島の夜11-アカとサクラ③
アカだけでなく、兄弟皆、アオが最強だと思っています。
アオは? 自分だなんて思っていませんし、
そう思われているとも思っていません。
アカは再び、工作室の炉の炎を見詰めていた。
炉の隅々の温度を掌握で確かめる。
そして、また思いに耽った。
――――――
クロの寝言で体を起こしたアオ、フジと笑い合った後、もう一度、横になり目を閉じたが、寝付けなかった。
さて、どうしたものか……
サクラは眠っているのだろうか……
(アカ兄、どしたのぉ?)
(起きていたのか?)
(なんとなく~
なんか、悩んでる?)
(サクラは、ずっとアオと共に居たのか?)
(人界に来てからの事?)
(いや、サクラが城を出て以降だ)
(……うん。ずっと一緒だったよ)
(そうか。
それを知っていたなら、心配しなかったのだが……)
(心配……アオ兄と俺が消えたから?)
(理由も言わず消えたからな)
(何か知ってる?)
(いや、知らぬ)
(でも、知ってる)
(そうか。色か)
(うん。隠してる色。
アオ兄が、よく、そんな色してるんだ)
(そうか。アオはサクラにも言わぬのだな)
(うん。俺じゃダメなんだ。コドモだから)
(サクラは……サクラも孵化した時、既に子供ではなかったのだろう?)
(……そぉかもね……もしかして、アカ兄も?)
(そうだな。己の意思で殻を割った)
(アオ兄も、俺も、そぉなんだよ)
(他は?)
(他の兄貴達は、そんな事ないって。
孵化して二十年くらいは、あんま記憶ないって)
(ふむ。それが普通らしいな。
解明出来たのか?)
(わかんなかった~
まだまだわかんないコトだらけ~)
(そうか。どうして、その事に気付いた?)
(アオ兄の改革記録見たら、二人歳前から記録あったんだよね。
でも、それ見ても、俺は不思議でも何でもなくて、ただ、詳しい事を聞きたくて、大婆様に尋ねたんだ。
そしたら、異常だって仰られて、初めて普通じゃないって知ったんだ。
アカ兄は?)
(俺は、アオとクロを見ていて気付いた)
(アオ兄やクロ兄と会ってたの?)
(城に呼ばれた時だ)
(あ~、貴族の子供の相手?)
(そうだ。大抵、どちらかと二人で呼ばれた)
(いいな~
俺、城に住んでたから逃げられなくて、離れた末子だから、ボッチだし~
子供の相手なんて、つまんなくて、無視してたら『サクラ姫』なんて呼ばれるし~
腹立つけど、子供相手じゃ、本気になったら負けな気がするし、散々だったよぉ)
(俺は完全に無視していた)
(だろ~ね~)きゃは♪
(クロが脱走すると、代わりにアオが呼び出され、仕方なく相手していた)フフッ
(想像できちゃう~♪)きゃははっ♪
(だから、俺は、クロが異常なのだと思っていた)
(うんうん♪)
(だが、貴族の子供達を観察していて、アオと俺の方が少数派なのだと気付いた)
(そっか~
俺、そんなふうに子供達を見てなかったよ。
そぉすれば楽しめたんだね~)
(まぁ、その観察は暇潰しのようなものだ。
城に行く目的は、アオと話す事だった)
(子供達、無視?)
(アオが眠らせていた)
(へ? 治癒、開いてたの?)
(開いていたようだが、天性ではなく、難しく、つまらない話をして眠らせていた。
医学書を読み聞かせたりな)
(さっすが、アオ兄♪
で、アオ兄と、どんなコト話したの?)
(王族会の事、竜宝の事、天性の事……
アオは、クロを大器晩成だと言った。
とてつもなく大きな器だ、と。
俺の天性を開く手助けもしてくれた。
そして、神眼でクロを見たら、確かに大きな器だった)
(でも、どぉしたらいいのかサッパリわかんないくらい、ぜ~んぶ無自覚に、ちょびっとだけ開いてるんだよね~)
(サクラに言われて初めて気付いた。
俺の神眼では、そこまで明瞭には見えぬ)
(ん? そっち行っていい?)
(どうした? 構わぬが)
サクラが、アカと壁の間に曲空した。
アカの額に掌を当て、袖で隠す。
(ん~と……これかな? 鎮めて~~~はい♪)
袖の下が光った。
(明日のために~♪)
(まだ開く余地が有ったのか……)
(ん♪ 見つけた~♪)
(ありがとう、サクラ)
(島の真ん中、探そぉねっ♪)
(そうだな)
(ん♪ おやすみなさ~い♪)ぴと♪
翌日、アカとサクラは、島の中央を探ったが、禍々しい何かは、掌握では掴めず、神眼の届かない地下界に逃げてしまった。
まだまだ力及ばずだと痛感した二人だった。
――――――
その修行も、せねばならぬな。
天性を極めねば、
あの『何か』にも辿り着けぬ。
(サクラ)
(どしたの? アカ兄)
(俺の天性は、まだ余地が有るか?)
