天人も魔人も人も、皆が平穏に暮らせる世界にしたいよな」
「ですので、まずは仁佳と東の国の戦を終わらせたいのですが、何故、二国は争っているのですか?」
「先代皇帝が起こした戦ですので、詳しくは……
ただ、父は戦を好んではおらず、先方さえ調印してくだされば、終わらせたいと申しておりました。
私自身も、このような無益な戦など、早急に終わらせたいと願っております」
皇太子が答えた。
「安心致しました。
戦の終結に向け、力を合わせましょう」
(アオ兄、上)(アオ、襲撃だ)
(うん。見つかってしまったみたいだね)
(キン兄さん、クロ、ここを頼みます)
三人、外に出て竜体になり、クロは幌の上に留まり、領域供与を発動した。
アオとサクラは上昇すると、馬車と、魔物にされていた者達を包んだ光の球を半球にした牆壁で覆い、
更に上昇して、魔物達に光を浴びせた。
アオとサクラは牆壁を拡げ、たった今、元に戻った人々を包んだ光の球をも覆うと、
「姫、聖輝水を頼むね」
光の球に掌を当て、治癒と回復の光を注いだ。
姫とクロが聖輝水を配り始める。
慎玄は顔を隠し、回復に加わった。
皇族達が出て来た。
「竜……」「人を助けている……?」
皇女が光の球に駆け寄った。
「あの……私にも、お手伝い出来ますか?」
「忝ない。
この水を飲ませて欲しいのじゃ。
両軍混ざっておるが、今は分け隔てのぅお願い致す」
「分かりました」
皇后と皇子達も入って来た。
「この方々は……?」
「格好からして、戦場より拐われ、魔物にされておったのじゃろぅな。
戦場ならば、少々の不明者など気にも留められぬからのぅ。
じゃから戦など、早く終わらせねばならぬのじゃ」
「竜は?」
「我等、人の友達じゃ♪
竜は居らぬ、などと信じさせられておったが、竜は、人の世をずっと護ってくれておったのじゃ。
妖狐も然りじゃ。人を化かしたりなどせぬ」
「騙されていた、と?」
「目の前で、この者達を助ける為、全力で光を当てておる竜を見れば解るであろぅ?」
帝都の方角から光が迫っていた。
青竜が掌を離し、牆壁を少し開けた。
そこに疾風の如く駆けて来た妖狐が入った。
妖狐の背では、珊瑚が人に光を当てている。
「忍頭殿、すぐ治しますから!」
青竜は人姿になり、治癒の光を当てながら並走し、
「あの光の中へ!」
妖狐と共に、光の球に駆け込んだ。
「クロ、供与頼む!」
「えっ!?」
「なに考えてんの?
クロ兄、領域供与だよ~
発散させずに、光の中だけに集中してねっ」
「あ……そっか。よしっ!」
供与を受け、アオとサクラの治癒の光が強まる。
「霧影殿!?」皇太子が駆け寄った。
肩を貫通した傷が、見る間に塞がっていく。
「如何なされたのですか?」
「私は……貴方様の槍にて貫かれたのですが……」
「私の!?」
「今は、あまりお話しなどなさらない方がよろしいかと。
代わりに、私共が見ました事をお話し致します」
紫苑も人姿になる。
「忍頭殿は、当方の くノ一との約束通り、進言をなさりに、お城へと入りました所、偽の皇太子に襲われたのでございます」
「咄嗟に避けた為、肩で済みましたが、あれは本当に殺そうとしておりました」
「ですので、二撃目を突き出す間に、お連れした次第にございます」
「もう一度、城に潜入致しますが、おそらく皆様の偽者が、この国を動かしているのでしょう」
「ならば、これだけは……
この半年、皇帝様の御姿を拝見致しておりませぬ。
皇族方の御様子が変わられたのも、同じ頃。
皆、偽者だと分かり、合点がいきました。
どうか、本物の皇帝様をお救い下さいますよう、お願い申し上げまする」
「大丈夫、最初っから、そのつもりだっ」
「紫苑さん、珊瑚さん、たぶん皇帝さんの偽者は作れなかったんだと思うんだ。
たま~に、そゆヒトいるから」
「いらっしゃれば御本人」
「という事ですね?」
「うん♪」
凜「あれ? 慎玄さ~ん」
闇「其は誰ぞ」
凜「もしや……龍神帝王様?」
闇「何故その名を?」ギロッ!
凜「小耳に……いえ、それより、この御名、
少々恥ずかしくは御座いませんか?」
闇「其方も、そう思うか……
配下が勝手に、そう呼ぶのだ」ため息……
凜「然様でしたか。
ご自身で名乗ったりは?」
闇「必要無かろう。
いずれ全てを統べる私に名など」
凜:いや、まだ統べてないし~
だいたい、不便だから配下が勝手に
呼ぶんでしょ?
「王子達は『魔王』と呼んでいますが、
それは?」
闇「何とでも呼ぶがいい。
いずれ『神』と言えば、
私の事となるのだからな」
凜「では『龍神帝王』も、お認めに?」
闇:ため息……




