表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
175/429

島の夜9-アカとサクラ①

 また、少々脱線です。


 アカは、工作室を片付けながら、アオが背負い続ける影の事を考えていた。


 この事は、アオ自身にしか越えられぬ事だ。

 アオならば越えられる。

 俺だけで悶々としても仕方ないだろう。


 しかし……

 アオの封印を解いて、やっとサクラも

 楽になれると思ったのだが……


 この事も……

 俺は、サクラに何もしてやれぬのだな……


 あの島でも、決意を新たにした筈なのに、

 俺は……


 せめて、アオが描く未来に向かう為、

 己が成すべき事を進めていかねばならぬ。



――――――



 島の小屋で兄弟揃って眠った夜、

存分に じゃれて、皆が眠りに落ちた時――


サクラが、アカを除く皆に光を被せた。


(サクラ、何をしている?)


(ん? アカ兄と話したかったから)


(サクラも、か?)


(ん。アカ兄も感じるよね?)


(島の中央だな)


(うん)


(夜は危険過ぎる。明日、確かめたい)


(ん。

明日、みんなで原稿を確かめるんだよね。

なんとか離れないとね……

アカ兄なら、何か作ってても、おかしくないから、読むのじゃなくて、作っててよ)


(道具も何も無い)


サクラが消え、すぐに戻った。


(何処から、それを……)


(ワカナさんに習ってたんだ♪)


(む……)


(これ、しててよ。

でね、俺が何か持って逃げたら、追いかけてね♪)


(ふむ)


(じゃ、おやすみなさ~い♪)光、解除♪


(うむ)


 アカは、すぐに寝息をたて始めたサクラを見詰め、無邪気を演じ続ける弟の頭を掌握で撫でた。


 結局、五年経とうが、俺はアオとサクラを

 助けられぬのだな……


 せめて蒼牙(ソウガ)が、話せる程に復元できれば

 アオの力になれたのだが……


 俺に何が成せるのか……

 サクラには見えているのか?


 護る、力になると、あの時

 確かに決めた筈なのに……


アカは、五年前に想いを馳せた――



――――――



 初降下から二月(ふたつき)後、

竜ヶ峰の洞窟を囲む森に、アカは工房を建てた。


洞窟の自室から荷物を運び、大きな鏡を、窓の無い小部屋の壁に掛けた。


 これでよし。

 ふむ……この赤い髪にも、やっと慣れたな。


鏡に映る己が姿が苦笑を浮かべる。


 あとは、火の具合を――


考えながら、小部屋を出ようとした時、


ドッ!


振り返る。


 サクラ!? それと――


淡い緑の光に包まれた二人に駆け寄る。


 間違いない。しかし、この気……


「サクラ! アオ!」


【だぃ……丈、夫……気……失っ……るだけ……】


 気絶にしても、この弱さは……


緑の光が二人から離れて集まり、ひと塊になる。

アカは、背後に光を感じ、大鏡を見た。


大鏡は光を帯びており、そこには、淡い緑の竜が映っていた。


 翼……光輪……神か……


【ア、カ……鏡……手…………当て……ぉ願ぃ……】


アカは大鏡に掌を当てた。

やわらかな緑の光が、その手を包んだ。


【ありがとう……アカ……

アオが、回復……まで、ここ、に……居させて】


「解りました。よろしくお願い致します」


アカは立ち去ろうとした。


【ここに、結界を……お願い】


「結界を?」


堅固(ケンコ)……天性……使って】


「この天性は、その為のものですか。ふむ」


アカは気を高め、開ききっていない天性を開くべく集中した。


鏡に当てた手を包んでいた緑の光が拡がり、アカの全身を包み込んだ。


【手伝うよ】鏡の中の緑竜が輝きを増す。


アカの中で、光の炸裂が連鎖した。


【護る気持ちが盾を成す。

気持ちの強さが、盾の強さ。

その盾を繋げて、拡げて、結界に――】


 声が明瞭に……しかし……


「御無理は、なさらないでください」


【ありがとう、アカ。私は大丈夫。

皆の力になりたいんだ】


「ありがとうございます。

では、お願い致します」


アカから迸った輝きが、半球状にアカを包み、拡大を続け、工房を包んだ。


【光の力を重ねるからね】

緑光が、アカの結界を包み、吸い込まれるように重なった。


神眼(シンガン)で見えたよね?】


「はい。ありがとうございます、神様」


【私は……まだ、神ではないんだ。

その鏡が無ければ、アカと話す事すらできない。

鏡に助けてもらっても、ちゃんと話せない。

私は、そのくらい、弱い存在。

私では、二人共は護りきれないから……

だから、力を貸して……】


「勿論、何也と。ヒスイ様」


【あ……見えてしまった?】


「内なる声が聞こえました」


【私の欠片の声が聞こえたんだね】


「おそらく。

……アオは無事だったのですね」


【でも、ここには居させられない。

狙われているから……】


「ふむ。サクラは?」


【ずっとアオを護っている。

二人の繋がりは特別だから】


「俺は、何をすれば……」


【サクラはアオの為に、力を封じている。

だから、無理に力を使えば眠ってしまう。

眠っているサクラを、この部屋で護って】


「その間、アオは?」


【私が護るから】


「解りました。お任せください」


【ありがとう】


「サクラがアオを護っている事は、兄弟は誰も知らないのですか?」


【キンは知っている。

でも、アオの居場所はサクラしか知らない。

そうでなければ護れないから】


「アオとサクラの事を知る者は少ない程、良い。

そういう事ですね?」


【そう】


「解りました」


【では、アオを連れて行くね】


「サクラは、お任せください」


【ありがとう、アカ】


アカを包んでいた緑光が去り、アオを包み、浮き上がらせ、大鏡に向かった。


ヒスイとアオは、大鏡を通り抜け、何処かへ行ってしまった。


アカは、その大鏡に掌を当て、術を唱えた。

鏡からの光がサクラを包む。




 アカは寝台を小部屋に運び込み、サクラを抱き上げた。

触れた掌から、サクラの想いが流れ込む。


 力が開いたままになっていたか……

 天性を開いた事を忘れる程に、

 衝撃的だったという事だな。


サクラを寝台に横たえる。

「サクラがアオを護るのならば、俺がサクラを護ってやる。

ひとりだなどと思うな」

サクラの頭を撫でた。


「アカ兄……」


「ん? 得意の寝言か」


「違うよ……」


「無理に話すな。後にしろ」


「……ん」(ありがと……)




 アカは、サクラが眠る小部屋から出、工房に運び込んだ荷物を整理していた。


(アカ兄)


(どうした?)


(この部屋、完全な暗室にする?)


(そのつもりだ)


(ん。ならいい♪)


(何か気になるのか?)


恍恒鏡(コウゴウキョウ)がね、真っ暗がいいって~)


(そうか。他に何か言っているのか?)


(アカ兄、大好き♪)


(む?)


(って、恍恒鏡が言ってる~♪)


(そうか……)


(アカ兄、ありがと)


(礼を言われるような事はしていない)


(でも、ありがと♪)


(寝てろ)


(うん♪)きゃはっ♪



 暫く静かになる。



「えーーっ!!

ヒスイ、言っちゃったの!?」


小部屋からサクラの叫び声が聞こえた。


(サクラ、誰か来ていたら、どうするのだ?)


(あ……)


(何を騒いでいる?)


(アカ兄、ヒスイから聞いちゃった?)


(アオの事か?)


(うん)


(アオを見た)


(ふえっ!?)


(恍恒鏡を通って逃げて来たのだろう?)


(あ…………うん、そぉだって~)


(今後は、力を使ったら、その部屋で眠ればいい。

恍恒鏡の光でも、サクラならば回復できる。

結界で護るから、安心しろ)


(堅固、開いたんだ……)


(知っていたのか?)


(……うん)


(それと……

ここで、他の者が居ない時は、普通にしていろ。

無理しなくていい)


(それも……ヒスイから?)


(違う。伝わってしまった。すまぬ)


(ううん。ありがと、アカ兄)


小部屋の扉が開いた。

「アカ兄、ここ、光の結界の中なんだね」


「ヒスイ様の光だ」


「そう……聞いてもらえますか?」


入口扉が開いた。


「キン兄……」


「呼んだんだ。一緒に聞いてほしいから」


「そうか」





凜「ワカナさんは?」


赤「部屋に帰した」


凜「手伝ってもらえばいいのに~」


 アカは、チラと睨むと背を向けた。


凜「考え事したかったから?

  それとも、恥ずかしくて?」


 無言で鏡を持って、隣室に入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