(そっち行くねっ)現れた。
アカの額に手を当てる。
(うん。まだ開いてないトコあるよ。
三つともね。
アカ兄自身が開かないといけないけど……
集中して、気を高めるのと、いっぱい使えば伸びると思う~)
(そうか。ありがとう、サクラ)
(あ♪ そ~だ♪)消えて、現れた。
(コレ、使ってみて♪ 湧気鈴♪
気の力で鳴るんだよ)
(皆に持たせるか?)
(あ♪ ソレいい考え~♪)
(増やしてやる。早く進む為だ)
(アカ兄♪ 大好き~♪)ぱふっ♪
アカはフッと笑った後、何かを考え始めた。
サクラが顔を上げ、首を傾げる。
(サクラ、何処まで振りなのだ?)
(ん? 俺にも……わからないよ)
恥ずかしげに俯き、離れた。
(いや、そのままでいい。
もっと頼れ。頑張り過ぎるな)
(ん……ありがと)
(人恋しさを押し込めなくていい。
幼い頃、キン兄やフジに甘えていたように、素直に甘えろ)
(あ……知ってたの?)
(あれは、振りではなかったのだろ?)
(……うん)
(サクラは、それでいい。
アオにも甘えろ)
(うん……でもね、アオ兄にも甘えたいけど、支えたいのも本当なんだ)
(両方、素直にすればいい)
(ん……そぉする……ありがと、アカ兄)
サクラが顔を上げた。
(俺、やりたいコトだらけなんだ)
(ん? 俺に出来る事なら何でも言え)
(蒼牙を復元して! カケラ探すから!)
(サクラも……それを考えていたのか?)
(なんとなくだけど、アオ兄が元気になる気がするんだ♪)
(俺も、そう思う。
その為の力を得ようと考えていた。
ただ、蒼牙の欠片は――)
(うん。天界にも人界にも無いよね。
だから、進みたいんだ。
もちろん、俺も、進めるだけの力をつけるよ)
サクラはアカに真剣な眼差しを向けた。
そうか! だから解空鏡か!
失われた鏡が必要な場所へと
進もうとしているのだな!
ならば、急ぐのみだ。
(解空鏡を急ぐ)
(え? うん、ありがと♪)
(だから、頑張れ)
(うんっ♪)
サクラは笑顔を咲かせ、手を振って曲空した。
アカは古文書の栞を挟んだ頁を開いた。
数冊の辞書で調べながら読み進めていく。
材料の半分が魔界の物……
ならば、魔宝の匠に聞く迄だ!
古文書を掴み、外に飛んだ。
♯♯♯
「ネイカ殿、これをご存知ないか?」
古文書を開く。
「これと、これは持っています。少量ですが」
「アカ様、妖狐便に頼みましょうか?」
「ホウ殿、それは?」
「方舟で魔人も行来しているんです。
比較的安全な場所で採れる物なら、買う事が出来るんです」
「全て揃いますか?」
「そうですね……」書き出す。「行ってきます」
ホウは駆けて行き、ネイカが石を二つ持って来た。
「ありがとうございます」
ネイカは微笑むと、もう一度、読み始めた。
「この鏡……
もしかして、魔竜王国への道の鍵ですか?」
「聞いてはおりません。
しかし、おそらく、そうでしょう」
「では、そちらに進むので――」「ただいま」
「ホウ……早すぎない?」「とにかく、これ」
ホウが差し出した革袋を受け取ったネイカが覗き込む。
「これ……どうしたの?」
「走ってたら、目の前に大きな妖狐様が現れて、くれたんだ」
「お礼、言ったんでしょうね?」
「そのくらいは当然」
「妖狐様は何と?」
「『使え』、それだけ」
「合っているのだろう」フッ
「お知り合いですか?」
「おそらくな。
ありがとう、ネイカ殿、ホウ殿」
凜「自分で、出ようって殻を割ったの?」
赤「そうだ」
凜「卵の中って……」
赤「薄明かるいが、何も見えぬ。
音は聞こえる」
凜「中で何考えてたの?」
赤「外の様子を窺っていた。
アオとサクラとは話せていた」
凜「話すって、普通に?」
赤「当然だ。
相談し、アオが先に外を見る、と出た。
サクラが続く筈だったが、何者かに
眠らされてしまった。
それで、俺は警戒し、様子を見ていた」
凜「じゃあ、サクラは末っ子の予定じゃ
なかったの!?」
赤「予定なんぞの有無は知らぬが、
サクラは唐突に無言になり、
アオも封じられていたらしい。
五年後、アオが目覚め、
サクラは眠っていると言った。
九十年後、サクラが目覚めた時には、
様子が……性格が、の方が適切か?
とにかく、別人のようだった。
アオもサクラも、眠らされる迄の記憶は、
すっかり消されていた」
凜「また、謎が増えた~」
赤「放っておいてもらって構わぬ」
凜「いやいや、そうは参りませんからっ!
もっと詳しく話してよぉ」
赤「これ以上は話しようが無い」
凜「ん~~
でも、アカも、いっぱい喋るのね~」
赤「話す能力が無い訳では無い」ムッ




