仁佳北4-赤虎
前回まで:紫苑と珊瑚は、両親の幸せを
願い、踏み出しました。
♯♯ 天界 ♯♯
アオは、紫苑、珊瑚と共に魔物と戦った後、ひとりで長老の山を訪れていた。
「大婆様、現在、竜宝の再現はアカにしか出来ませんが、人界では、発揮出来ます力は七割が良い所で御座います。
その為、再現の作業にも限界が御座います。
人界の任の最中では御座いますが、魔王との戦を終焉に向かわせる為、アカの作業を天界で行う事が出来ますよう、お力添え頂きたく、お願いに参りました」
「アオも、そのように考えておったか……
私も同じ事を思ぅておったのじゃ。
して、この話……
どこまで持ち掛けておるのじゃ?」
「大婆様にお話しするのが初めてで御座います。
まだ、アカ本人にも話しておりません」
「ならば、ここと城には、私から話そう。
アカの戦力を預かってしまう事になるからのぅ。
兄弟には、しかと話せよ」
「ありがとうございます、大婆様」
「アオ、今日は、サクラは居らぬのじゃな」
「サクラも、こちらでしたら安全と考えているのでしょう。
ご用でしたら、参らせますが――」
「よいよい。
会ぅた時にでも、また遊びにおいで、と伝えてくれるかのぅ」にこにこ
「はい」にっこり
「話を戻すがの、アカの件じゃが――」
♯♯♯♯♯♯
その頃、当のアカは――
サクラと共に忍屋敷を訪れていた。
「お頭さ~ん、剣 持って来たよ~♪」
「各々、持つ者の名を刻んでいる。
渡して欲しい」
「名乗ってもおらぬのに……何故、名を?」
「容易い事だ。
これらは、持つ者の力に合わせて作っている。
己が命を護る時を除き、人を殺めぬ、と誓える者にのみ渡せ」
「もしも殺めてしまったら……?」
「それなりの剣だ。
人の血を吸わせたなら……どうなるか、想像出来るだろう?」ニヤリ
「……解りました。誓わせます」
「うむ」
「あの……ひとつ、伺っても……?」
「何だ?」
「赤虎様の御師匠様は、金虎という人ですか?」
「師匠は銀虎と申す竜だ。
初代・銀虎の師匠が、金虎だ」
「伝説は真であったか……」
「サクラ、行くぞ」「お頭さん、またね~♪」
――馬車。
「何故、ここに?」「キン兄に呼ばれた~」
「揃ったな。
アカ、暫く、長老の山で作業して欲しい。
皆の了解も、王や長老の許可も得ている」
「うむ」立ち上がる。「アオ、頼む」
「俺も行く~♪」(せ~のっ)
サクラも一緒に、引っ越しに行った。
――工房。
荷物を纏めながら、
「アカ兄、あの剣、人の血を吸わせたら、どぉなるの?」
「何か起こると思うか?」
「思わな~い」
「その通りだ」
「そっか~♪」
「アオ、お前なんだろ? 仕掛人」
「必要だと思っただけだよ」
「何でも持って来い」フッ
「ありがとう、アカ」にこっ
♯♯ 長老の山 ♯♯
工作室の前に荷物を積み上げ、アオとサクラは蔵に行った。
アカが工作室に入ると、祖父が待っていた。
「新たな工房を建てるからの。
それまで、ここを好きに使えばええ」
そう言うと、シロは開いている隣室の扉に向かって手招きした。
「ワカナ……」
「今日から『赤虎』を 正式に名乗ってよいそうじゃ。
王と師匠からは、許可を貰ぅとる。
それと……これに署名してくれるかの?」
「ん?」……!!
赤いので、よく判らないが、赤面。
「何じゃ? 嫌なのか?」
「全て、アオか?」慌て気味に署名する。
「リリスさんと一緒の方が、ええのじゃないかと言うてな」
「ワカナ、それでいいのか?」
ワカナが大きく頷く。
「ひとりでなんて、不安過ぎるわ……」
「なら、大婆様に挨拶に行こうかの」
シロが先に立ち、工作室を出た。
アカとワカナが付いて行くと――
大婆様の部屋の前では、モモ、フジ、リリスが待っていた。
♯♯ 仁佳 北部 ♯♯
東の国の軍では――
「軍師殿、兄上の軍を収容した為、一旦 下がり、態勢を立て直そうと思うが、如何か?」
「善き御考えと存じます」
「何処に移るのを最善とする?」
「現地点の北に御座います山地を盾とし、主軍より少し前の、こちらでしたら、最前線も保て、立て直しも可能かと存じます」
地図を差しながら、意見を述べる。
「ふむ……それならば面目も保てような……
よし! 速やかに移動せよ!」
子供達に、その事を伝えていると、黒い竜だけが再び現れた。
「ふぅん、なら、このまま運ぶか。
紫苑、珊瑚、念網 掛けといてくれ」
黒竜が光の塊ごと消え、黒竜だけが再び現れた。
子供達が軍全体に掛けた光る網を、黒竜が掴んだと思ったら、眼前に山が迫る森の中に居た。
皆、呆然としている。
「クロ! やり過ぎじゃっ!!
皆が腰を抜かしておろぅ!!」光の中から声。
「仁佳の人達は、もう、竜なんて見慣れてんじゃねぇか。
こないだ、アオとサクラが運びまくってたし」
「此は、東の国の軍じゃっ!!」
「あ……やっちまった……」
大きな竜が、人の娘に叱られている。
呆然としていた兵達から、笑い声が漏れる。
「頼むっ! 説明しといてくれっ!」
拝んで、逃げようとする。
「逃がすかっ!」竜に飛び乗る。
「わっ! やめろっ!!」竜が落ちた。
「参ったか♪」ふふん♪
「ってぇなぁ……」弱々しい声。
笑いが湧く。
竜とは……
厳つい身体と、強大な力を持ちながら、
優しく、愛嬌のある者達なのだな……
桜色の髪の若者と、同じ顔をした金の髪の若者が現れた。
「あ……また、じゃれてる……」
「治癒を補充したら、放っといて戻ろう」
「だね~♪」
二人は、光の塊に両掌を当てた。
暫く、そうしていたが、私に手を振り、消えた。
♯♯ 神界 ♯♯
【あら? ヒスイ、どこに行くの?】
【最高神殿だよ】
【何しちゃったの?】
【何もしていないよ。
そんな事で呼ばれるのはスミレだけだよ】
【ひどぉい】
【急ぐからね。
スミレ、早く神に成ってよ】
【ちょっと! ヒスイってば!】
♯♯♯
【ヒスイ、こちらで、あちらの神と共に修行してください。
きっと、その方が早く神に成れますよ】
【ありがとうございます、最高神様】
【背中合わせで、同じように、この湧気鈴を鳴らし続けてください】
【はい!】
【アメシス様、高めた気を、彼と合わせるよう努めてください】
【はい、最高神様】
ヒスイとアメシスは、背を合わせ、各々額の前に湧気鈴を浮かせ、気を高めた。
二つの鈴の音が調和し、美しく響く。
【確かに、これならヒスイの覚醒は早くなるわね】
見守りの女神が、最高神だけに話しかけた。
【一日も早く、サクラの助けをしなければなりませんからね】
【スミレは、早めないの?】
【彼女は、もうすぐ覚醒しますよ】
【お母様にお願いしましょうか?】
【そうですね。鍛えて頂きましょう。
私が見守りますので、お願いします】
女神は頷き、姿を消した。
凜「伝説の金虎さんって――」
金【儂が、どうした?】
凜「うわわっ! 出たーーっ!!」
金【騒ぐでない。儂が三代金虎じゃ】
凜「って事は幽霊ですよね?」
金【話すだけじゃ。問題無かろう?】
凜「まぁ、そうですね……
どうやって、天界に行ったんですか?」
金【儂が生きておった頃は、竜なんぞ
そこいらじゅうに飛んでおったからの。
連れて行けと言うたら、運んでくれたわ。
竜達も鍛冶をし、刀剣も作っておったから
教える事にしたんじゃ】
凜「で、竜のお弟子さんが銀虎?」
金【金虎は人に継いだからの】
凜「あ、そっか。じゃあ、今も『金虎』は
続いてるんですか?」
金【いいや。途絶えてしもうた】
凜「金虎さんが、また教えればいいんじゃ
ないですか?」
金【考えておる。
だが、平和になってからじゃ。
期待しておるぞ、赤虎】
金虎は、ニヤリとして消えた。
凜「アカ……期待してるって……」
赤「ふむ」ニヤリ
凜「『受けて立つ!』ってか?」
もう一度、アカは不敵な笑みを浮かべた。




