島の夜10-アカとサクラ②
前回まで:アカが引っ越しの片付けをしつつ、
島での事を思い出しています。
こうして、キンとアカだけは、サクラから話を聞く事となった。
アオとサクラが、人界の任に就く迄に調べていた事、初降下の日にアオに何があったのか、
アオとサクラの封印について、など、話せる限り、サクラはキンとアカに話した。
キンも初耳な内容も多く、キンもアカも、動き回る三人には、話す事が出来ないと、口止めの要を成さない程に、強く感じていた。
同時にアカは、これまで己を護る必要など微塵も感じられず、放置していた天性・堅固が、己の為ではなく、アオとサクラを護る為のものである事も理解した。
「キン兄、アカ兄、いろいろ隠していて、すみませんでした」
「いや、アオと二人で、そこまで調べていたとは思いも寄らなかった。
全てを任せてしまって、すまなかった」
「いえ、頼りもせず、勝手に動いてしまったのは、俺達ですから」
もう一度、頭を下げる。
「それは、危険過ぎるからなのだろう?
アオの考えそうな事だ」
「アカ兄……」
「怒っているわけではない。
呆れる程に優しくなったものだと思っただけだ」
「俺が生まれる前のアオ兄って……
噂は聞くけど、想像できなくて……」
「だろうな」
「アオは……
幼い頃から、三界に平和を齎すべく必死に生きてきた。
それ故、冷徹、非情であると誤解されていたのだ」
「それが、どうして……
もしかして、俺が生まれたから……ですか?」
「何故、そのような事に繋がるのだ?
全く関係無い。
むしろ、サクラが生まれたから、アオは救われたのだ」
「だが、何が有ったのかは、話せないのだろう?
俺が席を外せば、サクラには話せるのか?」
「いや……アオが話す気になる迄は話せない」
「ふむ。
まぁ、アオは生き急ぎ過ぎていたのだから、今暫く、立ち止まろうが問題無いだろう。
その原因となった事すらも忘れている今は、ある意味、幸せではないか?」
「確かに、そうだな」
「今は、アオの過去より、未来だ。
力を戻させねば進めぬ。
俺達が、戻せるだけの力をつけねばならん。
キン兄、三人を導いてくれ」
「ふむ。それは確かに、私の役目であるな。
サクラ、皆の天性は知っているのか?」
「知っています。
ただ、キン兄、アカ兄と違って、開くための土台作りから、しないといけないので――」
「その導き方を教えて欲しい。
サクラはアオを護らねばならないのだからな」
「はい。では――
フジ兄は、どんどん薬を作る事と新しい技を覚えていけばいいと思います」
「適した技は有るのか?」
「何でもいいです。
あ、豪速とか極烈火、紅蓮撃なら、属性も難易度も、ちょうどいいと思います」
「先に、俺が覚えよう」
「アカ兄なら、すぐできますよ」
サクラはアカの額に掌を翳した。
「ふむ。上空に連れて行け」
「はい」アカの肩に掌を当て、曲空。
二人は、すぐに戻った。
「では、フジの技は、アカに任せる」
「ふむ」
「サクラ、雷でも同様の技が有るのだろう?」
「はい。
極迅雷と裂空撃です。
キン兄、知ってますよね?」
「そうか。ハクに教えればいいのか?」
「はい。
ハク兄には、キン兄の真似をしてもらうのが、一番いいです」
「ふむ。ならば、ハクは任せろ。
クロは、どうすればいいのだ?」
「はい……問題は、クロ兄なんです。
天性が、とても大きい上に、未開の力が多過ぎて、手の着け所が分からないんです」
「それでも考えている事が有るのだろう?」
「一応は……でも、どうすればいいのかは……」
「言ってみろ」
「はい……そうですね。
俺では導けませんから、キン兄、アカ兄、お願いしますね。
クロ兄には、護りたいと思える方が必要だと思うんです」
「む!?」「それは……」
「はい。
大切にしたい、護りたい……そういう気持ちが必要なんです。
ハク兄では、先を行き過ぎているので、キン兄とアカ兄なら、ちょうどいいと――」
「まさか……知っているのか?」
「はい。
結界が確かな長老の山にお住まい頂きたく、お話しさせて頂きましたよ」
「いつの間に……」
「試練の山の後、そんなこんなしていて、試しに人界に行く事もできなかったんです。
俺達が魔界に近づけば、狙われるのは目に見えていますので」
「そうか……」
「もしや、アオの指示なのか?」
「はい。
アオ兄は、他の事で動いていましたから。
俺は動いただけなんです」
「アオも知っているのか?」
「どうでしょう……
アオ兄は『可能性が有るから調べて』と言っていたので、何方が、までは知らないのかもしれません」
「ふむ。アオならば、納得だ」
「しかし、こればかりは、本人の気持ちだ」
「サクラならば、クロの近くに居てもおかしくはない。
導いてやれないのか?」
「無理ですよ。俺はアオ兄を護りたいので。
それに、そういうのは平和になってから、と決めていますので。
それ以上に、あのフリをしている俺では、そんな話なんて、できませんよ」
「それは……そうだな」
「しかし、俺も向かぬ」
「それは、私もだ」顔を見合せ、ため息。
「俺、そろそろ行かないと。
ヒスイだけだから。
それでは、お願い致します」礼。そして曲空。
「どうする?」
「アカの方が、クロに近いではないか」
「ロクに話した事も無い」
「同じくだ」
再び、ため息をつく二人だった。
――――――
どうやら、あれは杞憂に過ぎず、
クロにも護りたい者ができたようだな。
しかし、時に任せられる程に
猶予が有るのか……
今度は、それが問題だな。
「だいじょぶ~」
ん? いや、今度こそ寝言か?
「クロ兄、止まれないヒトだから~」
確かにな。
「単純なトコがぁ、いっちば~んイイトコ~♪」
本当に寝言なのか?
「知らな~い」
(サクラ、まだ起きているのか?)
「クロ兄、おかわり~♪」
(サクラ?)
「なんで、ヒトデなのぉ?」
どんな夢だ?
「アカ兄も食べるぅ?」
ヒトデなら要らぬが……
「おいしいよ♪」
ヒトデがか!?
「ごちそうさま~♪」
(サクラ、ヒトデ……)いや、寝言だな。
アカも目を閉じた。
――――――
アカは片付けの手を止めた。
炉の内を神眼と掌握で確かめる。
流石、ここの炉は効率が良い。
満足げに微笑み、片付けを再開した。
あの、寝言のサクラが、
本当のサクラならば、
振りのサクラも、あながち、
振りのみではないのだろうな。
ただ……笑顔だけは……
アオにも、サクラにも、本当の笑顔を――
などと、烏滸がましいにも程が有るな。
俺なんぞに何処まで成せるのか……
しかし、成さねばならぬ。
先ずは何を目指す?
アオとサクラからの依頼は最優先だ。
他には……
あの二人には竜宝の力を得る能力が有る。
だから、高位竜宝を持つ事は重要だろう。
ならば、ガ剣を全て復元しよう。
砕け散ったと聞いた蒼牙と朱牙をも、だ。
蒼牙はアオの剣。
朱牙はアオの相棒の剣と聞いた。
この二剣が甦れば、アオの心も甦る筈だ。
欠片から再生した蒼牙に、
他の欠片を重ねていけば、
いずれ、蒼牙は本物になる。
アオには、特級修練の頃、相棒が居た。
あのアオを副長にしていた第一班長だ。
相棒に朱牙を与えたのは、アオだろう。
その強さに一目置き、
強い信頼を持っていた事の現れだ。
当面の目標は決まった。
高位竜宝を復元出来るだけの力を、
俺自身を鍛え、得なければならぬ。
凜「アオの相棒の話は、どこから?」
赤「俺は修練が遅かった。
アオが特級の頃、俺は上級だった。
二人の活躍は軍内に轟いていた」
凜「それじゃあ、もしかして……」
赤「噂は、色々聞こえていた。
だから、無言で姿を消したアオを
心配したのだ」
凜「噂?」
赤「話す気は無い」




